Lily memo %



あたしもうダメかもしれない14


いくら問題がなくても憂鬱なものはある。

「じゃあ、次の人呼んできてね」
「はい」

シンとした放課後。
3年生はチラチラと居る。
自分の教室に戻ると、ガラリとドアを開けた。
後ろの席の人に声をかけておく。

「次だって」
「はーい」

前の席には委員長がいた。

「おかえり、一緒に帰ろう」
「わざわざ待ってたの?」
「15分くらいはね」

進路指導。
エスカレータであがれるから受験とか何も問題はいらないけど、やっぱり憂鬱な気分になる。
他のみんなは待ちきれないから帰ったけど、委員長はあたしの前ってこともあって待っててくれたらしい。

「あー、帰ったらエルたんに慰めてもらおう」
「そのゲームって何周してるの?」

もう数えきれないほどの人生を謳歌したね!!
ただループしてるのはエルたんルートのみだけど。

「あー、鬱だー!」
「あはは、元気だなぁ」

いや委員長、あたしは鬱だっつーとるのに。

「んー、よし。お姉さんや、遊んでかない?」
「いいけど、どこに?」

隣にいた委員長の腕をとると、スタスタと歩く。




「ラブホ!」
「行きません」




委員長つれないわー。

「最初のころはこういうちょっと危ない発言したら真っ赤になってオロオロしてくれたのに…」
「んー、慣れちゃったかなぁ」

委員長はさすがにね、と笑うと恥ずかしそうに手を握りなおした。
…そういうのは反則だと思うんだけど。
本当に委員長には危機感が(略)

「よし!じゃあがんばって委員長が真っ赤になるようなとこにつれてこう!」
「だからダメだってば」

大人のコンビニとか無駄にネオン輝く路地裏とか本屋とか。

「行くとこないならゲームセンターに行きたいな」
「委員長ってゲーセン行くんだ?」
「あんまり行かないけど、今回はちょっと目的が…」

ほぅ、今度は何を企んでいるのやら。

「いいからいいから」
「んー、まぁいっか。鍛え抜かれたあたしのゲーセンテクを見せてあげよう!」
「おー!」









…間。









「…あれ、あたしのゲーセンテクを見せるはずだったのに…」

気付けば惨敗。
シューティングをすれば先に死ぬし、リズム系ゲームだと得点負け。
カーレースでも最初はともかく最後には追い抜かされ2位。

「…ほんとにあんまりゲーセン行かないの?
 実は暇な時間は基本ゲーセン居ましたけどっていうオチ?」
「本当にあまり来ないけど…」

所詮、井の中の蛙だったってこと…か?
いやいやしかし、まだあれがある!

「こうなったら今度は格ゲーで勝負だ!」
「はーい」

委員長はクスクス笑いながら後をついてくる。
くそう!そのクスクス笑いをグスグス泣きに変えてやる!

「手ぇ抜いたらしっぺでこぴんババチョップだかんね!」
「なんでそんな小学生しかしない罰ゲームなのかな…」

罰ゲームっつったらこれだよね。
さぁ、やるぞ!あたしのダルセムちゃん!



バシ


ボコ


スピニングバードキック!


You LOSE!!!



「…ごめん、まっつー」
「謝るな、余計ムカツク」

目の前では倒れたダルセムと満足そうに踏ん反り返る中華女子。
そして負けを意味する英文字4つ。

「認めない!賢い女子はゲームも得意なんて認めない!」
「そう言われても…」
「そんなの水野さん以外認めないんだから!」
「誰のこと?」
「二次元の話」

しかしこのまま負けっぱなしは嫌だ。
何かあたしが勝てそうなものはないのか!
けどクイズ系はもっと勝ち目がないし…。

「得意のダンレボもダメだったしなぁ」
「あれはまっつーが足だけじゃなくて手の振り付けまでやってたからだと思うんだけど…」

シャラップ、ダンスタンスレボレーションは見られてナンボのゲームなんだよ!
大事なのは点数じゃない!見てくれなんだよ!
太鼓の名人なんてバチを回してこそ価値がある…!

「…ふっ、しょうがない。本気を出す時が来たようだな…!!」
「今までは本気じゃなかったんだ」

ふふっ、ほんとは見せたくなかったが負けたままよりは我慢しよう。

「行くよ!これがあたしの決めゲーだ!!」




チャラリー、ピロピロピロ、ブッブー、チャラリーじゃらじゃらじゃら…




「ジャックポッド…」
「30分後にどっちの方がコインが増えてるかを競う感じで」
「はーい」

得意なゲームがコインゲームなんてお前どんだけ暇を持て余してたんだよって感じで超絶恥ずかしいけど背に腹は代えられない。
委員長には悪いがここで勝負を決めさせてもらうよ!









