Lily memo %



うちの委員長はもうダメかもしれない9


賭けは、不成立。



結局彼女は誰も選ばなかった。



怖かった?
おせっかいだった?
観覧車は一周で終わり、遊園地は閉園。
赤いキーホルダーはいまだ彼女の手の中。
だまりこんだ委員長に、兄ちゃんとノリがあたしを怪しんで殴ったりしたけど。

「あー、遊んだ遊んだ」
「楽しかったですね。ありがとうアキ」
「タダ券だから」

あたしにとってはフリーパス込で18800円の出費だけど。
ここまでしてただの告り損なんてありなのか。

「連れまわしちゃってごめんね、委員長」
「う、ううん、私も、楽しかったから…」

ほんとかい。
あたしとぐるぐる回って楽しかったもんか。
自慢じゃないけどあたしの根暗さったら相当なもんだよ!
そりゃあもう歩いてる途中ずっと右斜め前の巨乳のお姉さんを凝視するほどに…!

「さてと、行きはバラバラだったけど帰りは一緒か」
「まぁみんな行き先一緒ですから」

それもそうか。
うぅん、ちょっと気まずい。
せめて断るなら断るで普通にしててほしいなぁ。
まぁそれは告白した手前言わないけど。
あんまり多くは望んじゃいけないし…。

「ノリ、今度誠二と巽とやりたいことがあんだけどさ」
「なに?アキ」

前を歩いてた二人からノリだけかっさらって兄ちゃんと委員長を後ろに残す。
今日一日ベタベタさせてやったんだ、帰りぐらいはいいでしょ。

「ほんとに、つきあわせてごめんね。目片さん」
「いえ、楽しかったですし…。私こそお邪魔しちゃってごめんなさい」
「いやいやこちらこそ」
「いえいえ」
「いやいやいや」

もうええっつーねん。
あんたがたはアレか、吉●新喜劇のまわしもんか。

「で、アキ。やりたいことって?」
「あー…」

考えてなかった。



「アキさんノリさん珍道中、全国巨乳お姉さん巡りの旅?」
「俺はやらないよ」



でしょうね。
我ながら苦し紛れにしても限度があると思ったよ。

「あー、目片さんはどの乗り物が楽しかった…?」
「私は…」
「もう一度乗りたいヤツとかあったら、またみんなで行こうな」
「もう、一度…」


もう一度。


それっていつのことかな、兄ちゃん。
大学行ってから?
来年は委員長、いないんだよ。
早くて1年半?それとも今年中?

「私…」
「目片さん?」

委員長の足音がしなくなった。
ノリも立ち止まろうとしたけど、あたしはその手を引いて歩く。
振り返らないように、立ち止まらないように。

「アキ?」
「まぁまぁ」

訝しがるノリ。
オロオロする兄ちゃん。

「…お兄さん」

これだけ離れても聞こえちゃう自分の耳が怖い。
地獄耳怖い。

「目片さん?」
「私…、      ……ごめんなさい!お兄さん!!」

委員長が走る音がする。
泣いて帰る気かな。
だったら追いかけ…。





「帰りだけ、妹さんお借りします!!」





掴まれたのはあたしの手。
引っ張られたのは、あたし。

「え?」
「あ、はい、どうぞ」

返事軽っ!?
なんであたし?

「い、委員長?」
「ごめん、ちょっと、付き合って」

そりゃかまいませんけど…。
あれか、慰める係か。
よしこい任せろ。
Bカップでいくらでも慰めてあげよう。




















駅を一つ過ぎて、ポテポテ歩く。
相変わらず手は握られたままだ。
ドナドナのような気分ではないけど連れられた子牛みたいに見えるかも。

でも声をかけるのも躊躇われる。

どうしたの?
何がしたいの?

