Lily memo %



うちの妹はもうダメかもしれない12


都会へ行く電車。
揺れる俺たちの体。

「妹よ」
「なんだい兄ちゃん」

長距離電車というのは確かに、ボックス型で他人様から自分の見ているモノは見づらい。
が、しかしだな。




「せめて表紙は隠せよ」

エロ本の表紙ぐらいはよ。




「えー、だってあのおじさんも読んでるよ?」
「あれは一応ゴシップ週刊誌だ。ゴシップ週刊誌はエロ本じゃない」

確かに最近のゴシップ週刊誌はグラビアやちらっとついてる風刺漫画でエロ本まがいだったりもするが、あれは一応ゴシップ誌なんだよ。
エロ本と一緒にすると怒られるぞ。

「しかしあれだね」
「なんだ?」
「袋とじは綺麗に開けたいんだけど…」
「知るかー!」

俺もちょっと気になる袋とじだったけど(女優さんが割と筋肉質)ここで開けるわけにはいかない。
最悪の場合、妹はわいせつ物陳列罪で捕まるかもしれん。
むしろ今まで捕まらなかったのが奇跡だ。

「電車の中で暇つぶしに読む本はマンガだっつったろーが!」
「これにも一応ついてるよ、マンガ」
「そりゃ上手なエッチの仕方だろうが!」

たしかにエロ本にはたまについてるよそういうマンガ…!
聞きもしないのに後ろの穴と間違えちゃダメだぞ♪なんて恐ろしいことが書いてあるんだろ!
普通の男にとっちゃ大問題だが俺にはノリと繋がる大事な穴なん



パコン



「なんで鼻血?」

聞くな。
今更、エロマンガ見て鼻血を出す俺じゃないがノリとのいろいろなことを思い出しただけだ。

「けど暇だなー」
「二人での移動なんて久しぶりだもんな」
「兄ちゃん何か一発芸」

無茶ぶりにもほどがある。

「しょうがないな。爆笑して追い出されるなよ」
「よしこい」

俺は鞄に着けていたモコモコの黒いストラップを外して胸元に置いた。





「ギャランドゥ!」





「あぁ、うん」

普通の反応返すなよ。
寂しいだろ。
せめてありきたりなギャグやるなとか突っ込んでほしいんだよ。

「どうせならマジックで毛書いちゃって後戻りできないとこまでやってほしかったな」
「俺にノリの前で裸になるなっていうのかお前」
「どうせ電気消すよ」

そういう問題じゃないだろ。
俺の男気めちゃくちゃダウンするじゃないか。

「大丈夫だよ、兄ちゃんいつもムチムチで服着てても着てなくても一緒だから」

そういう問題じゃないだろ。
っていうかそうだったのか?俺服着る意味ないのか?
脱ぐぞ、ちくしょう。

「…それにしても、あと何分だっけ?」
「20分ほどじゃないか?」
「もう2時間半経ってんだもんねー。
 都会遠いよー」

俺たちは電車に乗っている。
今日は久々に俺たちが親に会いに行く日なのだ。
親が家に帰ってくることのほうが多いが、たまにこうやって俺たちが移動する。
両親はマンションで暮らしているのだが最近はどうしてるだろうか。

