Lily memo %



あたしもうダメかもしれない1


学校自体は嫌いじゃない。
友人たちは楽しいから好きだし(3人しかいないけど)、いじめられてるわけでもない。



けれど、女子からも男子からも距離を取られるこの生活はどうにかならないのかな。



「しょうがないよ、アキ。変質的行動ばっかとるから」
「兄ちゃんよりマシなんだけど」
「夏雄さんと比べちゃ五十歩百歩よ、アキちゃん」
「てめぇも変質的だよ誠二」

まぁ、これじゃあ女子も男子も近寄れないのも当たり前な気がする。

「そもそも、このメンツが一番ダメなんだって」
「ダメって?」

そう言ってくねりとシナをつくる華奢な男の娘。

「まず誠二はオカマだし」
「ひっどぉいアキちゃん!私、アキちゃんみたいに目付き悪くないしよっぽど女らしいもん!」

怒るとこそこかよ。
たしかに誠二は私より女らしい。
声も中性的で言わなきゃ男だとはわからないだろう。
しっかりと女子の制服着ちゃってるし。

「巽は怖いし」
「あぁ!?俺よりもお前のガン飛ばしのほうがある意味怖ぇだろ!」
「いや、巽は完全にヤンキーだし」
「俺は夏雄さんよりゃちゃんと授業に出てんぞ!」
「全部寝てるじゃん」

金髪ピアスは誰が見ても怖いって。
そのうえ喧嘩も強いんだからどう考えてもヤンキーだし。

「でぇ、ノリは美少年でしょー?」
「俺は夏雄さんみたいにガッシリしたほうがカッコいいと思うんだけどな」
「ノリみたいのはね、ふつくしいっつーんだよ」
「まぁ誠二と二人で並ばせりゃ絵になるわな」

そう、これがあたしの友人達だ。

「そりゃあ孤立もしますよ!」




「いや、お前が一番変態だからな」
「アキちゃん、教室ではエロ本開かないほうがいいと思うよ?」
「アキ、反省する気とかないだろ」




ふっ、みんなあたしをわかっちゃいないな。

「あたしはあの桃松夏雄の妹!女の子はべらせるぐらいわけないはずだぁああーーーー!!!!」

「それ教室で叫んだ時点でもうアウトだろ」










間。









「で、結局アキちゃんは何がしたいの?」

可愛いなぁ、誠二は。
これで男じゃなきゃなぁ。
ちなみに誠二は女の子らしすぎて兄ちゃんのストライクゾーンから外れたらしい。

「女の子に触りたい」

だぁっと溢れる涙を見て、誠二は貰い泣きをした。憐れすぎて。

「そうはいってもこないだのシスコン事件で更にお前はひかれてんぞ」
「ぐあぁああー!いくら困ってるからってあの作戦は許すんじゃなかったぁああーーー!!!」

ぶおんぶおんと首を振ってみてももう遅い。

「まぁしばらくは誠二で我慢しとけよ」
「ヤだ。誠二は巽のだもん」

ピシリ

「やだぁ、アキちゃんったら正直者♪」
「てめぇ、ふざけんな!」

二者二様ってやつだなぁ。
誠二がこんな風になったのはなぜなのか…。
あれか、兄ちゃんに狙われないためか…?

「てめぇ、いま夏雄さんに失礼なこと考えたろ」

不良で有名な能登代さんちの巽君は兄に会ってからはこの通り兄信者。
…あたしの周りは兄でまわっているなぁ。
もー、みんな夏雄夏雄ってぐわぁ。

「えー、そんなことないおー、気のせいだおー」
「殴りてぇ…っ!!!」
「まぁまぁ」





「あのー…」





「なにかな?」
「んだよ」
「なぁに?」
「Bカップかぁ」

話しかけてきた女の子は「やっぱりなんでもない!」と言って走り去った。

「今のは巽が悪いね」
「巽、目付き自重」
「おいこら!てめぇら!あからさまに今のはアキの発言に引いてたろ!」
「どうどう」

やっぱりこういうのは気が強い子に限るかなぁ。
教室の後ろに陣取っているあたしたちとは正反対に一番前に陣取る真面目な二人組。
ひっそりと歩み寄ると、いち早く気付いた委員長が声をあげかける。
その前に…。




