Lily memo %



私の友人はもうダメな子しかいない4


「じゃあ、出席番号が偶数の人たちは早急にお風呂に入ってください」

ヒナがそういうと、ぞろぞろと半分の人たちが部屋を出た。
その中にはアイツも居て、部屋に残ったのはあとの奇数組。
先にお風呂を済ませた私たちはもう布団に入ってぼんやりと寝るだけだ。
もちろん、修学旅行最初の夜が寝るだけで済むはずはないのだけど…。

「まっつーとお風呂入りたかったなぁ」
「ヒナ、あんた妊娠したいの?」
「…しないと思うよ、みどり」

まぁね、広いお風呂だったもの。
あれだけのお湯が張ってればいくら桃松DNAが混ざり込んでても妊娠しないわよね。
…しない、わよね?
今更だけど偶数番号の人たちが心配になってきた。

「…♪」

ヒナは軽く鼻歌まじりに荷物を整理しはじめた。

「やけにご機嫌ね」
「うん、この後はお楽しみだもの」
「お楽しみ…?」

何かあったかしら。

「…もう、みどりが原因でしょ?」
「何が?」


「ひざまくら!」


あぁ、あったわね、そんな話。
私自身がグロッキーだったからすっかり忘れてたわ。

「お風呂の後にしてもらうんだ」

まぁとても柔らかい肉質で確かに気持ちいい太ももではあったけど。
そんなに楽しみにすることかしら。
ヒナは待ちきれないのかニコニコしながら荷物を出し入れしている。
…そういえば昔っから機嫌が良いと掃除をしてることが多かったっけ。

「それにしてもヒナ」
「ん?」
「やりすぎ」

私の荷物まで整理しなくていいわよ。

「だってみどりの鞄の中汚い…」
「どうせ私は片付けられない女よ!」
「部屋だっていつも掃除してくれないもんね」

そうよ、最終的にヒナに任せちゃうんだもの。
お母さんは怒るだけで掃除なんてしてくれないし…。

「普通は自分でやるものだからね?」
「それはそうなんだけどぉ…」

こういうのは適材適所っていうヤツよ。
私にはきっと向いてないんだわ!



「まっつーの布団いえーい!」



うわ、びっくりした。
ヒナと雑談してたら突然ヒナの後ろからずさぁって音がしてノーテンキな声がした。

「なにやってんのオノチャン」
「おぉ、まっつーの布団はバニラ…?ミント…?桃?何の香りだろ、これ」

オノチャン変態化。
人の布団の匂いを嗅ぐんじゃないの。

「まっつーっていつも割と良い匂いするよねーと思ってさ。
 さっき布団にダイブしてるの見ちゃったから布団に匂い移ってるんじゃないかなと思って…」

だからって人の布団にいきなり潜り込んでスーハースーハー匂い嗅いでもいいってわけじゃないと思うわ。
いつからそんな面白いキャラになったのよオノチャン。

「香水かな?」
「どれどれ」

ヒナも楽しそうに桃松の布団に近寄るんじゃないの!

「と、いいつつみどりも確認するんだね…」
「うーん、香水よねたぶん。
 桃松のくせに香水とか生意気じゃない」

なんというか甘い感じの…これは確かに良い匂いだわ。

「ちょっぴりセクシー系、だね」

それでなんでヒナは頬を赤くしてるのよ。

「委員長たちってまっつーと仲良いけど、何の香水つけてるか知らない?」
「うーん、残念だけどわからないな」

私も知らないわ。
興味も無かったし。
っていうか桃松と私たちって周りからも仲が良いと思われてるんだ?

「…ねぇオノチャン」
「んー?」
「私たちと桃松って仲良さそうに見える?」

ヒナも話題が気になったのか、オノチャンの方をじっと見た。

「そりゃ見えるけど…、仲良いんじゃないの?」
「うーん、ヒナが一方的に懐いてる気がしないでもないんだけど…」
「あ、みどりひどい!」
「だってそうじゃない」
「…それは、まぁ、確かに…そうかもしれないけど…」

