Lily memo %



あたしもうダメかもしれない10


「…美幸、これわかんないんだけど」
「あ、はい。じゃあ一つ教えるごとにアキ先輩の処女膜を一枚ずつ…」
「やっぱり自分で解くわ」

処女膜は一枚しかねぇです。
こんな不毛な会話を繰り返して数時間。
金曜の夜から3日間、兄ちゃんは合宿。
ノリは大会へ向けての練習いっぱいで今日は大会当日。



絶賛、二人きり。



「あ、アキ先輩。今日は私、爪切ってきましたから!」
「おっけー、付け爪つけてあげるよ」

美幸の攻撃を全力で回避しながら勉強。
…精神的にダブルパンチだよ…。

「アキ先輩、私女の子ですよ?」
「女の子なら誰でも美味しいわけじゃないですー」
「…胸ですか、やっぱり」
「AAカップはステータスだよ」
「他人に言われると嬉しくないですねぇ、その台詞」

だって、板じゃん…。
かろうじて乳首が柔らかいから男とは違うんだね、な程度だし。
興奮状態なら男と大差ないんじゃない?

「別にアキ先輩だってそんなに大きくはないじゃないですか」
「Bカップなめんな。下から持ちあげられる程度にはあんだよ」
「私だってやろうと思えば…」

ぐっ、ぐっ。




「…えーっと、ごめん」
「謝らないでください。より悲しいです…」




おそるべしAAカップ…。

「それにしてもほんとに誰もいないんですねぇ」
「あぁまさに二人きりだよ」
「嬉しい…!」
「怖い…!」

明日まで潔白な身であればいいなー…。
しかし勉強で疲れてんのかなー、やけに頭が回らない。

「美幸、これわかんない」
「これさっきやったところじゃないですか。
 勉強嫌いなのは知ってますけどちゃんとしてくださいよぉ」
「だってもう日本語見てるとぐるぐるするぜよ。
 もう勉強なんてしたくないぜよ」
「今度は何キャラなんですか」

美幸の教え通りにチクチクと問題をこなしていく。
勉強って頑張って時間かけても1ページしか進んでないときとかあるからヤダ。
こんだけ頑張ってこんだけしか進んでないのかって気分になる。
なんというかスカっとしたい。

「美幸、なんかスカっとしたい」
「ベッド行きます?」
「…スポーツっていう選択肢は?」
「ベッド行きます?」
「あんたの中ではアレはスポーツなのか」

あと真顔で言うな。怖い。

「あーぁ、今頃兄ちゃんもノリも好きなだけ泳いでるんだろうなー…」
「夏雄先輩はともかくノリ先輩は大会だから好きなだけ泳げるわけではないと思いますけどぉ?」
「いーなー」
「…」

何もどっちもテスト期間じゃなくていいのに。
あたしが勉強しなきゃいけないのに周りはみんな泳ぎに行ってるとかそれなんてイジメ?
あー、日本語嫌いー。

「じゃあアキ先輩、泳ぎます?」
「いいの!?」
「ベッドで、私の体を」
「あぁ、いいわ。我慢する」

できれば液体の中を泳ぎたいです。
そもそも美幸の体なんて泳ぐって言うほど柔らかくなさそうだし。
そういえば修学旅行で委員長の体は程よく肉があって柔らか…おっと、思考回路おかしい。

「もはやアキ先輩には勉強するか私と愛し合うかしか選択肢はありません」
「うわどっちも精神的苦痛を与えるなぁ」
「私と愛し合えば肉体的快楽は得られますけど」

…その体で?
口には出さないけど…その体で?
え、その体で?

「アキ先輩、『信じられない!』って目で私の胸をガン見しないでください」
「信じられない!」
「口にも出さないでください」
「じゃあ信じてあげるからそろそろ休憩にしない?」
「平然と意味わからないことほざかないでください。
 まだ前の休憩時間から二時間しかたってませんよ」

それ十分じゃないかなー…。
いくら喋りながらとはいえ二時間ぶっ通しで勉強してるんだからもういいと思うんだけど…。

「まだまだですよー。テストまであと少ししかないんですから」

かといえど3日間ずっと美幸と二人きりで勉強してるんだよ?
もう十分じゃないかなー。

「テスト範囲をまだ半分も終わらせてないんですよ?
 これで十分なんてどの口で言えるんですか」

この口だけど。
そう言ったら強引な方法で塞がれそうだしやめとこう。

「せめておやつにしない?お腹減った…」
「それは…まぁいいでしょう。
 お腹が減ると勉強してもあまり頭が回りませんからね。
 でも食べすぎは眠くなるのでダメですよぉ?」

そう言うと美幸は台所へ行ってカチャカチャとおやつの準備をしだした。
あー、やっと休憩できる…。
糸が切れたみたいにパタッと倒れるとカーペットが冷たくて気持ち良かった。
そういえばもうすぐ夏かぁ。

