Lily memo %



私の友人の妹はもうダメかもしれない5


「…」
「…」
「♪」

どーしたものか…。
私は今、とても気まずい空間に居る。
逃げ出したくなる甘い雰囲気、更に背中に刺さる強烈な視線。
それから、携帯。

「夏雄、暇だわ」
「そうか、俺はメールに忙しい」
「夏雄先輩、ご飯できましたよー♪」

なんというか、あの年代の子たちがいないだけでこんなに暇な家になるとは…。
こんなことならやっぱり来るんじゃなかった…。

事の発端は今日のお昼。









「おーい、奈央ー」
「あぁ夏雄。何よ用事って」

メールで夏雄に呼び出された昼休み。
午前の授業も終わって友達と美味しいお昼ご飯でも食べに行こうかって話をしていただけに機嫌だって悪くなるわ。
まぁアキちゃん関係の話かもしれないし無碍にはできないんだけど…。

「いやな、今日って暇か?」
「まぁ取り立ててレポートもないし大丈夫っちゃ大丈夫だけど」
「俺んち泊りに来ないか!頼む!」











で、泊りにきてやりゃあこれだもの。
原因はそこで夜ご飯を作ってくれている女の子だ。

「ふんふーん♪」

アキちゃんたちが修学旅行でいないことに気付いた美幸ちゃんがここぞとばかりに夏雄に猛アタック。
自分より口がまわる美幸ちゃんを言い負かすことができなかった夏雄は救済処置として私を呼んだ、と。
良い迷惑だわ。
そのうえ…

「ノリからメールはまだか…ブツブツ…」

呼んだ本人はこの調子だもの。
私、帰っていいかしら。

「奈央先輩。納豆って大丈夫ですかー?」
「大丈夫よー」
「なーんだ」

なんだとはなんだ。
そうね、さっきからすごい邪魔ですよって目線が美幸ちゃんから送られてきてるものね…。
かと言って帰れば今度は夏雄から酷い量の電話がかかってくるんだわ。
あぁ、アキちゃんが恋しい。

「はぁ…」

アキちゃんは今頃何してるのかしら。
私たちの頃は1日目は首里城だったわね。
今もそうなのかしら。

「夏雄、アキちゃんたちの予定ってわかる?」
「あぁ、アキが置いてった保護者用のタイムスケジュールがそこにあるぞ」

ペラリと見てみると、私たちと全く同じ日程だった。
懐かしいわー、あの頃は私も夏雄も若かった…。
この時間だとご飯の前のちょっとした休憩時間かしら。
ヒナちゃんやみどりちゃんや誠二君も楽しくやってるといいんだけど。
ノリ君はどうせ夏雄とメールしてて巽君はいつも通りやる気なくだらだらしてるんでしょうね。

「あぁダメだ、ノリ可愛いこいつ…」

あぁダメだ、ヤバイこいつ…。
ついにメールに頬ずりを始めた。

「奈央先輩、門限とかないんですかー?」

あからさま過ぎる追い出し方だけど、残念ながら無いわよ、美幸ちゃん。

「あぁ、アキちゃんに会いたい…」

せめてノリ君でもいいわ…!
誰かこの空間から助けて。



『このド変態!メールだぞ!』



あら、メール。

「奈央…、お前ほんとにそれを着信にしてたのか…」
「なによ、ノリ君の声を着信にしたままの夏雄に言われたくないわよ」

夏雄を尻目にメールを開くと、それは写真付きだった。
休憩時間に暇だったから写真撮って送ってくれたみたい。
…うぅ、可愛い。

「何の写真だったんだ?」
「手乗りシーサーの人形を実際に手に乗っけました、っていうだけの写真」
「…顔、映ってないぞ」
「うん、でも可愛い」

こんななんでもない写真とか浮かれて撮っちゃうあたりもうほんと女子高生みたいで可愛い…。
あ、女子高生か。

「アキ先輩からメール来たんですか?」
「うん、見てみてー」
「いいなー」

パタパタとスリッパを鳴らして寄ってきた美幸ちゃんに自慢する。
ふふふ、美幸ちゃんには悪いけどアキちゃんからの好感度は確実に私の方が上だもの!
お姉さんをなめるんじゃないわよ!

