Lily memo %



うちの妹はもうダメかもしれない6


妹にとっていろいろ起こったらしい文化祭が終わり、俺もノリと仲直りして我が家に平和が帰ってきた。

「…平和、ですか?」
「夏雄、アキちゃんどう見ても平和じゃないわよ」




「誰がなんと言おうとも平和なのだ!」




「いやいや…」

たとえ目の前で異常な筋トレをしている妹が居ても、平和なのだ。

「…100!」

腕立てを終えた妹がごろりと床に転がる。

「よし、そろそろプール行こう」

そんなに逆三角になりたいのか?
妹は久々のゆっくりできる日曜日をフルに使って自分苛めをするおつもりのようだ。
燃えるのはいいが突然だなぁ…。

「運動がしたいの?」
「我輩は頼れる人間になるのだ!」

もうキャラまで変わっちゃってんじゃないか。

「そうだ、アキちゃん。運動もいいけど、私と買い物行かない?」
「…いいけど、なんで?」
「誠二君と行こうと思って電話したんだけど今日はなぜか繋がらないのよね」

あぁ、それでうちに来たのか。

「アキちゃんは放っとくとファッションセンターしま○らにしか行かないんだから、
 たまにはちゃんと買い物に行こう!」

妹は2秒悩むと、首を縦に振った。

「しっかりとした身だしなみも頼れる人間の大切な要素でござる」

だからお前はさっきから何キャラなんだよ。

そしてどうせならと呼び出したのは巽と、

「夏雄先輩、会いたかったですぅ♪」



…美幸ちゃん。



あぁ、お願いだからそんな目で見ないでくれノリ。
俺はほんとにノリ一筋だから…。

「なんで誠二じゃなくて美幸なの」
「あぁん、ひどぉいアキ先輩!最近会えなかったんで呼ばれなくても来たんですぅ!」
「あぁ、そういえば文化祭期間中一切見てなかった気がする」

お前も薄情だな、妹よ。
そういう俺も見た覚えがないよ。

「巽、誠二は?」
「今日は委員長と鈴城と三人で買い物だってよ」
「なんてうらやましい」

…普通、アキじゃないかそのポジション…?
そうか、だから連絡がつかなかったのか。
今頃買い物に夢中で携帯の着信に気付いてないんだろう、よくあることだ。

「誠二は可愛い下着買うんだって意気込んでたぞ」
「へぇ」

下着っていいのか!?
誠二、もうお前は完全な女の子扱いだよ…。

「…あぁ、委員長は新しい下着買わなきゃいけないもんね…」

む、ノリ、それは何の話だ。
妹もなぜヤベって顔をしている。

「まぁまぁ、とりあえずしま○らにでも行こうよ」
「だからそれはダメだってば」

そうは言ってもなぁ。



「男子3人、女子2人、おっさん1人でどこに服買いに行くんだよ」
「そのおっさんとはあたしのことか」



妹よ、顔はやめろ。ボデーだボデー。
みしりと拳跡が頬にくっきりだぜ。
っていうかせめてグーパンはやめろよ、平手打ち希望!

「こうなりゃイ○ンのジ○スコだな」
「それもダメよ」

奈央、判定が厳しいぞ。

「せめて駅前まで行っていろいろ歩きまわりましょ」

嫌な予感しかしないんだが…。
















「おぉい、そろそろ休もうぜー」
「俺もうくたくた…」
「…」

男性陣はもう歩く気力などない。
女の子というのはどうしてこうウィンドウショッピングとなると持久力が上がるのか。
遠足とかすぐ音を上げるのは女子に決まってるのに…。
男っていうのは歩き切った後に素晴らしい景色とかそういうロマンが無きゃダメなんだよ。

「だらしないなぁ」
「まだまだ行くわよー!」
「ついて行きます、奈央先輩♪」

ちらりと時計を見ると、もう3時だ。
せめてお茶ぐらいしてもいいんじゃないか…とほほ。

「大丈夫か、ノリ、巽」
「俺はなんとか…」
「…」

おぉ、巽。死にそうな顔で黙るな。
ノリ一人ぐらいなら俺はおぶってみせるが、巽も一緒となるとそこまで元気はない。
やはりどこかで休憩が欲しい…。

「なぁ、アキ。お前から二人に説得してくれよ」
「やだぴょん」

ぴょん言うな。

「なぁ、アキ。俺からも頼むよ」
「奈央ちゃん、美幸。どっかでお茶しない?」



なぜ俺の言うことは聞かずにノリの言うことは聞く…!



