Lily memo %



あたしもうダメかもしれない9


長時間飛行機に揺られ(隣には巽)、長時間バスに揺られ(隣には誠二)、
長時間歩いた先に(隣にはノリ)、大きな民宿。

「…もう無理だぽ」
「頑張れアキ」

冷たいね、ノリ。
しばらく兄ちゃんに会えないから機嫌が悪いのか…?

「毎日電話するから大丈夫」
「あぁそう…」

よもや何も突っ込むまい。
毎日電話してきっと毎時間メールするんだろう。

「じゃ、女子はあっちだから」
「あぁ、また後でな」

ノリたちに手を振ると、女子部屋に向かった。
大部屋は広かったけど、人数分の布団を敷いたら綺麗に埋まりそうな部屋だった。
とりあえず窓際の端を確保。
荷物をどさどさと置くと、今日必要だって先生に言われた物を取り出して少し小さめの鞄に入れる。

「筆記用具はノリのを拉致るとして、携帯、しおり、ガイドブック…」

ドシャ

…?
恐る恐る横を振りむくと、やっぱりというかなんというか、にっこりと笑う委員長が居た。

「隣良いかな?」

そんな爽やかに聞かれても拒否権はないざんす。

「あたし寝相悪いけど、それでも良ければ」
「大丈夫、文化祭の時に寝相が良いのは確認してるから」

ちっ。
委員長は危機感が(略)

「みどり、忘れ物はない?」
「ない…んじゃ、ないかしら…」

既にグロッキーだね。
まさかみどりんがあんなにバスに弱いとは思わなかった。
最前列の委員長の隣でずっとゲロゲロしていたのだ。

「水泳部の大会移動とか合宿とかバスじゃなかったの?」
「そのたびにいつもこんな感じだよ」
「う…せめて、電車なら…」

あぁ、それで委員長もあんなに手慣れていたのか。
いつも元気なみどりんの顔がこんなに青白く…。

「でも今から首里城近くまでバス移動だよ?」
「うぷ」

おぉ危な。
委員長、トドメさしてどうするの。














「首里城いえー!」
「でけー!」

テンションたけー!

「…なんでみんなそんなテンション高いのよ…。でかいだけじゃない。
 なんか凄い装飾してるだけじゃない…」

そんなこと言ったら世の中のお城とかドームとかタワーとかぜーんぶ無駄になるじゃないよ。
みどりん自分がしんどいからって周りに意地悪言わないの。

「建物の造りとかも面白いんだよ。
 あとちなみに首里城は城じゃなくて王様の住んでたところで…」

あらまぁ、委員長もウキウキモードですな。

「ちなみに造っている木もチャーギーっていって…」

委員長、みどりん聞いてないよ?

「アキちゃんアキちゃんアキちゃん!
 なんか沖縄の着物着て記念写真撮れるんだって!アキちゃん!」
「うん、誠二。呼び過ぎ」

わかった、わかったから袖引っ張らないの制服伸びるから。

「ノリ何してんの」
「2000円札と守礼門を比べてる…、おー」

なんて地味な楽しみ方を…。
っていうかまだ持ってたの2千円札。
たしかにとっておいてあるお家は多いと思うけど。

「まぁ…もぐ…なんというか…城だな…もぐもぐ」

巽、あんた実はバカだろう。
委員長がさっき城じゃないって説明したばっかじゃない。
っつーかさっそくサーターアンダギー食ってる…!?

「巽、きさまそれをどこで買った…!」
「あ?すぐそこだけど…食うか?」
「食う!」

巽からサーターアンダギーを強奪、もとい貰って首里城をぼんやり見て回る。
委員長はテンション高く、誠二とノリを連れて元気に首里城をまわりに行った。
その後ろから危機迫る勢いで武下が追いかけて行ったけどまぁスルーで。

「鈴城、大丈夫かー」
「あぁやめて能登代君、今の私にそんなガッツリな食べ物を見せないで…」

残ったのはなんというか頭がやんちゃなメンバーでした。

「どーするー?」
「どーするっつったってなぁ」

基本真面目ではない私たちは(3人合わせてテストの総合平均が34.2)ぼんやりと見ることしかできなかったりする。

「ほら、巽。シーサー」
「あぁほんとシーサーだな」
「…うっぷ…」

こんな調子だったりする。

「あ、喫茶店ある。みどりん、あそこで休憩でもしよっか」
「そ、そうね…。歩きまわるよりはいいかも…」

オープンテラスのような開けた箇所に座ると、適当に沖縄らしい爽やかな物を頼んだ。

「シークワーサー…?」
「シークヮーサージュース」

発音のおかしい巽に突っ込みつつ、ベンチに横になっているみどりんを見守る。
ちなみにあたしの手のグラスにはハイビスカスティーが入っている。
ローズヒップティーみたいな酸っぱさが少し暑さをマシにしてくれた。

