Lily memo %



うちの兄はもうダメかもしれない2


「うっひょーい!」
「何面白い雄叫びあげてるんだお前は」
「たつみん聞いて!」
「たつみん言うな」

ぐわっと両手をあげて叫ぶ。

「夏休みだおー!!!!」
「だお言うな」

そんな試験終わりの雄叫びから3週間。







「暑いよ…兄ちゃん」
「妹よ、言うな」

蜃気楼が見えそうな室内。
省エネだ節約だ言いながら毎年付けないクーラー。
お客さんでも来れば別だけど、残念ながらひきこもり気味の兄妹に客などいない。

「だがしかし俺はでかける」
「何…?」

アイスか何か買ってこいやという視線を浴びせると、そそくさと出ていこうとした。
がっしりと足にしがみついて止める。

「まぁ、待ちなよ。せめて行き先をだね」
「お兄ちゃんにくっついてばっかだとシスコンだってばかにされるぞ☆」
「もう手遅れだよ」

前の事件から既にシスコン言われ放題だよ。
これ以上言われることなんてないんじゃないかというほどに。

「で、どこ行くんだい」






「…高校水泳部の見学に…」






よくいけたもんだ。
呆れる通り越して拍手喝采万々歳。

「我慢しきれなくなったか」
「若い美男子に触りたいです」

兄の切実すぎる態度に涙が出そう。
いろいろな意味で。

「と、いうわけで兄ちゃんは高校へ向かう!いざ、エデンへ!」
「へぇへぇ」

なめくじのようにずるずると兄の足から床へ移ると、バタバタとあわただしく出て行った。
そんなに飢えとるんかい。

「…若いって、すごい」

いや、あたしよりゃ年上なんですけどね。
違うか、この場合男の子ってすごい、か。
それにしても暇すぎる。
いや、熱すぎる。

『いやー、ほんとすごいですねー』

ですよねー。

『もう大入り満員ですよー!』
「うん?」

いつもならアニメかちょっと子どもは見れないような映像しか映さないテレビが人がたくさんいる場所を映している。
どうやら地元のニュースのようだ。
兄が天気予報でも見るために点けたんだろう。

『今夜8時!全員集合ー!なんちゃってー』

寒い。
この暑いなかでは寒いのはむしろ有り難いのかな?
8時から何があるんだろう。
重い体をそのままに手だけを伸ばして近くにあった携帯をとる。

プルルルル

『もしもし、アキ?』
「あ、たつみん?今日ってなにかあんの?」
『あ?なにかってなんだよ、なにかって』
「それがわからないから聞いてんじゃーん」

やっぱり巽じゃダメだったか。

「じゃあそこに誠二居る?」
『あぁ、いるけど』
「替わって」

ぶちぶち言いながら電話の音が小さくなる。
最初っからこっちに聞けば良かったか。
ちょっと暑さで頭が働かなかったんだね。

『アキちゃん?』
「うん、今日ってさぁなにかあんの?」
『やぁだ、アキちゃんったら!今日は花火大会でしょー!』

あぁ、なるほど。
それは誠二が好きそうな内容だなー。
きっと兄が今日に限って我慢できず飛び出したのはそれが原因に違いない。
プールで他人とイチャベタする兄に少し嫉妬したノリを誘って最高のデートにでもするんでしょーな。

「誠二は巽と行くの?」
『うん。これからお祭りの方に行っちゃおうかなって思ってるんだけどアキちゃんも来るー?』
「んー、どうしよっかなー」




「アキせんぱーい!」




「うん、行くわ。誠二」
『え、なんか聞こえたけど…』
「あ、聞かなかったことにしてくださいね。アキ先輩は私と行くので」

どこから湧いたのか、それはあたしの目の前に。
どうやって湧いたのか、それは我が家の中に。

「どうやって入ってきた、不法侵入者」

彼女によって切られてしまった電話を片手に身を守る。
二人っきりになるとロクなことがないし。

「やだなぁ、たまたま先輩んちの前を通りがかっただけですよー!」
「それは返答になってない!あたしは侵入理由でなく侵入経緯を聞いている!」
「玄関開いてたんで」

閉めてけよバカ兄貴…っ!!!

