Lily memo %



うちの委員長はもうダメかもしれない5


「っていう話を聞いたんだけど」
「うん、美化しすぎ」

奇数も偶数も風呂が終わって就寝までの少しした自由時間。
みどりんに呼び出され(リンチされるに違いないとドキドキしながら)自動販売機のあるところまできた。
周りに人気はあまり無い。
あの、ところで座っていいですか…?
委員長を膝枕してたせいで足ジンジンしてるんで…。

「あんたのことだからどーせろくでもないこと考えてたんでしょ。
 胸とか、胸とか胸とかお尻とか」

それほぼ胸じゃないよ。
みどりんの中であたしってどんだけろくでもない人間なのさ。

「あたしはただ委員長に腹がたってただけだよ」
「ヒナが勝手に提出物運んだから?」

それもまぁそうなんだけど…。



「あの頃の委員長って、兄ちゃんみたいで見てるだけでイライラしたんだよね」



これは本音だ。

「はぁ?全然似てないじゃない」

みどりんは自販機でおしるこを二つ出すと、一つをあたしに渡した。
…おしるこって…。

「今はね」
「ヒナがそう変わったとは思えないけど?
 あの子は昔も今も変わんないもの」
「そうかな」

1年生の時はもっと…こう…。

「なんだろ、空っぽ、かな」
「?」
「委員長って誰にも興味が無かった感じがしたからさ」


兄ちゃんだってノリがいるからまだマシなもんだ。
あの駄兄はきっと、あの文化祭まで「自分のために誰かの傍に居たい」とか思ったこともなかったんだろう。
何かを手に入れたくてしょうがなくて、それでも手に入らない経験を知らない。
興味がないから、そんな経験するはずがないんだ。
手に入っちゃうから、そんな経験するはずがないんだ。


「例えばさ、みどりんは委員長が何か失敗してるとこを見たことがある?」
「そりゃあるわよ。ヒナだって完璧超人ってわけにはいかないもの」
「でもさ、委員長が何かに失敗したときに泣いたことは?」
「あるわ」

まぁそこまではそりゃそうだ。

「…その後に、何かを求めたことはあるのかな」
「なによそれ」
「ダメでダメで、でも諦め切れなくて、絶対に成功しないことを知ってても、
 それでも自分の意思で挑むことってないんじゃない?」
「…」

兄ちゃんも委員長も、スーパーすぎて自分が何をしたいか知らないんだ。
なんでもできるから、ダメなものがあったら他の物で代用しちゃうんだ。
だから本気で欲しいものがどこにあるのかわからない。

「なんか、ヒナを軽い人間みたいに言われるのは納得いかないわ」
「そうは言ってないよ。
 ただあたしは委員長も兄ちゃんも苦労を知らないみたいで嫌いだっただけ。
 悲劇のヒロインぶる気はないけど、でもなんとなくひがんじゃうんだもんさ」

でも最近二人ともあたしにはわからない。
ただわかるのは文化祭の兄ちゃんは、ノリを本気で好きだった。
それだけであの文化祭はあたしにとって重要な意味を持った。
もっともっと、何かをつかんでほしい。
もっともっと、何かに興味を示してほしい。



「だから委員長に『何をしたって認められない』という意地悪をしただけだよ」



あとついでにあのままだと周りの人から利用されそうな子だったし。
そうなって爆発されても怖いし。

「あたしが委員長に本気で嫌われれば、委員長だって他人に興味を示したってことになるでしょ?」
「好きの反対は無関心、好きに似ているのは嫌いってこと?」

おっ、みどりんったら哲人ですなぁ。
まさにその通り。

「それじゃああんたが悲しいでしょ」
「あの時は委員長本気で嫌がってて面白かったなぁ」
「…このド変態」

みどりんはおしるこのプルタブを開けると、ぐいっとおしるこを喉に流した。
…罰ゲームで買ったわけじゃなかったのか、おしるこ。
みどりんはまだ納得がいかないのか厳しい目であたしを見た。

「…ま、ヒナとお兄さんの話は納得だわ。
 つまりあんたはヒナやお兄さんにヒーローであってほしいのね」

ヒーロー?
…そうなのかな。
そうかも。もっともっと、明るく輝く光が見たい。
キラキラ光るあたしには出せない万能な光。


「でも、私が気になるのはあんたのことよ」


あたし?

