Lily memo %



俺はもうダメかもしれない4


つまりは、こういうことらしい。
目片さんは家族とある約束をした。

今度の大会に優勝したらお祝いにバーベキューしようね、と。

見事に優勝した目片さんは家族とバーベキューをする予定を立てた。
その予定にはご近所住まいで家族ぐるみで仲良しな鈴城さんの家族もいる。
どうせならもっと人数増やそう。
じゃあ、比奈子ちゃんお友達連れていらっしゃいよ、と。

「えー、本日はお招きいただきましてありがとうございます」
「ございます」
「あ、これはつまらないものですが手土産です」
「です」

アキ、お前はインコか。
俺の言葉尻だけ追いかけやがって…。

「ご丁寧にありがとうございます。さ、どうぞ」
「あ、どーも」

とても綺麗なご婦人に案内されて門をくぐる。
道場の娘さん、とは妹から聞いていたがなんじゃこりゃあ。
デカい、とにかくデカい。
家の中には入らず、上品な庭を通される。
歩くだけで緊張する庭だな…。

「兄ちゃん」
「…なんだ」
「正装、とかしてきたほうが良かったかな…」
「俺も同じことを考えていた」

場違いですね、わかります。
俺は水色のYシャツに黒のジーンズと高めのスニーカー。
妹は黒の袖なしパーカーにネズミ色の生地パン。
…こんなにラフでいいんだろうか…。

「バーベキューっていうから汚れても大丈夫だけど人様に見られてそこそこ恥ずかしくない程度で来たのに…」

俺も同じだ、妹よ。
まさか目片さんがこんないいとこのお嬢さんだったとは…。
いや、上品でそんな素振りはたくさんあったがまさか身近にお嬢様なんて普通考えないだろ。
…あ、でも美幸ちゃんもいいとこのお嬢さんだった。

「どうぞ、楽しんでくださいね」
「ありがとうございます」
「ございます」

アキ、圧倒されてないでちゃんと喋れ。
通されたのは中庭のような場所でとても広い。
そして人が多い。
この分だと70人はいるだろう。
これじゃあバーベキューというよりガーデンパーティーだ。

「アキちゃん、夏雄さん」

声のしたほうを向くと、やっと知った顔にあえた。

「ノリ、誠二、巽」
「すごいわよねー。私もどうしていいやら…」
「俺たち来て良かったのかよって気分しかしねー…」
「疎外感を感じるよね」

そりゃそうだわな。
周りを見ると服装はラフで良かったようだがすっかり騒がしいガーデンパーティに俺たちはすっかり取り残されている。

「さっきアキちゃんたちを案内してくれたのはヒナちゃんのお母さんよ」

あぁ、なるほどな。
ってお前なんで知ってんだ。

「こんなに人が居るのは初めて見るけど、ここに来たこと自体は初めてじゃないもの」

なんでも、鈴城さんと3人でよく遊んでいるらしい。
完全に女の子カテゴリーだな、誠二。

「バーベキュー自体はもう始まっちゃってるんだね」

アキの声に周りを見れば、確かに食材はもう焼かれているし食べ始めている人ばかりだ。
しかし食い始める気にはなれないなぁ。
それはあとの4人も一緒なのか、俺たちは同時にはぁと溜め息を吐いた。

「どーします、夏雄さん」
「どーするっつったってなぁ…」

育ち盛りの俺たちが昼抜き、というのはツラい。
しかしここで食うのも気が引ける。

「せめてヒナちゃんとみどりんがいればいいんだけど…」
「俺が走り回って探してこようか?」
「やめとけ巽、知らない顔が全力でうろうろしてたら周りも良い気しないだろ」

そうやって頭をひねらせていると、アキがちょろりと動いた。

「どうした」
「ちょっと待ってて」

トテトテとやる気なく歩き出すと、一人の男の肩をポンポンと叩いた。
…お、なかなかのイケメンだな。

「あれは…武下じゃないか」
「なんであいつがこんなとこにいんだ?」
「スーパー君ったら本物のストーカーね」

はぁ、あれが噂のスーパー君か。
なるほど、良い体してるな。
…俺には負けるが。
彼は妹に少し怯えると、肉を片手にこっちにきた。

「やぁ」
「おっす」
「こんにちは。スーパー君も呼ばれてたのね」
「僕はここの門下生だからな」

あぁ、なるほど。
異常に人数が多いのは目片さんのお父さんの教え子がいるからか。
そう思えばこの人数の多さも少し納得だ。

「それで君たちはどうしたんだ?」
「私たちもヒナちゃんにお呼ばれしたんだけど…」
「目片さんならあっちに居るぞ。
 でも忙しそうにしていたから行くだけ無駄じゃないかな」