「あー、そろそろ進路調査も始まるなー…」
「アキ先輩はやっぱりエスカレータで大学通うんですか?」
「楽だし、勉強しなくていいし」
「勉強しなくていいわけじゃないと思いますけど…。
 学科は?」

学科は…決めてはあるんだけど…。

「言い淀むってことは夏雄先輩と一緒ですか?」

う…。

「工学科ですね。
 なんだかんだでブラコンなんだからぁ」
「そう言われるから言うの嫌だったんだよ」

別に兄ちゃん目当てで学科を決めたわけじゃないのに。
将来工業系の就職につきたいから工学科に行きたいだけだし。

「なんだか、大きくなりたくないですね」
「うん?」

美幸にしてはセンチメンタルなことを言う。
体を起こすと、キッチンで飲み物を準備している美幸が寂しそうに顔を伏せている。

「…私、まだまだアキ先輩たちとワイワイやってたいです」
「別に大人になったら出来なくなるわけじゃないでしょーが」

あたしとしては大学生になったら遊びまわるつもりだ。
その中に美幸の姿があるかといえばわからないけど、とりあえず来たいと行った人は置いて行かないんじゃないかな。
むしろみんなが遊びに行くのを自分が見送っているほうが容易に想像つく。
うわ、怖。

「例えばですよ?」
「うん?」
「アキ先輩に、恋人ができたとして…」

うん、明るい例え話だ。



「そしたら、もうアキ先輩と一緒に遊ぶことはなくなるんだなぁ…と」



恋人と二人っきりで遊び放題。
それは明るい未来計画だね。
でも美幸、それおかしくない?

「美幸さぁ」
「はい」
「兄ちゃんの恋人はノリだって知ってるよね?」
「はい」
「兄ちゃんと、よく遊びに行くでしょうが」

そういうと、美幸はポカンと口を開けた。

「…そっかあ」
「うん」
「そうですよね、アキ先輩に恋人ができようが夏雄先輩にしてるみたいに猛アタックすればいいんですよね」

どうしてそうなった。

「いや、それは良くない」
「そっかぁ」
「そうじゃない」
「じゃあ、大丈夫ですね!」

いやいや、全然大丈夫じゃない!
あたしの平穏な未来が消えた!今一つ消えた!

「奪えばいいんですね!」
「ダメです」

美幸は意気揚々とジュースとお菓子を持ってくるとあたしの前にニコニコと座った。

「そもそも大学生になったところでアキ先輩に恋人なんてできませんもんね!」
「ちょっと待て、そりゃどういう意味だこらぁ」

不吉なこと言うな!
あたしは薔薇色、いや、百合色の大学生活を送るんだ!

「大丈夫ですよ!私が夏雄先輩に振られたらアキ先輩を拾いに来てあげますから」
「いや、あなたもう散々振られてるでしょうが」
「ノリ先輩の控え目な態度を見てたらまだまだ私にもつけいる余地はありますね!」
「怖い!強引過ぎて怖い!」

元気になったのはいいけど元気になりすぎて怖い。
これはもう「兄ちゃん、乙」の一言に限りますな…。
あたし、悪くない、はず。








…間。








ピピピ

「あらら、今日は妙に正答率が悪いと思ったら熱があったんですねぇ。
 やっぱり勉強をしたがゆえの知恵熱でしょうか」

うるへー。

「氷のう持ってきますからちょっと待っててください」

あの後、勉強をしている途中で鼻血が出た。
通りでいつもより頭がくらくらすると思ったんだ。
熱を測ってみれば37.8度。
微熱ってところかぁ。

「…美幸が居て良かった」

美幸がいなかったら今頃一人で居間でエロビデオ見て床に沈んでたかもしんない。
美幸には悪いけど、氷のうだ飯だと世話をやいてもらえるのは有り難い。
少し、寝てるのも辛い。

「お待たせしました。晩御飯まで時間ありますけど少し寝ますか?」
「ん…ちょっと、そうしようかな」
「おやすみなさい」

再び美幸がいなくなると、部屋は静かになる。
…こんなに静かなのは久しぶりな気がする。
兄ちゃんがいればゲームの音とか音楽とか聞こえてくるし、
それ以前に兄ちゃんがいようがいまいが自分が元気なら部屋でゲームとかしてるし。
耳に音が入ってこないっていうのはなんだかとても落ち着かない。

「美幸、何してんのかな…」

寝るのの邪魔にならないように一階で静かにしているんだろうけど、何してんだろ。
普通のDVDでも見てるかな。
兄ちゃんの漫画でも読んでるかも。

「大学生になったら、今みたいにいられない…?」

せっかく仲良くなった委員長やみどりんが廊下で挨拶する程度の存在になる。
ノリも誠二も巽も側にいなくてひとりぼっち。

大学という場所は広くてオープンなようで実は閉鎖的だ。

仲がいい人というのは少なくなり、自身の努力(あと運)で友達は得られる。
その努力が、あたしには難しい。運は正直、無い。

(いつだって憎まれ役か)

