Lily memo %



あたしもうダメかもしれない12


小さな頃から、おかしいとは思ってたんだ。
男の子には興味がなくって、好きなのは男性アイドルより女性アイドル。
同世代の女の子たちがキャアキャア言ってるイケメンに心は踊らない。

同性愛者だと気付いたのは、小学生の終わり。

それから絶望。
もし女の子と仲良くなれても、絶対その子は兄を好きになる。
女の子しか好きになれないのに、女の子と付き合えることは絶対にないんだと気付いた。

悔しいことに、あのバカな兄も嫌いじゃない。
好きだなんて思えないけど、どうしようもない駄兄だけど。
それでも兄を憎む気にはなれない。
兄を好きになる女の子たちも、憎む気になれない。

やるせない気持ちは全部が全部自分に返っていく。
そしたら何も望む気がなくなって、何も怒る気がなくなって。
ただひたすら泳ぐか暇を潰す日々。


巽と出会って、暇を潰して。

誠二と出会って、暇を潰して。


それから、奈央ちゃんと過ごしてひどく楽になった。
付き合うとか、恋とか、そんなのなくても好きだと言ってくれる。
兄ちゃんとノリが付き合いだしたり、周りが慌しくても、自分は楽しくやっていられる自信がついた。

幸せ、に違いないんだ。





なのに、今更自分が恋とか、考えたくない。





変わりたく、ないよ。















「アキちゃーん?」
「起きたか?」
「目開いたわ」

ぼんやりと目を開くと、すっかり教室はオレンジ色だった。

「ふぁ…今何時?」
「お前ね、この夕日を見て察しろ」

おっけい、5時オーバーってことしかわからないや。

「なんで起こしてくんないのさ」
「委員長と鈴城さんが先生の用事でそろそろ戻ってくるしそれまで待ってようかと思ってさ」

へぇ。
…仲良くなったもんだなぁ。

「もうすぐ夏休みだしな。遊ぶ計画も立てようぜ」
「アキちゃんも海がいいわよね」
「いや、山だろ」

正直どっちでもいいなぁ。
強いて言うならプールがいい。

「またプールかよ飽きないなぁ」
「お前最近日曜の度に泳ぎに行ってるのにまだプールに行きたいのかよ」

だって他にしたいことが無いし…。

「海に行ったら刺激的なお姉ちゃんがいっぱいいるぞ」
「山に行ったら健康的なお姉ちゃんがいっぱいいるぞ」
「ノリと巽はあたしをなんだと思ってんだ」


















「で、刺激的な方を選んだ、と」
「うるさいなー」

居間に広げられたパンフはどれも青い色をしている。

「どーせなら沖縄アゲインしちゃうか?」

早すぎる。
修学旅行の感動半減じゃないの。

「学生なんだから安くて近場が基本でしょうが」
「いっそコミケとか行っちゃおうぜ」
「それあたしと兄ちゃんしか喜ばないから」

ついでに言うなら1日目と3日目にしか行かないよ。
2日目はBLの祭典らしいからね!あ、でも最近はシューティングゲームの祭典もあるんだっけ?

「この辺とかどうだ?」

吟味して選んだのは、2県ぐらい隣のとこだった。
宿は流行りのチェーン店で安いホテル。

「ここいいね」
「だろ?」

朝晩のバイキング付きとある。
特に近辺に美味しい店があるわけでもなさそうだしこれで十分だろう。

「移動は?」
「電車か」
「レンタで車借りた方が安いけど」
「でも俺と奈央しか運転できんしなぁ」

うーん、兄ちゃんに負担をかけるのはいいけど奈央ちゃんに負担をかけるのは嫌だな。

「よし、電車でGO!」
「うーす」

普通電車でとろとろ移動。
うん、あるべき学生旅行の姿じゃ。

「おやつは三百円までな」
「先生、おやつにおでんは入りますか!?」
「入らない。そしてそこはボケ倒すんじゃなくて『小学生か』というツッコミが欲しかったぜ…」

そこで優しくツッコんでやるあたしだと思うなよ。

「さて、何部屋取ろうか」
「4つで」
「うん?男女別で2部屋で充分じゃ…」
「4つで」

兄ちゃんとノリ、誠二と巽、委員長とみどりん、あたしと奈央ちゃんと美幸。
うん、完璧。
誠二と巽をノリの喘ぎ声から守り、さらに委員長という核爆弾が沖縄の悲劇を再び起こさないような完璧な部屋割だ!

……?

あぁ、ダメだ!これじゃあたしの貞操が危うい!美幸め!

兄ちゃんはゴリゴリと頭を掻くと、なんだかなーと言う風にキッチンへ行った。
まぁ、これでいいのだ。

「…あんまり意固地になるなよ」

なんのことだか。



















「と、いうことでホテルニューシーサイドになりました」
「ふーん、さすが有名チェーン。綺麗なもんだな」
「これであの値段だもの。ありがたいわね」

あの次の日、学校にパンフレットを持っていくと、全員納得顔で頷いた。
期末試験もみどりんやあたしや巽が補講に何個か引っかかりながらもなんとかクリア。
そして夏休み。


我々は海に来ています。


「さぁ、泳ぐぞ!」
「ビーチバレーでしょまずは」

男は海でバシャバシャやって女子はビーチバレーか…。
ふっ、どれもこれも甘いわ!
海の楽しみかたっつったらアレでしょうが!