ほぅ、忙しいのか。
まぁこの人数じゃなぁ…。



「いたっ!せーちゃん!」



お、この声は…。

「みどりん!」

誠二はパタパタと駆け出すと久々の再会といった風に鈴城さんと抱き合った。

「良かったぁ。私たちどうしていいかわからなくて困ってたのよー!」
「やっぱり?初めてだとキツいわよね、これ」

誠二と少し喋ると、ちらりとこっちを向いて頭を下げた。

「お久しぶりです、桃松のお兄さん」
「久しぶり」
「ほら、みんな遠慮しないでバーベキュー楽しんで!」

鈴城さんの粋な計らいであまり人の居ない網の方に連れてこられて、近くにある食材を焼き始める。

「それにしてもせーちゃんたちが来てくれてよかったわ。
 私って門下生の人たちに知られてはいるけど顔見知りって程度だから暇で暇で…」

幼馴染でも鈴城さんは門下生じゃないんだな。

「委員長は?」
「ヒナは門下生にモテモテだからね。
 いろんなとこにひっぱりだこよ。
 さっきはあの辺にいたけど…あぁ、あっちに居るわ」

やっぱりモテるんだなぁ、目片さん。
言われた方に目を向けると、年上のお兄さんたちにチヤホヤされてる目片さんがいた。
なんでも、うちの大学の合気道サークルもここに教わりにきてるらしい。

「ふーん…」

おや、つまらなそうだな、妹よ。

「とりあえず、食うか」
「そうですね」

なんたって食い盛り。
目の前に並べられた肉と匂いを前におあずけなんて無理だ。
さっそく焼き始めると、アキが網の上にプライベートゾーンを作っていた。

「妹よ、そんなにとうもろこしばっか並べてどうする気だ」
「食べる気だけど?」

偏食にも限度がある。

「肉を食え、ほれ」
「ぎゃー!とうもろこしが肉汁に犯されてくー!
 こいつらはあたしに体の隅々まで齧り尽くされる予定だったのに…」

とうもろこしも相手が肉汁で本望ってもんだぜ。




「まっつー!」




おや、忙しそうにしていた目片さんがこっちに気付いた。

「ひひんひょー」

とうもろこしから口を離せ。

「来てくれてありがとう!」
「タダ飯だしね」

正直すぎる。
目片さんはそれでも嬉しそうに笑った。
俺たちにも挨拶すると、鈴城さんから飲み物を受け取る。

「ヒナ、おじさまは?」
「お父さんなら今はあそこに居るよ」

若い人たちの中で貫禄のあるおじさんが一人楽しそうに喋っている。
なるほど、あれが目片さんのお父さんか。

「相変わらずおじさまは元気ね。うちのパパなんて日向に出てこないもんだからシオシオなんだもの」
「その代わりものすごく賢いでしょ」
「まぁそれはそうなんだけどね」

二人の会話を聞いて、ピタリとアキがとうもろこしを食べる手を止めた。

「…おじさま?…パパ?」

突っ込んでやるな。
お嬢様ってのはそんなもんだ。
幸い、二人には聞こえなかったらしいが、ノリと巽は苦笑いしている。
動じていない誠二はたぶん二人の会話にもう慣れているんだろう。

「比奈子さーん!」
「はぁい。…また来るね」

少し名残惜しそうに離れると、また楽しそうに違う輪に入っていった。

「なんか、忙しそうにしてるし来たの悪かったかな…」
「来てから考えるなよ」

アキの頭をワシリと撫でると、不服そうに鼻を鳴らした。

「楽しんでます?」
「あ、ども」

目片さんの代わりにひょっこりと顔を出したのは目片さんのお母さん。

「ごめんなさいね、今回はうちの子のワガママに付き合わせちゃって」
「いえいえ、こちらこそ図々しくしっかり食べさせてもらってすいません」
「あら、桃松さんは噂よりも礼儀正しい方なのね」

噂…?

「いえね、うちの子がいつも楽しそうに話すもんだから…」

え。
あー、アレだな。
みんなで遊びに行ったりしたときとかのことだな、うん。

「それにしても男前だわ。うちの子ったら面食いなのね」

…いやいや。
この会話で気付かない俺じゃないぞ。
もしかして、もしかしてだけど…。




「うちの子ったら桃松さんのことが大好きで…」




俺はノリを見るより先に、妹の顔を確認してしまった。
人の話なんて聞かずに相変わらずガブガブととうもろこしを齧っている。
…これは、妹なりに怒っているのか?
あまりにも平然とした顔をしている。
俺の視線に気付いたのか、見つめかえしてきた。

「なに?」
「いや…」

それから俺は心で謝罪しながらノリを見た。
少なからずショックを受けているようで、肉を口に入れたまま固まっている。

「おばさま、あまり適当なことを言うとヒナに叱られますよ」
「あら、みどりちゃん。
 …そうね、比奈子を呼んでくるわ、ちょっと待ってて」

そして目片さんのお母さんは微妙な気を効かせて目片さんを呼んできた。
俺たちはどうしていいんだかわからず、一生懸命肉を食うことにした。
ノリの隣になるべく近づきながらそっと様子を伺う。
怒ってはいないみたいだが、やっぱり戸惑ってるみたいだ。
…ここでノリの不安を取り除いてやらなきゃ、男じゃないよな。

「俺、ちょっとトイレ行ってくるよ。
 ノリも来てくれないか?」

誠二にトイレの場所を聞いてトイレの個室の中までノリを連れてくると、ぎゅっと抱きしめた。

「俺は、ノリだけだから」
「夏雄さん…」

トイレなんかでごめんな、というとこわばってた顔をなんとか笑顔に変えてくれた。
…うん、目片さんは良い子だけど、俺はやっぱりノリがいい。
俺たちはしばらくそうやって抱き合っていた。

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