最近俺の周りは全力で反抗期だな!
なんだ、俺の何がいけないんだ!

「アキちゃんがそういうなら休憩しよっか」
「そうですねー」

お前らもアキに甘すぎないか。
っていうか俺の周りの人間はみんなアキに甘くないか。

「アキ」
「なに」



「俺は、お前が、羨ましいぞ…!」
「ざまぁwww」



今ほどこいつを殴りたいと思ったことはない。
適当に決めた喫茶店に入ると、俺たちは崩れ落ちるように座り込んだ。

「もう歩けねー…」
「しんどすぎる」
「だらしないわねぇ」

かなり歩いたと思うぞ。
商店街を歩くのは問題ないが店を見るたびにうろうろ。
そのうえ荷物は俺たちに持たせて…。
俺はたまに男の人権を訴えたい。
男は馬車馬じゃないんだぞ。

「なんか今回、アキが買った服って割とオシャレだね」
「いつもはもうちょっと幼いよな」

ノリと巽が両脇にある服を覗きこんで呟く。
そういえばそうだった気がする。
いつもはだらりとした動きやすい服装なのに今回は俺のデート用の服みたいにシックな感じだ。

「しっかりとした身だしなみも頼れる人間の大切な要素でござる」

またか。
こないだからなんなんだそれ。

「もうペット扱いなんてさせない…!」

誰がしたんだ、誰が。

「甘やかされるのはもうたくさんでござる」

甘やかしているヤツの代表がお前の左隣に居るぞ。

「えー、ダメ?」

奈央は頼んだパフェを妹にあーんしようとして諦めた。

「甘えるのはいいんですかぁ?」

右隣が甘えるように妹に擦り寄る。
妹はそれをぺいっと振り払うと、いやしかしと呟いた。

「甘えるのは、いいかもしんない」
「え!?嘘!?ほんとに!?」

美幸ちゃん、食いつきすぎです。
そもそも君は俺が好きなのか妹が好きなのかはっきりしなさい。

「他の人があたしに甘えているところを見れば頼りになるっぽく見えるかもしれない…!」

おまえさん、そりは単純すぎやしないかい。

「じゃ、甘えまーす♪」
「よし、こい!」

飛び込んでくる美幸ちゃんをムツゴロさんのように甘やかす妹。

「お前の甘やかすはなんというか乱暴だな」
「よーしよしよしよーしよしよし」
「い、痛いです!ギブ!ギブですアキ先輩!」

おぉ、ふわふわの美幸ちゃんの頭がぐしゃぐしゃに…。

「アキちゃん、男性陣の髪なら問題無く甘やかすことができるんじゃない?」

奈央、お前面白がってるだろ。
巽ならともかく、整えられた俺やノリの髪に今のわしゃわしゃはちょっと勘弁願いたい。

「も、もっと他の甘やかし方はないのか?」
「AVよろしく大人の甘やかし方ならできるけど」

それ裸で腕枕とかだろ、無茶言うな。

「違うよ、おっぱい枕だよ」

どっちにしろできないぞ。

「優しく抱きしめる、とか?」
「ノリ、それだ!」

それがただしい甘やかし方だよな。

「よしこい、美幸」
「わんわん♪」

ぐぐぐぐぐぐ

「ギブ…!ギブですって!」
「なぜだ」

優しくって言っただろ。
全力でホールドしといて何が「なぜだ」だよ。

「うーん、甘やかすのは無理だなぁ」
「じゃ、できるところを見せるってのはどうだ?」

お、巽良い事言った。
こいつのできることと言ったら…。

「エロトークだな」
「水泳でしょう」

あぁ、そうか、それもそうだな、ノリ。

「いやー、俺の方が優秀だからアキも水泳できることを忘れていたさはっはっは」
「一度足攣って溺れてみればいいと思うよ」

物騒だぞ、妹よ。

「またプールか?」
「泳げることは知ってるし無駄なんじゃないの?」

泳げることは知ってる?