「まっつー、どこ行くの?」
「気にしないで」

浮き輪を持って一人端っこへ。















一人で遠泳をして何時間経っただろう。
あまりにも楽しすぎて時間を忘れて泳ぎ回ってしまった。
飲み物を貰いにパラソルの元へいくと女の子たち(誠二除く)が休憩を取っていた。

「ただいまー」
「おかえり」
「3時間も遠泳してるとかどんな神経してるのよ…」

まだ泳ぐ気ですが何か?(キリッ
泳ぐのもビーチバレーも楽しんで休憩してたというみんなの手にはジュースとかアイスとか。

「男の子たちは?」
「海中鬼ごっこ」

なるほど。
指差された方を見ると、男たちがキャアキャアと楽しんでいる。
鬼が兄なのは一目瞭然だ。なんてしまりのない顔。

「みんな元気だなー」
「あんたに言われたくないわよ」

あたしただ泳いでるだけだししんどくなったら浮き輪につかまってたしなぁ。

「奈央ちゃん、飲み物ちょうだいな」
「はい」

飲みかけのコーラを渡されて喉を鳴らしながら飲んだ。
海は塩っ辛くて喉が乾く。

「まだ遠泳するの?」
「いや、潜る」
「潜る?」

委員長の隣にある自分のカバンを手繰り寄せると、例のブツを取り出した。




「ふふふ…今日のために最新の水中デジカメPT-0おぐぁ!」
「あんたはいっそ土に潜るべきだわ」




ナイスショット。
でもみどりん、人をパラソルで殴っちゃダメだよ。
あたしの頭が軽く土にめりこんだからね。

「みどりちゃん、ダメよそんなことしちゃ」

さすが奈央ちゃん!
あたしの味方なんだね!

「パラソルが痛んじゃうでしょ」

世の中には神も仏もいない!

「水中デジカメ?」
「ヒナちゃんはわからなくていいのよ。
 制裁はみどりちゃんがやってくれてるから…」
「いっそ顔だけ出してお約束のスイカ割りをしてやるわ」
「そんな殺生な!」

確かにお約束だね。
実際にやってる人って見たことないけど。
ってちょっ、ほんとに埋まってる…!

「ふふふ…だったらあたしにも考えがある」
「な、なによ」

土からぼこりと出てくると、ニヤリと下卑た笑顔を浮かべる。
女の子3人(美幸は論外)を舐め回すように見ると、ぐわっとみどりんに襲いかかった。




「スイカ割りならぬスイカ狩りじゃぁあああ!!!!!!!!」




バコン

「なるほど、最悪ね」
「二度と出られないように顔まで埋めてあげるわ」

ちょっ、口に砂入ってる!死ぬ!死ぬから!

「アキ先輩!私のスイカなら好きなだけ狩ってくださぁい!」

それはスイカじゃない、まな板だ。
ついでに言うならみどりんがスイカなら奈央ちゃんはメロン。
委員長はさしずめアップルマンゴーだね。

「で、アキは何なんだ?」
「りんごかな」

って何言わすんじゃいこの駄兄。

「なんだもうみんな休憩かー?」
「そういう兄ちゃんたちも休憩にきてんじゃんか」
「いや、俺たちは…」

ピンピンしてる兄とノリと巽。
それに比べて…



「ぜぇ…はぁ…」
「誠二…なぜ男子と遊んだの…」



あんた体力は女の子なんだから女の子に混ざって遊んでればよかったのに…。

「た、たまにはって思ったら…ぜぇ…海と太陽が私の体力を…はぁ…奪って…げほっ」
「はい、せーちゃんお水」
「ありがとヒナちゃん…」

無茶しやがって…。

「じゃ、あたしは元気なうちに潜水を…」
「待て、妹よ」

む、止める気か!兄のくせに!
兄はひっそりとあたしの手に諭吉さんを握らせた。

「どうかこれでノリの水中写真も…」
「聞こえてますよ夏雄さん」

おぉ、兄ちゃんの頭が空気の抜けたビーチボールのように…。

「それで、まっつーは何を撮るの?」
「そりゃあ色々だよ委員長」
「そっかぁ、なんだかよくわからないけど記念になるなら私にも焼き増ししてね?」
「ヒナ、やめときなさい」

うん、やめとこうね委員長。

「じゃ、あたしはもう一泳ぎしてきますよー」
「元気ねー」

そりゃ元気ですとも。
プールとちがって海は無法地帯!
25mや50mといった壁もなく、不透明な海に完全に潜ってしまえば盗撮を疑われる心配もゲフンゲフン!




「また遠泳するの?」




…まさかついてきていたとは。
おとなしく大好きな兄ちゃんと一緒にいりゃよかったのに。

「する」
「じゃあ私もご一緒しようかな」
「ビーチバレーとかで疲れてるでしょ?
 休憩したほうがいいんじゃないかなぁ」
「休憩は十分にしたよ?」

おのれ委員長、ああいえばこういう…。

「ねぇまっつー」
「なにー?」

半ば投げやりぎみに返事をすると、ふぅと溜め息を吐かれた。

「なんか最近、言葉に刺があるなぁ」
「そんなことないよ。気のせー気のせー」
「その言い方にも刺があるってば」
「あたしは前からこんな感じだよ」
「それは否定しないけど…」

あれ、そこ否定しないんだ!?
自分的にはもうちょっとフレンドリーにしてた気がするんだけど…。

「なにかした…かな?」

ちょっと不安そうに首傾げちゃってまぁ。
何かしたといえばそうだし何もしてないといえばそうだし。
あぁもう、考えたくないって言ってるのに!

「委員長には関係ないことだよ」
「それは嘘だよ。私にだけなんだか距離を感じるし…」

うぎぎ。
なんでこういうとこは鈍感じゃないかなー。

「あーもー、じゃあどうしたら納得するのさ?」
「…ちゃんと顔見てお話して」
「はいはい」

海にきてまで辛気臭いやつだなもー。
兄ちゃんと仲良くできたらそれでいいじゃんか。
あたしに構う必要なんてないのに。

今回ばかりは、兄を恨みたいぞ、あたしは。

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