好き、と思ったのは文化祭。
それがどういったものなのか悩み始めたのは水泳大会。
あぁ、この人が好きなんだ、と思ったのは…?
「そろそろ寒くなってきたねー」
「秋も終わりだもの。あーぁ、寒いの嫌いなんだけどな」
朝来る時に息が白くなる。
今日は二人とも日直も用事もなく、一緒に登校。
「みどりは今年もカイロ貼りまくるんでしょ?」
「あれでも寒いってんだから冬ってひどいもんよね」
季節に文句つけるなんてすごいなぁ、みどりは。
冬でもみどりはさすが無敵だ。
校門で靴を履き替えると、教室に向かう。
「おはよー」
「やぁ委員長、鈴城さん」
相変わらず爽やかな野沢君が挨拶を返してくれた。
みどりは「桃松と仲良くしてて得なのはこういうとこぐらいよね」とたまに言っている。
確かにその周りの子も挨拶してくれるのは嬉しいけど…。
きょろりと教室を見まわす。
「ほっ、あのバカはまだ来てないみたいね」
私は割と、まっつーが挨拶してくれる方が嬉しいかなぁと思うんだけど…。
ちょっと最近まっつーに依存しすぎかなぁ。
気持ち悪くないかな?
本当はメルアドとかも聞いてみたいけどウザがられたくなくて我慢してる。
今でもたまに面倒くさいなぁって顔されるときあるもん。
「みどり…、人付き合いって難しいね…」
「にこやかに挨拶してそのコメントってどうなのヒナ」
「俺何か変なこと言ったかな…」
ごめん…野沢君のせいじゃないんだけど…。
考え込むと周りが見えなくなることよくあるから。
「ところで野沢君、せーちゃんたちは?」
「今日はまだ来てないね。…大丈夫かなぁ」
?
病気でもしてるのかな?
「いやね、寒くなってくるとどうしても…」
「おはよー」
あ、きた。
私は振り返ると、にこやかに挨拶をしよう…として、ちょっと戸惑った。
「お、はよう?」
「桃松、なによその格好」
ぶかぶかモコモコ。
…寒いの?
「アキは寒がりだからなぁ」
「まったくもう、連れ出すの大変だったのよ。
外に出たくないって言って布団にしがみつくんだもん」
「ってーかノリ、てめぇ夏雄さんと一緒に逃げやがったろ。
先に学校行きやがって」
「いやー、この季節のアキは本気で面倒くさくって」
そんなに寒がりなんだ。
まっつーはモコモコとしたまま自分の席に座ると、ほっこりと座った。
「いや、コートは脱ぎなさいよ」
「やだー!」
みどりがコートを剥ごうとすると、まっつーはくるくるモコモコと丸まった。
…ちょっと、触りたい、かも。
もふもふ。
「…ヒナ、何がしたいの?」
「んー、ちょっと…」
そんな変な目で見ないで。
ほんとにちょっと触りたくなっただけなの。
「あー、もう!暑っ苦しい!」
みどりはそう言うと、今度こそ強引にコートを引っぺがした。
まっつーは「ぎゃー」なんて悲鳴をあげて椅子の上で丸まった。
なんだかだんご虫みたい。
昔好きだったなぁ、だんご虫。
「さーむーいー」
「ぎゃー!ひっつくなー!」
み、みどり。
みどりまで「ぎゃー」とか言わないの。
どうしてみどりやまっつーよりせーちゃんの方が女の子らしいのかな。
ほんとに、性別間違ってると思う。
「うー、いいんちょー」
「わ」
みどりに追い返されたまっつーが私に向かってダイブしてきた。
それをちゃんと受け止めると、なんとも言い難いくすぐったさを感じた。
なんか、頬が緩む、かも。
「みどり」
「なに?気持ち悪い?引っぺがす?」
「ううん、すっごい暖かい」
「…あ、そう」
あ、みどり呆れた。
もしかしてまっつーが寒いのは体温が高いからかな?
