Lily memo %



お付き合いって難しい7



「まっつー、今度のお休み泊りに行ってもいいかな?」

え、何このフラグ。
泊まるだけなら問題はないんだけどね。

「委員長、一人で?」
「うん!」
「今度の休み?」
「うん!」

しまった。
これはわざと?
本当にフラグ?
まさか知っているのか委員長。


今度の休みは兄ちゃんが居ないことを。


ま、まさか。
いやいや、そんなまさか。
自分から危険地帯に飛び込むようなことを委員長がするわけ……。




「今度のお休みって、お兄さんと野沢君が旅行にいくんでしょ?
 ご飯とか一緒に作ろうよ」




本当に委員長は危機感が(略)

「委員長、フラグってご存知?」
「旗だよね」

うん、間違っちゃいませんがね。
その旗折っていい?

「えっと、来週の休みじゃダメ?」
「来週じゃ意味無いよ」

あ、兄ちゃんがいないほうがいい、と。
ふふん、兄ちゃんも嫌われたものだな!
ではなく、気を遣うからとかそういう理由なんだろうけど……。

「わかった、百歩譲って遊ぶのはいいとしよう」
「うん」
「泊まるのは許しません」
「えー、ダメ?」

やめろー!そんな上目遣いをどこで覚えたんだー!……誠二か。

「夜はあたしの大切な時間なの!」

ポコリ

「アキちゃんどうせエロゲしかやらないでしょ」
「せーちゃん」

誠二貴様!
委員長に何かあってもいいのか!(あくまで自重する気はない)
あたしより委員長を殴れ!

「いいじゃない。女の子同士でしょー」

あたしの場合、女の子だから大問題なんだよ。
こういうときこそみどりんの出番でしょう!

「みどりんは?」
「トイレだけど」



なんでこんなときに限っていないんですかあなたぁあああああ!!!!



「みどりんの役立たず!」
「アキちゃん、それ後でみどりんが聞いたら怒るわよ」
「怒るで済めばいいけど……」

確かに。
いやでもあたしの体よりも今は委員長の体……というより貞操を優先するべきかと。
しかもあたしと委員長がその、つ、付き合い始めたということを知った頃からとても機嫌が悪い。
視界に入るだけで殴られるってやだもうどんだけ。

「誠二も一緒に泊まるならいいよ」
「ダメよ、その日は私とみどりんとでパジャマパーティーの予定だもの」

え、それも危なくない?
なにこれ、あたしがおかしいの?
みんな性別って概念なくなってきてない?

「よし、なら巽は?」

後ろを振り返ると、巽は「お前正気か」と言わんばかりの顔をしていた。

「俺は男だぞ」
「この際それでも構わん!」
「いや、構えよ」

ぐぐぐ。
どいつもこいつも委員長の身が大事じゃないのか!

「アキちゃんが我慢すれば?」
「無理!」
「えー……」

女の子と二人きりで一晩過ごしたことなんてないんだから何が起こるかあたしにもわかんないよ!

「修学旅行の延長だと思えば?」
「う……」

いや、あれを思い出すのはむしろ逆効果な気が……。
体にまとわりつく委員長の柔らかい感触が……C……。
いやいやいやいや、忘れよう。

「あれ?そもそも夏休みに海へ旅行に行ったときに二人部屋じゃなかったっけ?」
「あのときは良かったの!」

だってあのときはまだ「委員長は兄ちゃんが好き」って思ってたんだから!
自慢じゃないけどあの頃は襲う勇気が無かった!
今ならあるのかと言われたら無い気がするけどでもプッツンしそうで怖いよ!

「とにかく!却下!」
「えー、ひどいよまっつー」
「ひどくない!」

むしろあたしったらあらやだ優しい!
こんなに委員長の体を心配してあげるなんて天使のようだよ、あたし!