ヒナは図星を突かれて痛かったのか、しゅるしゅると元気をなくして布団にぼすりと埋もれた。
…桃松の布団に。



「…私たちからしたらどうして委員長が桃松さんに懐いてるのかがわかんないんだけど…」



あれ、この子は確か…。
桃松が『1年の時同じクラスだった』と言ってた子たちの内の一人だ。
いつの間にか私たちにはみんなの目線が集まっていた。

「鈴木ちゃん、どういうこと?」
「そうだね、確かに委員長のまっつーラブっぷりは結構凄いよね」

その言い方はなんだか嫌だわ、オノチャン。

「委員長って1年のとき桃松さんのこと嫌いじゃなかった?」

っていうかなんでみんな円陣組んでるの?
枕を抱えて全員がヒナを見ている。
そういえば桃松がヒナと揉めてたって言ってたっけ。
その辺は私も聞かないといけないわね。

「ヒナってば1年のとき桃松と揉めてたわけ?」
「揉めてたっていうか…まぁ、意地悪ばっか言われてたというか…」

ヒナにしては歯切れが悪い。
そういえばあの頃、『クラスに凄い意地悪な子がいる』って拗ねてたっけ?
すごく適当に聞いてたからあまり覚えてないわぁ。
いや、しっかり聞いてても覚えられなかったわけじゃないのよ?ほんとうよ?
ヒナの話はいつも難しいのよ…!

「9月の新学期の始まりにね、宿題のノートの提出があったの」

あぁ、恐怖の時間ね。
ヒナのおかげで課題は全部終わってるのになぜか嫌な気分になる日だわ。
あれはもう本能が感じてるのよ。

「ノートを先生のところに持って行くのはまっつーのはずだったんだけど、
 私が他の用事のついでに持って行っちゃって…」
「その時に桃松さんがお礼を言わなかったのよね」

今思い出しても腹立つわーと頷いている鈴木さん。
詳しく思い出しているのか、腕をぐっと握って顔をぎゅーっと顰めた。

「それどころか委員長に『勝手なことするな』って怒ったのよ!
 委員長は善意でやったのに!私たちもう腹立っちゃって腹立っちゃって!」
「…それでまっつーは孤立したの」

ヒナは少し苦笑気味に、興奮している鈴木さんに合わせて話している。
本当はヒナは思い出したくないんじゃないかしら。
視線を落として落ち着きなく桃松の布団を弄っている。

「それ以来、桃松さんは委員長に何かしら対立しては嫌味を言っていたの」
「今思い出すと凄かったなぁ。
 日直で私が宿題を回収したら『信頼できない』って言って個人で宿題出しに行ったり、
 私が雑巾がけした部分を『本当に掃除したんですかねー?』って言って更に上から雑巾がけ」

姑か…?
あいつはほんとにネチネチしたことが好きなわけね。
さすが、自称『怒らせるのは得意』なだけあるわ。

「一番ひどかったのはアレよアレ!」

鈴木さんは立ちあがると吠えた。



「教室で飼ってた実験用のメダカを委員長が世話するってなった時に、
 『その人に任せたらメダカ死ぬんじゃない?』って言ったの!!」



あ、今のは私もムカってきた。
ヒナが生き物を死なせるわけないじゃない。
誰よりも優しい子なんだから。

「あれはショックだったなぁ…」
「それで私カチンときちゃって!桃松さんに『じゃああんたが世話しなさいよ!』
 って怒鳴りつけたのよ!」

そうね、私も同じ立場ならそう言うわ。

「で、メダカの飼育係は桃松さんになったわけ」

…なんだかさっきから小学生の喧嘩を聞いてるようだわ。
メダカの飼育ぐらいでケチつけるんじゃないわよ。

「でももうそれで教室中から反感買っちゃって3学期なんかあの子に構う人なんていなかったわ。
 その頃は委員長だって無視はしないけど話しかけられるの嫌がってたでしょ?」
「…う…ん、そうだね」

あぁ、なるほどね。
ヒナにとって今は大好きな桃松を嫌ってた頃なんて思い出したくもないはずだわ。
それでさっきから落ち着かないのね。納得。

「で、まぁ2年になって違うクラスになったからその間のことは知らないんだけど、
 3年になってあの桃松さんと委員長が仲良くしてるんだからビックリよ」
「え、私が知ってる限りじゃあ2年の最初の方から委員長はまっつーに話しかけてたよ?」

と、今度はオノチャン。
そういえばそうね…、私が初対面でヤツに胸を揉まれたときもビックリはしてたけど嫌ってる感じはしなかったわ。




「と、いうことは1年と2年の間の春休みに私たちの知らない何かがあったということね…!」




オノチャン、無駄に話を盛り上げないの。
ほんとうに無駄に。

「…メダカ」

ぽつりとヒナが視線を落としたまま呟いた。

「メダカ、3学期になったとき、生きてたでしょ?」

今のは鈴木さんに宛てた言葉みたいで、鈴木さんもそういえばそうだったなぁと呟いた。

「冬のメダカの世話って割と大変なの」

へぇ、そうなの?