…間。









「委員長とはもうゲーセン来ない」
「ごめんなさい…」

30分後、あたしのコインはケースいっぱいになっていた。
チラ見した委員長の顔はちょっと困っていて、これは勝つる!と思った。
大満足で委員長のケースを見て落ち込んだ。
委員長のコインは3ケース目に突入していたのだ。

「スロットがたまたま良い目が出ちゃって…」

結局万能な人というのは絶対的に運がいい、というのを思い出した。
兄で思い知ってるはずなのにまたもやこんな屈辱を味わうとは…。
おそらくあの困った顔は「また拗ねるなぁ」の顔だ!
誰が拗ねるか!ちょっと凹むだけだ!

「そうか、さては委員長」
「ん?」
「あたしをベコベコに凹ませるためにゲーセンに連れ出したんだな!
 この鬼!悪魔ぁ!」
「ち、違うよ!私はただ…」

ヤケになってワニ叩きのハンマーで委員長をポカスカやると、あたふたと困り出した。
まぁそりゃあそんなつもりじゃないことは知ってるけど。
でも憂鬱な気持ちだったところにさらに爆弾投入する必要ないじゃんか!鬼!

「きっと委員長はあたしをベッコベコにした後に写メでも撮ってばら撒く気なんだ…!
 そんでお昼のちょっとした幸せさんみたいな写真投稿コーナーに『ダメな下僕』とか書いて送っちゃってボツにされるんだうわーん!」
「えぇ!?何その具体的なイジメ方!しないよそんなこと!」

委員長はぶーぶー文句を言うあたしにちょこっと困った顔をすると、手をつかんで歩きだした。

「んげ、今度は何であたしを凹ませる気!?」
「違うよもー。いいからこっち来て」

しっかり掴まれた手は振りほどけなくってしぶしぶ付いていく。

「私の目的はこれ!」

なるほど。
完全密室のボックスに出動中の文字。




「委員長、ガンオタだったの?」
「そっちじゃなくてこっち!」




指を差されたのは卵型ボックスの隣にある四角いボックス。
男の子の近寄りがたいオーラ。

「プリクラね。納得」

むしろプリクラの隣にロボット操縦ゲームを置いちゃうこのお店に納得できない。
女子が近寄りがたいオーラを醸し出す空間の隣に男子が近寄りがたいオーラを醸し出す空間。
それなんて新空間。

「二人っきりで写真撮るのは初めてでしょ?」
「そもそもプリクラなんてあまり撮らないけど」
「そうだね、なんかまっつーこの空間じゃ浮いて…」

言ってから、しまったって顔をしないでくれないかな。
どーせ浮いてるよあたしは。

「と、とにかく撮ろっ!すぐ撮ろう!」

あ、流しやがった。
小銭を均等に入れると、機械が流暢に喋り出す。
美白機能ってなんじゃい。

「委員長、お任せします」
「はーい」

さすが女の子、というべきか。
委員長はサクサクと画面をタッチしていく。
あたしも女の子なんだけどなぁ。
これは一緒に撮る女の子がいなかったことが問題なんだよ、うん。

「はい、1枚目」

ひょいとあたしの隣に並ぶと、あたしの腕をとってピースした。
あたしもとりあえずピース。

「愛想がないなぁ」
「写真は苦手なの」
「あぁ、そうみたいだよね」
「?」
「ううん、こっちの話」

おや、委員長が隠し事とは生意気な。

「2枚目いくよー」
「よし、愛想がないというなら愛想を振りまいてやる!」
「へ?」

あたしは携帯を素早くセットすると、後ろから委員長のスカートをめくって激写した。

「ひゃぁ!?」
「サービス的な愛想で」
「なにするの!っていうか今のプリクラ写った!?やだ、どうしよう!?」
「大丈夫、後ろからめくったから前からは見えてない」

プリクラで撮った写真って実はプリクラ機の中にずーっと残ってて店員さんに見られちゃったりするんだよ。
だからプリクラで「ちゅープリ♪」とかやっちゃってるバカップルは気をつけようね!
あとAVの「プリクラの中でヤっちゃった」とかいうのはあれ実はプリクラ機を買い取ってやってるので心配はいらないよ。
良い子のみんなはマネしちゃダメだよ!