「私から見れば、あんた自身の方が何かを欲しがったことがないような気がするわ」

…それもそうかな。
たしかに、何か好きな物って言われると何も浮かばない。
昔はいっぱいあったのに今はないなぁ。

「昔はあったよ」
「例えば?」
「兄ちゃんみたいな人気とか、兄ちゃんみたいな万能さとか」

なんでか不器用に生まれちゃってこの通り、何もできない。



兄ちゃんみたいに人気があれば、友達もいっぱいいたかも。

兄ちゃんみたいに万能だったら、親も構ってくれたかも。

兄ちゃんみたいに…



考えれば考えるほど怖くなるから、今は考えないようになった。

「でも昔より今のほうが幸せなんだ。
 昔のほうが充実してたのに、今のほうが楽しい」

なんにも持ってないのに。
なんにもないのに。




「あんた、それは楽しいんじゃなくて、楽なだけよ」




みどりんは呆れたように首を振ると、あたしの額に一つデコピンをした。

「見てなさい、いつか本気で楽しいって思わせてあげるから」
「?」
「あんたがそんなにヒナやお兄さんを大好きだっていうなら、あたしがあんたを大好きだって言ってやるわ」
「なっ」

急に何を言い出すの!?
っていうかそんな恥ずかしいこと言ってない!

「それだけで気が楽になるでしょ。
 あんたが自分で楽になるようにしてるなら、その部分を補ってあげる。
 これであんたが何を考えてても楽なままよ」

あたしが何を考えてても楽?

「結局、自由にしてるみたいなあんたが一番不自由なんじゃない」

あたしは自由じゃなかった?
あんなに飄々として見せたのに。
あんなに好きなことしてたのに。

「つまづいても転んでも、私が笑い飛ばしてあげる」
「…意味がわからないよ、みどりん」
「今はまだいいわ。どうせあんたのことだから信頼するまで時間がかかるだろうし。
 ま、そのつもりでいくから覚悟してなさい」

…どういう意味?
みどりんはぐーっとおしるこを飲み干すと、カラリと缶を捨てた。

「とりあえずはあんたには人は怖くないってことを教えないといけないわね」
「え?え?」
「そのへんはヒナを使って教えてあげるわ」
「は?」

カチャリ、と音がしてぽてっと倒れる人影。



「いたた…」
「委員長」



盗み聞きしていたのかぁ。
気付かなかった…。

「ご、ごめんねっ!聞く気はなかったんだけど…」
「さて、桃松。問題よ」

ほぅ、問題とな。

「ヒナはどうして盗み聞きしていたのでしょう?」
「はい、先生!」
「はい、桃松さん」

元気よく手をあげると、意気揚々と答えてみる。

「みどりんの貞操を案じたためです!」
「…」

無言で殴られた…。

「ある意味正解といいたいけど違うわよ」
「あ、そうなの?」

うーん。

「あ、盗み聞きが趣味とか」
「違います!」

今後は委員長に怒られた…。

「この宿題に答えられるようになったらあんたは幸せよ。
 頑張りなさい」

にっこりと笑うと、みどりんは部屋に戻って行った。
そして残された委員長とあたし。

「…えーっと」
「……」

いやだから二人きりで黙られるとしんどいですってば。
委員長はやっぱりわかんない。

「私たちも戻ろっか?」
「うん」

委員長は少し困ったように笑うと、あたしの手を引いて歩き出した。
…いや、手を引いてもらわなくても大丈夫ですけど。
そう思ってもしっかりと握られていて抜けだせそうもない。
考えてみれば…

「誰かと手を繋いで歩くのは、幼稚園以来だなぁ」

あたしの呟きが聞こえたのか、委員長は顔だけこちらに向けた。

「…嫌だった?」
「恥ずかしい」
「ぷっ、あはは!」

あ、ひどい。
委員長笑いやがった。

「そっか、恥ずかしい、かぁ」

やけに嬉しそうにそう呟きだした。
でも部屋の前になって、パと手を放す。

「ただいまー」
「おかえりー」

みどりんの言うことがわかったら、もう少し委員長の考えてることもわかるかな。
それとも、委員長の考えてることがわかったらみどりんの言うこともわかるのかな。
考えなきゃいけないことが多くて、頭痛い。







…間。







「でさ、康夫がー…」
「うっそ、まじでー」

就寝時間近くになって、みんな布団の中でおしゃべりタイム。
委員長とみどりんも楽しそうに明日の予定を話している。
…しかし髪を下ろした委員長は色っぽ…おっと。
思考回路が変なとこ行きかけた。



カチャリ


バタタ



急にドアが開いたと思うと、何人かの男がなだれ込んできた。

「遊びに来たぞ―!」

女の子たちもきゃあきゃあと嬉しそう。

「委員長、役柄的に先生にチクるべき場面じゃない?」
「私は既に寝ているのでなんにも見ていませーん」

やけにはっきりした寝言だね。

「おーい、物騒なこと言うなよアキ」
「そうよ、ひどいわアキちゃん!」

おぉ、巽と誠二まで。

「僕も居ますよ目片さん!」
「武下君」

委員長、帰れって言ってもウケる部分だよここは。

「せーちゃんここに居ても違和感ないねー」
「ほんとはジャージじゃなくてパジャマが良かったわ…」
「今度パジャマパーティしようよ」

委員長、危機感が(略)
ま、いいか。誠二だし。
…いやいや、誠二も一応男だから!

