Lily memo %



1年後もやっぱりダメかもしれない(アキ)


『だ、だめだよ……こんなとこで……』
『比奈子……隠さないで……』
『あ、秋生……』

彼女は顔を赤らめるとあたしに体を委ねた。




「あたしと委員長のイチャイチャだと思ったか!?残念だったな!名前選択式エロゲだよ!」




「お前は何を1人で悲しいこと言ってるんだ」

ブワッ。

「泣くな」

委員長がアメリカに行ってから1年。
季節はもうすぐ春だ。
先日、2日に一回あるかないかのペースで届く日記のようなメールに追伸がついていた。



もうすぐ帰るからね、と。



日にちもなく嬉しいのかどうかすらわからないたった一文だ。
この一文であたしは正直どうしていいかわからなくなっている。

「迎えに行こうにも日にちわかんないし」
「みどりんなら知ってるわよ」
「そもそも日にち書かないとか嫌われてるんじゃないか、とか」
「嫌いだったらわざわざ海外からバレンタインチョコとか送ってこないだろ」
「大体……」
「アキ、お前ただ怖ぇだけだろ」

巽、最後まで言わせたまえ。
揃いも揃ってあたしの部屋で寛ぎやがって!
諸君、ここは神聖なる女子の部屋だよ。
それをむさ苦しい男子がごろごろと……。

「まぁ実際嫌われてるかどうかは置いておいて」

置かないでください、駄目お兄様。
そこが一番大事です。

「日にちを伝えなかったのはすぐにはお前に会いたくないってことだろうな」

言うに事欠いてだめ押しかい。
鬼か?鬼なのか?

「誠二!あんたがこの中で一番委員長に近いはずだ!なんかないのか!」
「なんかって言われても……」
「メールとかなんか言ってなかった!?」

うぅ、胃が痛くなってきた。

「アキちゃんったら大学入って更に打たれ弱くなったわね」
「やっぱり大学くらいは兄ちゃんと違う学校を選ぶべきだった……」
「鈴城がいなかったらもっかい拗ねてたろーなー」

その節は大変お世話になりました、みどりん。
「やぁだー、キミが夏雄君の妹さん?」とか、「あれ、あんたの兄ちゃん?かっこいー」とかいう輩はノーセンキューです。
バストサイズが変わっても性根は変わらないみどりんプライスレス。

「今度は俺も卒業して、目片さんも帰ってきて、天国だな」
「どうかなー。みんな兄ちゃんとの接点がなくなってより構ってきそうで嫌だ」
「大丈夫だ。俺はノリにしか興味がない」
「はいはい、リア充リア充」
「アキ、言っておくけどお前もリア充だからな?」

あたしのどこがリア充なんだ。
毎日パソコンでメール入ってないかチェックしてたまに画像があったらニヤニヤしてって……。




「毎日ネサフで画像漁ってんのとかわんないよ!」
「落ち着けアキ。相手は三次元だ」




同じ三次元でも声優さんのほうがまだ夢を見させてくれるよ!
とあるアイドルなら地方周りで握手だってしに来てくれるわ!

「大体なんでお前はそんなに目片さんを疑ってるわけ?」

ふん、モテる兄ちゃんにはわかるまい。
散々裏切られてきた人間の性根は今更恵まれたところで変わらないんです。
それに、あれよ。
一番の理由は、あれだ。




「写真の委員長の胸がどう見てもCからDにレベルアップしてるんだよ……」
「喜べよ」




これが手放しに喜んでられるか!

「いいかい、兄ちゃん」
「なんだ、妹よ」
「乳にまつわる逸話をいくつ知っている」
「アキちゃん、いきなり何を言い出すの」

誠二、これは男同士の真剣なお話なんだよ。

「アキちゃんは女の子で、私が男だからね?」
「そうだな、例えば二の腕と同じ柔らかさだとか……」
「こいつら聞いちゃいねーぞ」

二の腕、あぁ、そうらしいね。
残念ながら自分のものでためしてもわからなかったな……。

「あと、揉むとでかくなる」
「それだよ」
「どれだよ」

胸は、揉むとでかくなる、らしい。
わかるかね、この方程式が。

「胸は揉むとでかくなる」
「なんで二回言ったんだよ……」
「そして、委員長の胸はでかくなった」
「アキちゃん、もっと包み隠して」

つまり、あれだ。
委員長の、胸が、あれなんだよ。



「誰かに揉まれていたかもってぇことだな」
「巽、世の中には気付いて言ってはいけないことがあるのだよ」
「誘導したのはてめぇだろうが」



うんうん、よくある話だ。
現地妻ってやつだ。
まぁ男らしいお話って、委員長は女だよ!

