Lily memo %



あたしもうダメかもしれない15



「あ、キスした」

振り返って委員長を見ると、ピクンと肩が反応する。
顔は伏せてるからどんな顔してるかわかんない。
ねぇ、委員長は今日一日、どんな気持ちだった?
悔しい?
それとも苦しい?
わかるよ、ちょっとだけ。

「委員長さ」
「な、に…?」

少しだけ覗く耳が真っ赤だ。
夜景、見なきゃもったいないのに。
観覧車って夜景を見るもんじゃないの?
あたしも少しぐらいは甘い雰囲気とやらを味わってみたかったなぁ。
でもそれをブチ壊しちゃうのがあたしらしい。
すっと目を細めると、委員長にまっすぐ声を届けた。




「アメリカ行っちゃうの?」











…数日前。











進路相談の後。
誰を手伝うでもなく、残っている委員長を見た。
どうしたのかな、と思ってると王子様が迎えにきた。

「すいません、わざわざ待っていただいて…」
「ううん、話って何かな」

動けない。
ここが廊下なら走って逃げれたのに。




どうしてあたしは今日に限って、かくれんぼを始めたんだろう。




正直数時間前のあたしを殴りたい。むしろタコ殴りにして本物のタコのようにしてやりたい。
そう、オノチャンの驚くべき一言により、ノリと巽と誠二とあたしはなぜかかくれんぼ。

-まっつー、遊ぼうぜ!-
-いいよ、カラオケ?ボーリング?-
-んー、もっとアクティブなやつ-

カラオケやボーリングよりアクティブなやつってなんじゃい。

-もっとさぁ、みんなでわーってなるやつよ-
-あぁ、わかった!かくれんぼね!-
-それだ!-

全然それじゃないよ、オノチャン。
かくれんぼとかわーってならないよ。
しかも学校全域指定とかどれだけハードなんだよ。
そもそも高校生にもなってかくれんぼとかみんな本気出しちゃうに決まってるじゃんか…。
大体なんで教室の掃除用具入れに隠れちゃったかなー、あたし。
臭い、汚い、キツイ、の3Kだよ。

「大事な話、なんですが…」
「うん」

委員長、そこでもう感づいていい場所ですぜ。
にこやかに「うん」とか言ってる場合?
まさか乗り気なの?
いや、委員長すっごく鈍だしな。

「あー、その」

男らしくないなー。言えよ、言っちゃいなYO。
そしたらあたしがここからバーンと出て「ビックリカメラでした!」とか言って場を盛り上げて…ダメかさすがに。

「め、目片さん!」
「うん」




「好きです!」




う、実際に聞くと辛いなぁ。

「うん、私も好きだよ?」

うわ。
憐れ武下。
いや、今回は本当にかわいそう。

「め、目片さん本当ですか!?」

武下、喜んでるとこ悪いが、それは違う好きだよたぶん。
理解してないだけだよ。

「うん。私も前から…」

え?マジで?
この雰囲気は…あれれ、兄ちゃんじゃないの…?
というかここであたしにトドメを差すのは…。




「弟に似てて可愛いと思ってたよ」




あんたの弟はイカついな。
隙間から見える武下の顔はそれはもう可哀想な感じだ。

「僕は…」

あれ。
おやおや。




「僕は、一人の女性として、あなたが好きです」




それ高校生の告白としてはどんなんだろうって臭いセリフな気がするけど…。
でもさすがに委員長にも伝わったらしい。
理解して真っ赤になる委員長。
…やっぱり男の子からの告白は、嬉しい?

「あ、ありがと…」

でもしばらくして、委員長は顔を暗くした。

「でも、ごめんなさい」

兄ちゃんいるしなぁ。
…う、あたしにもトドメを刺したな。
そんなに兄がいいのか。
自分の気持ちが解ってると辛さ半減かと思ったけど、そうでもないや。

「いえ、こちらこそ急に…」
「ううん、…武下君には早めに伝えとくね」

委員長は悲しそうに笑った。





「私、アメリカ留学するんだ」





え。
声をあげかけて自分であわてて塞いだ。

…聞いてないよ、そんなの。

「みどりにもまだ言ってないけど、こないだの進路相談でもう決まっちゃったから…」
「目片さん」
「卒業したら、みんなに会えなくなっちゃうんだ」
「目片さん!」

武下は下を向いてぼそぼそしゃべる委員長の肩をぐっと掴んだ。
あいつ、あんなに真剣な顔できるんだ。

「僕はそんなの気にしません!
 何年だって待ってみせます!」
「…ごめん、武下君」
「それが理由だって言うなら…!」
「ごめんなさい!!」

自分にも言い聞かせるように大きな声。
ときたまにキラリと光るのは涙かな。
委員長は息を吸うと、震える声で静かに言った。




「私、好きな人いるの…」




自分が言われたわけじゃないのに心が痛い。
こんなことなら、もっと早く教室を出てけば良かった。
武下が来た時点で逃げとけばよかったんだ。

「そう…ですか」

これにはさすがに武下もショックだったらしい。
肩を掴んでた手をぶらりと下げると、爽やかに笑った。

「その人は、あなたを幸せにしてくれますか?」
「…どうかな。でも私は、隣に居れるだけで、たぶん幸せだと思う」

そこまで…?
そんなに好き?あんなヤツ。

「僕は、いつだってあなたを想っています。
 …もし辛くなったらいつだって僕を頼ってください」
「武下君…」
「今は潔く諦めます。でも、いつか、もっともっと頼れる男になります。
 …ありがとうございました」

