「妹よ」
「なんだね、兄ちゃん」
「これは俺、どうすりゃいいんだ」
「ご自由に」
たどり着いた先は遊園地。
妹が「バイト先でもらったしあげる」と言ってくれたタダ券2枚。
もちろん俺はノリを誘った。
待ち合わせという行為を楽しむため、家からじゃなくてわざわざ現地で待ち合わせた。
デートだぜ!と意気込んで服までバッチリ決めて着いた待ち合わせ場所には…。
「いよぅ兄ちゃん!」
妹がいた。
崩れそうな体を支えなんとか平常心を保って問うた答えがさっきのものだ。
コブつきデートなんて…俺どんだけシスコンだとノリに言われなきゃなんねぇんだ。
「あ、ご心配なく。
二人でイチャイチャしててくださいな」
「そうもいかないよ、アキ」
「ノリも兄ちゃんと一緒に遊園地なんて久しぶりでしょ?
そりゃあもうイチャイチャしなよ。
こっちが引くぐらいイチャイチャしたらいいよ!」
イチャイチャイチャイチャ…なんなんだ。
ヤケ…というわけでもなさそうだ。
妹はもうわざとらしいぐらい満面の笑みで俺たちにイチャイチャしろと言ってくる。
「アキはどうするんだ。
まさか一人で楽しむ気か?」
「ヤダなぁ。そんなことしたら遊園地中のレディがあたしに寄ってきちゃうでしょ?」
寝言は寝て言え。
「大丈夫、あたしにもお相手がいるから」
「あん?」
「遅れてすいません!」
これは、また…。
パステル色を基調とした可愛らしい印象なおかつスポーティーに下はジーパンといった風貌の…。
まさか、妹が誘ったのか?
「委員長」
「ごめんね。せっかく誘ってくれたのに遅れたりして…」
「大丈夫、まだ待ち合わせの10分前だよ」
「服選んでたらギリギリになっちゃった」
そう、目片さんだ。
ダブルデート?
いや、そんなはずがない。
妹のことだからそろそろあの柱から奈央が出てきたりあの階段から誠二や巽が下りてきたり…。
「さ、全員揃ったし入場しよっかー」
下りてきたり…。
「…4人?」
「そうだよノリ」
俺は右手をペタリとアキの額に当てた。
「ノリ、平熱だ」
「まさか」
「兄ちゃんとノリはあたしをなんだと思ってるのかナー…」
平熱だというなら何を企んでいるんだ?
「まぁまぁ、兄ちゃんたちは二人で好きなの乗りなよ。
あたしらはその後ろをまったりついていくから」
後ろを?
遊園地なら率先してジェットコースターを乗り回し、若い女の子を目線と足で追っかけるアキが?
「ノリ、俺の頬をつねってくれ」
「はい」
「いだだだだ!」
本当につねるやつがあるか!
ノリ、最近愛が冷たいぞ。
「じゃあまぁ、遠慮なく行くか」
「はい」
「あ、目片さんは苦手な乗り物とか…」
「兄ちゃんはそんなこと気にせずにノリと二人で前を歩きなさいな。
苦手なものがあったら乗らないだけだし」
「そうか?」
なにかがおかしい。
む、まさか二人は付き合いだしたのか?
ノリに目線で問うと、ふるふると首を振られた。
そうか、ノリもわからないか。
「私、やっぱりお邪魔だったかな…?」
「いやいや、来てと頼んだのはあたしですし。
ほら委員長、ピ●ポ君だよー」
「そんなことで誤魔化され……●ーポ君!?」
目片さんの叫びに俺は噴いた。
なんで遊園地にピー●君がいるんだよ!?
ありゃポリスメンのマスコットキャラクターだろ!?
休日ということもあってかさすがに人が多い。
ノリと手を繋いで「はぐれないためだよ」なんてジゴロ気取りたいところだが…。
チラリ
後ろを気にしてできない…。
これが目片さんではなく他の人なら余裕で手を繋いで見せるが、他人様だしなぁ。
目片さんがいくら俺たちの関係を知ってらっしゃるとはいえさすがにまずいよな。
ヴヴヴヴヴ
俺の携帯が振動した。
メールか?