「とりあえず携帯に撮ったやつ消して…」
「えー」
「えー、じゃありません」
「せっかく可愛いパステルブルーなのにー」
「パ…っ、いいから消して!」

委員長はわがままだなぁ、まったく。
消すフリして保護かけちゃうぞー(良い子はマネしないでください)

「もう、そういうおふざけはダメ!」
「うー、じゃあどういうおふざけならいいのさー」
「え?えーっと…」

真剣に考え始める委員長。
そうこうしてる間にプリクラ機は3枚目のカウントを始める。

「委員長、3枚目だよ」
「あ、うん」

あと1カウントというところで委員長が動いた。






ガツン





「そうか、委員長の許せるおふざけっていうのはヘッドバットのことか」
「…ごめん」

頭突きよりもくすぐるとかもうちょっと可愛いイタズラがあっただろうに。
なぜ頭突きを選んだし。

「あー、まっつーほら4枚目」
「左頬が痛ぇです」
「ごめんって」

委員長は困った顔で腕をとってピースした。
あたしも普通にピースしようとした。




「全員でピースね」
「ちょ、俺半分しか写ってないよ!?」
「いいじゃねぇかノリ」
「ダメよ全員写るの!」




けれどカウントあと1つというところでドヤドヤとプリクラ機の中に人がなだれ込んできた。
パシャリとプリクラが音を立てると、委員長と二人で唖然とする。

「み、みんな帰ったんじゃなかったの!?」
「いやー、たまたま4人でゲーセンいきましょってことになって」
「偶然暇だからみんなでダーツしてたら」
「奇遇にもアキと委員長が来たから」
「なんとなくまぁ出てきた、みたいな?」

…へぇ。

「委員長」
「なに?」
「今日さ、みどりんか誠二辺りに『ゲームセンター行きたい』的なこと言った?」
「…あ、お昼に言ってる」

そっかぁ。
そうだよねぇ。

「で、いつから見てたの?」
「シューティング始めた辺りから」

つまりゲーセン来て本当にすぐじゃないの。
どこがたまたまで偶然で奇遇なんだ。
どう考えても計画的犯行だよ。
あれか、あんたたちはラブホの前でカメラ構えるフラッシュマンか。

「ほら、次の写真撮るわよー」
「なんでみどりが仕切っちゃってるの…」

ほんとに。




…ちょっぴりデート気分だっただけに、少し残念。




開き直ってしまうと楽ですなぁ。
夏休みからこっち、あたしは自分の気持ちを自覚したことで人の目から変わったんだろうか。
自分自身は少し恥ずかしいヤツになってる気がしないでもない。
穴があったら頭から入って「うわぁあ」って叫びながらブリッジで這いずり出てみたい。

「ごめんね、アキちゃん」
「べっつにー」

あたしのちょっと残念な気持ちを汲んだ誠二が謝ってくれた。
でもってニヤリと笑うみどりん。
ぬぅ、タチが悪い。
そうこうしてるうちに撮り終わって落書きタイム。
委員長とみどりんと誠二が3人で狭い落書きボックスでキャーキャー言いながら落書きしてる。

「アキ、ほら」
「ありがと」

ノリが買ってきてくれたジュースをのどに通す。
知らない間にのど乾いてたみたい。

「今日さ、放課後になって鈴城が俺たちを呼んだんだ」

デバガメするために?

「委員長とアキがすっげ気になるっつってさ、
 大丈夫だってなだめる誠二も振りきっちゃうんだぜ」

そんなにあたしと一緒は危険かい。

「アキ、そろそろ理解しろよ」
「何をさ」
「鈴城さんはお前のことが大好きってことをだよ」

もちろんラブじゃなくてライクでな、なんて軽い調子で言うノリ。
それがどうしたのさ。

「進路指導、悩んでんだとよ」
「みどりんが?」
「特にやりたいこともないなら友達と同じ方向に進んで探してみるのもありだって言われたらしい」

へぇ。
まぁ大学で道を探すってのもよくある話だけど…。

「そんでさ、アキと同じところに行くか、委員長と同じところに行くかで悩んでるんだって」

あたしと委員長?
そんなの、決まってる。

「委員長と一緒を選ぶでしょ、みどりんは」

そもそもなんで悩む必要があるのか。
大事な幼馴染のほうに行くのがセオリーじゃないの?

「そりゃー、委員長と一緒がいいだろうな。鈴城としては」
「それでもアキとで悩んでるのはどうしてだろうなー?」

…なんなんだもー。
最近あたしの周りは問題を出す人が多すぎる。
恥ずかしいけどこの答えはわかる。

「あたしのことも大好きだからでしょ」
「同じ好きなら長年一緒にいる委員長の方を選ぶに決まってるだろ」

それもそっか…。




「…心配なんだよ、アキちゃん」




いつのまにか女子の輪を外れてこっちへ来てた誠二。
心配?