んん、でも顔を首のとこに押しつけてくるからすっごいくすぐったい。
「ヒナ、顔緩んでる」
「嘘!?」
「ほんと」
わ、恥ずかしい。
でもまっつーには見えてないからいいかな。
私は授業が始まるまでまっつーをそのままにしておいた。
…役得だなぁ。
今日の5限は日本史の授業。
半分がビデオ鑑賞だから結構楽でみんな楽しみにしてる授業だったりする。
ただ一部の人にとっては嫌な授業でもある。
「まっつー、重くない?」
「平気」
ビデオ鑑賞の日は、昼休みの間にプロジェクターの準備する当番がある。
お昼御飯を10分で終わらせ、渡り廊下を渡って視聴覚室の扉を開けて準備しなければいけない。
これが時間は使うし面倒なので嫌いな人が多い。
今日の当番は、目片の『め』、桃松の『も』。
二人で配布する資料を受け取って視聴覚室へ移動中。
「無理して全部一人で持つことないんだよ?」
「平気」
さっきからそれしか言わないなぁ。
私の手には軽い一本のコードとビデオだけ。
彼女の手にはずっしりとしたクラス分の資料が4種類。
約150枚にも及ぶその量はしんどいとまでは行かないけど、私の荷物に比べれば不公平。
…私の方が体大きいのにな。
ちょっと信頼されてないみたいでムカついたので、軽く意地悪を言ってみる。
「ちっちゃいくせに」
「む、なにおう」
荷物がなかったらつつきたいとこだけど、我慢我慢。
可愛いのに素直じゃないから、つい苛めたくなっちゃう。
渡り廊下につくと、すいっとまっつーが左側に移動した。
なんだろうと思ったけど、そのまま何も言わずにいるから視聴覚室に着いちゃった。
「よし、ちゃっちゃと準備を終わらせよう。
目片隊員!スクリーン準備でござる!」
「はーい」
クスリと一つ笑ってみせると、身長が低くて手が届かない彼女のために背伸びをしてスクリーンに棒を引っかけた。
そのままスルスルと下ろすと、プロジェクターを準備しているまっつーに笑いかける。
「桃松隊長、準備完了ですっ」
「よぉーし!窓際の席をキープしてからプリントの準備!!」
「はぁーい」
窓際に自分たちの荷物を置くと、プリントを1枚ずつ机の上に置いていく。
途中、風がガタガタと窓を揺らした。
「昼でも風強いね」
「そのうえ冷たいんだから冬という季節自体が拷問だよ」
「あはは、本当に苦手なんだね」
ひとしきり笑ってから、ふと思い出す。
風が強いなんてこと、あの渡り廊下でなんで気付かなかったんだろう。
プリントをぺらりぺらりと一枚ずつ置いていく。
そういえば、あのとき…。
なぜか私の右から左に移動した彼女。
やけにしっかり持たれたプリント。
「あ」
うわ。
なんで気付かなかったんだろ。
どうして、言わないんだろ。
「まっつー」
「なに?」
私のことなんか知らんぷりでプロジェクターの位置調節にかかりっきり。
急いでプリントの準備を終えて、まっつーに近寄る。
しゃがみこんだ彼女に、上から被さるようにぎゅっと抱きついてみた。
「…な、なに?」
やっぱり。
まっつーの体はすごく冷たかった。
ちゃんと言ってくれれば、「ありがとう」って言えたのに。
ずるい、すごくずるい。
女の子のくせに、こういうとこやけに紳士的。
もう、困る。
「イ、イインチョーゥ?」
なんで外人風なの。
私の頬に触れるまっつーのほっぺたも冷たい。
寒いの苦手って言ってたのに。
暖めるみたいにして包んであげて、手にも息を吐きかけてあげる。
どこもかしこも冷たい、あんなにあったかかったのに。
「委員長、準備…」
「あとプロジェクターだけだから、続けてくれていいよ」
「そう言われてもだね」
少し身動きが取りやすいように顔を離してあげる。
そうすると、ちょこちょこと手先を動かし始めた。
「…委員長、もう平気だから」
「表面だけ暖めると中から風邪引くよ?」
「暖房…」
「暖房は3学期から」
去年はこんなに寒そうにしてなかったのにな。
やっぱりまっつーってば見栄張ってたのかな。
顔が離れたせいで、耳がよく見える。
すごく赤くて、照れてるんだなってわかって可愛い。
しばらくすると、バクバクとすごい心臓の音が伝わってきた。
「…ぷろじぇくたー、おわった」
声かすれてるよ?
