「今週の日曜日に、うちに遊びに来ない?」
そう言われたのは金曜日。
何があるわけでもないし、どうせ誠二とみどりんも一緒だろうし、ぼんやりと頷いた。
それだけで彼女はとても嬉しそうに笑ったのである。
まぁ、そこまではいいとしよう。
前回はあの外面のいい駄兄もいた。
「チャイムを鳴らすだけで何も緊張しなくてもいいんだけど…」
思えば昔、我が家にケーキを届けにきた彼女は一体どんな気持ちで我が家のチャイムを鳴らしたのだろうか。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
一人でチャイムを鳴らすのがこんなに緊張するとは…誠二と一緒に来たら良かった。
今はこのチャイムを鳴らすことに全神経を傾けて…。
「あ、いらっしゃい」
押そうとしたところで話しかけるんじゃないよ。
「委員長」
「今ちょうど迎えに行こうかなって思ってたんだ」
そう、爽やかな笑顔振りまくこの委員長様は現在あたしの恋人だったりする。
付き合い始めて数カ月経って(いまだキスの一つもしていない)初めて彼女の部屋に招かれるというのもどうなのか…。
まぁウチが便利すぎるのが悪いんだけど。
「どうぞ、入って」
「お邪魔しまーす」
ふふふ、何を緊張することがあろうか。
この通り菓子折りも装備したあたしにはお父さんが来ようがお母さんが来ようが完璧に挨拶をしてみせ…。
「姉ちゃん、友達?」
「敏郎」
弟は想定外ダッタナー。
「お邪魔しまーす」
「女友達か、どうぞどうぞ」
今、あたしを女と認識してから笑顔になったな?
シスコンだろうか。
まぁ確かにこんな優しいお姉さんがいたら自慢になるもんなー。
あたしも奈央ちゃんが本当のお姉ちゃんだったらなぁ。
そしてあの駄兄が他人ならばあたしも今までいろんな恥をかいてこずに済んだのに…。
「まっつー?」
「あぁうん、なんでもない」
「そ?」
今日の委員長は薄いシャツにVネックカーディガン。
それから白のフレアスカート。
うん、脱がせやすそう!
じゃない…ちょっと待て、今変なこと考えたなあたし。
違う違う、そうじゃなくてえーっと可愛いとかそういうことを考えるべきであって…。
「ここが私の部屋です」
「ほぅ、お邪魔します」
パステルピンクやら薄い水色のまぁなんともメルヘンなお部屋だこと。
あとちょっと良い匂いがする。
「適当に座ってて。お茶とか淹れてくるね」
「はーい」
さて、座っててと言われてもどうにも落ち着かないもんで。
エロ本とか落ちて…ないか。
みどりんはまだ来てないんだなぁ。
あ、そういえばお父さんとお母さんにも挨拶してない。
この菓子折りどーせいっつーんだ。
んん?机の上にたくさんの写真が…。
修学旅行の写真かぁ。楽しそうにしてたもんなぁ。
「お待たせ。あれ?座ってていいって言ったのに」
そう言われましても。
「何見てるの?写真?」
「エロ本とか隠してないかなーって」
「持ってません」
「いたっ」
軽くでこぴんされた。
強くなったなぁ、委員長ったら。
委員長は小さなテーブルの上にジュースとお菓子を置くと、ポスンとベッドに座った。
「楽しい?」
「そこそこ」
「…微妙なんだね。修学旅行が本当に楽しかったから、アルバムに仕舞っておくのがもったいなくって」
いつでも見れるようにって。
うん、まぁ気持ちはわからなくもないけど。
あたしだってエルたんCGはパソコンのデスクトップはおろか携帯の待ちうけにまでしているからね。
抜かりないよそこは。
「パソコンとかはないんだねー」
「お父さんと弟の部屋にはあるよ」
「不便じゃない?」
「全然ー」
あたしならパソコンのない生活なんて耐えられない。
ネサフ、イベントサークル情報は欠かせないよね、うん。
あれ、そういえばお父さんとお母さんは?
「委員長、ご両親は?」
「今日はいないよ」
ん?