「で、泊まりに来てるしね」
「お兄さんから許可をいただいてますから」

誇らしそうにえへんと胸を張る委員長。
あぁ、なんでこんなことになったんだか……。
あの日、あの駄兄はこともあろうに笑顔で「今度の休みは目片さんが泊まりに来るからな」と言い切ったのだ

。
もちろん反論はしたけど、「目片さんは俺の家に泊まりにくるだけだ!」と言われたからにはあたしにはどう

しようもない。

「昼から来たってウチじゃ何もすることないよ?」
「何もなくっていいよ。まっつーとお喋りしたいだけだもん」

……これで天然だって言うんだから恐ろしい。
目片家は一体どうやってこの子を育てたんだ……。
みどりんちょっと甘やかしすぎたんじゃないの。
しかしこうなったらあたしのやれるべきことは一つ。
まるで枯れ切った老木のように悟りを開くことのみ!
心を無にするのじゃ!
そうじゃ、まずはお客さんにお茶をいれなければいけないのう。

「まぁ、お茶でも煎れますゆえ……」
「手伝うよ?」
「いやいやどうぞ座っててくだされぇ」
「なんで急におばあさんみたいになってるの……?」

しかしながら委員長ははにかみながら「じゃあお言葉に甘えて」と荷物を置いた。
……何がそんなに嬉しいんだか。
たまに委員長には恥ずかしいって感情があるのかって疑問に思うわぁ…。

「紅茶?」
「うん」
「慣れた手つきしてますねぇ」
「そりゃコーヒーより紅茶派ですから」

座ってろって言ったのになぜにあなたはあたしの後ろに立ってるんですか。
あたしがスナイパーなら死んでいるぞ貴様!
覗き込むなくすぐったい!

「あ、そうだ。お菓子買ってきたし開ける?」
「何買ってきたの?」
「スナック菓子とかチョコレートとかチョコレートとかチョコレートとか」

買いすぎじゃないかな。
あと、めっさ甘いやん。

「みどりやせーちゃんと遊ぶときはいつもこれぐらいだけど……」

みどりんのあの胸にはチョコレートが詰まってたのか。
女の子は砂糖菓子やでぇ……!

「まっつーが好きなものとかわからなかったから適当に買ってきちゃった」
「嫌いなものが無ければいいよ。でもおでんがあればもっと良かったな!」
「おやつにおでんはどうかと思うよ?」

美味しいよ、おでん。
今夜もおでんで決まりだね。
もう一万年と二千年前から愛してるわ。
やばい、八千年過ぎたらおでんのこともっと好きになっちゃう。

「今日の晩御飯もおでん?」
「うん」

頷くと、委員長は嬉しそうに顔を緩めた。
そんなにおでん食べたかったの?




「やっとまっつーの手作りが食べられるんだもん、嬉しいよ」




……ん?
食べたことなかったっけ?
そういやみどりんはあるけど委員長はないのか。

「あんまり期待しないでくださいよ」
「すっごく期待してます」

最近生意気ではありませんか、委員長。
それにしても……。




「近い」
「そう?」




顔が近い。
それはもうポッキーゲームでもしてるんですかってくらい近い。

「スワッテテッテイイマシタヨネ?」
「なんで片言なの?」

なんとなく。
あれなの?委員長は貞操捨てにきたの?
アメリカ行く前にキズものになりたいのか!?

「ふふふ、なんかこうしてると恋人みたいだね」

……んー。

「違うの?」
「え?」

みたいって。
"みたい"じゃなくて。




「恋人、じゃなかったっけ」




やだなにこれ恥ずかしい。
ダメだ最近委員長のペースに巻き込まれてる気がする。
もうダメだ、オタクとして終わったわあたし……。
これじゃ完全にリア充だよ……オワタ……。

「う、うん。そだね」

これだけ近寄っといて今更照れないでください。
ああもう、なんか、痒い、色々と。

「そ、そそそそうそのそのことでそそそ相談があああるんだけど」

委員長、ドモりすぎじゃない?
相談?
ついに別れ話か……!?

「あ、あの、お願いっていうかなんていうか」

そういえばこないだもそんなこと言ってたっけ。
あのときは弟さん乱入でその後おしゃべりやら色々して……。
すっかり忘れてたけどなんだろう。

「嫌なら、いいんだけど、その」

委員長にしてはスッキリしないのう。
まさか「キスして!」とか……!
ふふふ……ないか?
ないな。
ないない。

「わ、わ、私と、そのっ、あのっ」

おぉぉ、委員長があまりに緊張してるからあたしもつい手に力を入れてしまう。
手に汗握るってこういうことか!
なんか違う気がする。





「私とキ……!」

プルルル

「あらやだお電話」





……うん。
えーっと。

「なんかごめん」
「……とりあえず電話に出たらどうかな」

なんか、ほんとごめん。
鳴りやまない電話。
誰だろう。

ディスプレイには母の電話番号。

「もしもし、母さん?」

どうやら失踪していたペットのツユが帰ってきたらしい。
アレって帰巣本能あるのか。
しかし母さんはなぜあれを溺愛しているのか……。
プツリと電話を切ると、完全に挫けている委員長が目に入った。

