Lily memo %



あたしもうダメかもしれない16


緩やかになった、と思う。
我ながら険と言うか刺というかそんなものがない。

「おはよう、まっつー」

それぞれお互いの家に帰って、夢心地で。
夢だったんじゃないの?とか思う。
だってこの人今すっごく普通に挨拶してきたし。

「おはよう、委員長」

春ボケたみたいに頭がぼんやりしてなんというかダルい。
嫌なダルさではないけどちょっとするとうわぁんなんて叫びたくなるようなむずがゆさに襲われる。

「や!おはよう、アキ!!」

おはよう、無駄に元気だねノリ。

「昨日は結局どうしたんだ?ん?」
「特に」
「ふーん、そっか」

ちなみにこの「特に」は「特に何もなかったよ」ではなく、
「特に大変なことがたくさんありすぎて話しづらいです」の「特に」だ。
どうやらノリは前者でとらえたらしい。

「ノリは昨晩お楽しみでしたね」
「あー、いや、まぁ…」

おかげで帰って目ぇ冷やして寝たかったのにうるさくて眠れんかったわ。
もう少し声とか配慮してほしい。
いっそ我が家に防音設備が欲しい。

「アーキちゃん!おはよう!」
「おっす」
「おはよう、誠二、巽」

飛びつくようにして挨拶してきた誠二をぺいっと巽に押し返す。
別に操を立ててるわけじゃないけど、まぁ、一応。
いやそもそも昨日のこと自体本当にあったのか…うむぅ。

「ノリ、なんでアキちゃん面白い顔してるの?」
「さぁ」

可愛い女子高生捕まえて何が面白い顔か。
あたしはいたってまじめだ!
コツリと頭に衝撃が当たって振り返る。

「おはよう、桃松」




キタァーーーーーー!!!!!!(((゜Д゜;;))))




昨日のことが事実なら、ここできっともっと盛大な拳があたしに降り注ぐはず…っ!
みどりんのことだ、祝福より先に拳が呻るに違いない!
あたしはガタガタしながら手を頭上に構えた。

「?、なんかやらかしたの、こいつ」
「さぁ、なんかさっきから妙に挙動不審なのよね」

あれ…?
殴られない?
委員長の方を見るけど、委員長は現在黒板を綺麗にしている。




「やっぱり、白昼夢だったのか!」
「あんたの脳内なんていつでも白昼夢でしょうが」




なるほど、言えてるー!
ってそうじゃない。
え、そんなに?そこまであたし末期症状だった?

「あら、みどりん。なんだか元気ないわね」
「あー、まぁねー」

みどりんはふぅと溜息をつくと、なんだかやるせない顔でくってりとあたしの机に突っ伏した。

「どしたの?」
「後でヒナから話があると思うわ。
 あたしも昨日の夜聞いたんだけど…はぁー…」

あれ、やっぱり現実?
公開リンチ?
ボケたあたしの脳はヤケに働かない。
とにかく放課後になるのを待つしかなかった。



















「そっかぁ、ヒナちゃんは一緒に大学行けないのね…」

誠二が寂しそうにつぶやく。
話ってそっちか。
良かったのやら良くなかったのやら。
どっちかっていうとそっちが夢であってほしかったかも。

「でもたった1年だから…」
「1年は長いわよヒナちゃん」
「アメリカから帰った後はみんなの後輩になっちゃうからそれもちょっと寂しいんだけどね」

昨日のことが夢でないなら、それがちょっとじゃなくとても寂しいのだなと思う。
あの委員長があれほど取り乱したんだ。
その寂しさは相当なものだと思う。

「でもま、まだあと半年あるんだし、いっぱい遊ぼうよ、委員長」

ノリがそう爽やかに笑うと、委員長も嬉しそうに笑った。

「委員長がアメリカに行っちまうんだったら鈴城は大学の学科どうすんだ?」
「どうすんだも何も先生とはそれで話をつけちゃったしそのままよ」
「ほんとにごめんね、みどり」

申し訳なさそうに謝る委員長の髪をみどりんがくしゃりと撫でる。
みどりんの顔はそんなに悲しんでる風じゃない。

「しょうがないわよ。それにオノチャンだっているし楽しそうだわ」
「でもみどり大学の成績…」
「それは言わないで」

なんとかするわよ、というみどりんにはある意味哀愁が漂っていた。
けどまぁ、これで全員進路は決まったのかぁ。
なんだか想像がつかないな。
若干弱々しくなっている頭を必死に働かせる。

