-あんた、それは楽しいんじゃなくて、楽なだけよ-
そっか。
確かに、そうなのかも。
変化を怖がっていただけだ。
今が壊れないように繋ぎ止めていただけなんだ。
確かめるためには、逃げてられなくなった。
「ただいま委員長」
「おかえり」
部屋に戻ると、そこにはやっぱり少し怒った委員長がいた。
「撒くなんてひどい!」
「え〜、そぉんなつもりはぁなかったんだけどなぁ〜」
「絶対わざとじゃないその言い方…」
がっくりと肩を落とすと、「もういいもん」と言って委員長はベッドにダイブした。
服は既に浴衣に着替えたようで、寝る準備万端だ。
「お話はいいんだ?」
「…だって、どうせ正直に話してくれないんでしょ?」
「どうかな」
委員長の倒れこんだベッドに腰かけて、手を握る。
「?」
いつだっけ、なんて言ってたっけ。
あぁ、そうだ。
「『こうやって手を握って話すと、相手は嘘つかないんだって』って言ってなかったっけ」
そう言うと、数秒してからガバリと委員長は顔をあげた。
「…うん!」
それからいそいそとあたしの隣に腰かけた。
手は握ったままで。
「何から話す?」
「委員長のスリーサイズ」
「却下で」
あれ、嘘つかないんじゃないの?
そうか、嘘はつけないけど黙秘はできるってことか…。
「…どうしようかなぁ」
「ん?」
「まっつーに聞きたいこと、いっぱいあったんだけど…。
いざ聞けるとなったらなんだか何も出てこなくて困っちゃうね」
何初々しいこと言ってるんだか。
「避けてた理由じゃないの?」
「それも聞きたいけど…ううーん…」
顎に手を当てて本格的に考え出した委員長。
「あ、まずは誕生日!」
…ぬるいわ!
なんだその小学生後半みたいな質問は!
「却下」
「これぐらいの質問なら答えてくれてもいいのに…」
「それぐらいの質問ならあたし本人じゃなくても聞けるじゃんか」
兄ちゃんとか兄ちゃんとか兄ちゃんとかノリとか誠二とかよ。
「血液型もダメだよね…」
「A型」
「それは答えるの!?」
父はO、母はA、の純粋でないA型です。
「そっかぁ、Aかぁ。
じゃあ好きな音楽とかは?」
「却下」
「…私にはまっつーのボーダーラインがわかんないよ…」
がっくりとうなだれる委員長。
意味はないけど面白いから却下してるだけとか言ったら怒るかな。
いっそこのまま全部却下にしていったら楽しいかも。
って、それじゃダメだ、いつもと変わんない。
ここはひとつ、気になることを聞いてみよう。
「委員長はさ、好きな人がいるんだよね」
「うぇ!?だ、誰から聞いたの!?」
わかりやすくうろたえる委員長。
逃げないように手をぐっと握れば、ボソボソと口を開いた。
「せーちゃんに聞いたの…?それとも能登代君?」
いや、あんたのお母さん。
「ねぇ、そいつのどこがいいの?」
「え、えぇー…きゃっk」
「却下」
「ひどい…」
却下と言おうとした委員長を却下する。
ここで引けば話がまとまらない。
「どこがって言われても、困っちゃうな」
「そんなに全部好きなわけ?」
「そういうわけでもないけど…」
あらら、そうなの?