スーパー君はこんなときでも爽やかだ。
…あたしは、そう潔くはいかないみたい。
苦しい、辛い、痛い。
自分の中で熱い気持ちがバタバタ暴れまわる。

「本当に、ごめんなさい…」

武下が帰っていっても、委員長はそのままそこに佇んでいた。
あたしもここから出られないでいる。
…辛いなぁ。

アメリカ、遠いなぁ。

どれぐらいの期間行くのかとか、誰と行くのかとか、誰が知ってるのかとか。
聞きたいことがぐるぐる浮かんでくる。
その日、帰ったらすぐ寝た。
起きたら奈央ちゃんがいて、気持ちが楽になった。
これはきっと、たぶん、みどりんとか、みんなのおかげ。



















「なんで、知ってるの…?」

ただただ目を見開いて、驚いたみたいにこっちを見る。

「ごめん、聞く気はなかったんだけどさ…」
「武下君との会話、聞いてたの?」

こくりとうなづくと、そっかぁとまた顔を伏せた。

「委員長、アメリカどれぐらい行くの?」
「1年。卒業してすぐに…」

そっか。
1年は結構、短いようで長いね。
1年も離れていれば、人なんて簡単に変わってる。

「ねぇ、やりのこしたことって、ない?」
「やりのこした、こと?」

委員長の隣に座って、兄ちゃんたちの方を見る。
相変わらずイチャイチャしてる。

「…例えば、好きな人、とか」

また委員長の肩がピクリと震えた。

遊園地のチケットは自分で買った。
アルバイトで稼いだお金で4枚。
これがあたしのあげられる最後のチャンス、かもしれない。
卒業まで時間はまだまだある。
でも委員長が兄ちゃんと会える時間なんて限られてる。
二人きりになれるチャンスなんてそれこそ、出来るかどうかわからない。
だからあたしは"最後"を作ることにした。

「観覧車、もう一周しようかと思うんだ」

もう賭けなんて関係ないのかもしれない。
ただ彼女のために何かをしたいと思った。

結局、巽や誠二のときと一緒だ。

助けたい、なんて勝手な考えを持って、最終的に兄に助けを求める。
それが悔しいとも思うけど、どうしようもない。
あたしは弱くはないけど強くもない。


ただの高校生で、何の権力も力もない。


出来るのはきっかけだけでも作る協力だけ。
それだけでもできるなら、したい。
そう思うのは、やっぱりエゴ?

「誰ともう一周したい?」

彼女のポケットから赤いキーホルダーが見える。
それを手に取って、握らせる。
今日一日、ノリとイチャついてる兄ちゃんを見てイラついた?
あたしなら、委員長と誰かが一日イチャついてるのを見ればムカつく。
何がなんでも欲しくなる。

それで「兄ともう一度観覧車に乗りたい」と言ってほしい。
言えば委員長の負けになるけれど。

一つだけの不正解は、そう、あたしを使って兄ちゃんを求めること。

でも今、たぶんそれを言われてもあたしは怒れない。
本気で手伝うし、…ちゃんと身を引く、と思う。
結局、信頼なんて勝手にできているもんなんだ。
賭けで測れるものじゃなかった。

「もう、一周…」
「うん」

我ながらお人よし、かも。
赤いキーホルダーは結局、どれを選んでもあたしの負けになってたみたい。
まるで両面表のコインみたいだ。
ずるいな、委員長。バカだな、あたし。

「選んで、一緒に居たい人を」
「…一緒に…」

後悔しないで。
怖がらないで。
ノリがいるからフラれるとか、考えないで。


好きだった、ということを伝えてやってよ。


それだけで好きという気持ちは昇華する。
良い思い出にすることができる。
あの時言っておけば、なんて後悔はついてまわらない。

「もうすぐ、観覧車終わっちゃうね」
「…うん」
「どうする?」

相変わらずうつむいたままの委員長。
今からうつむいてると、この後耐えきれらんないよ。

「ところで委員長」
「な、に?」

手を握る。
嘘ではないことを伝えるために。
委員長に"最後"をあげる。
これを言ってしまえば、きっと委員長は、もうあたしを通して兄ちゃんには会えない。






「あたし、委員長が好きだよ。恋愛として、好き」






これでもう、罪悪感に弱い委員長はあたしの傍で『自分の好きな人』に笑いかけるなんてできない。
あたしと遊ぶついでに兄ちゃんを呼べない。
委員長が良い人だからこそのあたしの作戦。

委員長に言ったことは、そのまま自分に言った言葉でもある。

後悔しないで。
怖がらないで。

信じるための賭けをしたくせに、最初から信頼しかしてなかったあたし。
きっと彼女は、兄のためにあたしと付き合ったりしないし、あたしを踏み台だなんて思っていない。
知ってるのに試したのは、ただ自分に自信がなかっただけ。
不安な気持ちをかき消すための八つ当たり。
試したのは委員長じゃなくて自分の気持ち。

手が熱い。
顔も熱い。

怖くないなんて嘘かもしれない。
不思議と、不安であっても怖くはない。
それはもしかしたら、委員長のために自分の気持ちを利用して押し出したせいかもしれない。
でも確かにわかることはフラれてもあたしの周りには誰かがいる。
委員長の隣に居られないのは寂しいけど、決して独りじゃない。

教えてくれたのは、みんな。

きっとみどりんは怒るし、ノリたちは呆れる。
奈央ちゃんは相変わらずだろうし、きっと美幸もいつも通り。


なにより、あたしにはあのシスコン駄兄がいる。


独りになんてなれるはずがなかったんだ。
こんなに大きくなって気付くなんて、やっぱりバカだわ私。

ブザーが鳴る。
観覧車が下に着く。
さぁ、委員長、答えを出して。





誰と一緒に居たい?




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