「1年半後には委員長はバリバリの国際派になってて…」
「どうだろう?」

脳裏にはちょっぴりアメリカライズされた委員長。
金髪…いや、これはないな。
でもまぁ今より大人っぽくなってあたしの知らない言葉をいっぱい喋る委員長。

「みどりんは大学生らしくなってアッシーミッシーミツグ君を抱えてディスコに入り浸り…」
「あんたの大学生イメージ古いわよ」

というのはまぁ冗談で、今よりは大人しくなってオノチャンたちと食べたり遊んだり。
たまに合コンなんかにも行っちゃって大学生を満喫して。
勉強苦しいっていいながら周りと仲良く課題を提出して…。
あとそのころにはあのおっぱいロケットは絶対GすっとばしてHカップを超えてる。

「で、ノリは今よりもさらに好青年になって2代目桃松夏雄になって…」
「俺が夏雄さんみたいになるとは思えないなぁ」

また水泳部に入って兄ちゃんとエンジョイして。
たまにあたしや奈央ちゃんと遊んで。
兄ちゃんの隣で幸せそうに笑ってて…。

「誠二は奈央ちゃんみたいになって、ミスコンとか出ちゃって男の夢を滅多切り…」
「前半はいいけど後半なんだかひどいわね」

もともと社交的な性格の誠二だから本当に奈央ちゃんみたいにいろんな友達に誘われるかも。
そんで今みたいに女の子たちに頼りにされながら男の子たちにちょっぴり優しくしてもらう。
しかも恋愛なんかもしちゃったり…あれ、相手が男しか考えられない。

「巽はたぶん髪を黒く染めて七三に分けてスーツなんか着ちゃって…」
「んで俺だけそんなに激しいイメチェンなんだ」

巽が一番想像つかないなぁ。
意外と女の子と付き合ってヘタレ全開になってノリとかに爆笑されてるかも。
そしてなぜか後輩や同級生の男たちに尊敬を集めまくったり…ダメだ面白いわ。

「なんだか待ち遠しいような今のままがいいような…」
「言うじゃない桃松。そういうあんたはどうなってるのよ」

あたし?
そうだなぁ。

「ボンキュッボンのナイスバディ」
「無理ね」
「超絶なイメチェンを乗り越えて学校のアイドル」
「もっと現実的な未来像はないわけ?」

あるけど…たぶん言ったらリアル過ぎて引くよ?




「毎日エロゲばっかするひきこもり」
「ごめん、聞いた私が悪かったわ」




もうちょっと否定とかフォローとかしてほしかったな。

「でもそれありえ過ぎて怖いわ」
「1年半後にはラブゲのスピンオフ作品であるラブゲ7!とか出るしね」

ちなみにこの7はヒロインの数である。
各ヒロインごとのスピンオフ作品、エルたん好きとしては買わずにはいれない。

「まぁアキには俺たちがいるし」
「そうね、心配なのはヒナだわ。なんたってあっちに行ったら一人っきりだもの」
「でもメールとかくれるんでしょ?」
「もちろん!!」

みどりんはふふーんと笑うと、ピラと手の中に機械をとりだした。

「デジカメ?」
「毎日写真撮ってヒナにメールで送りつけてやろうと思ってね」

さっそくパシャリと委員長をとってみせると、ニヤリと笑った。

「まずは私たちが寂しくないように半年間はヒナばっか撮るわよ!」
「それはちょっと恥ずかしいな」
「そんでヒナがあっちに行ったらみんなを撮りまくるの」

なるほど。
なんというか、割と計画的。
きっと寂しい時はそれでも寂しいけど、でもそれならまぁ平気かな。

「みどりん冴えてる〜」
「でしょ」

みどりんの手からデジカメをとると、画面にはいつも通り緩く笑う委員長。
記念すべき1枚目だったようだ。

「じゃ、いろんな写真を撮れるようにまたどっか行かないとね」

そう言ってみどりんにデジカメを返すと、ぐしゃりと髪をなでられた。

「さすが桃松、わかってんじゃない♪
 変なとこ連れてったら埋めるわよ」
「じゃ、手始めに委員長、ソープ行こっか」
「ヒナ、せーちゃん、タイムカプセル埋めましょ。
 桜の下に埋めるのがいいと思うの」
「みどりん、タイムカプセルに生ものはダメよ」

あたしをシュールストレミングにする気か。




「なんか、未来の話ってだけで寂しくなるなぁ」




ノリがぼそりと漏らした声は、なぜだか全員の心に深く刺さった。
それはみんな感じていたことだ。
楽しみだけど、そのころには今みたいに授業中からなにから一緒ではなくなる。
きっとみんなそれぞれの友達ができる。
委員長の顔が昨日とダブってみえた。

