「えぇい、煮るなり焼くなり好きにするがいいさ!
そう!ビーフオアチキン!」
「意味がわかんないわよ」
約束は約束だ。
逃げも隠れもしないよ。
委員長に人として見てもらおう計画は見事に散ったわけだ…。
そうだよ、問題は入賞じゃなかったんだよ。
委員長より上だってことを見せつけるために行ったのに委員長より下で満足しちゃってたよ。
次の日に学校来たらものの見事に思い出させてくれちゃって。
委員長の鬼!
「ふっ、いいさいいさ。首輪でもなんでも好きなもの着けるがいいよ」
「ヒナにそんなSM趣味は無いわよ」
でもペット扱いじゃないの!
「で、どうすんの?ヒナ」
「うーん」
おぉ、普段は優しい委員長の顔が今日はなぜか般若に見える…!
あの無邪気で可愛らしい口からどんな恐ろしい妙案が飛びだすやら…!
委員長はしばらく悩んで、ポンと手を打ち鳴らすとニッコリと口をひらいた。
「二人っきりでデートしたい!」
…祝日。
あの後のみどりんの顔は見物だったなぁ。
二度と見たくない顔してた。
もうほんと視線で射殺されるかと…。
「映画、面白かったね!」
「あぁ、うん」
「…あまり面白くなかった?」
と、いうよりあまり見れませんでした。
頭がもうほんといっぱいいっぱいで。
「できればアニメが良かったな」
「ふふ、次は考えておきます」
「どーも。…ん?」
次?
「恋愛物だから、嫌がるかと思った」
確かにベタ甘だったなぁ。
元は少女漫画だったっけ?
嫌ではなかったけど凄く逃げ出したかったですわぁ。
「ベッドシーンがあったからなんとか耐えれたかな」
「…やっぱりそこなんだ」
そこ以外どこ見ろって言うの。
割としっかりしたベッドシーンだったから個人的には満足だよ!
っていうか委員長あのシーン顔逸らしてたでしょうよ。
「で、次はどこ行くの?」
「近くに美味しくって綺麗なパスタのお店があるからお昼ご飯」
パスタね。
そういえば麺類って最近食べてなかった気がするもんね。
たまにはいいかもしんない。
「こっちこっち」
案内されるままに着いて行く。
なんでこんなことになったんだか…。
みどりんの制止の声もあったけどものの見事に振り切ったなぁ。
-私はちゃんとみどりのこと守り切ったんだから私の好きなようにする!-
すっごい言い分だなぁ。
おかげさまで祝日がまともだ。
「パスタ自由のランチセットあるって。どうする?」
「安いしあたしはそれにしようかな。…イカスミ」
「イカスミはやめとこうね。私はたらこスパゲティのセットにしよう」
「じゃああたしはタコパスタにしよう」
タコライスのパスタ版とは考えたな。
オシャレかつ画期的だよ。
ドアをくぐると、中はそこそこ明るくてカフェに近いオシャレな雰囲気だった。
案内された場所に座ると、委員長と目があって微笑まれた。
…委員長は危機感が(略)
「お待たせしました」
セットと言っても飲み物とパスタ一種類だけの思いっきりランチなセットだ。
まぁ、女の子のお昼ご飯なんてこんなので十分なんだけど。
おでんならいくらでも入るけど普段のご飯はこんなものでいいのだ。
あの大量のおでんはあたしの体のどこに入っていってるのかたまに怖くなる。
「まっつー」
「うん?」
「はい、あーん」
…うわぁなにこのイベント。
あ、餌付け?餌付けなの委員長。
もしくは2次元に行きたいと願うあまりほんとに迷いこんでしまったんだろうか。
せっかくのチャンスだしここはノッとこう。
「あー…」
ガタタ
「…ーん?」
口開いた瞬間後ろが騒がしくなった。
なんか事故ったのかなぁ。
(ちょっと、みどりんバレるってば…!)
(放してせーちゃん!私ちょっと桃松殴ってくるから!)
…気付かなければよかった。
地獄耳がこんなところで災いを起こすとは…。
後ろの席に座ってるのは言わずもがなみどりんと誠二だろう。
尾けてきたな?
「おいしい?」
もちろん気付いてない委員長は楽しげに笑っている。
「うん、さすが定番のたらこスパ」
褒めてみせると、委員長は満足そうに肩を揺らした。
…もうちょっとみどりんで遊ぼうかな。
タコパスタを一巻きすると、委員長の方に差し出す。
「はい、あーん」
「あーん」
ガタタ
(それダメだってば!アキちゃん死んじゃうって!)
(えぇい止めないでせーちゃん!あいつを殺して私は生きる!)
え、何持ちだしてるの!?怖い怖い!
しかも一緒に死んでくれないの!?それただの殺人鬼じゃない!?
(まぁまぁ二人とも落ち着きなさい。
どーせあいつのことだ、特に何も考えちゃいないよ)
な ぜ 兄 ま で い る !
「まっつー、どうかした?」
「いやはははなんでもないよ」
「そう?」
あのダメ兄貴め。
今度ヤツの部屋に「趣味はデバガメです(はぁと)」って落書きしてやる…!
