Lily memo %



お付き合いって難しい1



「おはよう、まっつー」
「おはよう、委員長」

付き合ったから、好き合ったから。
…だからといって何が変わるわけでもなく。

「なんで固まってるのよ桃松」
「なんというか世知辛いしょっぱい世界を味わってた」
「あんたは挨拶一つでどれだけ暗い気分になるのよ」

いや、もっとさぁ。
だって青春だよ?
マンガみたいになんか、イチャっぽい湿っぽい何かあってもいいんじゃないの?
だってエロゲなら好きだって言い合ったらその場で即合体だよ!?
そんな順序しか知らないよ!?

「無言でハァハァ言わないでくれる?」
「だって、なんか、うわぁん!!」

奇声をあげると、ビクっとみどりんは引いた。

「なによ。ストレスでも溜まってんの?」
「そうかもしんない」

そうやってぎゅぅと机に突っ伏すると、よしよしと頭をなでられた。
…この頭を撫でる感触はもしや。



「大丈夫?」



でたな。原因。

「委員長には関係ないザンス」
「心配してあげたのにひどい言い草だなぁ」
「そうよ、もっと有り難がりなさい」

だって委員長のせいでこんなんなってるんだもんさ。
ちょっとぐらい反抗してみてもいいじゃんさ。

「…んー、みどりん、胸揉ませて」
「却下」

みどりん、おでこが凹む。
おでこがおでこじゃなくなっちゃう。

「本気でなんか溜まってるみたいね」
「そうみたい…」

女の子二人が私の様子を見て溜息を吐いた。




「おはようアキちゃん。みどりんにヒナちゃんもおはよーっ♪」




そこで参上、男の娘。
おぉ、そうだ。こやつに聞こう。
ぬるりぬるりと誠二の体に張り付くと、尋問を始める。

「せーじー。女の子代表の誠二に聞きたいことがあんだけどー」
「アキちゃん、私男の子」
「それ以前にあんた張り付き方が気持ち悪いわよ」

いーじゃん、心は一番乙女でしょーが。

「ここだけの話、クラスの大川君が1つ年下の子と付き合いはじめたらしい」
「へぇ、大川君の恋実ったのねー」

これは昨日、オノチャンと美幸と3人で色鬼という遊びをしているときに聞いてしまったのだ。
ちなみにオノチャンが色を指定するたびに美幸があたしの体に着いている色を探しまわってベタベタしたのは言うまでもない。
正直どこまでも板だったので何も楽しくない状況でした。
今度みどりんも呼んでやってみよう。Fが思う存分味わえるかもしれない。

「そんとき大川君が言ってたんだけどさ、相手が年下だから遠慮しちゃってどうしたらいいかわかんないんだって」
「へぇ、大川君って気を使うタイプだもんね。
 顔はイマイチだけど性格が優しくてあれは良いお父さんになるわよー」
「で、女の子はどうなのかなーって」

そこまで言うと、誠二はあぁと声をあげた。

「そりゃ女の子としては遠慮しないでイチャイチャしてほしいって思うわよ」
「そうなの?」
「嫌なことがあったら女の子だって結構ちゃんとストップかけれるもの」

でもそこの人は異常に鈍感で優しいからストップかける前にヤられそうだよ。
むしろ無理やり襲える自信がある。
変態なめんな!並みの襲い方じゃないんだよ!がるるるる。

「私の意見じゃ頼りにならないわよ、アキちゃん。
 みどりんとヒナちゃんはどう?」
「そうねぇ、私もそうかな。遠慮とか逆にイライラしそうじゃない」
「私も遠慮はヤダな」

あ、しっかり目線こっちで言いやがった。
ふーん、そっか。そういうもんか。

「アキちゃんはどうなの?」
「あー、んー…、どうだろ。考えてない」
「適当だなぁ」

だって別にイチャイチャしたいんじゃないし。
なんかこの中途半端に本当に好きなのかよくわからない状態が嫌ってだけで…。
疑ってるというんじゃなくて本当にわからないだけ。
何がしたいの、何考えてんの、そんなことばっかり。
誰にも話してる様子はないみたいだし、イチャイチャ願望は無し?
あたしだけか、悶々してるの。

「っていうかそもそも桃松が誰かと付き合ってるのが私には想像できないわよ」

あたしだって想像できないからこんなことになってるのに!