「今だって同じだよ」

しんみりするのは嫌いで、思えば昔からそうだ。
誤魔化して、それでも逃げ切れなくてシリアスやって。
でもそれでも楽しいと思っていれば楽しい気がしたから、そう思い続ける。

「明日、オノチャンとだるまさんが転んだをやるんだ」
「また懐かしい遊びを…」
「そしたらきっとオノチャンと熱い友情が芽生えるかもよ?」

未来なんていつ考えても怖いもの。
明日にはあたしもスカウトされて有名人かもしんないし事故って入院してるかもしんないし。

「そしたら寂しい?ノリ」
「え?あ、いや、どうだろう」

ノリは照れ臭そうに笑うと、曖昧に言葉を濁した。

「巽は?」
「俺ぁ…寂しくねぇなぁ」

どうせ今までと同じだろ、って巽はいつものようにダルそうに言った。
そ、変わんない変わんない。
委員長やみどりんと仲良くなったときみたいに変わんない。
それはきっと、たぶん、愛されてるから。…かな。



「んー、よしっ!カラオケ行きましょ!カラオケ!」



誠二はすっくと立ち上がると、バタバタと巽とノリの背中を押した。

「寂しいなんて思わないほどウザいくらいの関係になればいい話だもの!
 そのためには思い出作りよ!」
「そんでなんでカラオケなんだよ。てめぇが行きたいだけだろ」
「違うわよ!歌声には気持ちが籠るんだから!」
「結局誠二が歌いたいだけ?」
「ノリまでそんなこと言って!」

わいわいと騒ぐ3人組。
うーん、全員男とは思えん。
それはそうと…。

「みどりん、ちょっといい?」
「ん?」

みんなでカラオケに流れようとしたところで少しだけ引きとめる。

「答え合わせをしようかと思って」
「んー?……あぁ、あれね」

そうアレだ。
答えはとても簡単なのに、ひねくれ者なあたしには答えられなかった。




「答えは『あたしのことが大好きだから』」




自惚れにも近い言葉だ。
言うのはもちろん、考えるだけで実は勇気がいる。
そう、自惚れるという行為には勇気がいる。
それが今では口にすらできる。

「正解。遅いのよ、劣等生」
「ひひ」

-ヒナはどうして盗み聞きしていたのでしょう?-

自信を持っているということはどうしてこんなに幸せになれるんだろう。
信じれるということはどうしてこんなに心が救われるんだろう。

盗み聞きっていうのは確実に相手に興味を持っているってことで。

兄ちゃんが盗み聞き常習犯というのはバカだなぁと思いつつ少しだけ誇らしい。
あぁ、あたしも案外、ブラコンだったのか。

「遅いよ二人とも」
「ごめん、ヒナ」
「みどりんの胸は来年にはGカップだね、って話をしてたら遅くなっちゃっおふっ」
「してないわそんな話」

みどりんは好きなだけ殴ると、誠二たちを追っかけて走って行った。
なんとなく残った二人でゆっくり後を追う。

「…ふふ、ボコボコ」
「みどりんったら容赦ないんだから」
「大丈夫?」

そーっと、ほっぺたに触れる手。
んぐ、委員長には危機感が(略)

「委員長も来年にはDカップぐにらいはなってほしいもんだ」
「善処します、でいいかな?」




…。
えーっと。




「委員長、お願いだから突っ込むか逃げるか何か否定的コマンドをしてください…。
 間が持たないです…」
「え、なんで落ち込むの?」

ダメだこの天然兵器。
これが噂のボケ殺しってヤツか…!

「こう、たまにはズバっと言いたいこととかないの、委員長」

セクハラ禁止とかお茶目禁止とか。
アメリカ行ってこの低姿勢でほんと大丈夫なのか、と。

「じゃあ言わせてもらうけど」

あれ、あるの?
昨日のはなかったことに…とか。
いや、そもそも昨日のことはほんとのことかどうか甚だ怪しいし…。
委員長はきゅっと唇を尖らせると、口を開いた。





「今度からみどりと内緒話やめてね。
 私、結構嫉妬深いみたい」





それだけ言うと委員長は前の集団を走って追いかけていった。

「…ぎゃふん」

言ってくれるじゃないのとか昨日のはやっぱ事実ですか、とか。
もうほんといろいろいろいろ…。
あたしもうほんとダメだ、これ以上持たない。

「やっぱりさっさとアメリカ行っちゃえ」

そしたら戻ってくるころにはもうちょっと免疫作っとくから。
委員長の望む関係がどんなものか、いまはまだわからないけど。
でもとりあえず相手の希望にくらいは答えたいと思った。
そうか、こういう気持ちで言ったのかな。

あたしも…



「善処します」



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