「いえーい!」
「ぎゃー!!!!!!」




鈴城ちゃんの脇から手を差し込んで胸をもみしだいた。

「うん、ブラボーEカップ」
「やめんかド変態!!」

ゴッ

鈍い音がして慌てて離れる。
頭がじんじんするのは気のせいじゃないだろう。

「ひどいなー、挨拶なのにー」
「そんな挨拶があるかー!!」

息荒く巻くしたてる鈴城ちゃん。
うん、これぐらい容赦無いほうが正直、心地いい。
ドMではないんだけどね…たぶん。

「あー、満足した」
「満足したならとっとと自分の席に帰れ!」

唸る鈴城ちゃんにでへへと笑ってから呆れた目でこっちを見ている友人たちの元へ戻ろうと体を反転する。

「あ、まっつー。ちょっと待って」
「うん?」

反転した体を元に戻すと、委員長が申し訳なさそうに手を合わせていた。

「今日の放課後って時間あるかな?」
「あたしは大丈夫だけど、部活は?」
「水泳部は昨日顔出したし、今日はクラスのホームページを少しいじりたいんだ。
 明日は用事があるから今日のうちにやっておきたくて…ダメかな?」
「うん、あたしはいいんだけどね」

右斜めから痛いぐらいの視線を投げてくる人をどうにかしてくれないかな。
視線で殺されそうだよ。

「あんた、ヒナになんかしたら許さないわよ」
「じゃあやめとこうかな」
「ヒナのお願い聞かないなんて許さないわよ」

どうしろと…!

「あの、まっつー。嫌なら一人で…」
「いや、大丈夫。どーせ暇だし手伝うよ」
「よし、ならこれからあんたのその不届きな両手でも縛っておこうかしら」

こらこら。
どんどん物騒になる鈴城ちゃんの目線にこらえながらなんとか笑顔を返す。
委員長はほっとしたのか、じゃあまた放課後にと笑い返してくれた。
席に戻ると、3人がじと目でこっちを見ていた。

「あの二人は優しいなぁ、ほんと」
「手ぇ出しちゃダメだよ?アキちゃん」
「今のうちに警察に連絡しとくか」
「こらこらこら」

こいつらはたまに本当にあたしの友人なのかと疑いたくなる。













「今度はここに表を入れたいんだけど…」
「はーい」

後ろから画面を覗きこんで指示を出す委員長の言う通りになるようにタグを打ち込んでいく。
同人スキルで手に入れたこの力がこんな風に役に立つなんてねぇ…。
ほんと隠しページ万々歳ですよね。

「ごめんね、頼りっぱなしで」
「いや、いいよ。委員長は色々大変だろうし、これぐらいならお安い御用ですよー」

委員長の良い匂いにうっとりしつつ、カタカタとキーボードに指を滑らせる。
学校のパソコンルームに他の人影は無く、委員長がいかに真面目に雑務をこなしているかが窺い知れる。

「でもこれでやっとひと段落かな」

ホームページは綺麗な形になり、これ以上改良を加えると逆に悪くなりそうなほど良い出来だった。

「そうだね」

委員長は達成感が出てきたのか嬉しそうに画面を見つめていた。
そんなに嬉しそうにしてくれるとこっちとしても頑張ったかいがあると嬉しくなる。

「あ、そうだ。お礼にクッキー食べない?昨日の夜焼いたんだ」
「お菓子作るの好きだねぇ」
「うん、私甘いものが好きでね。暇があるとこういうの作っちゃうんだ」

なんて女らしい。
あたしにもそんなスキルがあったらもう少し女子とも打ち解けられたんだろうけど。
そのうえ委員長は誰にでも優しいし、まさに男の子からしたら女神のような存在だ。
狙ってる男子はいっぱいいるんだろうなー。

「紅茶もあるけど、いる?」
「おー、いるー」

だからこそ幼馴染の鈴城さんが大事にしているんだろう。
私としてもノリは大事にしたかった。
…まぁ、物心ついたころには兄ちゃんにべた惚れだったけれど。
いつ頃あんな風に調教されたんだろうか…怖っ。

「あー、おいしい」
「あはは、ありがと」

大げさに一息ついてみせると、楽しそうに笑ってくれた。
もぐもぐとクッキーを口に運ぶ。
放課後の尊い時間(エルたんに会う時間)を削ったんだからこれぐらいラッキーでもいいはずだ。