「そんなことより行きましょうよー、花火ー!」
「えー、じゃあ奈央ちゃんも呼ぶ」
「奈央先輩は今日は大学の友人と行くそうでーす」

奈央ちゃんの裏切り者…っ!!!

ま、これはしょうがないか。
奈央ちゃん結構人付合い良いし忙しいもんね。
っていうかいつの間に奈央ちゃんと連絡とったの。

「じゃ、一人で行くわ」
「そんな寂しいこと言わないでくださいよー!」

がっくんがっくんと揺さぶられる。
しかし心は揺さぶられないぞ!

「いや、ほんと一人で…」
「いやいや、私となら…」
「いやいやいや、やっぱりだね…」
「いやいやいやいや」
「いやいやいやいやいや」







…間。







「で、なんで一緒に出てきちゃってるんだよ!?」
「アキ先輩がリンゴ飴とチョコバナナと焼きそばとたこ焼きとラムネという条件で負けたからでしょう?」
「そうでした…」

心は揺さぶられなかったけど財布が揺さぶられたらしい。
…だってお祭りで食べるものって普段より美味しい気がするのに高いんだ…。

「お祭りで売ってる食べ物なんて安物ばっかで量も適当だし美味しくないと私は思いますけどね」
「それはまぁそうだけど、なんていうか、空気とか雰囲気とか心意気とかで美味しくなるんだよ」
「変なところでロマンチストですよね」

変なところ言うな。
文句たれてるあんたよりマシじゃい。

「それにしても人多いですよねー」
「こんだけ多いと誰かに会いそうなのが嫌だなぁ」
「えー、いやですよぅ。せっかくアキ先輩と二人きりなのにぃ」
「兄と一緒でも同じこと言うくせに」

こいつという人間はあたしでも兄でも良いと言っているけど、本当は兄のほうが良いことをあたしは知っている。
他人よりあたしと兄の間の差が短いだけだ。
あたしに近寄る女の子なんてこんなものです。

「あー、エルたんが現実に居たらいいのに」
「やめてくださいよ、変なところで現実離れしてますよね」
「お前、エルたんの素晴らしさをわかっていないな?」
「知りたくもないです」

可愛いのに。
落とすまで結構たくさんのフラグ立てなきゃいけないから面倒なんだけどそのプロセスがまた可愛い。
途中でセクハラコマンドを使えば嫌がりながらもドキドキしているあの可愛さ!
あー、まじたまんないね、エルたん。

「やめてくださいよ、こんなところでトリップするの」
「あぁ、ごめん。涎出てたわ」
「やめてくださいよ、そういう要らない補足説明」

前に好きなら耐えてみろと冗談で言ってみたら、耐えたらヤッてくれますかと真顔で言われたのでもう言わない。
大好きなリンゴ飴をはぐはぐと食べながら歩いていると、一際鮮やかな女の子を見つけた。

「あ、あの子可愛い」

ナンパなんて無粋な真似はしないでも顔だけは拝んでみたい。
そう思って近寄ると、その隣によく知った男の顔を見かけた。

「んげ」
「おう」
「あら」

言わずもがな、最初の品の無い声はあたしです。

「巽!誠二!」
「よう、デートか」
「おぞましいこと言うの止めて!」

立場がいつもと逆なのが面白いのか、巽は上機嫌だ。
おのれ、学校が始まったらからかい倒してやる…!

