……まっつーっておかしい。
「考えてみれば委員長と二人っきりで話すのって3回目かな?」
「そうだね、一緒にいる時間は多いけど二人だけになることってないよね」
プールサイド。
私は久しぶりに部活に顔を出した後でぼんやりしていた。
そこで同じく顔を出していた野沢君に遭遇。
気は合うけど、ほんとにこうやって二人で話すことってあまりないなぁ。
「そういえば、こないだどうだった?」
まっつーの家に泊りに行ったこと。
お兄さんも野沢君も全面協力。
お兄さんって本当は私に怒ってないかな、と思ってたけどそんなことはなかったみたい。
なんだか変に怖がってたの損しちゃったかな?
「どう、と言われるとちょっと困っちゃうな」
「え、そんなに進んだの?」
「え?そんなにってどれくらい?」
「え?」
二人して顔を見合わせると、ちょっと恥ずかしくなってきた。
そんなにって、野沢君はどこまで想像したんだろう。
でも野沢君に相談するのっていいかも。
みどりじゃ怒るし、せーちゃんたちには言い辛いし。
そういえばいつも遊んでるメンバーで恋人がいるのって野沢君だけ……?
「……誰にも言わない?」
「ん?なに?」
「恥ずかしかったけど、まっつーにお願いしてみたの」
「お願い?」
そう、お願い。
告白とかはまっつーがしてくれたから良かったけど、今回ってきっと今まで生きてきて一番緊張したんじゃな
いかと思う。
「キスしてって、言ってみたの」
野沢君が黙り込んでしまったのでちらりと横目で顔を見ると、野沢君は真っ赤になって驚いていた。
……なんかそういうリアクションは、私も恥ずかしいなぁ。
「そ、そっか。キスか……」
「う、うん。なんか、してみたくて……」
あ、なんか変な空気。
やっぱり言うべきじゃなかったかな。
「えっと、で、どうだった?」
「あ……それは……」
「っごめん!言いづらいよねそんなこと!」
言いづらいっていうか。
「あのね」
「ん?」
「顎に、されたの」
そう。
顎に。
野沢君はポカンと口をあけている。
「アゴ?」
「顎」
……まっつーって、顎フェチ?
好きなのは胸とお尻だと思ってたんだけど、私の思い違いかなぁ。
「なんか、あー、そういうことかぁ」
「?」
野沢君は少しすると、納得したように一人でうなづきだした。
どういうこと?
「そのあとアキ落ち込んでなかった?」
「ちょっとだけ」
なんでだろう。
私の顎がまっつーの理想と違ったのかなぁ。
顎の手入れって、どうするんだろう。
「野沢君。魅力的な顎ってなんだろう……」
「委員長!?何の話!?」
え、顎フェチじゃないの?
「いや、アキは別に顎にキスしたくてしたわけじゃないと思うよ?」
「……じゃあ、私にするの嫌だったのかなぁ」
「そうでもないと思うな」
野沢君はたははと眉をハの字にして笑うと、言いづらそうに口を開いた。
「たぶん、アキってば目測を誤ったんだと思う」
……目測?
「キスって目を瞑るだろ?」
「うん」
「そしたらさ、こう予定よりズレたりとか……なんかこう失敗したり……」
あ〜〜……。
「私、フォローか何かしたほうが良かったのかな……」
「気づいてなかったなら、しょうがないよ、うん」
うぅ。
そっか、それでまっつー落ち込んでたんだ。
私、鈍感だなぁ。
ごめんね、まっつー。
あれ、でも失敗ってことは……。
「まっつーって、ファーストキスまだってことだよね?」
「え!?さ、さぁ?俺はなんとも」
「なんだかまっつーって経験豊富なイメージがあって……」
「あ〜……耳年増だからなぁ……」
そっか。
そうなんだ。
あ、なんかちょっと嬉しいかも。
「……もう一回、お願いしてみようかな」
だって気になるもの。
漫画とかでみるキスって本当はどんな感じなんだろう、とか。
まっつーはどれだけ私にドキドキしてくれるんだろう、とか。
柔らかいのかな、とか。
嬉しくなって正直に野沢君に話すと、野沢君は少し変な顔をした後きまずそうに口を開いた。
「委員長って、意外とスケベ?」
え?
