Lily memo %



佐藤美幸という人について1


修学旅行が終わると、廊下に何枚もの写真が貼り出されていた。
番号を紙にメモして、事務員さんに渡せばその写真が焼き増ししてもらえる。

「こういうのってついあの写真も良い、この写真も良いってなって、
 ついびっくりする値段になったりするのよねー」
「あはは、あるある」

もちろん何枚かは卒業アルバムに載ったりするんだけど、ほとんどは用がなくなれば捨てられちゃう。
気になるものはとっとかなくちゃね。

「みどり、今何枚?」
「…う…」

隣で一緒に写真を見ていたみどりのメモを見ると、そこにはびっしりと文字が書かれていた。

「…みどり」
「だ、だってだって!
 あの写真には野沢君がいるしあの写真には隣の松山潤君とか桜井超君とかいるし!」

ほんとに美少年好きだね…。
もー。

「そういうヒナはどうなのよ!」
「え?私は自分が写ってるのとかみどりが写ってるのとか…」
「それにしちゃ少し数多くない?」

ギク。

「どれどれ?」
「あ、ちょっと!」

みどりにメモを奪われて慌てて取り返そうとする。
でもみどりは巧みにすり抜けると、メモと写真を見比べ始めた。

「ダメだってば!」
「35番…35番……」

さ、35番はダメ!
それは…!
みどりはピタリと動きを止めると、はぁと息をついた。




「…溺愛しすぎじゃない?」




35番の写真には、琉球村をだらだらと歩くまっつーの姿。

「だって、なんだかふにゃふにゃしてて可愛かったんだもん」
「へぇ…」

呆れた顔でそれだけ言うと、他の写真も見比べ始めた。





…間。





「ほとんど桃松の写真じゃないの!」
「言わないでよぉ…」

私だっておかしいのわかってるけど…。
でもやっぱり欲しかったんだもん。
これでも何個か削ったんだよ?

「ヒナが削ったのって自分の写ってる写真じゃない」

だって自分の写真はいつだって撮れるし…。

「もう…あいつの写真の何がいいんだか…」
「可愛いよ?ほら、これとか」

一番気に入った写真を指さすと、みどりはおもしろくなさそうな顔で「むむ」と唸った。

「確かに…これは…まぁいいわよ」

3日目の水族館。
キラキラ光る水槽を小さな子どもみたいに見つめてる。
それはなんだか泳ぐ前のまっつーを見てるみたいで、すごくいいって思った。
私も、こんな風に見られてみたいな。




「なるほど、140番は買いですね」

「「うわぁ!!?」」




急に後ろから声をかけられて二人揃って飛びあがる。

「まったくこのカメラマンは良い仕事しましたね。
 でもこんな写真を内々に秘めて私に報告せず、万人に公表したことは万死に値しますよ!」
「美幸ちゃん!?」

後ろを振り向くと、そこにはチョコンと小さくメモをとっている女の子。

「はい、佐藤美幸です。以後お見知りおきを」
「知ってるけど…」
「あんた、呼ばなくても来るときあるのね」

ポツリと呟くみどりにうんうんと頷く。
私も、名前呼ばれたときだけ出てくるんだと思ってた…。

「失礼ですねー!
 私にだって意思はあるんです!」
「意思ねぇ、それにしたって桃松もいない今ここで出てくるとは思わなかったわよ」

私もそう思った。
てっきりまっつーの周りで名前を呼べば出てくるのかなーと思ってたから…。
美幸ちゃんもやっぱりまっつーの写真探しに来たのかな。

「それにしても、ですよ!」
「は、はい?」

ズビシっと私に向けて指を突き出されて一歩引いちゃった。
私、何かした?

「そんなにアキ先輩の写真買ってどうする気ですか?」
「どうするって…」

…どうするんだろ。
家にあるアルバムに貼ろうかな。
あ、でもあれ家族も見るし…、さすがに家族に見られちゃうのは恥ずかしいな。
新しく百均とかでアルバム買って、まっつー専用のアルバムでも作ろうかな。
これから増えるかはわかんないけど、あってもいいよね。

「アルバムに入れて眺める…かな?」
「甘いですね!!目片先輩!!!」
「え、どういうこと?」

美幸ちゃんは不敵にふふふと笑うと、ニヤリとこっちを見つめてきた。

「ふふふ、甘いですね目片先輩!!」
「それはもう聞いたわよ!」
「み、みどり!?ブレイクブレイクっ」
「ごほっごほっ」

相手は女の子だよ!?
なんで急にネックブリーカーかけたの!?

「あ、ごめん。つい桃松と同じ扱いを…」

みどり、まっつーも女の子だからあんまり手荒なことしないであげてね…。
そろそろ死んじゃわないか心配だから…。

「む、むぅ、私に乱暴するなんて…みどり先輩、私に気でもあるんですか?」
「ないわよ」

どうしてそういう話になったのかな…。
美幸ちゃんの思考回路がわからない…。

「とにかく、甘いんですよ目片先輩!」
「何回言うのよ…」
「みどり、とにかく聞いてあげようよ」




「私なら眺めるだけでなくもちろん写真をブラジャーの中に入れて右手はおっぱい左手はお」

ゴン

「いったぁ〜い!!!」




「みどり、なんで叩いたの?」
「なんとなくよ」

叩いたというよりは殴ったに近いけど…。
あんまり人の頭叩いちゃダメだよ?
それにしてもなんで写真をブラジャーに入れるんだろう…。
カサカサして痛くない…?
あと左手はなんなんだろう…。
右手を胸に当てて、あ、心臓が暖かくなるとかそういう理由かな。
だったら美幸ちゃんも結構微笑ましいとこあるんだね。