「わぁ!誠二先輩かぁっわいいー!」
「うん、ほんと可愛い」
「ほんとー!?ありがと、二人とも!」

くるりと一回転して見せた誠二の姿は、ほんとに可愛い。
いつもロングの茶髪はアップにされ、浴衣は淡いピンクで金魚が泳ぎまわっている。

「去年の大人っぽいのも似合ってたけどこれも似合うね」
「うん、今年はちょっと幼めにして綺麗よりは可愛いをベースにしたの」

うふふと笑う誠二はほんとに男にしとくにはもったいないぐらい可愛い。

「誠二が女の子だったら理想だったのにー」
「ダメよ、私が女の子だったらたぶん夏雄さんに惚れてたもの」
「む、それは一理ある」

これはあたしの妙なプライドだけど兄ちゃんを好きになった女の子だけは嫌なのだ。
コンプレックスというかプライドというか…。
まぁ、そんなに重くは考えてないけど、おさがりのようで嫌だ。
それに兄に助けられてきた誠二ならば兄に惚れ放題だろう。

「今は?男の子では惚れないの?」
「さぁ、出会ったときから夏雄さんにはノリが居たもの。
 考えたこともないわ」

それもそうか。

「おら、そろそろ行くぞ」
「うん、じゃあまたね!アキちゃん、美幸ちゃん!」

巽に手を引かれて誠二はぶんぶんと手を振りながら消えていった。

「うーん、ほんと相変わらず可愛いですよね誠二先輩」
「あれはほんとに生まれてくる性別がおかしかったと思うよ」

ただあんな姿になったいまでさえ自分は男だと主張する。
女装は認めるし、心も乙女だと自分で言っているのに男でありたいらしい。
よくわからないけど、誠二がそれでいいなら無理に女の子扱いする必要もないのかな?

「ま、誠二がそれで幸せならあたしはそれでよござんす」
「それじゃ御隠居みたいですよぉ」
「ほんと最近御隠居さんな毎日でね」

中学ではそれこそ気になる女の子の胸は片っ端から揉んでいたのに。

「昔はセクハラ魔人でしたもんね」
「枯れたね、たぶん」
「やめてくださいよぉ、陰気臭い」

悪かったな。
どーせあたしゃあカビ臭い女ですよ。
チョコバナナを(決してエロくならないように)食べながら、面白い屋台はないか歩く。
美幸はもともと食べる気はなかったらしく、手には先ほど買ったペットボトルを一本持っているだけだった。

「あれ、そうこう言ってるうちに…」

金魚すくいの方でまたもや見覚えのある影が…。

「あーぁ、失敗しちゃった」
「奈央ちゃん」
「なぁーにー?…って、アキちゃん!?」
「いえー」

後ろから手元を覗きこんで声をかけると、驚いたように振り向かれた。

「わぁ!こんなところでアキちゃんに会えるなんて!
 …えーと、ついにデートすることにしたの?」
「やめて、おぞましい」
「奈央先輩、お友達は?」

奈央ちゃんは隣でまだ一生懸命に金魚掬いをしている女の子2人を指差した。

「4人で来てたんだけどね、一人は今トイレ休憩中」

それでこんなところで金魚掬いしてたわけか。
金魚掬いって楽しいけど持って帰って飼ってやれるわけでもないからあまりやらない。
それは奈央ちゃんも一緒で、ペットはよほどのことでもない限り飼うつもりはないらしい。

「花火はどこで見るの?」
「私たちは友達のお母さんが良いところ場所取りしてるらしいからそこで一緒に見させてもらうつもり」

へぇ、いいなぁ。
顔に出ていたのか、奈央ちゃんがにこやかに一緒にどうかと誘ってくれたけど辞退した。
地元に住んでいる人間なら一つや二つは持っている秘密の場所。
実はあたしもあるんでございます。
奈央ちゃんも知ってるけれど他人様も一緒だからそこは勘定にいれなかったんだろう。
奈央ちゃんの友達なら別にいいのに。

「じゃあね、奈央ちゃん」
「うん、楽しんでね」

ひらひらと手を振る奈央ちゃんは自分より大人だと思えないほど可愛い。

「あぁいうのを綺麗系ほんわか美人っていうのかな」
「普通に綺麗系天然美人でいいんじゃないですか?」
「天然というほどボケちゃいなくない?」
「それはそうですけどぉ」

昼から出かけてきたあたしたちだけど、意外と時間は早く進んだらしい。
知人に会ったりぐだぐだ喋っている間に時間が経ったようだ。
気付けば空は暗くなり始めていて、人が更に増えていた。
電球がついて祭らしい幻想的な空間になる。