「…3日とも移動ってほとんどバスじゃなかったか…?」
「うぷ」
「巽、追い打ちをかけるなというに。
 それに明日は電車で各自移動だから大丈夫」
「…ふぅ、よかった…」

明日もそのグロッキー状態じゃ困りますしね。
そもそも飛行機と電車は大丈夫でバスはアウトってあたりがよくわからない。

「ほらみどりん、頭を下にしてると余計気持ち悪くなるよ」
「じゃあどーしろってーのよ…」
「はい、どぞー」

一度やってみたかった!
起き上がったみどりんの横に座ってパンパンと膝を叩く。

「…はぁ?」

もう一度、パンパン。




「膝枕!」
「死ねば?」




おぉ、機嫌が悪いせいかいつもよりオブラートに包まれてない言い方だね…。

「あんたのなんか肉だらけで気持ち良さそうな膝枕になるに決まってるじゃないうぅぅ…」

貶してんの?褒めてんの?どっち?
なんか最初に言ってることと最終的に言ってることめちゃくちゃだよ。
それもやっぱりやるんだね膝枕。
なにこれ、新しい形のツンデレ?
みどりんの頬にハイビスカスティーのグラスをペタリと乗せてみた。

「あー…冷たくて気持ちいいー…」

そら良かったざんす。




「でも首里城の後って琉球村までバス移動じゃなかったっけか」
「うぷ」




巽、お前はあたしの足をゲロまみれにする気か。

「まぁその代わり琉球村ではのんびりできるから」
「首里城はそんなに時間無いんだっけか?」
「だから委員長は大事なみどりんを置いてったんだよん」
「なるほどな」

委員長のことだから時間があるならみどりんが復活するまで待つだろう。
そういう子だもんね。

「あれ、なにしてんのまっつー」

彼女はクラスメイトの小野田さん。通称、オノチャン。
2年の時に一生懸命看板を作りすぎて飛び出す仕掛けまで作っちゃったユーモラスな子。
この子も同じクラスだったのだ。
どうやら2年のときの友人とはクラスが離れちゃったらしく、新しく友達になった子たちとまわってるみたい。
その中には1年のときあたしと同じクラスだった子の顔も見えた。

「みどりんがバス酔いしちゃって」
「あらら、大丈夫?鈴城ちゃん」
「うー、ありがとオノチャン」

倒れたままに返事をしたみどりんに一つ頷くと、彼女はゆっくり合掌した。

「君の死は無駄にはしない…!」
「勝手に殺さないでくれる?」

面白い子だなぁ。
ちなみにオノチャンのチャンは俗に言う「○○ちゃん」のちゃんではなく、韓流アイドルの「チャン・ドコン」のチャンからきている。
…ファンらしい。

「時間無いし私らはこの辺の土産物屋見てるわー。
 じゃあまたね、まっつー、鈴城ちゃん」
「またねー」
「オノチャン行ってらっしゃーい」

ひらひらと手を振ると、何人かが気まずそうにこっちを見た。
同じように手を振り返すかどうか迷っているみたいだ。
3年になって全く初めて同じクラスになった子たちは普通に手を振ってくれている。
迷っているのは1年の時だけ同じクラスだった子たち。

「またね」

わかりやすく手を振ってあげると、若干手を振って歩いていった。

「…なに、あの子たちと仲悪いの…?」
「んや、そういうわけじゃないんだけどね」

1年の時もただぼんやり過ごしてたわけでもないもんで。
それに渦中の人だった人とあたしが3年で仲良くしてるから困ってるんだろう。

「あの子たちと仲悪いんじゃなくて、委員長とトラブってたんだよね、1年のとき」
「…初耳。そうなの?」
「そういや1年の時にアキは孤立してたっけか。
 その原因って委員長だったのか、そこまで俺は知らなかったな」

