夢を見た。
それがなんというか…すごく、疲れた。
精神的苦痛というかなんというか。
ぐるぐると自分の周りを天使と悪魔な小さな自分がまわっている。
…なぜかスキップで。
いや、スキップはいいんだけど…、でもキャラ違うくない?なんでスキップ?
っていうか天使と悪魔なら飛べよ。
『怖いことなんて何もないじゃん、楽しくやろうよ〜』
『ダメだよ、また前に後戻りだよ〜』
『いいじゃないの、嫌われても楽しくやってきただろ〜』
『だからそれは楽しいんじゃないって教えられただろ〜』
会話が天使と悪魔らしく真面目なのはいいけどやっぱりスキップやめてくれないかな。
すっごい気が散るんだけど。
喧嘩するならスキップやめなよ。
あぁぁ、なんか、自分の大事な何かが崩壊するような気がする。
「どっちの言うことも聞くから、す、スキップやめてください」
『どっちの言うこともとか欲張りだなまったく』
『そうだそうだ!どっちかに決めろ!』
うわ、なんで天使からも悪魔からも怒られてんの?
っていうか怒りながらスキップすんな!
さっきからちょこまかちょこまかと!ぐわぁああ!!
「…まっつー?」
んわー!なんか知らんが委員長の声もする気がするー!
なんて夢だ!これでスキップする委員長まで出てきたら完全にキャラ崩壊だよ!
わー、やめてやめて!別に構わないけど気分的にやめてぇーー!!
「まっつー!」
大きな声にビクリと肩を跳ね上げると、目の前いっぱいに委員長の顔。
「ぎゃー!」
「人の顔見て悲鳴あげるなんてひどい…」
「あ、ごめん。つい」
えーっと?
よし、状況を整理しよう。
あたしの頭の周りを天使と悪魔が良い争いをしながらスキップしていた。
そして委員長の声がしてそして委員長のドアップだ。
うん、おっけ。全然わかんない。
「あのー…」
「ん、大丈夫?頭痛い?…うなされてたよ」
「あー、スキップが…」
頭?
そういえば鈍いズキズキとした痛みがおでこに…。
あー、思い出してきた。
というより委員長の体操服で思い出した。
今は確か体育の時間だ。
ソフトボールでオノチャンのキャッチャーをすることになったあたしに確かビッグインパクトが起きたんじゃなかったっけ。
「びっくりしたよ?バウンドした球をおでこで受けるんだもん」
好きでやったんじゃないやい!
バウンドする前にミットで下手に取ろうとしたらミットをバウンドしてあたしの頭に向かってきたんだ!
あれはあの安物の使い古されたミットが悪い。
あたしがモンスターペアレンツなら学校側に今すぐ体育で使う用具の新品化を求めるわ。
「あー、もしかしてあたし気絶したの?」
「うん、飛んできた先生が軽い脳震盪だから木陰で休ませといてやれって」
んー、なるほど。
それであたしは学級委員長様のふとももを堪能できているわけだ。
さっきから思ってたけどひひひひ膝枕なななんですよねねねね。
「ごめん、もう大丈夫だし…」
「んー、まっつー」
「?」
慌てて起き上ろうかとすると、委員長に軽く胸元を押さえられた。
右手の人差し指を口元にあてると、イタズラっぽく「しーっ」と言った。
「今日は暑いし、せっかくだからもうちょっとここで休んでようよ」
委員長でもサボることあるんだ。
…あたし顔赤くないかな。
たぶんこれは暑さのせい、だいじょぶだいじょぶ。
「ん」
短く返事すると、顔だけ横向けてソフトボールしてるのをぼんやり眺める。
って、みどりん暴投暴投!どこ投げてんの!?
「みどりは力加減を知らないからなぁ」
「いやあれは力加減っていうか…」
球が体育教師のとこに飛んでたよ!?
