Lily memo %



桃松秋生という人について3


桃松秋生という人は、やっぱりそういう人である。

「や、休み…?」
「今日の朝に夏雄さんからメールがあったよ。
 腹痛で家から出れないって言ってるってさ」

夜中に必死で考えた解答。
真っ暗になる足元。



「「え、えぇええええ!?」」



みどりと二人で声を上げると、野沢君はふぅと溜息を吐いた。

「まぁ、やるんじゃないかとは思ってたけどさ」
「えぇ?どうして?」
「だって人から一日中観察されるなんてアキが我慢すると思う?」

う…。
それは…思わない…けど…。

「なぁに?やっぱりアキちゃん逃げたの?」
「まぁ大方予想通りだな」

え。
私たちの後ろから声をかけてきたせーちゃんと能登代君。
その手にある紙には、まったく同じ解答がぽつんと書いてあった。




『そもそも学校に来ない』




「二人ともわかってたの?」
「アキがそんな話聞いて学校来るかよ」
「昨日大人しく話を聞いてた時点でおかしいなとは思ってたのよね」

…なんか、ずるい。
付き合ってきた年月の差、みたいなのを見せつけられた気がする…。

「ちなみに美幸ちゃんは?」
「授業が始まるからって解答だけ渡して教室に帰って行ったよ」

はい、と野沢君から見せてもらった美幸ちゃんの解答。
そこにはやっぱり、せーちゃんたちと同じことが書いてあった。

「これはもうヒナの一人負けね」
「えぇええ!?」

だってほら、と見せられた全員の解答。
私のだけが真っ黒で、あとのせーちゃんと能登代君と美幸ちゃんのは一言だけ。

「よくもまぁご丁寧にここまで書いたわね…」
「うぅ…だって学校に来ないなんて思わないもん…。
 ご飯食べる時の癖とか、そういうのもいっぱい書いたのに…」
「いや、そこまでいくと変態っぽいわよ、ヒナ」

変なのはわかってるけど…。
でも負けられなかったんだもん。
まっつーと2ショット写真欲しかったな…。

「そういえば、これじゃあ3人優勝しちゃってるじゃない。どうするの?」
「4ショット写真?」
「うわ要らねぇ」

要らないんなら変わってほしいよ能登代君。
何人居たってまっつーの写真なら欲しいもの。

「2ショット写真が3枚じゃない?」
「アキ絶対逃げるな」
「目に見えるようだわ」

…それなら、逃げてくれてもいいかも。
なんだか無償にもやっとする。
だって、私だけ負けっていうのもそうだけど、他の人との2ショット写真なんて見たくない。
私…ちょっと嫉妬深過ぎるかな…。

「さーて、これで今日の私は安泰だわ。
 丸付けもしなくていいし、安心して勉強できるわー」
「みどり、いつも勉強してないでしょ?」
「ヒナ、そういうことは言わなくていいの」

そうこうしてるうちに授業は始った…。
私の手には真っ黒な答案用紙。


今日会えないのも悲しいけど、なにより愛情が足らなかったみたいで悔しい。


私が誰よりも好きなのに。
授業に集中できないくらい、まっつーのこと考えてるのに。

「…寂しいなぁ」

こんなに好きなのに。
当の本人はふらふらしてるし、周りはみんな彼女のことが好きだし。
すごく不毛ですごく不安。
いつか振り向いてもらえる?
少しずつ距離は縮まってるけど、その間に周りとの距離はもっと縮まってる。
私だけ、取り残されてる。