「いないから呼んだんだもの。気を使っちゃうでしょ?」
うん、素晴らしい。
でもそれちょっと気をつけようね委員長。
弟君がいなかったら狼が出てきたかもしれないからね。
あぁでもそれ以前に…。
「みどりんは?」
「みどりがどうしたの?」
「いや、みどりんと誠二が遅いなぁと思って…」
そう言うと、ベッドの上に座っていた委員長が真っ青になった。
え…なぜ、真っ青…?
委員長は震える唇で小さく声を出した。
「ごめん、今日は二人とも呼んでないんだけど…」
ん?
「よ、呼んだ方が良かったかな。今からでも呼んでみる?」
「へ?」
え、なんだこのフラグ。
「たぶんみどりなら今日はお家に居ると思うけど…」
「あ、いやいや、ちょっと待って」
慌てて立ち上がろうとする委員長を手で制す。
二人を、呼んでない、だとう…?
「え、今日って二人っきり?」
「そ、そうだよ」
「…まーじでー」
「何その反応」
いや、だって。
まさか、だって。
委員長から二人きりになりたいなんて言い出すと思わないじゃんか。
っていうかウチに来るときとか別にみどりんとか呼んでないときもあると思うんだけど…。
「えーっと…」
「…」
だから黙らないでくださいよ。
「…だ、だって」
お、何かしゃべりだした。
「まっつーのウチだと…お兄さんが気になって…」
…兄?
なぜそこで兄ちゃんが出てきた?
どこまで邪魔をするのだあの駄兄め。
今度部屋に入って兄ちゃんのジーパンに尻だけ穴を開けてやる。
たまには掘られるといいさ!!
そういえばノリの可愛らしいアレは使われたことはあるんだろうか…?
…やめよう、そんなグラテスクな考えは。
「なんで兄ちゃんを気にするのさ?」
まさか本当はやっぱり兄ちゃんが…。
「うー…」
言い渋らないでよ。不安になるなぁ。
「お兄さん、盗み聞きするじゃない…」
するねぇ。
ヤツはデバガメが趣味ですので。
「そ、そしたら、その、私殴られるかと思って…」
そんなバカな。
「だってまっつーのお兄さんってほんとにまっつーのこと大事にしてるから…。
なんだか怖くって」
…まさかたまに私を見かけると周りをキョロキョロして兄ちゃんを探してたのって…。
いや、深くは考えないでおこう。
「本当に『二人っきり』になってみたくて…」
あ、なんか恥ずかしくなってきた。
いやいや、待って。エルたんとのイベントを思い出せばこんなシーンもあったような…。
なかったような…。
なかったな!!
…じゃなくて。
んん、こういうときどうすればいいんだろう。
予習のためにたまには兄ちゃんとノリがイチャイチャしてるのを覗いておけばよかったかな…。
「…その、嫌だった?」
「嫌ってことはないけど…」
正直とても恥ずかしいです。
…とは、言えないので。
「二人っきりで、何するの」
「え?…あー…」
そこで考えるのかよー。
あたしの期待を返せよー。
「二人っきり…」
おぉ、そこから赤くなるのね。
この緊張空間が行けないんだな。
よし、この空気(幻想)をぶち壊す言葉をあたしは知っている!
「よし、ラブホ行こうか!」
「行きません」
強くなったね委員長。
しかもより気まずくなったし、さっすがあたし☆
いやいやいや、気まずくしてどうすんのさあたし。
これはシャレにならないよあたし。
「そういうこと…したいの?」
…え、フラグ?
いやいや、ここでうんと答えてもあれだし、いやでもいいえと答えても失礼になるよね。
「い、委員長は?」
「聞き返すのズルいよ」
…キス、ぐらいいけないかなー…。
勢いで?いや、お願いして?
勢いでやると完全に犯罪者扱いを受ける気がする…。
いやでも「キスしたいです」っていうのはちょっと気が引ける。
「…うん!」
「お?」
「あの、ね…!」
お?
なんだ、どうした委員長!(人任せ)
「あ、あのね、まっつー。私っ、お願いがあるんだけど…っ!」
「姉ちゃん、お菓子買ってきたけど」
「うん…敏郎、そこに置いといて」
すごい今テンションの下がりっぷりを見てしまった気がする。
「で、お願いって?」
「また後日で…」
弟の前でも言えないお願いってなんだろう。
これは期待していいのかな…?