兄ちゃん残念。
「例えばいやなところは?」
「答えきれないよ、いっぱいありすぎて」
う…。
そんな風に笑いながら困った顔されたって…。
どうしよう、自分の気持ちをつきつめたいのになんだか今すぐ部屋から飛び出したい。
「ねぇ委員長」
「ん?」
困ったな、自分がこんなにバカだと思わなかった。
兄ちゃんを好きになった女の子は好きにならないって決めたのに。
好きになるなら理想は、胸がでかくてバカそうな女の子。
なのに現実はやっぱり違うものらしい。
あたしは繋いだ手はそのままに頭を抱えた。
どうやらあたしは、委員長が好き、みたいだ。
ジリジリと燃えカスみたいに燻ってる気持ちがその証拠、なのかも。
たぶん、まぁ、嫉妬、かなぁ。
自信がないのは、知らない間に蓄えられた気持ちだから。
こんなにゆるゆるとした恋もありなんだろうか。
そもそも自覚する前からフラれてるってありなのかな。
誰かにビシリと「そりゃ恋だ!」って言われた方が楽だったかも。
会えばドキドキする。
触れば耳が赤くなる。
他人と仲良くしてればイライラする。
違う人を好きだ、と言われてどうしようもなく取り乱す。
ひどい話だ。
「どうしよう」
「?」
急に頭を抱え出したあたしを委員長が心配そうな目で見る。
もういやだこいつ。
「委員長、お願いがあるんだけど」
「なに?」
「一つ、賭けをしてみたい」
握った手を離すと、すっくと立ち上がる。
賭けごとをするときに、相手に嘘がつけないなんてナンセンスだ。
「ここに、一つのキーホルダーがあります」
「あ、それって…」
財布についた赤いキーホルダー。
これがカップル専用なら、あたしが持ってるわけにはいかないんだ。
こんなの気持ち次第。
でも、その『気持ち』ってものが人間をもっとも左右するものだから。
「これを一度、委員長に預けるよ」
「え?」
委員長の手に強引に持たせると、ちょこっと離れる。
委員長にとって、あたしが何なのか確かめたいんだ。
好きな人の妹なのか、ただ友人なのか。
ただ信じるにはちょっと、思い出が邪魔するから。
「もし冬までにあたしが必要になったらそのキーホルダーをあたしに渡して」
「うん」
「面倒なら適当な願い事して返してくれてもいい」
「んー…」
「最悪、割って捨てちゃっても構わないよ」
「それはしないよ」
困ったように笑うと、彼女は手の中のキーホルダーをころころと転がした。
「でもこれ、どうなったら勝ちなの?
賭けなんでしょ?」
「それは終わるまでのお楽しみ」
「えー」
「そうだね、ヒントを与えるなら…」
これは本当に、一つの賭け。
「どうしても欲しいものがあるときに使えば、負けるかも。
不正解は一つだけ」
「んー、使いどころが難しいね」
「使いたくなかったら割って捨てればいいよ?」
「だからそれはヤダってば」
あたしがいれば手に入るかもしれないものなんて、限られてるよ。
「まぁ、必要になったら使えってだけでその願いを叶えてあげられないかもしれないけど」
「あはは、なんだか頼りない便利アイテムだね」
「こういうのは気持ちだから」
願い事って、その人の本性が見えやすいでしょ?
なんて口には出さないけど。
友人を試す、なんて最悪の行為だけど。
でも信じたい。
疑ってるのは後でいくらでも謝るから、今回だけお願い。
「…そういえば、賭けるっていうけどお互いの何を賭けるの?」
「うーん、なんでもいいよ」
あたしが負ければ委員長の言うことぐらいなんでも聞いてあげる。
委員長が負けたら…その時はきっと、あたしはもう委員長に対して悔しい思いしか持てなくなるから何も願わないと思う。
だからあたしは何も賭けれない。
強いて言うなら、あたしの気持ちを賭けてるようなものだ。
「じゃあ、私が勝ったらまっつーに名前で呼んでもらおうかな」
「いいよ」
「いいの?」
きょとんと呆気にとられた委員長。
そこできゅっと眉を寄せた。
「…これ、結構大事な賭け?」
「実はね」
そう言うと、むむと難しい顔をし始めた。
まぁ散々嫌がってたことを「いいよ」って言われたんだもんね。
そりゃあ怪しいってもんだ。
「もしかして私、試されちゃってる?」
「かなり」
さすが委員長、賢い。
「ちょっと癪に障ったけど、まぁそれなら負ける気しないし、いいよ」
そう言うと委員長はキーホルダーを大事そうに鞄にしまった。
「勝気だね」
「まっつーに対しては誠実に行動してますから」
そうなの?
「とんでもない願い事は勘弁してね。
火の輪くぐりが見たい!とか」
「そんなしょうもないことに使わないよ…」
委員長はがっくりと肩を落とすと、「やっぱりまっつーはわかんない」って言いながら再びベッドに潜った。