「寂しいよ、まっつー…」

後ろの席は空席。
たまに感じる視線とか、授業中の寝息とか。
ごくたまにペンを探す音とかこっそりと飴を転がしてる音とか。
今日はそれが全部無い。

今日一日、ずっと憂鬱なのかな。

そう思うとすごく気持ちが沈んだ。








…間。









「こんにちはー♪」
「美幸ちゃん」

昼休みになって、美幸ちゃんは喜々としてやってきた。

「どーです?正解だったでしょう!」

悔しいくらいにね。

「まぁ私の愛が一番強かったってことで…」
「そうはいかないわよ美幸ちゃんっ」

誇らしげなせーちゃんと能登代君。
…みんな楽しそう。

「私たちも同じ解答だったんだから」
「むむ、やりますねお二人とも…」

少しだけ悔しそうな顔をした後、美幸ちゃんはニヤリと私を見た。



「それで、目片先輩はなんて書いてきたんですかぁ?」



…いやらしいな、もうっ。
解答を見せると、美幸ちゃんは嬉しそうに笑った。

「あーららぁー♪こんなに必死に書いちゃってぇ、すごいですね目片先輩♪」
「イヤミだよねそれ…」
「えー、そんなことないですよぉー」

必死だったのは私が一番わかってるんだから放っておいてよぉ…。

「ま、これでわかったでしょう?」
「何が?」
「私のほうがアキ先輩を愛してるってことですっ!」

それは…。
確かにそういう話だったけど。
でもやっぱり…。




「私だって…!!」

「おはよう。何の話?」




「…え?」

何の話って、だって、え?

「おはよう」

まっつー?

「なんでみんなそんな『死んでた主人公が生きてた』みたいな顔してるの?」

その例えはよくわからないけど…。
でも…。

「え?なんで?」
「ひどいな委員長。あたしが学校来ちゃいけないわけ?」
「そ、そんなこと言ってないよ!」

私が言いたいのはそういうことじゃなくて…!
鞄を下すことなくまっつーはひょいと野沢君の手にあるみんなの解答を取り上げると、ニヤリと笑った。

「全員、13点かな」

え。

「学校の始まる9時から24時間でしょ?
 今あたしが来たのが12時15分。しかも学校から帰った後とかそういうの一切書いてないし。
 学校にきてない間の13点分しかないよ」

まっつーはしてやったりと笑うと、満足そうにふふんと鼻を鳴らした。

「な」

固まってた中でいち早く状況に気付いた美幸ちゃんが、慌てて動き出した。

「なんで学校来るんですか!?アキ先輩!」
「いじめかよ。あたしが学校来て何が悪いの。
 むしろ遅刻してでも学校に来たんだから褒めてよ」

それは確かにそうだけど…。
あれ、でも待って?
これって…。

「ま、全員同じ点数じゃ勝ちも負けもないよね」

他の解答はないようだし、これから丸つけのしようもないよね、と笑うまっつー。

「ちょっと待ってまっつー」
「何?委員長」

ヒラリと私の解答を見せると、まっつーはピシリと音を立てて固まった。





「私、これからまだ答え合わせできるんだけど…」





13点なら、挽回できる気がする。
だってこんなに書いたんだもん。

「え?あれ?」
「みどり、答え合わせお願い」
「任せなさい」
「えぇ!?嘘でしょ!?」

あんなに丸つけ係を嫌がってたみどりだけど、ニヤリと笑って頷いた。
まっつーの一人勝ちが嫌だったみたい。

「なんてことだ…」
「まっつー」
「ん、な、何?あたしちょっとお腹が…」

まっつーは冷や汗を垂らして私を見た。
ダメだよ、逃がしてあげない。
午前中、ちょっと寂しかったんだから。

「お昼ご飯は?」
「あぁ、食べてないけど…」
「食堂?」
「うん、そうだけど…」
「じゃ、行こっか」

ニッコリと笑って緩く腕をとると、まっつーの顔が完全に引きつった。

「め、目片先輩!解答通りにアキ先輩を誘導するのはダメですよ!」
「誘導なんかしてないよ?ちゃんと聞いたもん」

食堂?って聞いたらうんって答えられたもん。
それに私は頑張らなきゃいけないんだから。
13点以上取らなきゃいけないもんね。

「よし、行こっ」
「えぇえ」

私はまっつーを引っ張って食堂へ歩きだした。
やっぱりまっつーの行動は誰にもわからない。
桃松秋生という人は、やっぱりそういう人なんだ。

誰かの考え通りに動くのが嫌で、それでも誰かを傷つけたりしない。
いつかはおでんだって食べさせてくれるかもしれないし、
いつかは私を頼ってくれるかもしれない。
頑張る希望をくれる私の大切な人。


やっぱり、彼女に釣り合うような人になりたい。


一人占めしたいし、もっと私のことも知りたいって思ってほしい。

好きだよ、まっつー。



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