「ヒナちゃんはきっと一人にしたって大丈夫。
 今のヒナちゃんは世渡り上手さんだから。
 でもアキちゃんは、違うでしょ?」

あたしだって一人で大丈夫だよ。

「嘘つき。怖がりで寂しんぼのくせに。
 私たちがちょっと離れたら、すねちゃって友達だなんて思ってくれなくなるんでしょ?」

そんなことない、と言おうとして止める。
誠二の目は真剣だ。
言い返そうとすればあたしの目はたぶん…怯んでしまう。

「ねぇアキちゃん。たしかに友情って脆いし、崩れやすいわ」

誠二に手をぎゅっと握られる。
暖かい。
その体温にあたしの体は気付けばガチガチだったと知らされる。

「でも半年とか一年とか十年も会えなくっても、会えば笑えるものよ。
 絆には修復が利くの。
 喧嘩したって仲直りできるし、仲直りできなくても時間が解決してくれることもある。



 …人の縁ってアキちゃんが思うより強いのよ」



そのセリフになんとなく誠二の母親を思い出す。
血が繋がってても嫌われ、それでも今も面会を続ける誠二。
今では母親も壊れた精神を修復するように穏やかだといつだか聞いた。
周りからいじめられ、誰にも相手にされなかった誠二が、今こんなに自信を持ってあたしたちと絆があると言い張る。

「そんなにも強い『絆』っていうものが切れちゃうときってどういうときかな」

嫌っていても、好いていても、その存在を知っていれば顔を見合わせたときになんらかのリアクションがある。
この答えはきっと…。




「相手を、忘れたとき」




ノリによしよしと頭を撫でられる。
そっか、そうなんだ。

「じゃあアキちゃん相手を忘れるときって?」
「…どうでもよくなったとき」

嫌われるのは、怖くないんだね。
みどりんがゆっくりと積み上げていったものは、友情じゃなくてこの絆の方だったんだ。



この先がどうなるかなんて誰も知らない。



それでも印象強く作られた思い出は忘れないだろうし、その思い出の中にいる人も消えない。



みどりんが心配だったのは、私がみどりんに忘れられたと思うこと。
久しぶりに会ったとき、「げ」とか「久しぶり」とかなんでもいいからリアクションをとらなくなること。
みどりんがあたしに怖くないよ、と言っているのはそういうことだ。

みどりんはあたしを忘れない。
この先何があってもし嫌いになったとしても、忘れることはないんだ。

あぁ、そういうことか。
忘れられなければ、一人になることなんてないんだ。
良くっても悪くっても切れない絆を持つ友達。

「そっか、そうなんだ」




-見てなさい、いつか本気で楽しいって思わせてあげるから-




楽しいと思うために必要なのは、自由。
その自由を得るためには怖がっちゃいけない。
怖がらないためには…。




-つまづいても転んでも、私が笑い飛ばしてあげる-




どんな行動を起こしても、それを知ってくれてる人がいる。
そっか、みどりんがいればあたしはもう永久に一人じゃないんだ。
それが遠い場所でも近い場所でも、心に誰かがいれば孤独じゃない。

「わかっちゃえば、あっけないな」

ぽわりと浮かんで消えない喜び。

「それはアキがドがつくほどの鈍チンだからだろ」
「わかるまでの時間が長かったわねぇ」
「ほんとに、自分のことになるとしょうがねぇヤツだよ」

きっと、みどりんの言いたいこと、3人は知ってたんだ。
じゃあ、そこまでみどりんと同じ気持ちなのに、何もアクションを起こさなかったこいつらは…?

「まさか…、全員…」

ふっふっふっと笑った3人が出したのはペラリとした紙。




「じゃーん、進路調査票ー!」
「喜べよアキ、あと4年は一緒だぜ」
「1年の間は夏雄さんや奈央さんとも一緒だぞ!」




その3枚の紙は、ものの見事に見たことある進路ばかり。
3人とも、ここぞとばかりにニヤニヤしてる。


…やられた。


ガッシリと巽に肩を組まれ、ノリによしよしと頭をなでられ、首っ玉に誠二が抱きつく。

「…これからもよろしく」
「は〜い」
「おう」
「うん」

笑顔の3人に囲まれて、あたしはただ「ぎゃふん」としか言えなかった。

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