パカリと開けると、妹からだった。
『YOU、手ぇつないじゃいなYO!』
お前どこのジャニーさんだよ。
「メールですか?」
「あぁ、後ろのバカから」
「アキが?」
メールの内容を見せると、ノリはシュボッと顔を赤くした。
「ほんとうに…何をたくらんでるんでしょう…」
「さぁなぁ」
しかしこれは、渡りに船、か?
いや、罠なのか?
ここはどっちが正解か…。
「な、夏雄さん」
「ん?」
「はぐれると…いけませんから…」
きゅっと握られた俺より細い手。
こ、恋人、繋ぎじゃない、のが、また、なんとも…
「夏雄さん!鼻血鼻血!」
「おぉう」
俺の頭がノリへの熱でオーバーヒートしていたらしい。
「いいのか?」
「え?」
「周りの目、とか…」
普段こういうのを気にするのはノリのほうだ。
俺としては嬉しいんだが…。
「夏雄さんは、嫌、ですか?」
「全然っ」
「なら、いいです」
…可愛いなぁ。
俺もうこのまま乗り物乗らずに散歩しててもいいや。
しかしまぁ、ノリもせっかくの遊園地だから楽しみたいよな!
「よし、ノリ!まずはジェットコースターに行こう!」
「はい!」
手をぐんぐん引っ張って歩きだす。
絶好調だ!今日は良い日だーー!!!
絶叫系を一つ残らず楽しんだところで、お待ちかねのアレだ。
カップルといえばこれ。
やらなきゃいけないだろ。
「コーヒーカップねぇ。兄ちゃんもまた絶妙なものを…」
「定番だよ定番!カップルが定番をやらなくてどうするんだ!」
ちゃっかり全部についてきてる娘っ子二人も、コーヒーカップに乗るらしい。
俺たちの後ろで本当にまったりと並んでいる。
「委員長、ごめんね。委員長も乗りたいものあったら言ってくれよ」
「大丈夫、楽しいよ。野沢君」
おぉ…爽やかな風が…。
「お次どうぞー」
ガチャンと柵が開いて外側のコーヒーカップに座る。
妹たちは少し離れた場所に座った。
…別に隣でいいのに。
俺たちに気を使ってるのか?
コーヒーカップが動き始めると、また二人の世界だ。
ノリと目線を合わせると、恥ずかしそうにはにかんだ。
…今日は本当に良い日だなぁ。
「委員長、コーヒーカップってどういう乗り物だと思う?」
「え?あ、うん。その…カップルで、乗るもの、かな…」
どういう羞恥プレイを目片さんにさせてるんだ。
地獄耳の俺がちょっとにくいぜ。
目片さんも真っ赤になりながら答えて…可愛らしいな。
まぁ俺のノリの方が倍可愛いがな。
「ふっ、甘いね。甘いよ委員長。甘すぎるね」
「3回も言われると傷つくなぁ」
「真の楽しみ方は………こうさぁ!!」
「あぁあぁぁ回しすぎ!回しすぎ〜!!」
「速いなー!!わはははは!!」
「わははじゃなくて、ストップ!ストップ!!」
他のカップルの雰囲気までブチ壊しにしてやるなよ…。
怖くって周りのカップ止まってんじゃねーか。
「アキ、楽しそうですね」
ノリ、お前そのコメントは目片さんに冷たすぎるだろ。
もしかしてやりたいのか?
ノリもあれをやりたいのか?