「…うん?」

顔をあげると、委員長は紅茶を片手にこっちをにこにこと見ていた。

「ふふ、なんでもない」
「そ?」

だからといって見られてると食べるのに困るんだけどな。
かといって委員長に見るな!と怒鳴れるほどあたしは強くもない。
…うーん、ちょっとイタズラしちゃおうか。

「委員長ぉー」

姿勢を低く、机ごしにあたしを見つめていた委員長を見つめ返す。

「なに?」

やっぱり危機感がないのか、委員長は変わらずにこにこと笑っている。
…うーん、普通の子ならたじろぐはずなんだけど(鈴城ちゃんなら間違いなくゲンコツが出ている)

「こないだの話は覚えてる?」
「こないだ…?」

夕日を受けてきょとんと首をかしげる委員長はちょっと可愛い。
なるべくいやらしく映るようにそーっと、頬に手を伸ばす。
ピクリと震える委員長の体。

…ここまでしてようやく反応したかー。

もうひと押し。
あたしはゆるりと委員長の耳に親指を差し入れた。




「あんまり無防備に二人っきりになったりすると、遠慮なく襲うよ?」




かたんと椅子を引く音がして、素早くあたしの手から暖かいぬくもりが消える。
パタパタと聞こえる足音がまるで他人事のように聞こえた。

「ふぅー…」

委員長もこれで少しは危機感を持ったに違いない。
喋ってくれる貴重な女の子が一人減ったのは少し悲しいけど、優しい委員長のことだし噂にすることはないだろう。
…っていうかちょっと距離置いてくれるだけでよかったけどまさか走り去るとは、純情ですな!

「あ、クッキー」

紅茶もクッキーも全部置いてけぼりだ。
全部食べて容器は洗って委員長の机にでも置いておこう。
それがあたしにできるせめてもの後片付け。
…楽にはなったけど罪悪感が残るなー。
もうちょっとマシな方法考えてから動けばよかった。
結局のところ、自分が欲求不満なだけだったのかも。











「あー、女の子に触りたーい」
「また言ってるよこいつは」

ぐたりと突っ伏するあたしに愉快な仲間たちは全然優しくない。

「そういえばアキ、夏雄さんしばらくはこっちの部活に顔出してくれないんだって?」
「あー、そんなこと言ってたなー」

シスコン事件やらで来づらいんだろう。
家では兄もぐったりと欲求不満を訴えつつ新しく買ったらしいエロビデオとこんにゃくを握りしめていた。

「そういえば最近、夏雄さんと会ってないなぁ」
「まぁ俺たちぁノリみたいに親密でもないしな」

誠二と巽もよく家に来るけれど、多くて週一回ぐらいのもんだ。





「あのー…」





「なにかな?」
「んだよ」
「なぁに?」
「Cカップかぁ」

ん?Cカップ?
きっちりと顔をあげると、困ったような笑顔が見えた。

「あれ、委員長」

ぐたりと突っ伏しているあたしに目線を合わせてしゃがんでくれた。
本当に底抜けに優しい人だなぁ、委員長は。

「シャキッとしろ!桃松秋生!」

ゴインと鈍い音がして、この拳は鈴城ちゃんだなと確認する。
もしや委員長、鈴城ちゃんに話したんだろうか。
そして委員長をちょっぴり脅しちゃった罰としてこれからリンチでも始まるのかな。
ごそごそと背筋を伸ばして、言葉を待つ。
気まずいからノリ達に目線を寄こしたけれど、無視された。

「あのね、クラスのホームページ。おかげさまで結構好評なんだ」

ほぅ。そりゃ良かった。
悲しいほどに他人と交流のないあたしらはあまり活用することはないと思うけど。

「だから、えっと」

言いにくそうに口ごもる委員長をずいと押しのけて鈴城ちゃんが前に出た。



「遊びに行くわよ。一緒に」



とりあえず突っ込みたいのは、それは人を勧誘する態度じゃねーってことですか。

「いや、そこじゃない。えっと、なんで?」

ゴチン

よほど怪訝な顔をしていたのか、また殴られた。

「ヒナが本当に助かったって、どうしてもお礼がしたいって言ってんのよ。
 黙って頷いておきなさいっての!」
「えぇえええええ」
「何よその反応は」

いやいやいや、委員長。
視線を投げると、ビクリと震えられた。




「…え、なんで?」




委員長は困ったみたいに笑うだけだった。

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