「うんうん、やっぱ祭はこうでなきゃ」
「せんぱぁい、私たちもやっぱり浴衣で来ればよかったですねぇ」
「シナをつくるな、気持ち悪い」
「だぁってみんな可愛い浴衣ばっかなんですもん」

確かに、周りを見れば男も女も浴衣が多い。
最近じゃあ花火を浴衣で見るのが面倒くさいという人が多いなか、この量は大したもんだ。
奈央ちゃんは私服だったけれど、友人と呼ばれた人たちはみんな浴衣だったし。

「あんただけでも浴衣で来れば良かったじゃん」
「先輩ったら私が浴衣着ている間に置いてくでしょう?」
「うん」
「少しは悪びれてくださいよぅ」

もすもすと焼きそばを食べている(隅っこの空いているところで)と、見たことある二人組が通りがかった。




「にいちゃ…」
「夏雄せんぱぁい!!!」




声かけるより先に隣に居たヤツに飛びつかれた。
あ、ノリの機嫌が!

「に、兄ちゃん、ノリ。おっす」
「おう、なんだお前。美幸ちゃんと来たのか」
「成り行きで」

財布の成り行きで。

「兄ちゃんとノリはデート?」

美幸を物理的に引き剥がしながら言葉でも引き剥がす。

「あぁ、水泳部が終わったからそのまま二人で浴衣に着替えたんだ」

言われてみると、二人とも紺と黒で同じ模様の浴衣を着ていた。

「ペアルック?」
「…恥ずかしいから言わないで」

ノリの耳がちょっと赤かったのはそれが恥ずかしかったのか。
家で色々イチャイチャしといて今更ペアルックで恥ずかしいも何もあるかい。
でもまぁカップルのべたつきタイムを邪魔しちゃマズいか。

「ほら、美幸!焼きそばやるから行くよ!」
「えー、それ私のお金で買ったヤツじゃないですかぁ!
 それに祭の焼きそばってソースたっぷりかかってて油っぽくて私好きになれないんですぅ!」
「屋台のおっちゃんたちに謝れ!屋台連合的な人たちに謝れ!」

あわただしくも引き剥がすと、無理やり歩かせた。
少しだけ振り返って兄を見れば、口パクで何か言ってきた。

す ま な い な

えーい、そう思ってるんだったらちょっと自重せぇ。
それかもしくはちゃんと美幸のことを突き放してあげればいいのに。
時に兄は優しすぎるところがある。

「まったく、どいつもこいつも厄介なんだから!」
「あはは、アキ先輩ほど厄介な人から言われてもねぇ」
「黙れ変態!」
「ふぎゃん!」

腹立ちまぎれに掴んでた腕を思いっきり振り払ってやった。
世の中ロクなヤツがいたもんじゃない。

「おら、次たこ焼きとラムネじゃい!」
「あぁん、お代官様ぁ!もうおよしになって!
 これ以上は、これ以上はぁああん!」
「ええい!なまめかしい声をあげるなぁ!」

とは、いえ。
これ以上後輩にせびるのは申し分ない気がしてきた。
そんなときにふと目に入ったのはある射的だった。

「あ、あれは!」
「どうしたんですか!?」

黄金の絶対領域。
ピンクの髪に可愛く揺れるリボン。




「エルたんフィギュア、ニーソックスバージョンだとーーーー!!!!!」




…。

「先輩、それ大げさにやるリアクションだったんですか」
「そうでもない」
「…」

かといえどスルーすることもできない。
もともと制服がハイソックスゆえにニーソックスバージョンなんて希少価値。
そう、あれはゲームの三章で主人公がニーソックスが好きなんだと叫んだことによってうんぬんかんぬん。
心の狭いファンたちが「ハイソじゃないエルたんなど認めん!」と叫んだことによって
最初の売り出しで終了していた全国で数少ないフィギュア…っ!
まさかこんなところでお目にかかることになろうとは。