委員長の気持ちは知ってるのに何がしたいのかわからない。
兄ちゃんが好きなら、その手で兄ちゃんをつかんでも良かったんだよ。

「委員長」

声をかけると、ゆっくり立ち止まった。

「アメリカ行き、悩んでたの…」

ポツリと、いつもの凛とした声はない。
ただ小さく零すように喋っていく。

「2年生の初めに、すでにその話は出てたの。
 英語が得意な人にホームステイさせるって…」

委員長って英語得意だもんなぁ。
まぁそもそも苦手な科目が保健しかないってのがおかしいんだけど。

「私最初は断ってた」

あたしも断ってるだろうなぁ。
あ、それ以前にあたし英語できないや。
腕が白くなりそうなほど強く掴まれている。
笑ってないこと以外はまったくわからない。

「まだみどりと一緒に居たかったし、水泳部楽しいし、
 …まっつーのこと、まだいろいろ知りたかったし」

2年生の最初の方ね。
優しくしたり意地悪したり、委員長からしたらまさに謎だったろうなぁ。



「でも…わからないよ」



ポタポタと音がする。
顔背けて泣かれちゃ拭えないよ。
何が辛いの。
何が欲しいの。
委員長にはそれを伝えられる術がたくさんあるよ。
どうして泣くまで溜めこんだの?

「まっつーのこと知れば知るたびに苦しくなるしっ、
 なんだか良い方向に転がってるのを結局私見てただけだったの。
 みどりはなんだかんだでまっつーに優しいし、
 お兄さんはまっつーとお互いに心の支えになってるしっ」

え、そうなの?
あたしとしては兄ちゃんが心の支えだなんて思ったことないよ!?
兄ちゃんには悪いがあたしは兄ちゃんをダメ人間だと思ってるよ、とても。




「…私、何もできなかった。
 自分が役立たずだったの、辛くて…。
 英語は好きだし、自分の力確かめたいって気持ちもあって…。
 変わりたくてアメリカに行っちゃおうって…」




そっか、何もしてあげられなかったのはあたしだ。
委員長はいつもしっかりしてるし誰かを手伝ったりして、でも自信があるわけじゃなかったんだ。
きっとそれはあたしと一緒。

「委員長は、自分のために誰かを手伝ったりしてたんだ」

コクリと頷く。
委員長のそれはとても小さなもので、日常にうまく溶け込む。
誰かの何かを手伝うのは感謝されたいから。
感謝されたいのは自信がないから。

あたしも一緒。
みどりんと一緒に居て楽なのはお互い様と思えるから。
手伝ったり手伝われたり。
彼女の中には確かに自分がいる。
これがきっと委員長も同じ気持ちで、あたしよりうまく隠されてただけ。

「留学して、もっと頼りになれる自分になりたかったの」

他人に好かれる自分が、自分の好きな自分。
嫌われることを好む人なんてそういないはずだ。
ましてやあたしたちはまだ子ども。

「でもその決断が今、辛いよ」

ぐっと目まで瞑り始めた委員長。
さっきからボロボロ零れる涙は綺麗で、正直なんだかもったいない気分だ。

「私、みどり以外に本当に頼れる友達っていなくって…」

それは委員長が顔色を伺いまくってたから。

「でもまっつーのおかげで何もしてないのに私の周りが人でいっぱいで…」

何もしてないってことはなかったと思うけど。
あたしはただ周りの委員長の評価を正しいものに変えただけだ。
『便利な人』じゃなくて『良い人』にしただけ。

「嬉しくって、毎日楽しくって。
 でもその中でやっぱりまっつーに好かれたいって思ったの。
 難しいし、全然わかんない人だし、怖いけど」

怖かったの?それは意外。
そんな素振りみせずにワンワン尻尾振って懐いてたような気がするんだけど…。






「でも気付いたら好きになってたのは私で…」






え。

「どうしたらいいかわかんないのに、誰にも相談できないし…っ」

えぇ?

「せめて一人でいつもがんばってるまっつーのために頼りになりたくって、
 でもなれないからっ…!」

…落ち着こう。
Likeだ。好き好き光線マシーンの委員長のことだしどうせLikeだ。
真っ白な頭を軽くして軽くして…。

「アメリカ決めたのに…こんなことするから…!
 あんなこと…言うから…っ」

ど、どれだ。こんなことあんなことってどれだ。
そんな変なことした?
ダメだ全然落ち着いてないあたし!
泣かすのは得意だけど泣かれるのは苦手なんだよー。

「そ、んなひどいことした?」

気付けばあたしの声は少しかすれてる。


「したっ!」


もうヤケなのか、顔を真っ赤にして泣いたまま怒った顔であたしに詰め寄る。
涙でボロボロの顔はいつもの委員長らしくなく幼くてあたしはまた困る。
あたしもたぶん、変な顔してるんだろうなぁ。

「遊園地なんかに誘っちゃうしっ」

えー、嫌だったんですか?

