あれ以来そういう話は全然ない。
ほんとにあれは夢だったんじゃないかと自分を小一時間問い詰めたい。
だってさ、恋人だって言うならもうちょっと何かアクションがあってもいいじゃんか。
さすがに合体とまでいかなくていいよ、なんか欲しい、なんか。
だって手を繋いだことはあれど、ハグもしたことないんだ(冬のはノーカウント)
手を繋いだっていってもあれ全部好き合う前だし。
「あ、まっつー」
なんかここまでくると本当に、声をかけられるだけでイラっとしちゃったりする。
「なに、委員長」
「あれ、不機嫌?」
「べっつにー」
あんたのせいだあんたの。
「今日の放課後ね、みどりたちと買い物に行こうって話してたんだけどまっつーもどうかな?」
「…どうしよっかな」
「私は来てほしい、かも」
かもって言った。かもって。
「じゃあ行かない」
「えー…。行こうよ、意地悪しないで、ね?」
むぅ、その笑顔で何人を落としたんだか。
私は釣られないクマ。
「ヤだ、絶対ヤだ」
「暇なら行こ?」
「ヤーだー」
ぶすっとして机に張り付くと、ふぅと溜息を吐かれた。
なんだよう。
「面倒くさいなら放っとけばいいじゃんか」
「…確かに面倒だけど…」
うぉい、そこは否定してよ!?
「放っとくわけにはいかない、かな」
「…ぬぅ」
「一緒に居れる時間少ないんだよ?」
そりゃ、知ってるけど、さ。
そう言われるとなんだか断ってるのがすごく悪い気分になる。
「ズルい」
「うん」
いや、笑顔でうんって言われても…。
「なりふり構わないことにしたから」
「へぇ」
なりふり構わず、何を手にいれるつもりだか。
いーや、あたしには関係ない。
関係なーい。
「アーキちゃん、唇尖りっぱなしよ?」
「うー」
誠二にほっぺたをぶにぶに突かれてさらに拗ねる。
もー、なんだもー。
「ほんとに最近ずーっとぶーてれてるわよね。
一体どうしたの?」
前をキャピキャピと歩く二人に気づかれないように誠二はニコニコと話しかけてきてくれている。
しかしまぁ相談するわけにいかないしなぁ。
「なんか、すっごい溜まってる」
「なにが?ストレス?」
「うーん……そう、かも」
ストレス、かなこれは。
だってさ、付き合ったりしたら、二人で買い物行ったりするんじゃない?
そりゃさ、時間がないから、あたしと二人でいる時間が作れないのもわかるよ。
それならそれでさ、キ、キスとか、それらしいこととかさ、してもいいんじゃないかなっ。
あれ、最後のはただの下心な気がする。
「誠二、もしかしたらあたし欲求不満かもしれない」
「それはいつものことでしょ」
ひどいな誠二。
これでも切実な悩みなのに。
「大体欲求不満って何がしたいのよアキちゃん」
「何がって…誠二ったらあたしにそんな恥ずかしいこと言わす気?」
「…本気で何がしたいのアキちゃん」
やだなー、考えてることは結構ピュアだぞ☆
「あー、みどりん胸もませて」
「急に何を言い出すのよあんたは」
ヤダナー、ミドリンッタラアタシノ頭ガ凹ンジャウゾ☆
「アキちゃんったら欲求不満なんですって」
「へぇ、死ねばいいのに」
みどりん、せめてオブラートに包んで言ってくれないかな。
「…欲求不満なの?」
えぇ、あんたのせいでね!