「と、いうわけでやらざるを得ないな」
「どーいうわけですか」

おっちゃんに与えられた弾は5つ。
よくある射的用のコルク球ではなく、割としっかりとした形のエアガン。
まずは様子見。
隣にある小さなぬいぐるみを落とす。

「惜しいなぁ」

惜しくなどない!
次は目的の下にあるお菓子を落とした。

「…先輩、ちゃんと狙ってますぅ?」
「うるせー、黙ってみてろーい」
「アキ先輩ったら江戸っ子みたいになってますよ」

次はやっぱり目的の左隣にある少し大きめの狸の人形。
生まれて数日の子どものようなサイズ。
少し難しそうだけどお尻部分ではなく手に砂利が詰まっているようだ。
結構しっかりとした弾が出るし、頭さえずらせば…。

「おー!すごい」
「まだまだぁ!」

こっからが勝負である。
今まで当ててきたヤツの角度から割りだして、大体あの辺りかな。
微調整しつつしっかり的を見据える。


「っ!」


パンパンと二度続けて撃つ。
フィギュアは上辺りを撃てば落としやすいけど、たまに下の部分に見えないように支えが入ってたりする。
今回も例に漏れなかったようで、倒れたフィギュアの後ろにブックスタンドが見えた。
良かった、ちゃんとできた。




「姉ちゃん、やるじゃねえか…」
「おっちゃん、なかなか楽しかったぜ…」



「何で暑苦しい友情ができちゃってるんですか。
 なんか恥ずかしいことになってるから早く商品もらって行きますよ」

ぐいぐいと引っ張る美幸に合わせてくるりと振り返ると、観客の中に見知った顔を見つけた。
控え目にパチパチと拍手しているCカップと、呆れたようにおでこに頭を添えるFカップ。

「委員長!みどりん!」
「みどりん言うな!」

会った瞬間ジャーマンかまされた。
あたしが何をしたというんだ。

「あんた賞品取り過ぎよ、ちょっと見ててバーゲンに群がる様々な女性を見ているような気分だったわよ」

それはまたなんてわかりにくい。

「すごいね!射的得意なんだね!」
「Wiiのおかげでね!」
「アキ先輩、そこで威張らないでくださいよ」

むぅ、ゲーセンに通いまくっていたおかげでもあるんだけど。

「あれ、今日はお兄さんは?」
「兄ちゃんとは別行動だけど、なんで?」
「ううん、居ないの珍しいなと思って…」

…む、これはもしや…?

「それにしてもアキ先輩、なんで最初からフィギュア取らなかったんですか?」
「そりゃああんな高そうなもん初っ端から落としたら残りの弾没収されちゃうに決まってるじゃないよ」
「…せこいわよ、あんた」

なんとでも言え!
世の中は弱肉強食なのだ。
ホクホクとした顔で景品の入った袋を撫でる。
悦に入っていると、くいくいと服の袖を引かれて振り返る。

「ニーソックスが好きなの?」

あたしはふっと笑ってから、ぽんと委員長の肩に両手を置いた。

「…違うよ委員長、エルたんが好きなんだよ」
「真顔でヒナに変なこと言わないでよ」

ゴッていう音と共に頭が変な方向に曲がった。

「乱暴だなぁ、ほらお菓子あげるから落ち着いてよみどりん」
「あんたねぇ…これさっきついでに落とした景品でしょ」
「ぼんたん飴嫌い?」
「嫌いじゃないけど」

なんだかんだでもらうんかい。
すいっとぼたん飴を手にとると、コロリと何個か飴を取り出した。

「ヒナ、一つ食べる?」
「ありがとう。…この場合お礼ってみどりに言うべき?それともまっつーに言うべき?」
「どっちでもいいわよそんなもん」
「あたしの意思は?」
「ないわよそんなもん」

そんなもん扱い…!

?…!

