「ノリ」
「夏雄さん」
もっと近くで見学するためにノリたちの居る所へOB面して潜入。
久々の妹の晴れ舞台だ、どうせなら近くで見たい。
巽も誠二もきているが二人は完全に部外者ということで上の観覧席で見ている。
「1回戦は勝ち抜きましたね」
「ぶっちぎりでな」
知ってる顔やコーチに挨拶だけしてノリの隣にどっかり座る。
どうせだから俺がサポートしようかと思ったが奈央にダメだと言われたのだ。
奈央が居るから大丈夫だと思うが、やっぱり妹の面倒は俺が見たかった。
「…それに、アキが水着の女の子を襲いやしないか心配で…」
「いくらなんでもそれはないでしょう」
ここからなら妹が誰かを襲ってたらすぐ止めに走れるしな。
「あ、お兄さん」
「ほんとだ」
「やぁ、目片さんに鈴城さん」
ひらりと手をあげると、にこりと笑った。
「さっき妹さんに会ってきましたよ」
「おぉ、元気そうだった?」
「そりゃあ元気も元気!殴り倒したいくらい元気でしたよ!」
鈴城さんは相当ご立腹のようで、それだけ言うと目片さんのためにガコガコとお茶を汲みだした。
「どうしたの?」
「まぁ、ちょっと色々ありまして…」
たははと笑う目片さん。
妹よ…やっぱり襲ったのか?
「目片さんの調子はどう?」
「んー、そこそこです」
「そうか」
こればっかりは本人のモチベーションだしな。
俺がしてあげられることはない。
…そうか、奈央が俺をサポーターにさせなかったのはアキのモチベーションが下がるからか。
俺はいつだって気付くのが遅いな。
少し暗くなった俺に気付いたのか、ノリがついと俺の袖を引っ張った。
「アキは大丈夫ですよ」
「そうだな」
あれは俺たちが思っているより弱くない。
俺がしてやれることなんて…。
「夏雄先輩!」
なんて…?
「君は…」
「お久しぶりです、中学で妹さんと後輩だった秋月年子です!」
「あー」
…覚えてない、ごめんなさい!
妹も俺も興味のあること以外は覚えられないタイプだからなぁ。
とりあえずここに居るってことは水泳部の後輩だよな。
そう思うと俺の心が少しチリッとした痛みに駆られた。
そうか…彼女たちがうちの妹を…。
「君も今日の大会に出るの?」
「はい!あの頃の水泳部の子たちはほとんどうちの高校にいますよ!」
そうだろうな。
あの中学校から流れる高校って言ったらそっちだろう。
俺たちは少しイレギュラーな学校に通っていったし。
アキも巽も猛勉強してたからなぁ。
彼女たちは勉強しても来れないようなオツムだったんだろう。
…俺の考えに棘があるのは決して妹のことで不機嫌だからではないぞ、うん。
「よければうちの高校のスペースにも顔を出しませんか?
みんな喜びますよ!」
「あぁ、申し訳ないけど自分の出身校を応援したいから遠慮するよ」
「えー、そうですかぁー?」
そりゃそうだろ。
あぁダメだ、イライラしてきた。
相手が女の子だとわかってても手を出してしまいそうだ。
こいつらがいなければアキは…!
「兄ちゃん、お金貸してー」
…?
「アキ…?」
「お茶飲みきっちゃった。金貸せ」
おまい、兄にカツアゲって…。
「…あ、あら、秋生ちゃんもきてたんだ〜!」
「あぁ、何こっちにもきてたの、えーっと、あ、秋吉土佐子ちゃん…?」
もう誰だよ、それ。
秋月年子さんじゃなかったか?
と、いうかこっちにもきてたとはどういうことだ?
「秋月さん、妹の方にも行ったのか?」
「えぇ、懐かしい名前を聞いたから応援に」
応援に?
そんなバカな。
大方イヤミでも言いに行ったんだろう?
「私も同じ種目だから妹さんにはかなわないけど頑張りますね!」
「はぁ…」
「それじゃあ!」
秋月さんはそれだけ言うとそそくさと帰っていった。
「兄ちゃん、手ぇ怖い」
「あ」
知らず知らずのうちに手を握りしめていたらしい。
「なにその顔、妹と同い年の女の子にいじめられでもしたわけ?」
「んなわけあるか!」
強いて言うなら今現在妹にカツアゲされてるよ俺は。
ふっと手の力を抜くと、今更ながら妹が普通にしてることに気付いた。
お前は憎くないのか?お前を追い出した連中だぞ?