まぁ巽は1年のとき違うクラスだったしね。

「あんた孤立してない時ってないわけ…?」
「でへへ」
「褒めてないわよ」

なぜか周りの人が敵になっちゃうんですよねー、へへー。
なんでだろうねー、女の子を周りにハベらせたかったのに…。
くそー、桃松ネームバリューは役に立たないなー。

「…あー、…しんどーい…」

吐かないでね、お願いだから。
制服の着替えなんて持ってないから。
3日ジャージはほんと嫌だからね。

「ま、この先あんたが一人になることはまずないから安心なさいよ」
「大学は別かもよ?」
「うちの大学エレベーターじゃない」

それもそっか。
みんな自動的に兄ちゃんの後輩か。

「…学科が違うんじゃないの?」
「同じ大学になったら違う学科でも同じ授業とか、あるでしょ」

…膝が、くすぐったい。

「アキ、耳赤いぞー」
「だまれ巽」


















「ヒナ、そろそろ機嫌直しなさいよー…」
「みどりこそ、早く乗り物酔い直して」

ぐったりしたみどりんと、ちょっと頬を膨らませた委員長。
琉球村に着いたはいいけどオノチャンから話を聞いた委員長が完全に拗ねてしまったのである。
曰く、「みどりズルい」だそうだ。
ペット扱いならあたしに『膝枕したい』のはわかるけど、『膝枕されたい』と思うのは変じゃない?

「あーもー…怒んないでよヒナー…」
「怒ってなーい」

乗り物酔いでしんどいのか、みどりんも参ってるみたいだ。

「鈴城助けてやれば?」
「いやー、あれはあれで面白いからいいかな、と」

怒ったりすねたりしてる委員長なんて珍しい。

「わかったわよヒナー…、あとであいつ脅して膝枕させるからぁー…」

こらこら、そんな勝手な約束するんじゃありません。



「うーん…          ……じゃあ…許す」



委員長もしぶしぶ許可するな!
あたしに拒否権はないのか!?

「…じゃ、よろしく桃松…」

鬼や。
この人鬼や…。

「絶対に夜やってもらうからね」
「拒否権は?」
「…まっつーは嫌かな?」

これを嫌だって言い切れるほど悪い人にはなれない…。
っていうか上目使いとかどこで覚えたの委員長。
去年はそんなのできなかったでしょうが。

「…30分」
「やった!」

完全に機嫌を直した委員長は足取り軽くみどりんを連れてガラス工房へ入って行った。

「最近の女の子はわからん」
「お前も最近の女の子だろ」

ノリみたいな乙女に言われたくないな。
むしろノリの方が委員長と仲良しなんだから気持ちわかるんじゃなーいのー…。
もうダメだ、あたし女の子である自信がすり減ってきた…。

「さすがヒナちゃんね。
 もう上目使いを完全マスターだわ」

教えたのはお前か、誠二!
純粋な委員長にそんな入れ知恵するんじゃありません!
どうしてあたしの周りの男はみんなあたしより女らしいのか…!

「ほら巽、こっち」
「なんだ?」
「カップル専用ガラス細工キーホルダーですって!」
「誰がカップルだ放せこら」

見た目は完全カップルだよ、巽。

「そちらのカップルさんもどうですかー?」

そちらの、と言われてノリと一緒に後ろを見た。
…誰もいませんけど。

「そこの黒髪のお姉さんとお兄さんですよ」

うん?あたしらのことか?

「お一つどうですか?」

どうですかと言われてもねぇ。
これはあたしの義理の兄になるかもしれない男なんですけど…。
ノリと顔を見合わせると、苦笑した。
断ろうと手を横に振る。



「いやー、あたしらは…」

「二セットください」



ノリィー!?

「…買って帰って夏雄さんと一つずつ持ってようかなーと」

この乙男が!
頬を染めるな可愛らしい!

「夏雄さんあぁ見えて意外とペアルックとか好きだし…」

『あぁ見えて意外と』ってノリにはあれが何に見えてるんだろう。
どう考えてもペアルックとかベタ甘なこと好きだよね…!

「あれ、でもなんで二セット?」
「一セットはアキにあげる」

おぉ、イヤミか。
独りでカップル専用キーホルダー持って何が楽しいっていうのか…!

「片方誰かにあげたら?」
「相手がいない」
「別に恋人じゃなくてもいいんじゃないか?」

そう言われてもなぁ。
巽と誠二は二人で買ったみたいだし…。
帰ったら奈央ちゃんにでもあげようかな?

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