「わっかんないじゃんか。あたしにだってもしかしたら…」

そこでしっかり目線を感じる。
これはあれか、言うなっていう目線?
真顔すぎてわからん!

「いつか、できるかも、しんないし…」
「そこで尻すぼみになるあたり未来は暗いわねー」

うるさい!
べつに好きでこんな言い方したんじゃないやい!

「みどりんだって想像つかないじゃんか!」
「なによ、あたしにだったらきっと背が高くて美少年で優しくて社会的に将来有望で美少年で…」

ハードル高いわ。
しかも美少年二回言わなかった?
みどりんはふむと一つ頷くと、一気にまくしたてた。





「もちろん付き合い始めたら毎日一緒に登下校して、お昼も一緒にお弁当を食べるの!
 携帯は恋人専用のを一台買ってペアの指輪つけて、
 みんなに囲まれてるのに私のとこに来ちゃったりして『君といる方が楽しいよ』とか言われて、
 勉強も一から教えてくれてたまにちょっと手が触れてドキドキとかして、
 イベントごとにプレゼントとかしあってそのたびに愛を感じちゃったりしたり、
 お弁当を食べる時だってあーんとかしてイチャイチャするでしょ、
 ちょっと眠くなっちゃったなんておねだりされたら可愛くってもう膝枕してあげて、
 寝てるときに写メとか撮ってそれを待ち受けにしたら恋人にバレて、
 『もうみどりはイタズラっ子だな』とか言われて小突かれてキュンってして、
 二人の間だけちょっと時間が止まってそーっと顔が近付いて目を閉じてそこから先は言えないわ」





それなんてミッチーヨシリン。

「長かったわねー」
「あたしもう登下校の辺りから聞いてなかったや」
「まっつー、それ全部聞いてないよ」

バレた。
いやしかし、これはひどい。
きっちり350文字使いやがった。

「なによ、理想だもの。夢なら自由でしょ」
「理想高すぎると弊害になるって言わない?」
「言わない」

金持ちだからなのか?それともみどりんだからなのか?

「ヒナちゃんはどうなの?」
「私?んー…」

委員長は少し考え込むと、へにゃりと笑った。




「やっぱりちょっとイチャイチャしたいかな」




よろしい、ならば戦争だ。
だったらなんじゃいこの惨状は。
イチャイチャとか以前に知り合い以上友人以下だわこんなの!
認めない!認めないわ!

「例えばどんなの?」
「んーっと、そう、だなぁ」

恥ずかしそうにはにかむと、口を開いては言おうか言うまいか迷っていた。
よし、ならあたしが代わりに言ってあげよう!

「あたし、委員長のしたいことすっごくわかるよ!」
「え、本当?」
「へぇ、じゃあ言ってみなさいよ、桃松」

みどりんに促されてすっと口を開く。






「もちろん付き合い始めたら毎日一緒に登下校して、お昼も一緒にお弁当を食べて!
 携帯は恋人専用のを一台買ってペアリングつけて、
 みんなに囲まれてるのに自分のとこに来ちゃったりして『君といる方が楽しいよ』とか言われて、
 勉強も一から教えてあげてたまにちょっと手が触れてドキドキとかして、
 イベントごとにプレゼントとかしあってそのたびに愛を感じちゃったりし、んぐぐ、ったり、
 お弁当を食べる時だってあーんとかしてイチャイチャするでしょ、
 ちょっと眠くなっちゃったなんておねだりされたら甘やかして膝枕とかしてあげて、
 寝てるときに写メとか撮ってそれを待ち受けにしたら相手にバレて、
 『もう比奈子はイタズラっ子だな』とか言われて小突かれてキュンってして、
 二人の間だけちょっと時間が止まってそーっと顔が近付いて目を閉じてそこから先は言えないな」