「あ、でも先生そろそろ来るんじゃないかな」
「え!?」
「せーちゃんこっち!」
「おじゃましまーす」

みどりんの横に楽しそうに潜る誠二。
…なんか、百合っぽひ…。
しかしそうなると…。

「…」
「…」

無言で助けて的なメッセージをこっちに送るな、ムサくるしい。

「委員長悪ぃ、入れてくれ」
「はいどうぞ」

おぉう!?
巽そっちに入るの!?
そうなると必然的に…。



「も、桃松さん」
「却下」



気持ち悪いわ!
お前なら他の女の子も喜んで受け入れてくれるから他に行け!

「武下君かわいそうだよ、まっつー」
「じゃあ委員長入れてやれば」
「定員オーバーかな」

むしろ武下あげるから巽を寄こせ!
それならまだ耐えられる!

「…」
「…」
「もう先生来ちゃうよ?」

ぐぬぬ。
別にあたしとしてはこいつがどうなろうとしったこっちゃないんだけど…。
でもこいつが捕まると誠二や巽まで先生に見つかっちゃうかもしれない。
ぐぬぬぬぬ…。

「しょうがねぇなぁ」

おや、巽。こっちに来てくれるのかね。

「委員長、ちょっとそっち詰めてくれ」
「え?」

巽は委員長をぐいと押しやると、一人分のスペースを作った。
そこに嬉々として入る武下。

「ありがとう能登代君…!ヤンキーだヤンキーだと思っていたけどいいところもあるんだな!」
「き、気持ち悪ぃ、くっつくな」

おぉ、ほんとに気持ち悪そうだね、たつみん。
しかしだね…。

「…」
「…」




押しやられた委員長があたしの布団に入ってきてるんですが…?




「おーっと、狭いなぁ」

ぐいぐい。
このヤロ、わざとだ。
残念ながらあたしの後ろは壁で逃げ場はない。

「委員長、くっつきすぎ」
「だ、だって能登代君が……。
 あ、一応男の子は布団を頭まで被って!
 まだ電気付いてるからバレちゃう」

その台詞にバサバサと音がする。
って誠二は顔出したままかよ。
確かにバレないけどさ。

「男子の方はバレないの?」
「既に電気消して残ってるヤツらには入口付近で寝てもらってる」

残ってるヤツら…。
そういえばノリ居ないなぁ。
兄ちゃんがいなければただの紳士だから「女の子の部屋に行くなんて!」ってな状態だったんだろう。

「あ、足音聞こえる」

入口付近からオノチャンの声が聞こえてみんな静まった。



カチャリ



うう…、委員長の息が首に当たってくすぐったい。
女の子にこんなに近づくのって、奈央ちゃんと美幸以外は初めて、かな。



パタン

「5組良しっと…」

パチリと電気が消される。



ドアが閉まった瞬間、みんなバサリと顔を出した。

「あー、ビビッたー」
「良かった、見つからなくって」

みんな思い思いにまた喋る。
今日はみんな眠れなさそうだ。

もそもそ

…委員長、ひっそりと腰をホールドするんじゃありません。
ぎゅー、じゃないから。
会話せずにそういうことすんのやめなさい。

「委員長、くすぐったい」
「ふふ」

髪の毛がふわふわ絡まってきてほんとくすぐったい。
なんか、体がムズムズする。
巽に助けを求めようと目線を寄こせば、既に寝に入ってやがった。
あんた何しにきたの。

「…桃松さん、場所変わろうか?」
「却下」

武下、却下だ却下。
デカい図体してそんな子犬みたいな目で見るな。
みどりんは誠二ときゃっきゃと盛り上がっている。

「…委員長、くすぐったい」
「それさっきも聞いたよ」

じゃあ離れてください。
顔近いしさっきから…こう…。
なんか…ノーブラっぽいし…柔らかいし………。

「くわぁ」

鳴いても委員長はくすくすと笑うだけだった。

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