「いや、初めてのときって柔らかいとか普通考えないと思うけど……」
ええ?
考えないの?
だってどんな少女漫画にも柔らかいとかフワフワするとか……。
「夢見すぎじゃないかなぁ」
「そ、そうなの?」
「夏雄さんなんてカレーの味しかしないよ」
うーん、それはあまり聞きたくない情報だけど……。
そっかぁ、ということは……。
もしかして、おでんの味?
夢、ないなぁ。
でもアメリカ行くまでに色々、まっつーとたくさんのことしておきたいんだけどな。
「あ、俺そろそろ帰らなきゃ」
「ううん、ひきとめちゃってごめんね」
「委員長はもう少しここにいるといいよ」
野沢君はニコっと笑うと手をひらひらさせて帰って行った。
なんで私はもう少し?
「委員長」
まっつー。
いつからそこに?
フェンス越しにまっつーはこっちを見上げてる。
「委員長ってさ」
「ん?」
「欲求不満なの?」
「なっ」
なんてこと言うかな!?
文句を言おうと近寄ってしゃがみこむ。
顔の位置を同じにすると、まっつーの顔が真っ赤なことに気付いた。
「……」
「まっつー?」
「スケベ」
「ひどい!」
なんかひどいよまっつー!
私そんなに変なこと言った!?
「……そんなに、キッスがしたいのかね」
なんで間に「っ」入れたの?
ちょっぴり古臭いよ?
あとその言い方だとなんだか本当に私が欲求不満みたいでちょっと嫌かな。
「う……まっつーは、嫌だったの?」
そうだよ。
だってまっつー私にあまり構ってくれないもの。
……不安になってもしょうがないと思うな。
「委員長」
まっつーはちょいちょいと手招きしてさらに近寄るように指図した。
これ以上近寄ると金網に当たるよ?
「イイカライイカラ」
なんで外人風なの?
怪しいよ?
「まつげ付いてる」
「ほんと?」
取ってくれるみたいで金網越しに指で触れてきた。
指が目に入りそうで思わずぎゅっと目をつむる。
ガシャン
あれ?
金網が揺れて、顔が痛くなる。
それから若干だけど、唇に柔らかい感触が残った。
「あ、れ?」
目をあけると、真っ赤なまま変に笑ってるまっつーが見えた。
「なんだ、やってみると案外あっけないね」
「や、え?あれ!?」
今のってもしかして。
キスしたのか聞きたくて、口をあけたけどその前にまっつーが大爆笑でそれを遮った。
「あははは!委員長ったら顔に金網の跡ついちゃって……くくくっ」
「ひどいなもう!つけたのそっちでしょ?」
「そうだけど、あはっ」
耐えきれないって笑うまっつー。
なんかもう、良い雰囲気にならないなぁ。
こういうところが好きだし憎くもある気がする。
甘い雰囲気とか作る気ないのかなぁ。
「なにその顔、まだしたいの?」
「へ?」
「比奈子は変態だなぁ」
「ひ、ひどい!」
さっきから人のことを変態とかスケベとか!
まっつーにだけは言われたくないなぁ。
…あれ?
なんか、今すごく大変な発言を聞いた気がする。
「まっつー、今……」
「あれ、そろそろ帰らなきゃ」
「え?一緒に帰らないの?」
「……さ、帰ろう」
「え!?待ってよまっつー!」
名前、気のせいかなぁ。
願望強すぎて聞き間違えた?
うーん……。
「ま、待って本当に待って!まっつーってば!」
「ふんふんふん♪お兄ちゃん死んでそいつ殺せない♪ふふんふん」
「え、それ何の歌?待ってってばー!」