「そうみたいだね」
「…あの、おわったんだけど…」
「うん、お疲れ様」
変なの、教室でも暖めてあげたのに。
あのときは自分から抱きついてきたのに。
離れてほしいなら「離れて」って言わないの?
さっきから顔を真っ赤にして止まったまんま。
…二人きり、だから?
意識してくれてる?
私の事も、恋愛対象に入ってる?
私、やっぱりおかしいのかも。
どうしてか、まっつーの恋愛対象に入ることを望んでる。
「んーっと、あと何分ぐらいこのまま?」
「…」
「委員長?」
できれば、ずっと。
…うん、おかしい。
私、どうかしてる。
「まっつー」
「なに?」
「私、もしかしたら…」
「目片さぁーーーーーーん!!!!」
ドン、ガシャア
「この僕が手伝いに来たからにはもう………桃松さん、君は何をしているんだ?」
「…委員長に聞いて」
「ご、ごめんなさい」
つい、なんというか、別に後ろめたいとかそんなんじゃないんだけど…。
武下君の声が聞こえた瞬間、気付けばまっつーの体を突き飛ばしていた私。
プロジェクターに突っ込んだまっつーは逆さまにぶっすりとした顔をしていた。
「まぁ、桃松さんのことはこの際どうでもいい」
「待てこら」
「さ、手伝いますよ目片さん」
武下君は爽やかに手伝いを申し出てくれると、私とまっつーの間に立った。
まっつーを起こそうとして差し出しかけた手が引っ込む。
「でも武下君、準備大体終わっちゃったから大丈夫だよ?」
「じゃあ二人で予習でもしましょう!」
「ビデオ学習に予習は特にいらないと思うんだけど…」
ちらりとまっつーを見ると、一人で立ち上がってポスポスと土埃を払っていた。
目が合ったから謝ろうと思って口を開こうとすると、武下君の後ろで私に向かって舌を出した。
あー…うー…。
手を伸ばして捕まえたいけど武下君で届かない。
なんか、私、やっぱり変。
「…じゃ、武下君。お手伝いお願いしていいかな?」
「はいっ!なんでしょう!」
「後ろに居る小さな子狸さんを捕まえてほしいな」
武下君はくるりと振り向くと、まっつーを視線に捉えた。
まっつーは「んげ」と言うと、ゆっくり後ずさりを始める。
「なるほど、さすが目片さん。表現が的確だ!」
「ちょ、ちょっと待てぃ。あたしが狸なら委員長も武下もゴールデンレトリバーだ!」
私ゴールデンレトリバー好きだよ?
武下君はささっとまっつーの首根っこを掴むと、猫のように私に差し出してきた。
「どうぞ、目片さん」
「ありがとう、武下君」
「爽やかな会話なのにあたしの存在のせいでギャグにしか見えない…」
自分で言っちゃうかなぁ。
私はまっつーの手を掴むと、割と強引にさっき取っておいた席に連れて行った。
「…なにすんの?」
「なんだろね」
「?」
訝しがるまっつーの隣でクスリと笑うと、教科書を広げた。
「武下君、予習しよっか」
「はい!」
「えぇー…」
勉強と聞いて嫌がるまっつーの右手を左手で抑えながら教科書を読み進める。
でも教科書の内容は入ってこなくて、私の頭の中は一つの勉強でいっぱい。
離したくない。
構いたい。
誰かに間に割り込まれたくない。
笑ってほしい。
これってそういうことだよね?
マンガとかでしか知らない知識だけど、そういうことでいいよね?
触ってる左手が熱くて、でもなんだかもっと触りたいと思っちゃうようなむずがゆい感覚。
うん、そういう意味で、好き、みたい。