もしくは兄ちゃんの携帯のノリのアドレスを消去してやる!
「委員長、食べ終わったら早々に出ようか」
「うん。いいけど、雰囲気合わなかった?」
「ううん、雰囲気は良かった。パスタも美味しかった」
「?」
問題は店にあるんじゃない!後ろの席にあるんだ!
「次はどこに行くの?」
「ちょっぴりウィンドウショッピングして、それからお茶してまたウィンドウショッピング」
おぉ、女の子だ。
つまりまぁブラブラしようということだね。
「…やっぱりウィンドウショッピングとかつまんないかな?」
「いや、途中で本屋とかも寄っていいかなぁと思ってさ」
「うん、いいよ」
つまんなくはないけどあくびとかしちゃったらごめんね。
「何か欲しいものでもあるの?」
「ううん、まっつーとぶらぶらしたいだけ」
「ふぅん」
女の子ってそんなもんか。
ラブゲでもエルたんはあたしとブラブラすんの好きだったもんね。
ま、もちろんラブラブするのも好きでしたけどね!HAHAHAHAHA!!
…むなしい。
二次元からエルたん迎えにきてくれないかなぁ。
エルたん寂しいよエルたん。
そういえばあのエルたんが主人公とウィンドウショッピングするのが好きなのは「主人公の好きな物を知りたいから」だったっけ。
このウィンドウショッピングで委員長の弱み、じゃなくて好きな物をリサーチしとくのも悪くないかもしれない。
「すっごい歩いたねー」
「結構足くたくた」
「肩痛くない?」
「それは平気」
6時回って空も少し暗くなってきた時間。
冬に入りかけのせいか暗くなるのがはやく、かろうじて委員長の顔がしっかり見えるくらい。
「いっぱい付き合わせちゃってごめんね」
「んや、あたしも楽しかったしいいよ」
委員長が送ると言って聞かないからここまででいいよって住宅街に入る前の大きな公園で立ち止まった。
噴水もある割と綺麗な公園だ。
…周りにアベックが多いのが多少気になりますが、まぁそれはそれ。
「満足した?」
「んー、うん。そこそこ」
そこそこかよ。
(やっぱりアキちゃんとウィンドウショッピングは無理があったわね)
(っていうか桃松ってば途中であくびしてたじゃない)
(あいつほんと買い物とかしないからなぁ)
外野うるさい!
確かにこのウィンドウショッピングが何の収穫になったかといわれると厳しいなぁ。
委員長が何を好きなのか、とかあんまりわかんなかった…。
とりあえずわかったのは本屋で参考書を見るのは気持ち的にやめてほしかったってことぐらいだ。
「…」
「…」
…もしもし?
委員長が黙ってしまわれると、わたくしとてもどうしていいかわかんないんですが。
何、やっぱりあたしと一緒じゃつまんなかった?
そもそもなんであたしとウィンドウショッピングなんだよー。
どうせならみどりんと誠二と行けば良かったのに…。
「委員長、あの…」
「あのね!それなんだけど!」
どれなんだけど?
「い、委員長って、呼んでるんだけど…」
呼んでるねぇ、委員長だもの。
「…私の名前、覚えてる?」
「そりゃあねぇ」
目片比奈子さんですよね、覚えてますよそりゃ。
仲良くしていただいてるクラスメイトの名前ですもの。
「じゃ、で、出来れば…名前で呼んでほしいって思うんだ」
名前で?
委員長って呼ばれるの嫌だったかな?
「いいけど、委員長って呼ばれるの嫌?」
「嫌じゃないけどやっぱり名前がいいよ」
照れるみたいにはにかんで笑いかけられるとどうしたものか。
「私もアキちゃんって呼んでいいかな?」
んー…。
委員長からアキちゃんって呼ばれるのは…。
「却下」
「えぇ!?」
(あいつ、せっかくヒナが歩み寄ろうとしてるのに…!絞めてやる!絞めてやるわ!)
(みどりん!はい、ロープ!)
(ヤる時は一瞬だぞ、鈴城さん!)
え、ちょっと止めてよ!
なんで全員協力体制なの!?
「私から呼ばれるのは、嫌かな?」
「委員長から呼ばれるのが嫌って言うか…」
アキちゃんって呼ばれると更にペットフラグが立つ気がして…。
っていうか誠二とか奈央ちゃんみたいに妹扱いになる気が…。
なんか、ヤダなぁ。
ペットまっしぐらじゃないの。
「…まっつーのままがいい?」
いやそれも他のクラスメイトと同じだしまぁ妥当っちゃ妥当ですけど。
「他の呼び方ないの?」
「んー…」
「他のが考え付くまで却下で」
「えー」
最終的に「この雌豚が!」とかにならないことを祈ろう。
…委員長だしそれはないか。
「じゃあ委員長に質問」
「はい、なんでしょう」
「委員長はなんて呼ばれたい?」
委員長は少し悩むと、ふにゃりと笑った。
「ヒナでいいよ」
「…」
「みんなヒナって呼ぶから」
むぅ。
委員長には遊び心とかないんだろうか。
ヒナぽんとか、ひよっことか…。
「ひよ子じゃダメ?」
「なんかバカにされてる気がするからそれは嫌かな」
さすがに鈍感な委員長でも気付いたか。
「あ、そうだ。話は変わるけど…」
「?」
委員長はいそいそとポケットを漁り始めた。
なんだろう、また餌付け?