ガルルと唸ると、委員長はまた少しだけ寂しそうにした。
…なんだよう、寂しいのはあたしのほうだ。
でも一応我慢してるつもりではいるんだ。
だって、迷惑かけたくないし、きっとまだそういうの、この子には早い…んじゃないかな。
だから何も言いたくない。
「委員長には関係ないもんね」
ぷいっと顔を背けると、一気に3つの溜息が聞こえた。
む、なんだなんだ。
「アキちゃんねー、あんまり可愛くないと奈央ちゃん以外みんな愛想尽かしちゃうんだからね」
誠二は「もうっ」と言うと、あたしのおでこをぐりぐりした。
痛い痛い。地味に痛い。
「無駄よせーちゃん、そいつはバカなんだから」
「みどりんに言われたくないなー」
「一度学習してもすぐ同じ過ちを繰り返す大馬鹿ものよ」
学習しない生き物なのかあたしは…。
サル以下だよそれ。
みどりんひどいなー。
「さてヒナ、こいつどうシメる?」
「みどり、ブレイクブレイク…」
あたしは魚か。
みどりんを軽く諌めると、委員長はポンと手を打ち鳴らした。
「ね、ちょっとだけまっつーと二人っきりになってもいい?」
え。
「ヒナ、私たちに見られちゃマズいくらい苛める気?」
「ヒナちゃん、妊娠しないでね」
君たち、二人とも被害者と加害者が真逆だよ。
二人は少しだけ委員長と話をすると、少し離れたところの喫茶店に入っていった。
あたしはというと委員長にちょっと一通りの少ない路地裏まで連れてこられた。
「えーっと、リンチ?」
「違います」
連れられるままについていくと、くるりと振り返った委員長。
あれ、ちょっと怒ってる。
「まっつー、私ちょっと怒ってる」
「そうみたいだね…」
なんで怒ってるかは知りませんけどー。
「もう、朝からそんな態度だね」
「べっつにー」
「やっぱり、私が原因?」
まぁ、そうですけど。
でもそんなのなんだか、格好悪いじゃない。
「…委員長には関係ない」
「ふぅん、まだそんなこと言うんだ」
委員長はぎっとあたしの頬を掴むと引っ張り出した。
「んいー、いらいおいいんひょー」
「何言ってるかわかんないよ」
じゃあ放しなさいな。
あたしだって好きでこんなマヌケな喋り方してるんじゃないんだから…。
「そんなに私に頼るの嫌なんだ?」
いや、別にそういうわけじゃ…。
頼るとかじゃなくて、言ったって委員長が困るだけだし。
ばっと委員長の手を払うと、久々に下からニヤリと見上げた。
なんだか、こうやって斜めから見るのは久しぶりだ。
「じゃ、もう困らせないからさ、キスしてよ。
あたし、欲求不満なんだ」
もういっそ嫌いになってくれればいいのに。
好きだって言われた瞬間、すごく心が浮かび上がったのに。
今この瞬間にはすごく沈んだりしてる。
だから恋は面倒くさいって、嫌だって、好きだと気付く前に考えてたじゃんか。
なんで今更そんなの痛感しなきゃいけないんだ。
真っ赤になった委員長を見て、ちょっとだけ、やっぱりなとか思っちゃう自分が嫌だ。
好きになればなるほどどんどん心が沈んでく。
なんか、やっぱり、恋なんて面倒だ。
「…したら、もう困らせないでくれる?」
真っ赤になったまま、下向いて。
それを聞いて、嬉しいような悲しいような、複雑な気分になる。
してくれるんだ?っていうのと、やっぱり、困らせちゃいけない?っていうのが混ざり合う。
でも最初から物わかりの良い性格してないよ。
あたしが委員長に触りたいみたいに、委員長はあたしに触りたくないのかな。
そんな気持ちでされたって、嬉しくないね、なかなか。
あたしはトンッと委員長の肩を押すと、ニヤリと指を突き付けた。
「アメリカ行って出直してきなよ」
寂しいけど、されても嬉しくないから。
会えない時間が愛を育てるともいうし、会えない間に気持ちも、まぁ、廃れるかもしれないし。
何かしら解決するんじゃないかな。
「え、待って」
「待たない」
「ねぇったら!」
「待たないったら」
表に戻ろうとするあたしの手を委員長が掴む。
「解決したんだから、戻るよ委員長」
「や、ヤダよ、解決してないもん」
「時間が解決してくれるよ?」
「それは、ヤなの!」
「どぉう!?」
ぎゃー!