「さっきのヤツ、覚えてたか?」
「いんや、印象には残ってたけど」
まぁ名前も覚えてなかったもんな…。
妹が気にしてないなら、俺が気にするわけにもいかない。
手持無沙汰になって手のひらをぶらぶら振って気まずさに顔を逸らす。
「アキ、お茶ぐらいならわけるよ」
「…150円せしめて途中で見かけた100円自販機まで走って買いに行こうかと思ってたんだけど…」
50円はネコババするつもりだったな…?
ノリが部の給水タンクからお茶をペットボトルに入れると、アキは礼を言って去って行った。
「あいつは飄々としすぎててどうも対応に困る…」
「あはは、夏雄さんとは正反対ですからね!」
ノリ、それは俺が顔に出やすいということだぞ…?
気をつけよう、すごく気をつけよう。
「あの、お兄さん」
声の方を見ると、目片さんと鈴城さんが硬くなって俺の方を見ていた。
「今の人は…?」
秋月さんのことか。
「中学校の時のアキの『元』友人だ」
…ちょっと棘が混ざっちゃったな。
やっぱり俺はどうしようもなくわかりやすいヤツらしい。
「あー…」
「元?」
なるほど顔の目片さんとわけがわからないらしい鈴城さん。
「気になる?」
「いえ、あの」
「アイツが珍しく変な顔してたし、一応気になるっていうか…」
変な顔?
「そんな顔、してた?」
「はい、なんか変に笑顔で、怖かっ…」
「気持ち悪かったです」
「みどり、その言い方は…。やっぱり怖…」
「気持ち悪かった」
「…」
鈴城さん、目片さんを遮ってるよ。
良かったな、妹よ。変なところで「委員長を怖がらせる」の目標が達成しているぞ。
「みどり。あの人、まっつーと一緒の種目って言ってた」
「あぁ、そうね」
「ってことは私とも一緒だよね」
「え?…まぁ、そうなるわね」
…おや?
「みどり、私、やっぱり頑張る」
おやや?
「できれば桃松秋生との話の時にその言葉聞きたかったんだけど」
「あはは…、まぁ、それも頑張るから」
やっぱりなんかしたのか?
女の子っていうのはよくわからないな。
まぁ俺は別に女心は理解する必要はないんだが…。
「あ、夏雄さん。次またアキですよ」
ノリに腕をひかれてプールを見ると、またアキが近いゴム場ででんぐり返りをしていた。
奈央は少しだけ他人のフリをしている。
「あれ教えたのはノリだよな」
「はい。俺は気が弱いんであぁやって自分を騙してやらないと気が乗らないんですよ」
俺は実力主義というかあんなゲン担ぎみたいのはしない。
「そういえば、ノリは最近やらないよな」
少なくとも大学に入ったあたりから見てないな。
そう言うとノリは少し誇らしげにえへんと胸を張った。
「今の俺には桃松夏雄っていう勝利の神様がついてますから!」
こいつ、食べちゃいたいくらい可愛いな。
いや、実際夜にはいつだって食べ
「夏雄さん、始まりますよ」
おっと、涎を流しながら見るのはアキに失礼だよな。
そう思ってアキを見…
訂正、やっぱり失礼じゃなかった。
スタートギリギリまで隣の女の子の胸をガン見するんじゃありません。
確かに鈴城さんバリのでかさだがめちゃくちゃ不審な目で見られてるだろうが。
ちくしょう、俺の紳士な態度を返せ。
「位置について!」
スタートを始めれば流石というかやはりぶっちぎりの1位だった。
「うーん、さすが俺の妹」
「目立たないだけで割と万能ですからね」
「割とな」
例えばバスケならボールは奪うし、ゴールまで運ぶのはめちゃくちゃ優秀。
しかし、シュートは絶対決まらない。
例えばサッカーならボールは奪うし、ゴールまで運ぶのはめちゃくちゃ優秀。
しかし、シュートは絶対決まらない。
例えば野球ならエラーはしないし、守備は完璧。
しかし、ヒットもホームランもとにかく球が打てない。
「決定的に何かが決まらないんだよな」
「何が悪いんでしょうね」
その分、水泳はシンプルだ。
泳げばいいだけだから。
…しかし。
「スタートが絶対的に遅いんだよな」
「ターンとか完璧なんですけどね」
今回のぶっちぎりも途中で全部ごぼう抜きしたからだ。
「でもま、あの様子なら心配いらないだろ」
昔からあんな調子だったし、プレッシャーとかは人一倍感じない性格だから問題ない。
どちらかといえばスピードは昔より上がっているほうだ。
サポートには奈央がいるし、うん、順調ってやつだな。
「上位までは残るだろうし、まったりしてようか」
「そうですね」