もしかしてあの体育教師がたまにみどりんの揺れるバストに釘付けなことに気付いたんだろうか。
おー、怖。
「変なことするとこっちにも飛んできそうだなぁ…」
「?」
「あー、いや、こっちの話」
ボールが飛んでこないように胸は注視してみないことにしよう。
あたしのチームも委員長のいたチームも良い感じだ。
お互いに点を取っては取り返している。
ちょうどお互いに一人ずつ抜けたからベンチから先生に選ばれた人が抜けた穴を埋めている。
「委員長とあたしが居ても割と均衡してて、居なくても均衡してる…」
「そうだけど、どうしたの?」
「つまり、ソフトボールにおけるあたしと委員長の力も均衡してる、ということか」
そういうと、委員長はクスリと笑った。
「そうかも」
あたしも委員長もキャッチャーをしていた。
そこに新しい人が入ってるんだけど可哀想でならない。
なぜなら、あたしのチームのピッチャーはオノチャンだ。
そして委員長のチームのピッチャーはみどりん。
どちらも割と破天荒な球ばかり投げてくる。
「あ、オノチャン。また暴投やった」
「多いねー」
そうやって二人で適当に会話してると、ふと頭をサラリとした感触が撫でた。
「ん?」
「ふふ」
視線を委員長に戻してみれば、委員長ももうソフトボールは見ていなかった。
どうしてこの人は急にこういう恥ずかしいことをしてくるかなー。
本当に委員長は危機感が(略)
「さっきどんな夢見てたの?」
「んー」
説明しづらい。
話して困る内容ではないから話してもいいんだけどどう言っていいやら。
「『スキップやめてください』って寝言言ってたけど…スキップ…?」
あらやだ寝言なんて恥ずかしい。
UNOしてましたとかって言える状態じゃないよね。
でもUNOのスキップはほんとやめてほしいと思う。
あと自分の直前でリバースとかね。ほんと、鬼かと。
「頭の中でさ、こう天使と悪魔がぐるぐるしててさ」
「うん」
「それが言い争いしながらスキップしてる夢」
「…それはなんともまぁ…」
ほら、微妙な顔。
委員長は撫でる手はそのままにあたしに緩々と笑いかける。
「それで?どんな言い争いしてたの?」
「んー、悪魔はあたしに当たって砕けろって言ってたな」
「えー」
「天使は堅実に行こうって言ってた」
結局どっちがいいのかな。
どっちもやるとか言っちゃったけどそれはさすがに無理だ。
「委員長ならどっちが好き?」
「私は悪魔さんの方が好きだな」
「えー、意外」
委員長はちょっと困ったみたいに笑うと、あたしから目線を逸らした。
「私は堅実に行っちゃうタイプだから、ちょっとだけ悪魔さんがうらやましい」
なるほど、そういう考えかたがあるのか。
あたしはどっちだろ。
保守的ではあるけど堅実には行かないからなぁ。
むしろ叩きまくってヒビまで入れちゃった石橋をそろりそろりと渡ってガラガラ崩れて「のわぁー!」って言いながら落ちるタイプだし。
なにこれ、自分で想像しててヒドすぎる!
「じゃあ質問」
「なに?」
「当たって砕けることをしないのは怖いから?」
委員長はまたあたしの方を見ると、困ったというよりは寂しそうに笑った。
「んー、事にもよるとは思うけど。
うん、そうかも」
それを見て、あたしの胸がチクリと痛む。
みどりんとか、誠二とか、あたしを見てるときこんな気持ちだったのかな。
寂しい、モヤっとする、頭引っ掴んで頭突きしたくなる。
それから叫びたくなる。
「でも耐えきれないんでしょ」「このままでも辛いんでしょ」って。
今考えると、なんだか申し訳ないなぁ。
「チャンスは一度だけ」
「?」
「それでも当たって砕けない?」
そういうと、委員長はくるりと目を丸めて、それから細めた。
「事にもよる、かな」
「なら場合によっちゃ当たって砕けてくれるわけだ」
「うん、大事なことなら、がんばるよ」
いいこと聞いた。
じゃあ、君にチャンスをあげよう。
そしてそれを最後のチャンスにしてあげる。
いつまでも振り向かない一人の人を追いかけるなんて委員長にはもったいないよ。
笑ってほしいし、自分より幸せになってほしいから。
「今度の日曜日、暇?」
「暇だけど…」
「遊びに行こっか」
あたしはにっこりと笑うと、頭をフル回転させた。