「えっと……ごめ」
「謝らないで、余計みじめになるから……」

あ、すいません。
っていうか、何をそんなに落ち込んでるんだか。

「……ごめん、悪いけどもう一回言ってもらっていい?」
「ううん、後にする」

そっか。
なんか、悪いね。
でも『私とキ』ってなんだろう。
キ、キ、ダメだキリモミ式ボディアタックしか出てこない。
いやー、なんというかタイミングが……。

「な、なんかお菓子でも食べる?」
「うん……ううん!がんばる!」

おぉ、なんだかよくわからないけど委員長は自力で気分を持ち直したようだ!

「まっつー!」
「はい、なんざんしょ」





「わ、私とキしゅしてください!!」

噛むなよ。





「……」

黙るなってば。

「……怒ってるの?」

怒ってないよ。

「なんか、リアクションくれると嬉しいんだけど……」

今それどころじゃない。

「まっつー?」
「………」

おやまぁ。
心は冷静なようで、実はそうでもなかったりする。
崩れそうな足を踏ん張ってなんとか出した声はとてつもなく頼りないものだった。
なにこれ、かっこわるい。

「か、顔真っ赤だよ?大丈夫?」

自分だってそうな癖に。
いやだってまさかそんな。

「な……んで……」
「ん?」

これがほんとの蚊の鳴くような声か…!
自分から出てると思うととてつもなく気持ち悪いけどこれしか出ない!

「なんで……急に……」
「私としては急じゃなかったんだけどな」

なんだそれ。

「聞いてないよそんな話……」
「今初めて言ったから……、ごめんね?」

謝る必要はまったくないってば。
と、言いたいところだけど流暢に舌が回らない。
おかしいな、いつもなら「イン○ンM字開脚事務所真っ青」ぐらいの早口は噛まずに言えるのに!

「顔、背けるのは嫌だからかなぁ?」

違う。
言えるわけないじゃないか。
変態と自称するこのあたしが、エロゲーで告白もキスもすっ飛ばしてエロシーンを見るあたしが。




恥ずかしい、なんて。




胸を触るのとは違うし、やっぱり全く未知の体験だから震える。
自棄になって自分から迫るなら大得意。

真面目にキスしたいと迫られたことなんて、初めてなんだ。

相手の目に映る自分の顔が一番見たくない。
きっと目茶苦茶情けない顔してるに決まってる。

「目、瞑って。そしたら顔そっちに向ける」

片言だけど伝わっただろうか。
もう自分が喋ってるのかどうかすらわかんない。

「うん」

一つ深呼吸をする音が聞こえて、恐る恐る顔を向けると目を瞑ってあからさまに待っていますという顔をした

委員長がいた。
恥ずかしいのが少し収まったけどここで一つ問題が。



え、あたしからやるの?



いやいやいや、言いだしっぺがやろうよ。
確かにさ、目を瞑れって言ったのはあたしですよ。
でもね、色々おかしいよ、ねぇ。
無理だって、厳しいって。
手を握るだけでいっぱいいっぱいなんだよ?
それをいきなりキスってねぇ奥さん。

「…まっつー?」

うわぁんわかりましたよ!やりゃあいいんでしょやりゃあ!
くそー、これだから委員長には危機感(略)

「い、行きます!」
「ど、どうぞ!」

どんな会話だよ。
それでもゆっくり顔を近づけると、ゆっくり目を瞑ってみる。
あれ、目を瞑ったら到着地点がわからないよ?
え、ちょ、これ、どうしたらいいの?
いや、頑張れあたし!勢いだ!


えーい!!




「まっつー、そこは顎だよ……」




マジごめん。

「……それでもまっつーからその、キスしてもらえたのは嬉しいけど」

えぇい、人の失敗をチクチクいびるんじゃない。

「私の顎が好きなの?」

えらくピンポイントですね。
んなわけあるか。
ズレたんだよ、ひょいっと。
おかしいな、エロゲーじゃ何度ファーストキスを迎えてもうまくできたのに。

「……委員長、ちょっとだけ待ってもらえる?」

これは勉強しなければいけない。

「いいけど、嫌なら無理しなくていいよ?」

嫌じゃなくて。
ヤりたいのは……間違えた、やりたいのはあたしも一緒なんだ。
しかもこれだけ知識があって本番では失敗……だと?


しばらく落ち込んだあたしはしばらくおでん以外喉を通らなかった。

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