「この間ペットを買ったって電話で言ってなかったっけ?」
「ペット可のマンションだったんだな」
「小さいマンションだしね」

知らない間に増えたらしい家族はいったいどんなのだろうか。
名前が「ツユ」ということしか知らないのだ。

「なんで『夏雄』『秋生』ときて『梅雨』かな」
「絶対父さんが名付けたな」

そういう人だ。
おおざっぱでどっかおかしい。

「アキは父さん似だよな」
「兄ちゃんも父さん似じゃんか」

…そうか?
俺はあそこまでおおざっぱじゃないと思う。

「母さんは相変わらずおおらかにションボリしてるのかな」
「かもなー。あぁ、いやどうだろう」
「?」
「ペット可愛がってるだろ」
「あぁ、確かに」

母さんは昔から可愛いと思ったものを猫可愛がりする癖がある。
あんなダメ親父でも母にとっては可愛いらしい。

「なんで俺たちは母さんに似なかったかな」
「ノリを可愛がるところとか兄ちゃんは似てるんじゃない?」

可愛がる方法が違いすぎると思うぞ。

「そもそもなんで俺たちあの夫婦から生まれてこんな同性愛者なんだろうな」
「さぁ?…運命のイタズラ、かな」
「そんな格好良さげに言われてもなぁ」

しかもキャラじゃないぞ、妹。
そういうお茶目は色男の俺担当だろ。
妹はそんな疑問には興味がないのか、暇だとまた唸った。

「スルメイカ開けちゃう?」
「でも着いたらたぶん大量の飯だぞ」
「父ちゃん白米好きだからなぁ…」

俺たちの偏食は父譲りである。
父は大の白米好きで小さい頃からパンより米、おかずより米だ。
味は薄くていいという観点では妹の方が父に似ているかもしれない。

「兄よ」
「なんだ、妹よ」
「催した」
「お前はもう少し恥を知れ」

トイレ、とかならわかる。
催したってなんだ、中途半端に丁寧で意味がわからん。

「じゃ、トイレ行ってくるわ」
「ハンカチ持ったか?」
「兄ちゃん、女子はたまに髪の毛で水気をとるもんなんだよ」
「…持ってけ」

男の夢を壊すようなこと言うな。
都市伝説だと思っていたけど本当だったのか。
鏡の前で水に濡れた手で髪の毛を整えるようにして拭くんだろ。
ジーパンで拭っちまう男子とどっちがマシなんだろうか…。
アキがトイレに行くと、俺も途端に暇になる。
ノリにメールでもしようか、そう思って手元を見た。



タラララーラーラーラッタラー



これはアキの携帯の音だな。
マナーにしとけよ、まったく。
俺は椅子に落ちていたアキの携帯を拾うと、兄面して携帯を開けた。

…これは妹に急ぎのメールじゃないかなというチェックだ。

あれだ、決して好奇心じゃないぞ。
ほら、急ぎだったらトイレまで行って早く渡してやらないといけないだろ。
別に妹に来るメールが気になるわけじゃないんだ。
そう、これは事務作業だ。
それにマナーモードにもしといてやらないといけないだろ?
俺はカカカと携帯のメール部分を連打した。




『気をつけてね、ってメールを送る気だったんだけどもう着いちゃったかな?
 明後日の月曜はお話たくさん聞かせてね。
 その日は放課後バイトだよね?遊びに行っちゃおうかな。

 あと、下着の色はちょっと教えられません』




…ほう。
最後の一文で妹がどんなメールを送ったのかが測り知れるがまぁそれは置いといて。
そっかぁ、目片さんともついにメールアドレスを交換したのかぁ。
散々、2年の時に

-兄ちゃん、女子っていうのはまず挨拶と一緒にメルアドを交換するもんだよね-

という謎の思いこみでちょっと凹んでいたが、そっかぁ。
なんで3年になってから今更メルアド交換とか突っ込みたいこともあるが、そっかぁ。




「兄ちゃん、あたしの浮気を調査してどうする気なの」




携帯を覗く=浮気調査、って安直じゃないか。
そして俺の髪の毛をむしり取ろうとしないでくれ、ハゲる。
しかも丁寧に一本一本抜きやがって。

「いやな、急なメールだったら持って行ってやろうと思って…」
「トイレごときでそんな事務いりません」

だろうな。
自分でもちょっと苦しい言い訳だと思ってたよ。

「誰から?」
「目片さん」
「…パンツの色は…無しか」
「お前は一体どんなメールを送ったんだ」
「『お姉さん、パンツ何色…?…ハァハァ…』って送った」

お前は電話でよくいる変質者か。

「メルアド交換したんだな。遊園地の時か?」
「その次の日、カラオケ行った時にね」

あのとき、様子のおかしかった妹と目片さん。
何があったかは知らないが仲がこじれてるわけではないらしい。
しかもさっきのメールの内容からしてこじれてるどころか仲良しだな。

