Lily memo %



お付き合いって難しい5



「んん…っ」

朝起きて、まったりと準備をする。

「おはようございます」
「おはよう誠二君。今日もいい天気ね」
「はいっ」

叔母さんにご挨拶して、にっこりと笑いかける。
うん、今日も良い一日になりそう。
せっかくの休みだもの、どこか買い物に行こうかな。
洗面所で今日もメイクにしっかり時間をかけてから外へ行こうと張り切る。
さて、洗顔を済ませて化粧水を塗って…。





ジョリ

















「…巽ぃいいい!!!!!」
「うぉお、なんだ」

ご近所さんのドアをスパーンと開けると、そこにはまだ起きたばっかだぜと言わんばかりのヤンキー。
巽の母親に軽く挨拶だけすると、巽の襟を掴みガンガン振り回す。

「どうしよう!?どうしよう!?どうしよう〜〜〜!!?」
「ぅおお、お、落ち着けっ、これじゃ解決するもんも解決しねぇえ!!」
「私もうお嫁にいけない〜!!」
「待て!お前はそもそも男だろ!」
「そうよ!男だから困ったことになってるのよぉおお!!」
「はぁああ?」

しばらくして、落ち着いた私を呆れたような目で巽は見た。

「…つまり、アレだな」
「えぇ、たぶんアレなのよ」





「髭が生えてきた…と」





うぅ、改めて言われるとショックだわ。

「髭ぐらい剃りゃあいいじゃねえか」
「そんな簡単に言わないでよ」
「っつったってよ、体の毛と一緒だろ。剃れよ」
「…だって…私、体の毛だって剃ったことないもの…」
「あ?」

見てよこれ、と巽に自慢の細い足を見せる。
そこには本当に薄い体毛しかなく、黒のタイツなら剃らなくても全くわからない。
…と、いうより水着でも全く問題のない感じ。

「んっとに女みてーな足してやがる」
「だって私腋毛だって剃ったことないんだもの…」

つるっ、すべっ。
元々綺麗目だった肌を乳液とかスキンクリームとか塗ってさらに磨かれた肌。

「とりあえず委員長とかに相談してみるか?」
「一番アウトよそれ」

髭の相談を女の子になんてできるはずないじゃない…!

「巽はどうしてるのよ。もう生えてきた?」
「あぁ、俺はな」
「えぇえええええ!!!!!」

巽の顎に触ってみると、確かにかすかにジョリジョリした感触がする。
あぁ嫌だこの感触がなんとも受け入れられない。

「普通だろ」
「嫌よ!剃っても見えなくても触ればジョリっていう感触がもう嫌なの!!」
「わがまますぎるぞ…」

なんとでも言って!
嫌ものは嫌よ!

「あー、じゃあ他のヤツに相談しようぜ。ノリとかどうだ」
「あ、そ、そうね。ノリなら…!」

夏雄さんのためにどうにかしてるかもしれない!
ノリのことだもの、夏雄さんのためなら髭の感触なんてどうにかしてるはずだわ!
どうにかしてるって思わせてお願い…!

















「ご、ごめん。俺まだ生えてないから…」

ノリのバカ!
おこちゃま!
私はガックリとうなだれると、溜息を吐いた。

「髭ねぇ、俺からしたらうらやましいけど?」
「こんなのの何がうらやましいのよ…」
「だって、大人になったって気がしない?」

まぁ、髭=大人っていうのはわかるわ。
ただ私の中じゃ髭=男らしさなのよ。

「そ、それにさ…」

ノリは少し顔を赤くして言いよどんだ。
…なにかしら、嫌な予感しかしない。




「ひ、髭が生えてきたら、少しでも、その、夏雄さんに近づけ…げほっ!」




とりあえず殴っておいた。
顔はダメだからお腹で。

「な、なにするんだよ誠二!」
「私は真剣に悩んでるの!ノロケなんて聞いてる余裕はないのよ!」

ノリは少しつまらなさそうにすると、電話をしだした。
夏雄さんに愚痴るらしい。

「どうしましょう巽、ノリですら役に立たないわ」
「俺は少しノリが可哀想になってきたところだ」

可哀想なのは私よ。
もうこの先どうしたらいいんだか…。

「誠二」
「なぁに、ノリ」
「夏雄さんがおいでって言ってるけど…」

…なにか良い方法でもあるのかしら。
もう何も考えられない私は素直にその言葉に頷くことにした。
















「ふーん、なるほどな」

夏雄さんはじっくり私の顎を見ると、ふむと頷いた。

「永久脱毛って顎にもできたよな」
「お金かかりません?」
「まぁ多少かかるとは思うが…」

男4人で顔を合わせてうーんと唸っていると、上からトタトタとアキちゃんが降りてきた。

「おぉ、ちょうどいいや、アキ」

夏雄さんがちょいちょいとアキちゃんを呼び寄せるとしょうがないなぁと寄ってきた。

「なにさ」
「お前今パソコンついてる?」
「現在進行形でラブゲでエルたんと人生を謳歌してるけど」

アキちゃん。
休日にエロゲをする習慣やめなさい。

「じゃあさ、永久脱毛について調べてやってくれよ」
「脱毛?」

アキちゃんはきょろりと私たちを見回すと、ポンと手をたたいた。



「あぁ、ついにノリにも髭が生えたのか!」



残念、私よ、アキちゃん。

「ちげーよ、誠二だ」
「え、誠二って髭とか生えるの?」

アキちゃん、私男の子。
でも私だって生えてほしくなかったわ…。

「まぁとにかくそういうわけだ、探してやれよ」
「はいはーい」

アキちゃんは私の手をとると、スタタと二階へあがった。



『は、あぁん!ダメぇ!そ、そんなこといれちゃ…やぁん!』



アキちゃん、ゲームの音声を切ってから下にきなさいよ。
…って、あれ?

