Lily memo %



私の友人はもうダメな子しかいない2


観覧席に行くと、メールにあった通りの場所にせーちゃんと能登代君がいた。
せーちゃんは私に気付くとちょいちょいと手招きして私を呼んだ。
まぁ桃松秋生が居るなら当然この子たちも居るわよね。

「ヒナちゃんもノッてきたわね」
「さっきよりガチガチじゃねえもんな」
「やる気が出たというか目的ができたというか…」

なんていう条件を出すのよあのバカは…!
30分とか私、死ぬわよ?

「でもみどりんが出ないのはちょっと残念。
 どうせならみんなが泳ぐとこ見たかったわ」
「あはは、次の大会の時は事前にメールしとくわ」
「うん、ちゃんと応援に行くからね」

せーちゃんは今日も可愛い。
悔しいけど顔が綺麗なのよね。
女装してなかったらきっと美少年だったに違いない。
ちょっぴり恨むわよ、桃松秋生。

「しかしまぁ、よく二人とも勝ち残ったな」
「あと1回で二人とも18位以内ね」

なんか展開が早過ぎる気がするのは私だけかしら。
そうよね、割と長いことベンチに座ってた気がするもの。

「さて、次の対戦ボードは…」
「アキより委員長が先だな」

あら、ほんと。
ヒナは大丈夫かしら。
やる気があるのはいいけど興奮しすぎてないかしら…。

「私そろそろヒナのところに戻るわね」
「あぁ、委員長によろしくな」
「アキちゃんにも出会えたら頑張れって言っておいて」

…離れて見ると本当にお似合いよね、あの二人。
二人揃って友人思いで良いコンビ。
観覧席から下に降りる階段は細い通路の先にある。
結構暗くて怖いのよね、ここ。
よくある展開ではこういう場所で違う学校の人たちがリンチされたり…



「…って!」
「ヤバっ、誰か来た!」
「大丈夫よ、これでこいつは…」



って、ちょっとちょっと!?
ほんとにあるのねこういう漫画みたいな展開。
物陰からそろりと顔を出すと、苛めていた連中はどこかへ行ったみたい。

「ちょっと、あなた大丈夫?」
「った〜…、あれ、みどりん?」




お 前 か !




「あんた何やってんのよ桃松!」
「見てわかるじゃない、それにあたしやられてる方」

あぁ、リンチされてたのよね。そりゃ見ればわかりますけど。
私が言いたいのはそういうことじゃないわよ。

「怪我してないわよね?」
「うん、平気」
「立てる?」

桃松はゆっくり立ち上がると、パンパンと埃を叩いた。

「しかしまぁ、高校生になってもまだあれほど陰険なことができるとは」
「あんた冷静ね…」

呆れてそう言うと、桃松はケロリと笑った。

「あたしはちゃんとやり返せる子だからね!」

それ誇れることかしら…。

「それよりみどりん、委員長の番、始まっちゃうよ」
「そうね、あんたに問題がないならもう行かないと」

一人にしておくと割と暴走するのよね、あの子。
…まぁ、こいつほどじゃないけど。

「そろそろ奈央ちゃんもトイレから出てくる頃だし、そんな顔しなくても大丈夫だよ」

そんな顔?
私そんな変な顔してたかしら。
えぇい、頭がこんがらがってきた!

「とにかく、無理すんじゃないわよ!」
「はいはい」

最後にムカつく友人に釘を差すと、私は廊下を走り去った。













「お疲れ、ヒナ」
「ありがと」

戻ってきたヒナに労いの言葉をかけると、嬉しそうに鼻を鳴らした。

「これでベスト入りね」
「うん」

タオルを受取ったヒナはきょろりと視線をプールに戻した。

「次はまっつーだね」

ほんとにヒナは桃松が大好きね。
親友としては少ーし面白くないわ。
そういえば、本当に大丈夫だったのかしら、あいつ。
私もちゃんと見ておこ…

訂正、見なくていいわ、あんなやつ。



「…まっつー、右隣の女の子のお尻ずっと見つめてる」



そんな説明的なセリフもいらないわ、ヒナ。
巨乳フェチじゃなかったのね。
もうなんでもありとかほんと無敵の変態だわ。
とりあえず開眼しすぎよ、怖いわ。

「位置について!」

スタートの合図で一斉にドン。

「あれ…?」
「どうしたの、ヒナ」
「うーん」

相変わらずスタートは遅くて途中でぐいぐい抜かしていく。
あっという間にゴールは近づいて、やっぱりあいつは軽々と1位を取って見せた。
心配するだけ無駄だったみたい。