「とにかく、愛の大きさが違うんですよ!」
「ヒナの一般的な愛情と美幸ちゃんの歪んだ愛情の大きさを比べられてもねぇ…」

みどりは呆れ気味にそういうと、ふぅと溜息を吐いた。
でも私も結構一般的ではないんだけどな?
い、一応、まっつーのこと、好き、みたいだし。

「ヒナ、なんで赤面してるのよ」
「気にしないで…」

まっつーのこと好きって思うだけで赤くなっちゃうんだもん…。
家族とかならこうはならないのにな。

「どうですか!?目片先輩にここまでアキ先輩を溺愛できますか!?」
「よ、よくわからないけど、まっつーのことなら負けないよ?」
「むきー!」
「なんで桃松取り合い合戦が始まってるのよ…」

だって、私だってまっつー好きだもの。
ここは引いちゃいけないとこだよね。

「ふむ、そこまで言うならしょうがありませんね…」

ん?
美幸ちゃんはコツコツと手にしていたペンで自分のおでこを叩くと、ニッと笑った。
あ、こういうとこちょっとまっつーと似てる。

「勝負です!」
「勝負?」




「どっちがアキ先輩のことを溺愛してるか、勝負してみようじゃないですか!」




…どうしてこんな話に?

「どうしてこんな話に…」

あ、みどり。今おんなじこと考えた。
でも勝負してどうするんだろ。

「勝った方がアキ先輩とツーショットで写真を撮れる、ということでどうでしょう?」

それはとても魅力的だなぁ。
私がコクリと頷くと、美幸ちゃんはまたニッと笑った。

「そうですね。せっかく私たちは賢いんだから、頭脳勝負にしましょうか」
「単純に美幸ちゃんが運動できないから勝ち目ないだけでしょ?」
「みどり先輩は黙っててください!」

みどり、美幸ちゃん突くの好きだね。
こういうとこ賢いのにどうしてお勉強はできないのかなぁ。
勉強って慣れたら結構楽なのにな。

「でも学校の勉強だとたぶん私負けちゃうよ?」
「負ける負けない以前に学校の勉強なんて全部できて当たり前なんですよ」

美幸ちゃん、みどりの顔すごいことになってるから。
ダメだよそんないろんな人に喧嘩売るような発言…。

「じゃあ、どうするの?」
「アキ先輩の行動でも予測しましょうか」

んん?




「明日一日のアキ先輩の行動を予測して全部紙に書いて、次の日答え合わせするんです!」




あ、面白そう。

「行動予測は15分置き、判定は…そうですね、みどり先輩にお願いしましょう」
「うわ、めんどくさっ」

みどり、そういうのは心の中で言って。
正直なとこは好きだけど、たまには言わない優しさってものもあるんだよ?

「と、いうことは全部で24×4だから…96問、かな?」
「より細かい解答に正解したら特別にポイントを加算するようにしましょう」
「え、そんなに丸つけしなきゃいけないの?
 一番可哀想なの私じゃない?」

たしかにちょっと可哀想だけど…、でもたぶん楽しいよ?
一日中まっつーのこと観察するようなものだもの。

「そんなの楽しいのあんたらだけよ」

そうかなぁ?





「さ、善は急げ!さっそく取り掛かって…」
「何やってんの?」





あ、まっつーとせーちゃんと能登代君。

「ちょっとね」
「はぁ、みどりん疲れてるね」
「あんたのせいでね」

みどり、まっつーに罪はないよ?

「それで、本当に何してたの?」

疑問符を浮かべるせーちゃんに細かく説明すると、せーちゃんはニッコリと笑った。

「楽しそうね!私もやろうかしら!」
「お、じゃあ俺もやるかな」

あれ、能登代君も?

「んだよ、俺は参加しちゃダメなのかよ」
「そういうわけじゃないけど…」

なんか意外っていうか、こういうの参加するんだっていうか…。

「愛云々は面倒くせぇけど、アキのする行動くれーなら俺にも想像つくしな」

あ、そういう理由なんだ。
でも勝ったらまっつーとツーショット写真だけどそこはいいのかな。




「え、私4つも丸付けしなきゃいけないの?」




ごめん、みどり。

「丸付け係を増やせばいいのよ」
「ノリ呼ぶか」

最近、野沢君の扱いひどいよね。
なにが、とは言わないけど。

「あのね、それにしたって一人分96問もあるのよ、そんなめんど…」
「さ!!張り切ってやりましょうか!!」

みどりちょっと可哀想。
でもごめんね、私もこれはちょっと負けられないんだ。

「そもそもそんな勝負するほうが…」
「お、もしもし、ノリかー?実はなかくかくしかじか」
「もういいわよ!やればいいんでしょやれば!」
「みどりん、ブレイクブレイク」

せーちゃん、そんな満面の笑顔で言っても効果ないと思うよ?
とにかく今日は家に帰ったら即効で紙に書き始めよう。
まっつーのことだし、きっといろんな細かい行動するから、ちょっと難しいかも。
でも楽しみ!
私はさっそく頭のなかで明日の日程を考えると、まっつーのことばかり考え始めた。

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