「アキ、ブレイクブレイク」
「常に兄ちゃんが隣にいるノリにはこの不安はわかるまい!」
「とりあえずヒナちゃんに限って浮気はないと思うけどね」
「う……」

誠二が言うと説得力があるなぁ。
でも怖いもんは怖いしなぁ。
チャイムが鳴り響いて会話がとまる。
今度は誰だ?
面倒だけれど立ち上がって玄関へ赴く。



「やっほー、アキちゃん」
「アキ先輩!正妻の私がわざわざ会いに来ましたよ!」



奈央ちゃんと、変態一匹。

「とりあえず誰が正妻だ誰が」
「私です」

真顔で言うな。

「美幸、私の正妻になりたければせめてDカップ以上になってもらおうか」
「わあー、貧乳に対して4つもレベルアップしろってふざけてるんですか、犯しますよ?」
「やめてください」

他人ん家の玄関でなんて物騒なことを言うんだこいつは。
しめてやる。
美幸の首根っこを掴もうとして、とまる。
なんだか良い匂いがする。

「ふふん、今日は本気で落としに来ましたから」
「はぁ?」
「覚悟してくださいね」

美幸は鼻息荒く「ふん」とちょこっと怒った素振りで居間へ向かった。

「なんだあれ」
「まぁ、今日はしょうがないかしら」
「奈央ちゃん、何か知ってんの?」
「さぁーて、どうかしらー?」

奈央ちゃん、悪い顔してるなぁ。
奈央ちゃんがこういう笑い方するときって大概あたしにとっては良いような悪いようなことが起こるんだけど。
何を企んでいるんだろう。
ぼんやり考え込んでいると、もう一人たたずんでいることに気付いた。
いや、気付きたくなかったから気付かなかったんだな。
よし、見なかったことにしよう。




「ちょ、待て待て待て!
 僕を放置していくな!」
「あ、ごめん。ここは男子禁制なのでお引取り願えます?」
「いやいやいや、君のお兄さんは男だろう!?」




あ、しまった。
そうだった。おのれ、兄め。

「なんであんたまでここにいるんだ。えーっと、武なんとか」
「武下だ!僕だって本当はこんな不浄の館には来たくなかったさ」

他人の家を不浄だとか失礼なヤツだな。
そういうヤツは入れてあげないぞ☆
全力でドアを閉めようと手を伸ばす。

「ちょ、ちょっと待て!閉め出そうとするな!」
「すいません、うち新聞は朝売新聞しか取ってないんで」
「新聞勧誘と一緒にするなぁー!」

一緒だ。
迷惑さに関してはほぼ一緒だ。
押し売りにもほどがある。
しかし彼らにも生活費がかかっているのだよなと思うと優しい気持ちになれるけど武下に対してそんな気持ちにはなれない。
否、決してならぬ。

「あら、スーパー君じゃない」
「お、折戸君!助けてくれ!」
「嫌よ」

おぉ、誠二様や……誠二様がおる……。
絶対零度とはこのことか。

「スーパー君ったらこないだ巽のことを苛めたでしょ?」
「いじめられてねぇよ」
「私、怒ってるんだから」
「いじめてなどいない!少しヤンキーであることをからかっただけだ!」