…俺も男だ、腹をくくろう。
「わかったよ、ノリ」
「え?」
「お前のためなら俺は…恋人としての雰囲気を壊すことも躊躇わない…!!!」
手首のスナップを利かせ、俺は思いっきりハンドルを回した。
「ちょっ!夏雄さ…っ!?うわぁあああああ!!!!?」
「ノリー、楽しいかー」
「なんでそんなやりきった顔してるんですか!今すぐ止めてくださ…あぁああああ」
あー、目が回る。
ノリが楽しんでるなら、それが俺にとっての幸せさ…。
たとえ俺が望んでた甘い雰囲気を壊してもお前が楽しんでるなら、いいんだよ。
お説教タイム。
「とにかく!もうしちゃダメですからね!」
「まっつーもだよ。係員のお兄さんも困ってたみたいだし…」
「「ごめんなさい…」」
仲良く妹と怒られた。
おかしいな、どうしてこうなったんだか。
「兄ちゃんはハシャギ過ぎなんだよ」
「お前にだけは言われたくなかったよ」
そもそもお前があんなことをしなければ俺はこうはならなかったはずだよ、妹よ。
「あれ、もう結構暗いね」
「まぁ結構楽しんだもんなぁ」
木造ジェットコースターに高いことで有名なジェットコースター。
お化け屋敷にメリーゴーランドに急流滑り…。他にもいろいろ。
お化け屋敷は途中で苦手なアキが放心するという事件が起きたが、目片さんがちゃんと拾ってくれた。
なんであいつはお化け屋敷嫌いなくせに入りたがるんだか…。
「ま、最後はアレですな」
「もちろんあれでしょう」
ふふふと妹と笑うと、若干ノリに引かれた。
「見ろよ、ノリ。綺麗だな〜」
「はい」
最後といえば観覧車だ。
恋人としてこれは外せないね。
たとえ高所恐怖症だったとしても漏らしてでも乗るぞ俺は。
「夏雄さん」
「ん?」
「俺、来年からはまた夏雄さんの後輩です」
照れたように、でも不安そうに話をきりだしたノリ。
「いろいろ考えてはみたんですけど、工学部だって楽しそうだし…」
前に言っておいたのだ。
無理して俺と同じとこ選ぶなよ、と。
大学で道を探すということもあるが、実際大学を選んだ時には道が決まってしまうということもある。
教わる内容の深く狭くなる大学というものは本当に単純には決められない。
しんどい授業ばかりというのは周りに誰がいたって本気でしんどいもんだ。
ノリには俺が居るからという理由で無理してほしくない。
「俺も国語とか社会とかよりは数学や物理とかが好きだし…。
夏雄さんもそうですけど、俺やっぱりアキたちとまだわいわいやってたいんです。
…ダメ、ですか?」
俺は首を横に振って、ノリの隣に座った。
「いいと思うよ。考えてだしてくれた結果ならいいんだ。
俺だってノリと一緒に居たい。…でも、俺はノリと違って進路を決める時に自由だったからな。
だから進路に関してのノリの気持ちとかあんまりわからないんだ。
でも無理はさせたくなかった」
ノリの髪を梳いてやる。
「俺は、夏雄さんの敷いたレールを歩いてる気はありませんよ」
「…あぁ」
「俺、夏雄さんの隣を歩いてますから」
ノリにはいつだって驚かされる。
どこで覚えたんだかわからない言葉や、どこで練習したんだかと思う仕草。
どこを見たって愛しくてたまらない。
妹にはこんな気持ち、あるんだろうか。
「ノリ」
「…ん」
抱きしめてやると、甘えた声を出してくれる。
しっかり者のノリも好きで、たまに恥ずかしさとかで俺を押し返すノリも好きだ。
嫌なところも苦手なところも、ノリなら全部愛しく思える。
こんなに幸せってありなんだろうか。
なぁ、お前は今日どんな気持ちだったんだ、アキ。
俺は幸せで死にそうだ。
感情が昂ぶって泣くかもしれない。
どうして俺は兄なんだろう。
俺が女の子かもしくはあいつが男の子なら、俺がこんな気持ちにさせてやれたかもしれないのに。
でも俺は男で良かったと思う。
俺の相手がノリで良かったと思う。
「ノリ、好きだ」
「…俺も、好きです」
観覧車のてっぺんで、俺たちはこっそりと顔を近づけた。