「特定の相手か」
「もしかして委員長かな」
「委員長だな」
「ヒナちゃんね」
「目片先輩なんですか!?」



口々にそう述べると、アキは恥ずかしがりもせずにぐったりと机に突っ伏した。

「あの天然兵器をなんとかして怖がらせたいのだよあたしは…!」

学校でペット扱いなんか受けてんのかお前。
あー、まぁそう言われてもあれだ。

「アキはどう見ても怖いタイプじゃないしな」
「怒ってるって言われたって怖くないものね」

奈央と頷きあうと、妹はガバリと起き上がってキャンキャン吠えだした。

「なにおう!あたしほど陰険なヤツはいないぞ!」

それは褒められたことじゃないぞ妹よ。

「どうあがいても小物臭がするんですよねぇ」

美幸ちゃん、君は実は妹が嫌いなのか?

「小物…」
「そう、どうあがいても強くないというか…」
「まぁ腐っても女の子だからな」

おぉ、凹んでいる…。
これまでにないほどに凹んでいる…。
こんな妹を見るのはいらないAVを処分しているときに間違えてお宝AVまで捨ててしまったとき以来だ。
あれは惜しいことをした、妹も俺もリスペクトしていた女優さんの最後の…

「夏雄さん、なんで急に涎垂らしてるんですか?」
「あぁ、ちょっと思い出したらつい…」

じゅるり。



「つまり、あたしが女の子らしいのがいけないのか…!」



AVであそこまで悲しむヤツのどこが女の子らしいのか…!

「やっぱ水泳だろ、水泳」

うーん、水泳ねぇ。

「でもお前、もう水泳部には入らないんだろ」
「嫌だ、部活なんて絶対嫌だ!」

だろうな。
あれはもうお前にとってはトラウマだろう。
ただでさえ縦繋がり意識がない妹ではしんどいだろうしな。




「そういえば、今度誰でも出れる大会みたいなのがあるよ」




ノリが出した案は妹にとってまさにうってつけ。

「ほとんどは学校参加だけど会社がやってる大会だから賞品目当てで有志で出る人もいるんだ」

あぁ、あったっけそんな大会。
実りの秋だってんで冬に入る前にみんなで水泳大会しちまおう的な大会だった気がする。
有名なお菓子会社がやってる大会だから身の程知らずで不良上がりのヤツらがよく参加してるんだ。
それなら部活に入ってないアキでも存分に泳げる。

「賞品は?」
「個人での1位はたしか男女ともにポテチ1年分だったかな」

おぉ…太る…。
恐らく逆三角であろう優勝者を正しい三角体系にしてどうすんだ。

「18位まで賞品あるから割と狙いやすいし有志で出る人も多いんだろうね」

そういやそうだったなぁ。
対称は高校生だし俺も出れないのが残念だ。

「でもべつにあたし言うほど速くないしなぁ。
 本番じゃいっつも最下位だったし」
「そりゃお前が好き好んで長距離やってのびのび泳いでたからだろ」

長く泳ぎたいからって得意な短距離じゃなくて長距離ばっかふにゃふにゃ泳いで…。

「あれ、でも私が昔見たのは短距離だったよ」
「あの時はたしか短距離の子が急に出れなくなったんだろ」
「そう、それで知らない間に名前が貼り出されてた」

承知でやったんじゃなかったのか。

「今回短距離で出てみろよ」
「ブランクがなぁ…」

好き好んで一人でプール行ってばしゃばしゃ泳いでるヤツが何を言う。

「まぁ暇つぶしに出てみようかな。 …賞品」

賞品に目がくらんだのかよ。
優勝はポテチだぞ、太りたいのか。
まぁ太れば少しは威厳が出てくるかもしれないけどな。

「うーん、ちょっと高いけど市営プールの回数券買うかぁ。あ、バイト」
「それぐらいなら兄ちゃんが少しぐらいは手伝ってやろう」
「なに?」
「バイトする暇がなくなるだろ、俺が代わりにもうちょっと多めに働くからお前は大会まで泳ぐのに専念しろ」

もともと最近は前ほどバイトしてるわけじゃないし、妹が行ってる週何回かぐらいのバイトを増やしたところで問題ないだろ。

「そりゃありがたいけど…」
「遠慮は無しだ。その代り、恥ずかしいタイムじゃ俺は怒るぞ」



もう一度。



もう一度だけでいいから、妹の本気で泳ぐ姿をまた見たいと思ってたんだ。
妹がやる気ならこれほどのチャンスはない。

「ま、期待してないから18位以内には入ってくれよ」
「げっそり」

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