「いやしかし俺のノリの方が可愛い」
「ノリ君からどんなメールが来てるの?」
「ほれ」

どや顔で渡されたメールに目を通す。

「…あぁ、うん。可愛いわね」
「だろー!」




他人に見せるんじゃないわよ、こんな恥ずかしいメール…。




「さ、アキちゃんに返信しよーっと」

見なかったことにして早速アキちゃんにメールを送る。
返事は割と早く帰ってきた。
本当に暇な時間なのね。

「今度はなんてメールがきたんですか?」
「えーっとね…お土産、かなぁ」
「うーん?」



送られてきたメールについていた写真は、海ブドウ。
…だけ。



「…海ブドウですね」
「海ブドウね」
「海ブドウだな」

3人で首をひねる。
晩御飯に出てくるのか、それともお土産か。
はたまたアキちゃん自身が初めて見て感動したのか。

「本文は?」
「無し」
「…」

写真だけのメールとか無駄に男らしいわよ、アキちゃん。

「今何してるのか聞いてみたらどうだ?」
「そうね」

カコカコカコ… 送信。
…『このド変態!メールだぞ!』…受信。


…?…。


「…なんて書いてあった?」

私は無言で二人にメールを見せた。

「…『ひゃっほう』っていうだけの本文にまた変な写メが…」
「これはなんだ?」
「たぶん、……胸…?」

アキちゃん、Fカップを一度撮ってみたかったのはわかるけど、盗撮よそれ。
そっかぁ、やっぱりみどりちゃんたちと一緒に居るのね。

『このド変態!メールだぞ!』

あら、まだ返事出してないのにメールが…。

「今度はなんだ?」
「さっきの写真は『奈央ちゃんにメール送るから撮らして!』って言って撮ったものらしいわ」
「あぁ、なんか予想できるけど…、怒られたんだな」
「そうみたい」

今度はちゃんとしたみどりちゃんとヒナちゃんと誠二君の写真が送られてきた。
休憩時間に6人で民宿の土産物屋を見てるみたい。
…うんうん、3人とも可愛い。
3人ももちろん可愛いんだけど…。

「アキちゃん自身の写真は送ってくれないのかしら」
「最初に来てたじゃないか」
「シーサーの下にあった手のこと…?」

確かに可愛かったけど満足しないわよ、あれじゃあ。
アキちゃんの顔が拝みたいのよ私は。

「しょうがないな。ノリに送ってもらえないか聞いてやるよ」
「ぜひそうして」

数分後、ノリ君から今度は集合写真みたいな写メが送られてきた。

「…なにこれ」
「クラス全員集まってるんじゃね?」
「うわぁ、携帯で撮った写真だからこれじゃあアキ先輩の顔なんてわかんないですね。
 かろうじて端っこに居るのがわかるけど…」

…ノリ君のバカ…!
これじゃあより悲しいわよ…!

「6人で写してもらおうとしてガイドさんに頼んだらみんな寄ってきちゃったらしい」

これきっと男の子はヒナちゃん目当てで女の子はノリ君目当てじゃないかしら。
わかりやすいぐらいヒナちゃんとノリ君が真ん中だわ。
アキちゃんは端っこでピースすらしてない。
…テンション下がったんじゃないかしら、アキちゃん。

「…ぐぬぬ、おのれ…。ちゃっかり俺のノリの肩に手を回してるヤツはダレなんだ…」

あんたこの細かい画像でよくそんなとこまで見えるわね。
これはもはや愛じゃなくて執念だわ。

「よく見たら巽先輩なんてフェードアウトしてますね」

あぁ、ダルかったのね。
この写真を撮るに至ってどんなごたごたがあったのか容易に考えられるわ。

『このド変態!メールだぞ!』

あら、アキちゃんテンション下がってなかったのかしら。

「今度は何のメールですか?」
「…今度は写真無し」
「あらら?」
「はい、美幸ちゃんも夏雄も少しこっちに寄ってー」
「「?」」

二人が私の両脇に来たのを確認すると、上からパシャリと写真を撮った。

「あ!ひどい!せめて合図とかくださいよ!」
「俺絶対目ぇ閉じてた…!もう一回撮りなおせ!
 もしかしたらノリも見るかもしれないんだろ!?」
「はい、送信」

ぎゃあぎゃあ騒ぎ始めた二人から離れてアキちゃんにメールを送る。
さっきの内容は『そっちはどうしてる?』だった。
手っ取り早く写真を撮って『こんな感じ』って送ってあげた。
なんだかんだでこっちも気にしてるアキちゃんが可愛い。
もうほんと、痛くてもいいから目に入れてしまいたい…!

「アキから返事は来たか?」
「んー」

『このド変態!メールだぞ!』

「きたわ」

メールを開けると、写真が…。

「今度は何の写真ですか?」

覗きこもうとする二人の顔を押さえると、私は口に指を当てた。




「…内緒」




「「え?」」

こんな可愛いアキちゃんの写真、他の人には見せてあげられない。
本文にはほんの少し恥ずかしそうにコメントがあった。

『お礼に、ちょっと元気なあたしの写真をば』

大人数が撮ってる後ろでたった一人ポツンと巽君に撮ってもらったらしい。
でもその困ったようなはにかんだ笑顔はほんとに楽しそうなアキちゃんらしい可愛い笑顔だった。

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