「ねぇみどり、まっつーちょっと変じゃなかった?」
「そう?1位も取ったし私は何も感じなかったわよ?」
「うーん」

そんな会話をしてると、右の方でガタンって音がして誰かが走り去った音がした。

「あ、お兄さん」

ヒナの言葉で、野沢君の隣に居た大きなお兄さんが居なくなっていることに気付く。
桃松の方を見ると、お兄さんが凄い剣幕で怒鳴りちらしていた。
奈央さんと桃松が必死で宥めている。

「まっつー、何かしたのかな?」

いや、たぶんあれは…。

「まさか」
「みどり、何か知ってるの?」
「実はさっき…」

さっき見たことをありのままヒナに話す。
いつの間にか野沢君も近くに来ていたけど、話しても問題は無いと思う。

「…なにそれ」
「許せないな」

…普段温厚で真面目な二人が怒ると怖いわね。
っていうかそんな目で私を見られても困るわよ。

「二人がそんなに心配しなくても大丈夫よ」

ほら、と指差した先には逆に怒られ始めているお兄さん。
桃松はあのお兄さんにだけは強いわねー。

「…たぶん、あの子だよね」

ヒナ、怖いから、すごく怖い。
ヒナの見つめる先には桃松の『元』友達。

「…ヒナー?」
「みどり、私絶対負けない。少なくとも、あの子には負けない」

…気持ちはわからなくはないけど。
でもヒナ、気付いてるのかしら。

「確かに次はあの子と泳ぐみたいだけど…」
「うん!負けない!」


「ヒナ、あんた次は桃松とも直接対決よ?」


「え」

それには気付いてなかったのか、一瞬にして怒りを引っ込めるヒナ。

「え?嘘っ、ほんと?」
「ほんと」

対戦ボードを指差した先には、

第2レーン、秋月年子。
第4レーン、目片比奈子。
第5レーン、桃松秋生。

「ほんとだ…」

今更顔青くしてどうすんのよ。

「別にいいでしょ、どうせ桃松も倒すんだから」
「あ、それもそうだっけ」

ちょっと!?
私の貞操がかかってるんだから桃松を追い抜くことも考えてちょうだいよ!?

「ごめんみどり、すっかり忘れてた…」
「いい度胸してるわ」
「痛い痛い!」

私はヒナのこめかみにぐりぐりと拳骨を入れると、背中をバンと叩いて送り出した。

「1位よ1位!勝ってきなさい!」
「うん!」

このレースが終われば次はヒナたちの番。
…私も、今日泳ぎたかったな。



私の周りにダメな人なんていない1


緊張する。
でも、いつもみたいな怖い緊張じゃなくて、すごく興奮してる。
私、こんなに水泳好きだったかな?
怒りもあるけど、はやく泳ぎたくて堪らない。


(まっつーはいつもこんな気持ちなのかな)


ちらりと横を見ると、のびをしているまっつーが居る。
…隣で泳ぐなんて1年の時以来。
あの時は抜かれたんだっけ。

「約束、忘れないでよね」

ボソリと目線も合わせずに声をかけられた。
口元にはいやらしいニヤリとした笑みが広がっていてドキッとする。

…自分は痛くてしょうがないくせに。

変色はしていないけど、伸びたり泳ぐときにわずかに肩が固まる。
どうして無理するんだろう。
痛い時は痛いって言えばいいのに。
1年生の時のまっつーはすごく意地悪で、彼女のことをこんなに気にかけることになるなんて思ってもみなかった。
近づけば近づくほどわからなくなる。

まっつーの考えてること、私には想像がつかない。

どう見ても意地悪なとこしか見えなくて、でも後からよく考えれば気付く。
彼女の意地悪のほとんどが誰かのためのもの。


私に勝負を持ちかけたのは、私の緊張を解すため。
お兄さんにお金を借りに来たのは、お兄さんの怒りを収めるため。
でも意地悪に隠されているせいで「ありがとう」がうまく伝えられない。



「…絶対負けない」



少しでいいよ。
恩返しをさせてくれないかな。
そのためには、あなたに私を信頼してもらわないといけない。
きっとゆっくり時間をかけてじゃないと、あなたに安心してもらえない。


痛いときに、「痛い」って言ってもらえる存在になりたいよ。


あの女の子に勝ったら、少しは信頼してくれる?
嫌いなもの、怖いもの、全部から守ってあげる。
私があなたにとってのプールになれるように。
この勝負は、小さな一歩の一つ。

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