「他の人誘わないしっ!」

あれ、やっぱりみんな一緒が良かった?

「お兄さんたちのほうばっか見てるし、たまに胸の大きいお姉さんみてるし!」

兄ちゃんたちを見てたのは委員長が見るように仕向けるためだけど…。
胸の大きいお姉さんは…察してくれい。目を背けられなかったんだよ。

「観覧車…」

急に勢いをなくして、あたしの腕を離す。
またうつむいてしまって表情がわからない。



「お兄さんとくっつけたがるくせに、私のこと好きだって言った…」



気づいてはいたのか。
兄ちゃんとくっつけようとしてたのは、委員長にもしたいことさせたかったからだよ。
もしかしてあたし、また方法間違った?
放っといてほしかった?

「ずるいよ…。わかんない、まっつーのこと全然わかんない…」

あたしも全然わかんない。
きっと委員長の心は今ぐちゃぐちゃで、それがそのまま口から零れてるんだ。

「アメリカ、行きたくない」

駄々っ子みたいになった委員長。
これが本当の委員長なのかな。
いつもは無理してた?
どれが本当なのかな。

「1年の間に、私が力をつけても、まっつーはその間にもっと力つけてるかもしれない」

まぁ、成長しない気はないけど。
そもそもあたしは委員長よりデキた人間じゃないよ?

「そしたらまっつーは、私のこと忘れてるかもしれない」
「それはないけど…」

さすがにねぇ。

「本当に?本当に私のこと好き?」
「う、うん、そりゃあ好きだけど」
「ほら、まっつーってば簡単に言うもん」

簡単?

「私、もっとまっつーのこと好き。
 たぶんまっつーがウザいって思うかもしれないくらい、好き」

ボロボロ流れる涙が嘘だとは思えない。
いや、でも…これは…。




「ヤダよ、離れたくない…っ、もっとまっつーと一緒に居たい…!
 離れてる間に誰かにとられたくない…!
 私、アメリカ行きたくない…っ!!」




あ、れ。

「委員長」
「…何?」

子どもみたいにすんと鼻をならした委員長にガリガリと首をかきながら目線を合わせる。

「もしかしてなんだけど」
「?」






「あたしのこと、好き?」






わぁ、予想以上に恥ずかしいセリフ出た。
言ってから自分で赤面する。
なんだか自惚れてるみたいだ。

「さっきからそう言ってるでしょ!?」
「あぁう、そうじゃなくて…いや、そうなのかな…」

あたしが聞きたいのはそうじゃなくて…。
掴みかかってきそうな委員長の両手首をやんわりと握って目を見る。
手は涙でベタベタしていたけど、嫌じゃない。

「疑ってるの…?」
「ううん、そういうことでもない」
「…」
「そうじゃなくて…」

あぁ、言葉がつっかえてなかなか出てこない。
どうして肝心なとこでいつも口下手なのかな、情けない。
これはやっぱり、あの兄の遺伝だろうか。
それとも委員長と違って勉強ができないせい?

「と、友達としてかどうか、ってこと、なんだけど」

どうしてこう否定から出てくるのか。
これは拒否されるのが怖い名残だね、うん。
言葉が耳に届いたのか、時間差で委員長はついに耳まで赤く染まった。
そしてまた泣きそうに歪む。





