英語のリスニングの授業は教室では行わない。
移動教室だと大抵の席順は、「名前順」か、「好きな席に座る」かのどちらか。
けれどこの先生は割と変わり者で、「名前の逆順」というあまりない席順だったりする。
「…ぐー」
そうなると私の目の前は必然的に彼女、だったりする。
目片の「め」
桃松の「も」
席替えとかをしても好んで前に座る私と、後ろの席が好きな彼女では滅多にお目にかかれない構図。
今日のこの時間も、私の視界は開けている。
「…すー」
英語が苦手なのか、この時間になると寝息が聞こえてくることが多い。
ノートはいつも野沢君が貸してるみたい。
「Ms.目片、目の前の失礼なLadyを起こしてやってください」
「はい」
あんまり堂々と寝てるから、先生怒っちゃった。
前で突っ伏しているまっつーの背中に手を触れる。
「まっつー、起きて」
軽く揺さぶると、ゆーっくりと頭がもちあがった。
「チャイム鳴った?」
「まだ。先生怒ってたよ」
「…巽だって寝てるのに」
つまらなさそうに唇を尖らせると、頬杖をついた。
それも行儀悪いよ?
あまりにも暇だからか、頬杖をつきながらもう片方の手で板書を始めた。
それ自体は良いことだし、先生も何も言わないし、いっか。
15分ぐらいしたところで、今度はキョロキョロゴソゴソし始めた。
何か探してる?
しばらくして、くるりと振り向くからばっちり目が合っちゃった。
「委員長、修正ペン貨して」
「はい、どうぞ」
布製の大きめの筆箱から太めのペンを出すと、お礼を言って一生懸命ノートに向かった。
…真面目に勉強することもあるんだね。
ちょっと失礼な考えかな?
しばらくすると、また振り返ってお礼を言って前に向き直った。
「…あ」
勝手に筆箱に戻された修正ペンと一緒に見覚えのない小さな飴玉が入っている。
授業中に飲食物を机の上に出しちゃいけないのに…。
でもなんだか可愛くって嬉しい。
結局私は注意しきれなくって飴玉をコロコロと筆箱の中で転がすことしかできなかった。
桃松秋生っていう女の子は、ちょっとズルくて、やっぱり可愛い。