お前らはの○太とドラ○もんとジャ○アンか。
いつのまにか後ろには兄ちゃんやノリまで降りてきている。
ノリが笑顔で武下を迎え入れた。


「彼もかわいそうな人なんだから入れてあげなよ」


天使のような悪魔の笑顔とはこのことか。

「それにしても今日は来客が多いなぁ」
「まぁそんな日もあるんじゃない?」

なーんか、みんな企んでるよねぇ。
あのノリと奈央ちゃんの笑顔、前触れもなくやってきた美幸と武下。


…そろそろもう一回チャイムが鳴る気がする。


ピンポン。


そら来た。
しょうがなしにドアを開ける。
たぶん一番怖い人がいるのだろうし、と。
殴られることを予想して目を瞑って扉を開けた。

「はいはい、みどりんいらっしゃいませ」

あれ、無反応?
何よその挨拶はと一発ぐらい殴られると思ったのに……。




「ごめんね、みどりじゃなくて」




えーっと、うん、幻?
いや、残像だね。

「残像か、それなら仕方ない」
「残像!?実体だよ!?」
「質量を持った残像か。さすがモビルなスーツだ」
「……何の話かな?」

目の前にいるその人は少し大きくなった胸を揺らし、はにかんで笑った。




「久しぶり、秋生」




悔しいことに、ちょっと1年離れていた間に委員長はもっと綺麗になっていたらしい。
写真じゃ、わからなかったなぁ。

「久しぶり、……委員長」

少し迷ってそういうと、委員長は拗ねた顔で詰め寄ってきた。

「電話では比奈子って呼んでくれていたのに、どうしてそこで委員長って呼ぶかなぁ」

うぅ、詰め寄るなー!
さっきの美幸とは段違いに良い匂いがするし胸に目がいくし、もー!
もういっそ電話のほうが良かったんじゃないかな。
うん、あたしの理性のためにもそうあってください。

「だって委員長の胸が別人に……!」
「胸で人を判断しないでよ……」

くそう、CとDの差は大きいな!
ぜひ触って確かめたいところですが、向こうで他の人の物になったのではないかと思うと心がひんやりするので今は我慢。
そう、その代わりに隣でひっそりと声をかけるタイミングをうかがっている本来迎えるはずだった人の胸に触ろう。



「触るな、下衆」



みどりんってば胸は成長しなかったけど女王様度がランクアップしたよね。
仮にも友人に向かって下衆はないんじゃないかな下衆は。

「いつまで玄関でイチャコラしているのよって突っ込もうかと思ったらまず私の胸ってバカなの?バカだわ」
「みどり、ブレイクブレイク」

わぁ懐かしいやりとり。
思えばこの1年、委員長がいないことでストッパーをなくしたみどりんがやりたい放題でしたよ。
そう思えばこのけしからんDカップを揉んでも罰は当たらないかもしれない。

「大きく育ったのぉ……」
「今度からあんたの名前を色ボケじじいに変えるわよ。
 その汚い手でヒナに触るな、色ボケじじい」

今度からじゃなくて今から変わってますがな。

「さ、ヒナ。さっさと入りましょ。
 今日はヒナの帰還パーティーなんだから」
「私は戦地へ赴いていたわけじゃないんだけど……」
「家主2を無視しないでください」
「2でしょ。家主1がすでにそこで待ち構えてるのよ」

あ、本当だ。
よく見れば今の扉から兄の目がチラリズムしている。
っていうか指を咥えるな、気持ち悪い。
勝手知ったる他人の家とあがりこむみどりんの後に委員長が続く。

「お邪魔します」

あたしの横を普通に通り抜けよう……と、したところで少しだけ引き止める。
ちょっと袖を引いただけで止まったことにびっくりして、思わず手を離した。

「秋生?」
「……」

えーっと、これは、あれだ。
別になんかもう少し特別リアクションがほしかったわけじゃなくて、えーっと。
とりあえず誤魔化そう。


「委員長、あのさ」
「私はもう委員長じゃないから、委員長って誰のことかなぁ?」


鬼!
ニコニコしやがって!

「ひ、ひなこ」
「ん、ちゃんと呼んで?」

うーん、この百戦錬磨なお姉さん光線はどう考えてもあっちで遊んできたな?
悔しいけれどこっちは退化してるんだよ。
引きこもりなめるなよ!
伊達にネサフとエロゲで時間潰してないぞおらぁ!