「ラブラブじゃないか」
「うるさいなー。女の子にしては質素なメールだよ」
「お前の中の女の子メールってどんなだよ」
「1列ごとに絵文字が10個は入ってるヤツ」

それほとんど絵文字じゃねーか。
文章として成り立たないぞ。
誠二だってそこまでじゃないだろ。

「で、なんて返信する気だ」
「デバ兄め」

妹はダルそうにカカカと携帯をいじり始めた。
俺もノリにメールを打とうとしたら、携帯のバイブがブルブルと震えた。
ノリからか?
パカリと開いてメール部分を連打する。





『バカがみ〜る♪ 秋生』





おい、隣に居るのにメールをする意味はなんだ。
そして必死に笑いをこらえるな。

「アキ」
「な、なに…?ぷぷっ…」



「約238回子ども大戦の始まりだ」



俺はアキの頭にヘッドバットを決めた。















下りる予定の前の駅名が読み上げられて荷物をまとめる。

「ちょっとは手加減しなよバカ兄」
「手加減したら失礼になるだろ駄妹、略して『だもうと』」
「なんだと駄兄」

お互いに痛めた首をコキリと鳴らすと、乱れた息を整えた。

「んー、しかしまぁ長かったなぁ」
「いやー、改めて父ちゃんと母ちゃんと離れて暮らしてることを実感させられますな」
「単身赴任だもんなー」
「そうだ兄ちゃん」

妹はふと思い出したように俺を見た。

「もし将来ノリと離れて暮らさなきゃいけなくなったらどうする?」
「あ?追いかけるだろ」
「例えばそれが外国とかでさ、勉強のためとかで兄ちゃんがついてきちゃいけないような感じだったら?」

ノリが俺から離れたら、かぁ。
脳裏には去年の文化祭期間中に悩んでいた自分。
俺をプールに突き落したアキの顔。

「一つ質問がある」
「はい、どうぞ」
「それ、ノリは俺のことが好きなままだな?」
「ん?」
「ノリとの間にすれ違いが起こったりはしてるのか?」
「してない。ノリは兄ちゃんが好きだけどしたいことをしに行くだけ」

ふむ、なら話は簡単だ。

「信じて待つだろ」
「信じ切れる?待ってられる?」
「待てるね」

俺はニッと笑うと、妹の頭をぐしゃりと撫でた。

「俺はノリなら待てる」
「ほぅ」




「なんたって俺とノリは愛し合ってるからな」




俺は自分の万能さに感謝してる。
妹を苦しませたときには万能に産んでくれた両親を恨んでみたりしたこともあった。
でも少しでもノリを幸せにできる。
短所でもあるかもしれないが立派な長所だ。
今の俺はノリを幸せにするためなら自分の持ってる力をなんでも利用できる。
自分の力の使いどころをもう間違えたりしない。

「これが大人ってヤツだ」

ぐりぐりと妹の頭をさらにぐしゃぐしゃにすると、俺は笑った。
妹は迷惑そうに俺の手を払いのけると、すっくと立ち上がった。

「さて、そろそろ下りる準備しようっと」
「なんだ、もっとノロケさせてくれてもいいんだぞ。
 ほれ、何が聞きたいんだ?ん?」
「もういらない。お腹いっぱい」

そりゃ大変だ。
これから父と母とご飯なのに。
俺もまとめておいた荷物を肩にかけると、妹の後を追って歩いた。
自動ドアが開いて、妹が先にホームへ下りていく。
俺も下りようとしたところで、妹がくるりと振り返る。

「なんで同性愛者なんだろうなって兄ちゃん言うけどさ」

先ほどの会話を反芻する。
あぁ、そんなこと言ったな。
俺も口を開こうとして、ぽかんと開けたまま固まってしまった。
妹の顔は泳ぎ終わったときのような笑顔をしていた。






「好きになったんだもん、しょうがないよ」






それから俺の顔を見て、くくっとイヤらしいいつも通りの笑顔を見せると荷物を持って先に駆けて行く。
俺も慌ててホームに下りると、やれやれといった感じで追いかけた。







終わり

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