「私、3学期になったらまっつーのせいでメダカ死んじゃうんだなって思ってた。
 でもまっつーと喋るのが嫌で冬休みにメダカの様子を見に行ったりしなかったの」

はぁ。

「でも、メダカはちゃんと3学期が終わるまで生きてて、
 でも彼女がメダカを世話しているところを見れなかったの」

放課後じゃないの?
むしろあいつ本当にメダカの世話とかしたのかしら。
あいつのことだから「ノリ、よろしく」とかやりかねないわ。

「春休みに水泳部の練習で学校に来た時にたまたまお兄さんが来ていて喋る機会があって…」

そういえば来てたっけ。
っていうかあのお兄さんしょっちゅう来過ぎじゃない?
顧問よりも居る気がするわよ?
あの人いつも何のために来てるのかしら。

「そしたら『妹なら毎日学校来てるぞ』って言われちゃって…」

へぇ。

「で、試しに一日中教室に張りこんだんだ」

…根性ね、ヒナ。

「春休みは朝一番に来て、夕方に帰っていくの、毎日」

毎日?
暇ね、あいつ。
あぁそうだっけ、暇だっけあいつ。
っていうかヒナもそんだけ張りこんだわけ?
そういえば一時水泳部の練習に来なかった時期があったような…。

「ある時、能登代君が来てて二人が喋っている内容聞いちゃったんだ」







-お前もバカだなー、なんでメダカなんか…面倒だろそれ
-うるさい、巽
すでにあたしの中ではこいつらに愛情が芽生えているのだよ

-委員長、だっけ?それに任せとけばいいじゃんか
心優しい良い子…、なんじゃなかったっけ?
-だから任せちゃダメなんだよ
ありゃ放っといたらダメになるよ

-ダメってなんだよ
-せっかく万能な良い子なのにあのままじゃただの便利小僧になっちゃう

-便利小僧?…いいじゃねぇか放っときゃ。関係無ぇだろ
-バカ。CカップだよCカップ
-Cカップは希少価値ではないだろ…









「っていうのを聞いちゃって…」

どんだけ胸にしか興味がないのよアレは。
…しかしまぁ。

「ほんとにあいつはなんていうか…バカだわ」
「ふふ、みどりはそう言うと思った」

あいつを見てると青鬼を思い出すのは気のせいだと思いたいわ。
結局そのメダカは2年になるにあたって教師が引き取っていったらしい。
桃松は見事に世話をしきったけど誰にも褒められなかった。
むしろ当然のことといえば当然のこと。

「本当にお人よしなんだかなんなんだか…」
「そっか…まっつーは仁義の人だったんだね…」

オノチャン、なにその中途半端な頬っぺたにキズをもってそうな人たちが使いそうなセリフは。
…なるほどねー。
それでヒナは桃松を良い人とインプットしちゃったわけね。



「私、そんな風に自分そっちのけで誰かを心配する人って初めて見たから…」



…あいつがただ人のために良いことするかしら。
これはあいつ自身に話を聞く必要があるわね。
ヒナのことだもの、どうせ少し良い風に話をかきかえてるわ。

「でもそんなの桃松さんが勝手に決めて勝手にやったことでしょ?」
「それはそうだけど…、でも全然自分と関係無い人の将来を心配する、なんてなかなかできないことじゃない?
 なんだかまっつーのこと知りたいって思っちゃって…。
 知っていく度に全然考え方が違ってそれが面白くって…で、今こんな感じかな」

まぁヒナらしいというかなんというか…。
でもそれを知っていって最終的にどうするつもりかしら。

ヒナもわからないけどもっとわからないのはやっぱり桃松…か。
…せーちゃんといい、能登代君といい、桃松は気に入った人間をどうしたいのかしら。
幸せにしたい、とかそういうものじゃないわよね、さすがに。
ヒナはどうして心配するのか、とか理由を考えはしなかったのかしら…?



「ただいまー」



そうこう言ってるうちに偶数組が帰ってきた。
その中には当然あいつも居る。

「…あたしの布団がオノチャンと委員長に犯されてる…!?」

ただ布団に潜り込まれて枕を拉致られてるだけでしょうが。

「まっつー、座って」
「うん?」

強制的に座らせられた桃松の上にぽすりと頭をのせるヒナ。

「ふふふ」
「…」

そんな心底呆れた顔するんじゃないわよ。
途端、ニヤリと顔を歪める桃松。

「委員長、胸揉んでいい?」
「…ダメです…」

…頭を乗せた瞬間に揺れた胸が気になったわけね…。
とりあえず私はヒナがつぶれない程度に桃松を蹴り潰しておくことにした。

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