「比奈子」
「はい」

あたしの葛藤など知る由もなく、比奈子は嬉しそうに笑った。
こんなに笑う人だったっけ?
いつもニコニコしていたイメージはあったけど、なんだか前より元気になったみたいだ。



……置いてけぼりくらってるなぁ。



せっかくの再会なのに面白くなくて先に家に入る。
振り返って彼女の荷物を一つ預かる。
別にいいよと笑って気をつかわれたのが悔しくて、でも何もできない。
溜息を吐きそうになって飲み込んだ。
あたしも、大人になるんだ。
何もその笑顔を曇らせる必要なんてないんだ。
ぐっとこらえて、少しだけ笑ってみせる

「お帰り、比奈子」
「……ただいま、秋生」

居間に戻ると、わっと盛り上がる。
あたしは加わりきれなくて、たまにみどりんの胸を眺めながらたまに殴られたりしてみていた。
一部お酒も入ってきてあぁ今日はみんな雑魚寝だなと悟った。
くぅ、こんな大学生にはなりたくなかった。
ちょうど良い掛け布団とかあったっけ。
二階に行って確かめようかな。

「あったあった」

ひっそりと二階で毛布を漁ると、ちょうど良いのが何枚か出てきた。
それらを引っ張り出して……少し布団の誘惑に負ける。
モフッと倒れこむと心地よい柔らかさに包まれる。
もうこのまま寝ちゃおうかなー。



「そんなところで寝てたら危ないよ?」



むぅ、来るとは思ってたけど。

「どこかの比奈っ小僧と違って危機感はあるし大丈夫」
「変なあだ名つけないでってば」

うぅ、近い近い。
倒れこんでいるあたしの傍に腰を下ろすと、そーっと背中に手を滑らせてきた。



「……浮気、してない?」



直球ですね!

「する余裕があるかー!」
「だって秋生ってば変に大人になっちゃってて焦っちゃう」
「大人?あたしが?」

予想外の言葉に起き上がると、比奈子は意外と笑っていなかった。
拗ねたみたいに目線を逸らす。
なんだか、さっきまでのあたしを見てるみたいだ。

「我慢とかしてるし、私のいない間に誰かに大人にされてない?」

そこはかとなくエロい言い回しですね!いよっ委員長!
じゃなくて、我慢は昔からしてたと思いますけど。

「大人にって?」
「……私がいなくても、平気、みたいな」

それはこっちの台詞。
比奈子のほうがあたしがいなくても元気そうだ。

「比奈子こそ、浮気してない?」
「してないよ。どうしてそう思うの?」
「胸が……」

今更ながら。
比奈子の理由に比べて自分の疑ってる理由に恥ずかしくなって来た。人として。

「胸?」

こくりとうなづく。




「比奈子の胸が成長していたようなので」
「それはまぁ……そうだけど」
「誰かに揉まれて大きくなったのでは、とあいったたたたたた!!!!」




比奈子様!親指と人差し指の間のツボは痛いです!やめてください!
あとその笑顔!怖い!すっごく怖い!

「秋生が言ったんでしょ?
 1年経ったらDカップぐらいにはなっておいてって」
「えぇ?言ったっけ?」
「忘れないでよ……」

なんか、ごめん。
えーっと、じゃあ?


「浮気なんか、してないよ」


そ、そう?
信じて、いいんだよね?

「頑張ったんだよ?毎日大豆食べたり、マッサージしたり」

うぅ、悪かったってば。
あとその自分でマッサージしてるとこがすっごいみたいです。

「う、ん、信じてみる」
「うん、信じて」

比奈子が目を閉じたのが、何の合図かわかるぐらいには自分だって成長しているはず。
昔と違って失敗だってしない。
いろんなゲームで更に知識を得た、はず、だし。

たださ、一つ気になるわけよ。

これだけ体が近いと、さぁ。
必然と、さぁ。




「唇より先に体に触れる乳なんてありなのか……」
「秋生、空気読んで……」




いや空気読んでないのは比奈子の胸だ!けしからん!
これが二の腕と同じ感触だなんて嘘だ!
比奈子は恥ずかしそうに、でもガックリと肩を落とした。
うーむ、次の機会までにおっぱいは決して怖くないってことを自分に教え込まないと。

back to UCHIDAME spin-off menu
back to top
designed by inertia