後悔したことはないけど、寂しくなかったといえば嘘になる。
それを正直に言えるほど、強くもない。
だから無関心を装う。
これだけ自分を客観的に見れるのになぜかどう改善していいかわからない。

(結局、兄と同じぐらい不器用なのかな、あたしも)

熱のせいだ。
頭がぐるぐるする。
今この瞬間『寂しい』なんてどうかしてる。
兄ちゃんだって明日には帰ってくる。
ノリだって明日学校行けば会える。
友達にだって恵まれてる。
なのに『寂しい』なんて、欲張りすぎる。



-あんた、それは楽しいんじゃなくて、楽なだけよ-



楽、になるのはいけない?
わからないよ、みどりん。
どうしてあたしが不自由なの。



-まっつー、今度ふらふらしたらべたべたするから-



委員長はあたしをどうしたいのかな。
みどりんと同じ?
あたしが委員長や兄ちゃんに変わって欲しかったみたいに、あたしを変えたいの?

ヤダよ、あたしはあたしがいい。

でも、今の自分のままじゃきっとずっと『寂しい』ままなのは理解してる。
…矛盾だらけで苦しいな。
こんなの全然楽じゃないし、自由じゃないよ…。



「…で……あ…」
「い……上…」



あれ、下が騒がしいな。
奈央ちゃんでも来たのかな。
どうしよう、下に降りようか?
でも起きてたって言ったら美幸にこれ以上気を使わせるかもしれない。
いいや、寝たフリしとこう。

コンコン

階段を上がる音と、控えめなノックの音。
あたしは寝てますんで返事はしませんよーっと。

ノックをした人物はそーっと部屋に入ってくると、あたしのすぐ近くで立ち止まった。
寝たフリは得意だけど、起きたフリは苦手。
よし、このまま無視の方向で。

「…」

ずっと見られてるのはちょっと怖いナー…。
頑張って耐えていると、頬を手の甲で触れられた。
…この感触は女の子だな!熱があっても衰えないあたしの五感に乾杯!

「…」

かすかな息遣いを感じる。
美幸か、奈央ちゃんか。これで実は誠二だったら自信なくすなー。
こういう当てっこは完璧なはずなのにー。

するすると頬に触れる手は優しい。
不思議とさっきまでの『寂しい』気持ちが和らぐ。
…これが奈央ちゃんであれ、美幸であれ、誠二であれ、あたしは恵まれてる。

「ぁ」

うん?
突然、頬を撫でる手の主はオロオロし出した。
それから、ふっと前を向く気配がした。
…あれ、これってどこかで…。




「…泣かないで」



あぁ、委員長かぁ!
…えぇえ!?なんで委員長がここに居るのん!?

「ヒナ、どうー?」
「あ、うん。ちょっと…」

あ、やっぱりみどりんも居る。
ひそひそと会話を交わす二人。
あれ、委員長の存在に驚きすぎて大変なことをスルーしてる気がする…。

「…寝てるときに素直にならなくてもいいじゃない」
「寝てるときだから素直なんだよ。
 熱もあるし、夢でも見てるのかな」

頬から手が離れ、布団からはみ出している手を握られる。



「大丈夫、大丈夫」



なにが?

「…そろそろお二人ともお帰りになったらどうですかー…」

カチャリとドアが少し開く音がして美幸の声がする。
その声になんとなくほっとする。

「も、もう少しだけっ」
「美幸ちゃんはこいつのためにお粥つくるんでしょ。
 その間こいつがうなされないように見てるだけよ。
 こいつが起きないうちに帰るわ」
「…もー、変なことはしないでくださいよぉ?」

美幸じゃないからそれは大丈夫じゃないかなぁ。
それだけ言うと美幸はおとなしく一階へ降りていった。

「しかしまぁ、よく寝てるわね」
「疲れてるんだよ」

疲れてるのは否定しないけど、すいません起きてます。

「寝汗すごいね」
「普段不摂生だからよ」

すいません冷や汗です。
っていうか委員長、直に手で拭うと汚いよー?

「けどまぁ、せっかくヒナが優勝したから私たちが直々に伝えにきてやったらこの様だなんて…」

なるほどそういうことか。
明日になったらきっと元気になるから学校でおめでとうって言ってあげよう。
しかしあたしに報告する義務はないんだけど…。

「喜ぶかな?」
「どうかしら。大体こいつって肉は好きなのかしら」
「イメージ的には好きそうだけど」
「それヒナのイメージでしょ」



…肉?



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