いきなり投げ飛ばすな!
視界が回転して床にズザァっと飛ばされた。
ちょっ、制服なのに!
…よくある汚い路地裏とかじゃなくて良かった。
ションベン臭い路地裏だったら本気で泣いてるわー。
「それ、まっつーの中で処理されるだけでしょ。
解決じゃないよ絶対」
「いや解決だよ、完全に、ゾロリぐらいカイケツしてるよ」
「意味がわからないよ」
あれ、知らない?
怪傑…。
まぁそれはおいといて。
「もう、わからずやだな!」
「どっちが!」
上半身だけ起こしてしばらく睨み合うと、しばらくして委員長の顔が泣きそうに歪む。
んげ、また泣くのは勘弁してくださいよ!?
でも泣かれたからって負けるわけにはいかんのだよ。
「泣きたいのはあたしのほうだっ」
「…なんで?」
「なんでって…」
口を開こうとして、止める。
だって、言えない。
格好悪い。
もっと構ってほしいとか、すごく嫌だ。
困らせちゃいけないなら、構ってほしいとも言えない。
特別扱いを受けたいなんてもっと言えない。
「よ、欲求不満なのに、好きな人がいるせいで誰にも触れない、から」
…なんか、苦し紛れに余計恥ずかしいこと言った気がする。
まぁ、これならまだ変態と言われるだけで済むさ。
今は甘んじてその変態という称号を受け入れようじゃないか。
委員長の前で格好悪いよりは、いいや。
「それは、えっと」
「…」
笑うなら笑え!
これもある意味嘘ではないしもういいや!
「わ、私で良かったら、触られるのは構わないけど…」
「絶対嫌!!」
絶対触るもんか。
結局、委員長はボランティア状態なんだ。
どうせあたしには魅力なんてないわ!
それに触るっていうのだってもっと、大人っぽい感じなのに!
恋人っていうかあぁ口にするのも恥ずかしいようななんか手の柔らかさ確かめたりとかそういうあぁもうヤだ恥ずかしい。
「なんで?触っていいよ?」
「ダメ、絶対」
拒否しすぎて薬物防止キャッチコピーのようになってしまった。
いやいや、ほんとにもー。
働け委員長の危機感…!
「だって他の人に触るわけじゃないんだよね?…だったら私しか…」
「あたしはね」
「あたしはって…」
「委員長はどうか知りませんけどね」
アメリカ行ったら、委員長の御眼鏡に適う素敵な男が現れるかもしんない。
…それこそ、ほんとにあたしなんかが、たちうちできないようなヤツ。
そうでなくても、いつ奪われるかわからない不安。
委員長にはわかんないんだきっと。
あたしが他人に心移りする心配とかないんだきっと。
どうせ狸でチビだもん。
「委員長にはどーせたくさんの…」
「それ以上言ったら怒るよ」
…低い声も出るんだね。
ちょっと、ビビった。
「もう怒ってるじゃんか」
「怒るよ、当然。
まっつーは、私のこと好きじゃないの?」
好きだよ、当然。
だからこんなに悩むんじゃんか。
委員長が怒ること、ないじゃんか。
「私が他の人に触られていいの?私が他の人に触っていいの?」
嫌だよ。
でも、独占できるわけないし、それを言って困らせたくない。
…ワガママ、言いたくない。
「…私は、ヤだ」
委員長は勢いを無くすと、掴んだままだった手を引きよせた。
「私は、まっつーのこと、…好き、だから。
…だから、まっつーしか触ってみたいと思えないし、触られるのも、まっつーが、いい…」
たどたどしいなぁ。
ほんとかよ。
顔真っ赤じゃんか。
…もしかして、現在進行形で困らせてるのかなぁ…。
「あたしだってそうだよ」
「…うん」
「うん、じゃ、解決」
「してないよ。まっつーの気持ち聞いてない」
「言ったよ、好きな人にしか触りたくないって」
「軽いよ。それに、質問に答えてもらってない」
…質問?