「友達なら、嫉妬なんかしないよ…」





しばらく理解できなくて。
委員長の手首を掴んだまま、ぼんやり固まった。

「まっつーは、友達としての、その、好き、だったの…?」

黙ってたせいで、不安そうに声が沈んだ。

「あ、いや」
「観覧車で、あんな風に言うから、恋愛としてって言うし、私はそういう意味だと思って…」

伝わってた。
届いてた。
鈍だからどんな言い方しても届かないんじゃないかと思ってた。

「あたしは、そういう意味、だけど…」
「私もそういう意味だけど…」

…嘘だぁ。
いや、ここまでして盛大な「ドッキリでした☆」ってことはないだろうけど…。
心がストンと落ちていかない。
気持ちがまだ凝り固まって動いてくれない。

「えっと委員長」
「な、に?」
「あたし女の子、委員長も女の子、わかってる?」
「知ってるけど」

あ、そう?
いや、いやいや。

「まっつー、同性愛者なんじゃなかったっけ?」
「そうだけど」

あたしはそうだけど。

「委員長、同性愛者じゃないでしょ?」
「そうだけど」

そうだよね。



「でも好きになったんだもの、しょうがないじゃない」



逆切れ気味に言われましても。
顔真っ赤で怖くないよ。
っていうか同性愛者なら誰しも持つ悩みをさらっと「しょうがない」で流しやがった。
なんかあたしもちょっとムカっとしてきた。

「大体委員長兄ちゃんが好きだったんじゃないの?」
「あー!やっぱりそんなこと考えてたんだ!
 薄々そうじゃないかと思ってたんだよね、なんか変にくっつけようとするし!」
「だってしょうがないじゃんか!あんたのお母さんがそう言ったんだから!」
「えぇ!?お母さんまっつーの話したんじゃないの!?」

してないよ。
ガッツリ兄ちゃんのほう見て大好きな桃松さんって言ったよ!
桃松は桃松でも自己紹介とかで(兄)って付くほうだったよ!
そもそも委員長があたしを好きなら他にも反応してくれても良かったとこいっぱいあったはずだ!

「ずっと昔にあたしがイタズラしたときだって逃げたじゃんか!」
「イタズラ?」
「学校のホームページの手伝いしたとき!
 無防備に二人っきりになると襲うぞって言ったとき!」

そう言うとまた委員長の顔がシュワッと赤くなった。

「あれは!…だ、だって、好きとかそういう段階的なのが一切無しだったし…、
 高校生だし、まだ早いし…す、好きだって自覚したのだってもっとずっと後だったし……」

だんだん尻すぼみにちっちゃくなっていく声。
そうだった、この人ってば少女漫画大好きだった。

「なにそれ。だったら好き合ってたら襲われてもかまわなかったわけ?」

怒りながらそう言うと、ふいっと顔を逸らされた。
いつのまにか離れていた手はぐっと拳を握っている。
ほら、やっぱりそんなこと…。





「いいよ、まっつーだったら」





限界まで赤くなった顔。
ぷるぷると震える唇。
困ったみたいに寄せられた眉。
あぁもう、どうしてこの子はこんなに。

「…くそう。なんでこんなの好きになったんだろ…」
「こんなのってひどいなぁ」
「ヤケになってアメリカ行っちゃうし、ヤケになって告白しだすし」
「まっつーに言われたくないな」

理想は頭が悪くて胸のでかい女の子。
きっとそんな相手だったらこんなに悩むことなかった。
こんなに振り回されることなかったのに。
こんなに自分が夢中になることなかったのに。

「…ねぇ」
「ん?」

音がしてポケットから赤く街灯に光るキーホルダーが姿を現す。
チャリとあたしの手に握らせると、顔を真っ赤にしたまま目をまっすぐに見つめてきた。

「お願いごと、今ここでしてもいい?」
「いいけど…」

なんだろうと見つめ返すと、へにゃりと困ったみたいに笑った。




「1年間会えないけど、私のこと好きでいてほしいな」




これはたぶん、精一杯の強がりだ。
アメリカに行って不安になるのはあたしじゃない、彼女だ。
置いてかれるのは不安だけど、あたしの周りにはやっぱりいろんな人がいて、支えてくれる。

「メールする」

精一杯でそんな言葉しか出ない。
かっこ悪い。
でも彼女はそんな言葉でも十分だったらしい。

「うん、電話もたまにしてね」
「お互い様だよ」
「うん、私もする」

感極まったらしい委員長はまた泣きだした。
バカだなぁ、留学するまであと半年もあるのに。
今からそんなこと言ってたら本当に1年大丈夫?なんて思ってしまう。
指で涙をぬぐってやると、その手をとって祈るみたいにもっと泣き始めた。
そんな風にされたら、さすがにあたしだって泣きそうになる。
嬉しくって泣く、なんて本当にあるんだなぁ。
あ、そっか。これが…




「…幸せ、なのかなぁ」




そう言うと、委員長は嬉しそうに「私もそうかも」と笑った。


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