Lily memo %



冬の1日 (目片比奈子)


彼女は割と冬は大人しいみたい。

「おはよう、まっつー」
「うぃー」

教室の隅でカタカタと震えながら机に丸まっている。
寒いのは苦手みたいで、教室なのにコートを着たままでいる。

「教室でコート着たままだと教室出たとき耐えきれないよ?」
「でも今脱いだら凍る…」

凍らないよ。
あんまりぐずぐずしてるとそろそろ…。



「桃松、見てるだけでイラっとするからとっとと脱ぎなさい!」
「ひぎゃー!寒いー!」



やっぱり。
もう冬の日課のようにまっつーは毎朝、みどりからコートを剥ぎ取られてる。
ちゃんとコート掛けに掛けてあげるあたりみどりも優しいなぁ。

「寒いー寒いー」
「ぎゃー!タカるな気持ち悪い!」

みどりはぺっとまっつーをはがすと、野沢君の背に隠れた。
最近わかったことだけど、まっつーに狙われた女の子は男の子の後ろに隠れると安全らしい。

「うぅぅ、寒いよぅ」

まっつーはみどりんを追いかけるのは無駄だと思ったのか、また机に戻るとくるりと丸まった。

「まっつー」

ぴこっと顔をあげたまっつーに、ぱっと手を広げてあげる。

「おいで」
「わんわん」

犬みたいに腕の中に飛び込んでくるまっつーを軽く抱きとめると、ぎゅーって抱きしめてあげる。

「…なんか見なれたからもういいけど。
 そわそわするわ」

いつでも殴れるわよってオーラを出しながらみどりが近づいてくる。

「大丈夫、こうしてる間はまっつーは大人しいから」
「変なことしたらすぐ引っぺがすからね」

それがわかってるから大人しいんだと思うよ。
他の季節ならこんなことすればまっつーから剥がされるか、変なことしてみどりから離されるかのどっちかだけど。

「ふふー、役得ー」
「ヒナ、満足そうね」
「うん」

泳いでるまっつーが見られないのは残念だけど、冬も悪くない。
それに結構まっつー自身も暖かかったりするし。
腕の中でもそもそぬくぬくするまっつーは正直可愛い。

「あれ、また教室でラブロマンスしてる」
「オノチャン」

オノチャンはてこてこと歩いてくると、ニヤニヤと笑った。

「ラブラブですなー」
「冬のマジックだよね」

満足するまでニヤニヤした後、オノチャンはおもむろに私の手を握った。

「なに?」
「んー」

そのあとに、悪い顔で少し笑った。

「まっつー、お手」
「わん」

完全に犬だね…。
でもオノチャンにお手をしたあと、まっつーは目を見開いた。

「…わんわん!」

かと思うと、犬語のまま私から離れてオノチャンの方に…。

「よーしよしよし」
「わふんわふん」

…あれ?

「あたいの体の方が委員長より魅力的だったってわけさね」
「単にオノチャンのほうが暖かかっただけでしょ」
「鈴城ちゃんったら冴えてるー!」
「誰が考えてもそうでしょ」

…あれれ。
今まで散々暖めてあげた私の腕の中に、まっつーがいない。



…あれれれ。



ちょっとだけ湧き上がる苛立ち。
ちょっとだけ萎む優越感。

「まっつー」
「わん?」

「浮気者」

「わん!?」

私はまっつーの耳を引っ張った。
なんだか、面白くないな。

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