「今日付き合ってくれたお礼」
小さなプレゼントだった。
この紙袋は確か4軒目のお店だ。
アクセサリー系を扱ってたはず。
「後ろ向いて」
くるりと後ろを向かされてするりと首を手を回される。
…えぇい、ドキドキするな。不謹慎だってば。
「似合うと思って買っちゃった」
正面に引き戻されて照れ笑いする委員長が見えた。
首元に視線を下げると、小さなリボンの飾りがついたネックレスがあった。
「…こういうの嫌い?」
「いや、ありがとう…」
本当なら遠慮しなきゃいけないのに、なんだか断りきれない。
…照れくさい。
でもってよくよく考えればこれって…。
「 ……首輪…?」
やっぱりペット扱いなんですか?
「え?」
「いや、なんでもないです」
いいさ、首輪だろうがなんだろうが受け付けますよ。
委員長の好意だものちゃんと受取ります。
…でも首輪…。
どうあがいてもペット扱いかい、そうかい。
「じゃ、せっかくもらったんだし毎日でも着けようかね」
「…嬉しい。でも学校に着けてきちゃダメだよ?」
こらこら優等生、それじゃどうやって毎日着けるだに。
委員長のおでこにビシリとデコピンすると、公園を出て歩き出した。
…デコピンした瞬間に物陰から凄い殺気を感じたけど気にしない。
追いついてきた委員長に目線を合わせると、少しだけ歩幅を合わせる。
「次はあたしがプレゼントするよ」
ま、次があったらですけど。
「ほんと?」
「うん、とびっきり卑猥なやつ!」
「普通のでお願い…」
バナナみたいな形したものとかあわびみたいな形したものとかバラエティにとんだものを差し上げよう。
いっそ電池を入れるとブンブンうねうね暴れまわるような物とかプレゼントしますよ、ええ。
分かれ道で立ち止まると、委員長がきょろりと辺りを見回した。
「どしたの?」
「ううん、えっと…」
言いにくそうにもじもじと手を擦り合わせると、パチンと手を打ち鳴らした。
「ちょっとだけ、目を瞑ってもらえるかな」
「いいけど」
目を瞑ってしばらくすると、ふわふわと頭を撫でられた。
…やっぱりペットなのか!
それからしばらくして手が止まった。
もう目を開けていいのかな…?
そーっと目を開けようとすると、思ったより顔が近くって…。
「ダメ!ダメダメダメ!」
「高校生にはまだ早いというか待ちなさい早まるな!」
「二人とも邪魔しちゃダメよ!」
物陰からどぉーっと人の雪崩が。
あるのか、こんな漫画みたいな展開。
「何しようとしたの、委員長」
「撫でてたらおでこにニキビがあったから潰そうと思って…」
尾行されてることに気付いてなかったせいか目が白黒してるよ委員長。
まぁそんなこったろうとは思ってたけど。
「ニキビ…?」
「みどり、何してるの?せーちゃんとお兄さんまで…」
「いや、ははは、偶然そこを通りかかって…」
ほぅ、偶然ね。
「今日はたまたませーちゃんと出かける予定だったのよ!」
ほぅ、たまたまね。
「奇遇にも夏雄さんと遭遇しちゃって、ね?」
ほぅ、奇遇ね。
「あぁ、ほら、晩飯の時間になる!帰るぞアキ!」
「ヒナ、おばさんもおじさんも俊郎君も待ってるわ、帰るわよ!」
なんてわざとらしい。
大方、委員長とあたしの大接近に耐えられなくなって出てきたんだろう。
「…じゃ、また明日ね、まっつー」
みどりんに手をひかれて歩き始めた委員長。
…ちょっと今日は素っ気なさすぎたかな?
少し残念そうな背中にチクリと心が痛む。
……しょうがないなぁ、少しぐらい歩み寄るよ、もう。歩み寄りゃあいいんでしょ。
「また明日ね、『比奈子』」
あぁう、顔熱い。
どうせ手に入らないものだとわかっていても恥ずかしいものか、くそー。
「よし、今日は赤飯だな」
なんでだよ。
「アキちゃんが女の子を呼び捨てなんて…、成長したね」
二人ともなんか失礼だなぁ。
美幸は女の子のうちに入らないのかね。
「あのねー、あたしだっていつまでも見下されてるのは嫌なの!
だから見下し返してやろうと思って呼び捨てにしたの!」
「はいはい」
「そういうことにしておこうね」
…なんか苛立つ反応だなぁ。
っていうか兄ちゃんよ、「高校生にはまだ早い」って何を考えたんだよ。
大体、あたしと委員長でラブロマンスが成り立つとは思えない。
委員長は兄ちゃんが好きで、あたしはどうあがいたって妹扱いなんだから。
「この駄兄が!」
「なんで急に反抗期なんだ?」
首に巻き付いた首輪がやけに重く感じた。