首をかしげると、一つ溜息を吐かれた。
あ、また困らせた。
「私が他の人に触られていいの?私が他の人に触っていいの?」
そう聞いたよね、と念を押される。
だってそれは答えられなかった質問だ。
困らせる。
それは、ヤだ。
「…いいの?」
そんな目で見られても…。
何が正解なのかあたしにはわからないよ。
「イヤだけど、委員長がしたくてしてるなら、イイ」
嫌だけど。
ほんとはすごく嫌だけど。
「…嫌、なんだよね?」
「そうじゃなくて、嫌だけど、委員長が…」
「嫌ってことでいい?」
あらやだ強引。
じゃなくて。
「委員長、そうじゃなくて」
「独占とか、してほしいな。
興味ないのかなって不安になるから…」
きゅっと手を握られる。
そんなのあたしなんていつもそうだ。
委員長は平等だから、不安でしょうがない。
教室とか話してるときとか、笑ったときとか、頬っぺたに手を当ててみたい、とか。
ふとぶらぶらしてる手を見て、ぎゅって握ってみたい、とか。
いつも触りたいって思うのはあたしだけで…
「教室でまっつーと話してるときとか、髪の毛撫でたくなるし…」
いつも触りたいって思うのはあたしだけで…
「まっつーが寝てるの見てたら、なんだか頬擦りとかしたくなるし…」
触りたいって思うのはあたしだけで…
「映画とかドラマとかでイチャイチャしてるシーン見てたら、まっつーに会って同じことしたくなるし…」
って思うのはあたしだけで…
「みどりたちと遊びに行くたびに、まっつーと二人だけで来てみたいなとかも考えるし…」
あたしだけで…
「て、手とか、見るだけで触りたくなったり…」
だけで…
「なんか私ばっかりまっつーに興味があるみたいでってあいたっ!?」
「全部やれよ!なんだもうあんたは私か!」
「え?え?」
おっと、思わず頭を平手で叩いてしまった。
もー、なんだもー。
まぁあたしも何もしなかったからお互いさまといえばそうなんだけど…。
いやでもあたしとか遠慮しなきゃいけない相手じゃないでしょうが。
何に遠慮してたんだ貴様ー!
「や、やりたいなら、やればいいのに」
あらまぁなんかどもった。
だってこれ言うのも恥ずかしい。
「やろうかなと思ったけど…でもまっつー内緒にしてほしかったみたいだし」
「へ?」
内緒?
「みどりたちに話さないってことは、内緒にしてて欲しいのかなって…。
その、こ、こ、恋…………人、になったこと、とか…」
恋人って言うのに間空けすぎじゃない?
このシャイガールが!
っていうかそれ逆だ!
「委員長があのみどりんにすら話してないから内緒にしててほしいんだとばかり…」
「私は、できればみどりとかせーちゃんとかには話しておきたいんだけど…」
おやまぁ。
えーっと、じゃあ、なにこれ。
全部お互い様ってこと?
「…なんか、お互いに遠慮しすぎた?」
「そうみたい」
なんだそれ。
…それで、このどうするでもなく固まった空気をどうしてくれるんだ。
なんか言えこらぁ(他力本願)
「じゃあ、二人にも伝えていい?」
「あ、うん」
「…やった」
何がそんなに嬉しいんだか。
だって、あたしだよ?
あたしなんかと恋人になったって報告して、何が嬉しいんだろ。
そりゃさ、委員長ぐらい良い人だったら「どうだ凄いだろ」って気分になるかもしれないよ。
いやでも、あたしだよ?
「じゃ、行こっか」
「へ?」
委員長はさっきまでの空気をものともせず、ウキウキであたしを引っ張り起こした。
そして路地から出て…。
「あ、ヒナ、桃松。解決した?」
「あのね、みどりとせーちゃんに大事な話が…」
ここで言うヤツがあるか。
あたしは無言で委員長の頭を叩いた。