「それ私のパクリでしょうが」
「パロディもしくはトレスと言って」

一応ちょっと委員長風にカスタマイズしたんだから。
ちょっと途中で舌噛んだけど記憶力万歳だ。
どうでい、と委員長を見るとがっくりと項垂れられた。

「…私はそこまでしなくていいかなー」

なんだ、てっきりみどりんとずっと一緒に居るから同じような願望もあるかと思ったのに。
でも違うって言われて良かった。
ちょっと私には実行しずらい。

いや、しかし待てよ?
イチャイチャしたいって言った癖にそういうことしないってことは委員長実はあたしのことそんなに…。
いやいやでもあんな告白の仕方しといて「ドッキリカメラ!」ってことはないでしょうに。
もうちょっとちゃんと考えてー。
あ、やっぱ理想と現実は違うんだ!
そうか、本当なら理想の恋人ができたらイチャイチャしたかったけど、
あたしが恋人だしそんな願望は出てこなかっ…それダメじゃんかやっぱあたしの顔がダメなのかー!!!

「アキちゃん、い、痛い、痛いギブ」
「あ、ごめん誠二」

ついなんとなく力が入ってしまった。
いやいやいや落ち着こうあたし。
もともとあたしの役割はこんないろいろ考えるキャラじゃなかったはずだ。
こんなことで取り乱すなんてらしくないよ、うん。



「で、実際ヒナは具体的にどういうことしたいわけ?」



うわぁんみどりんこれ以上追い打ちかけないでぇ!

「うーん、やっぱり毎日一緒に登下校して、お昼も一緒にお弁当を食べてぐらいまではみどりと一緒かなぁ」
「そうよね、そこは外せないわ」

委員長そこまでしてないじゃんか。
登下校なんてバラバラだし。
委員長はお昼御飯みどりんと食べるし、あたしはノリたちとレッツゴー学食だし。
あれか、やっぱあたしだからか。
あたしにそこまでするような魅力がないからか!
ちっちゃいし狸みたいな顔してるしオタクだからか!オタクだからか!(大事なことなので二回言った)

「携帯まではいいけど、でもペアリングはちょっと憧れるね」
「ペアストラップとかね」
「とにかく何かおそろいのものって持ちたいわよね」

3人は「ねー」と仲良く相槌を打つと、キャッキャとペアなら何がいいかという談義を始めた。
マグカップとかパジャマとか…。
あたしはなんとなくポケットにある財布についたキーホルダーを思い出した。
沖縄でノリに貰った赤いキーホルダーはあたしの元に帰ってきている。
これにピッタリ嵌まる青いキーホルダーは委員長。
そういや委員長はあれをどこにつけてるんだろ。
じっと目線を凝らして委員長の方を見る。

「なに?」
「んー、別にー」

目線に気付いた委員長がチラリと自分の姿を確認する。
んー、パっと見じゃわかんないな。

「委員長、携帯見せて」
「んー…」

あ、渋った。
携帯を見せないなんて浮気ねあなた!
なんてことは言わないけど。

「中は開けないよ」
「そう?じゃあどうぞ」

白の薄い携帯を差しだされる。
そこにはたぶん水泳部はみんな持ってると思われるストラップ。
携帯ではなかったかー。

じー。

…うん?
なんだこの視線は。




「ヒナ、なんで桃松見ながらニヤニヤしてるの?」




あたしの気持ちをみどりんが代弁してくれた。

「え!?あ、そんな顔してた!?」
「うん、すっごいヘラヘラしてたわよ」
「ヘラ…。き、気にしないで」

あ、ヘラヘラにショック受けた。

「ほんとに、なんでもないの…」

?
やっぱ委員長はわかんないなー。
そうだ、誠二はどうだろう。

「誠二は?恋人できたら何したい?」
「んー、そうねー」

誠二は少しだけ考えると、ポンと手をうちならした。

「うん、私は恋人ができたら手を繋いで歩きたいかな」
「手?」
「あとはー、そうね。もちろん挨拶するときには抱きつくし、
 休みの日には二人でDVD見ながらソファでちょっとくっつき合ったり…」