「アキちゃん、ラブゲじゃないじゃない」
「あ、いや…」

パソコンに映っているのはいつものあのエルたんじゃなく、まったく知らないキャラクター。
相変わらずのM字開脚というかひどい画像だけど…。




「茶髪で、二つくくりで…なんか誰かに似て…」




くるりポン

「誠二、ちょっと待ってて」

身体を逆向きにさせられた。
あれ、もしかして今のって…

『セーブする?それとも…』
「くっ、今回はセーブで…!」

アキちゃん、答えなくていいと思うわよ。
っていうかひどいシステムボイスね。
しばらくカタカタとマウスをクリックする音が聞こえたかと思うと、ふぅと一息をついた声が聞こえた。

「誠二、今のは見なかったことにしたまえ」
「ねぇ、今のヒナちゃんに似てない?」
「見なかったことにしたまえ」

まぁ、あれね。
アキちゃんの若気の至りってヤツかしら。
…でも残念ね、アキちゃん。

「ヒナちゃんとそういうことしたいならお願いすればいいのに」
「誠二もなかなか無茶言うねぇ」




「え?どうして?ヒナちゃんと付き合ってるんでしょ?」




ピシリ、と固まるアキちゃん。
…バレてないとでも思ってたのかしら。

「…委員長、もう誠二に話したの?」
「いいえ。でも見ていたらわかるもの」

アキちゃんのことずっと見てきたんだもの。
さすがにわかるわよ。

「アキちゃんったらわかりやすいぐらいヒナちゃんに気を遣ってるし。
 ヒナちゃんもわかりやすいぐらいアキちゃんのほう見てニコニコしてるし。
 気付かないほうがおかしいわよ?」
「気付く方がおかしいよ」

そうかしら。
だってヒナちゃんったらたまにアキちゃんの手に触ろうとしては溜息ついてるのよ?
アキちゃんこそ気付いてあげなさいよ。

「まぁ、確かにみどりんも巽も誰も気付いてないみたいだけど」
「ふぅん」

というか気付いてたらみどりんのことだし一発ぐらいはアキちゃんを殴るんじゃないかしら。
だから内緒にしてたのかなーとも思ったんだけど。

「でも出来ればアキちゃんかヒナちゃんの口から聞きたかったわね」
「う…ごめん」
「いいわよ」

アキちゃんの頭をよしよしと撫でる。
これぐらいは友達の特権よね。
あーでもそっかー。
アキちゃんもついに人のモノになってしまったのねー。

「なんか、感慨深いわ…」
「なんのことだか」

アキちゃんはふぅと溜息を吐くと、パソコンをいじり始めた。
あぁそうね、まずは私の髭が問題よね。
いやもう「私の髭」っていう言葉が嫌だわ。

「値段としてはこの辺が相場かな」
「脱毛処理にもいろいろあるのね…」

まったく知らない世界だわ…。
でもエステで脱毛できるのっていいわね。
脱毛サロンとかもあるみたいだけど、やっぱりスマートな感じがするもの。

「脱毛サロンのほうが良さそうだけどな。
 美容院より床屋がいい、みたいな感じで」
「私は床屋より美容院がいいタイプなの」
「ふーん」

アキちゃんも美容院にしてトリートメントしてもらったほうがいいと思うんだけど…。
シャンプーだってもうちょっといいのがあるのに。

「髪よりゲームにお金かけたい」

あぁそう…。
そうよね…身だしなみよりもゲームよね、アキちゃんは…。

「普段は別にいいけど、ヒナちゃんとデートするときには言ってね?
 ちゃんとコーディネートしてあげるから」
「…お願いします」
「そこは素直なのね」

クスリと笑うと、アキちゃんはげんなりと机に突っ伏した。
アキちゃんはアキちゃんなりにヒナちゃんに気を遣ってるのよね。
ヒナちゃんは嫌がるかもしれないけど、私はそういうところはやっぱり好きだな。
優しいなってわかるもの。

「いっそ毎日誠二にコーディネートしてもらおうかな」
「ふふ、楽しそう」

そんな風に毎日オシャレのことを考えられるなら楽しいわね。
あぁ、そっか。
高校を出たらオシャレについてもっと本格的に考えてみようかな。
大学は決まっちゃったけど、まだまだ学べることもあるはず。



将来、アキちゃんとヒナちゃんのウェディングドレスを考える私、なんて素敵かもしれない。



そう考えると、なんだか嬉しくなって私はアキちゃんの頭をまたグリグリと撫でた。



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