そういえば、エルたんで頭がいっぱいで気付かなかったけど二人も浴衣なのかぁ。
青と緑のシンプル柄。
…青、か。
そういえばエルたんが祭イベントの時に着ていたのも青い浴衣だったっけ。
でもそのときは確か主人公から渡されたぬいぐるみを持っていたような…。

「よし、委員長」
「なに?」
「これ持って」

さきほど取った大きい狸のぬいぐるみを渡す。
…うん、メルヘンで大変よろしい。
少し幼めの可愛い女の子がぬいぐるみを抱えるのは萌える。
委員長じゃ髪の色が違うしあたしより大きいけどコスプレさせれば可愛いだろうなー。
うんうん、満足満足。

「よーし、美幸。花火見える場所に移動するぞー」
「はぁーい」
「え!?この狸は!?」
「あげるー」

すたすたと歩いて委員長たちから離れる。
後ろから二人が何かしら言っている声が聞こえたけどスルー。
足早に離れると、ニヤリと笑った。

「あの年になってから人前でぬいぐるみを抱えて他人様から生温かい目で見られる羞恥プレイを味わうといいよ…!」
「うわぁ、アキ先輩ったら鬼っ畜ぅ」
「現代でぬいぐるみを抱えているような少女なんてロリータかちょっと少女趣味な子ぐらいなもんだ」
「知りませんよぉ?そんな何も考えてない発言してぇ」
「だいじょぶだいじょぶ」

ひょいひょいと人を避け、適当な屋台で適当なものを何個か買う。
さっき買わなかったたこ焼きとラムネももちろん買った。

「買いこみますねぇ、そんなに食べきれるんですかぁ?」
「うん、今日はガツガツいきたい気分なの」
「アキ先輩にしては珍しいですね」
「まあね」

今日は食べたい気分なのだ。
さっき決定したことだけれど、食べたいのだ。












「きっれぇー!」

我が家は大きいわけでも小さいわけでもないけれど、そこそこ立派な一軒家だ。
屋上も無ければ庭も小さい(洗濯物が干せる程度)。
けれど川にそこそこ近い。
川のすぐ横というわけではないけれど、周りに大きな遮蔽物も無い。
屋上はないけれど、若さゆえに梯子で屋根に登れば綺麗な花火が落ち着いてみられる。

「良い物件だよねぇ」

ここに住居をかまえた父と母にGJと言わざるを得ない。
ときたまに兄や友人たちがいることもあるけど、今年の兄ちゃんはノリと二人きりで居たかったのかでかけていった。
ドンパチ咲き誇る花火を見ながらビニールをがさがさと荒らしてフランクフルトを手にとる。

「…あー…夏雄先輩も花火見てるのかなぁ…」

花火に交じって小さく聞こえた美幸の声。
聞こえないと思ったか。
あたしは案外地獄耳なんだ。
ガブリとフランクフルトに齧りつく。

「アキ先輩ったら花より団子なんだからぁ」
「うるせー」

一人っ子のお前にデキる兄の居るあたしの気持ちがわかるもんか。
あたしの周りに居る人たちに「夏雄と秋生、二人きりで花火を見るならどっち!?」と聞けばほぼ兄と答えるだろう。
兄の魅力はたしかにわかる。
絶対助けてくれる安心感と、努力家な部分、あたしより綺麗なフォーム、素早いタイム。
なにより優しい人柄。
好きにならないほうがおかしいんだ。むしろ好きにならないやつがいたらあたしが殴る。
思い出すのはあたしの周りを少し見回した委員長。

「…今頃、委員長も同じこと言ってんだろなー…」
「先輩?何か言いました?」
「何も」

ガブリとまた齧る。



きっと委員長は、兄ちゃんが好きなんだ。



そう考えれば、いままでの行動がなんとなく理解できた気がする。
あたしがレズだと知って、それっぽい行動まで取られて、それでも近づく委員長。
…兄ちゃんもゲイなんだけどなぁ。
協力すべきか、しないべきか…。
告白させられるぐらいまで近づけてあげればそれでいいのかな。
そうしたら兄ちゃんはフって、あたしも迷うことなく平穏な日常がこんにちはしてハッピー…と、いくわけないかな。
どうすればいいのかなぁ。

気付けばフランクフルトは無くなっていて、ガチリと串と歯がぶつかる音がした。

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