おぉ…甘い…。
いやでも恋人っていったらそういうのだよね。
うーん、あたしには正直まだ早い気がする…。

「わかる!そういうの良いよね」

この人わかりよった!?
いや、しかし委員長はあたしに興味なんてないみたいだしだいじょぶだいじょぶ…。

「やっぱり休みの日はそういうのがいいわよねー」

ブルータスお前もか。
みどりんまで…。
いや、そもそも待とうか。
あたし自身が委員長と二人きりとか無理じゃない?
心臓がプチドッカンを起こして入院騒ぎに…。

「まっつーは?」

んあ?

「そうね。桃松、あんたは恋人ができたら何がしたいのよ」
「やっぱりアキちゃんでもイチャイチャしたいと思うのかしら」

あたし?
そうだなぁ。

「もちろん付き合い始めたら毎日一緒に登下校して、お昼も一緒にお弁当を食べて!
 携帯は恋人専用のを一台買って(略)ふふふ、そこから先は言えないな」
「意味がわからないから。
 途中ハショりすぎて携帯買って何するの?みたいな感じになってるから」

確かに、ある意味怪しい。
これじゃただの夢見がちロマンチック変態だ。

「でも聞いたら後悔すると思うよ?」
「なによ、そういうこと言うともっと気になるでしょ」
「正直引くよ?」
「アキちゃんってばそんなに甘い生活送りたいの?」

しょうがないなぁ。
乙女心を持て余したあたしの甘さに全力で引くといいよ。






「恋人ができたらまずは毎日胸揉んで自分好みの大きさに仕立てあげてるでしょ。
 あと最初は感じないって俗に言うので毎晩一緒にお風呂入るついでに撫でくりまわして全身性感帯みたいにしちゃって、
 携帯は恋人専用のを買ってまぁどこに仕込むかはげふんげふん、
 それから散歩にでかけて首にはもちろん首輪を着けてあげて茂みに連れ込んで恥ずかしいことさせて興奮しつつ、
 たまに体に甘い何かを塗りたくってそれを一生懸命舐めたり舐めさせたりして、
 休みの日には一日中素っ裸で生活させて裸エプロンとか後ろからじっくり眺めて楽しんだり、
 そんな生活を送りながら最終的には恥ずかしがってた相手の方から求めるようになってきて、
 おいおいまったく困ったさんだなぁみたいな甘い会話をしながら
 大きな胸に顔をうずめたりして、そこから先はちょっと言えないな」






「くだらないこときっちり350文字語るんじゃないわよ」

おーっとみどりんそれ以上あたしの首は回らないよHAHAHA。

「今からでも遅くないわ、全部伏字入れなさい」
「みどりん、今からじゃ遅いわよ…」

あたしもそう思うよ。
現に一人完全に固まってるし。

「ヒナー、大丈夫ー?」
「ダメよ完全にフリーズしてる」

顔を真っ赤にして動かなくなった委員長。
…もしかして、本気にしたの?
委員長にそこまで出来るとは思っちゃいないけど。

「……し………きな……」
「ヒナ?」

ぼそりと、顔を赤くしたまま委員長が何かを喋った。
みんなで近寄って聞いてみると、バチンとあたしの頬に凄い衝撃が。





「私っ、そんなのできないからぁ〜…っ!」





そしてすごい速さで走り去る足音とドップラー効果を残して遠ざかっていく声。

「…」
「…」
「…アキちゃん、男の子代表にしてもヒナちゃんにはちょっと刺激が強すぎたんじゃない?」

誠二、あたし女の子。


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