「じゃ、まずは2-5からね!」
「あからさまだな」
高校の文化祭最終日。
俺は奈央とまったり遊びにきた。
「そこのお兄さん!うちの喫茶店寄ってかなーい♪」
ふっ、女装喫茶か…。
…解せぬ!
女装なんかしなくても男の子が接待してくれるだけで俺は嬉しいのになぜ女装なんかするんだ!
どーせなら執事喫茶にしてくれよ!
ノリのような美少年のスーツ姿を妄想してみろ!
それだけで俺は飯3杯食えるさ…っ!
「…夏雄、無言で興奮しないでくれる?」
「悪い、少し思うところがあってな」
俺にとっては重要なことだったんだ。
「アキちゃんはどんなコスプレしてるのかなぁ。
私、ヒナちゃんやみどりちゃんと会うのは2回目だけど覚えててくれてるかしら」
そういえばそうだっけ。
家にはちょくちょく遊びに来てたからすっかり忘れてた。
「俺としてはやっぱりノリと巽のコスプレだな。
…ネ●まに出てくる狼少年とか天上●下に出てくる優等生とか…」
「それただの学ランよね」
学ランをなめちゃいけない。
学ランすばらしい!
「アキちゃんはやっぱり男装なのかしら。
個人的にはドレスとかゴスロリとか期待してるんだけど」
つまりはゴッテゴテがいいんだな!
「アキのことだしラブゲのエルたんじゃないか?」
「でもアキちゃんが自ら好きなキャラのコスプレするかしら」
たしかに。
どっちかっていうと可愛い子に押しつけるだろうな。
さすが奈央、妹のことをよくわかっている。
「あら、結構人がいっぱいね」
2-5が近づくにつれて、人が多くなっていく。
しばらくすると、客引きをする声が聞こえてきた。
「いらっしゃいませー…あ、お兄さんと奈央さん」
爽やかにお客さんに笑いかけるのは完璧な看板娘。
「ヒナちゃん、久しぶり!
覚えててくれたのね、嬉しいわ〜」
「はい、プールのときはありがとうございました」
奈央が少し頭を撫でると目片さんは嬉しそうに照れ笑いをした。
なるほど、目片さんは最近映画でリメイクされたあのアニメの新キャラか。
病んでるお姉さんが大好きな妹らしいわかりやすいチョイス。
メガネ要素もあってバッチリだ!
「ちなみに暇になったら『幸せは〜歩いてこない〜』を歌えって言われました…」
入れ知恵がしっかりしすぎているぞ妹よ。
…あれ、でも目片さんがエルたんではないのか…。
目片さんに案内されて中に入ると、意外とうす暗くしかし人の顔は見える明るさを保っていた。
真ん中に吊るされたボールの中から光がぐるぐる周りながら幻想的な雰囲気を醸し出している。
あれほど凝った造りは妹の仕業に違いない。
「…プラネタリウムみたいだな」
「すごいね」
ただし店員がコスプレしているのでその雰囲気をぶち壊してる気がしないでもない。
さすが文化祭。
中途半端具合が半端ないぜ。
「いらっしゃいませ」
声でなんとなくわかったけど…。
「なんでフルフェイスマスクなんだ、アキ」
「世界的ヒーローはやっとかないとね」
だからといってマ●オはないだろ、マリ●は。
せめて帽子とつけひげだけにすれば良かっただろ。
なんでフルフェイスマスクなんだよ…。
「ちなみにあそこに居るルイ●ジ」
「…いらっしゃいませー…」
ほぅ。
そのやる気のなさからそのコスプレに不満を持っていることが窺える。
「中身は巽だから」
巽がすっかりやる気を失ってるじゃないか。
完全にミスキャストだろ。
「かわいいわね、アキちゃん」
奈央、お前の目は完全な節穴だ。
「いらっしゃいませ♪あ、夏雄さんに奈央さん♪」
お、可愛いな普通に。
誠二はやっぱり魔法少女系か。
これはハマり役だな。
「わぁ!誠二君可愛い!」
「奈央さんありがとー!」
たしかに可愛いが色々とギリギリだぞ、誠二。
「うむ、私の采配にミスなどない…!」
妹、満足するな。
「ふっ、これだけじゃ終わらないさ…」
まだ何かあるというのか。
っていうかマ●オ顔で「ふっ」とか言われても色々困るんだが。
「ノリ、カモン!」
…ワクワク、テカテカ。
「…いらっしゃいませ」
黒のコートに厳格な隊服。
右手に手袋。
鉄の錬金マスター、きたぁあああああああ!!!!!!!!!
「妹よ」
「なんだね、兄ちゃん」
「心からお前が妹で良かったと思っている」
まさか鉄の錬金マスターの大佐を持ってくるとは、やるな。
「ほら、ノリ。名台詞」
「…お兄ちゃんなんて絶対呼んでやらねーからな」
大佐は小さく周りから可愛がられるキュートな上司。
自分より大きな新米の主人公を裏で見守りながらも冷たい仕事は自分がこなすイカす上司なんだ…。
「俺もう死んでもいいや」
ここで死ねるなら本望さ…!
「こんなことで死なないでください」
ノリはそそくさと水を置くと、急いで裏に引っ込んでいった。
「ノリは一応料理担当だしあんまり表には出てこないんだよん」
そうなのか、残念。
「ねぇアキちゃん、みどりちゃんは?」
「今客引きに言ってるけどそのうち戻ってくるよ」
「ただいまー」
「ほら」
お、おぉう…。
目片さんじゃなくてこっちに着せたか…。
「おかえりエルたん!!!!」
「ぎゃー!発情するなマ●オ!!!」
「ごっふ!」
そうだな、マ●オが発情するとちょっと気持ち悪いな。
鈴城さんは発情したマ●オをねじ伏せると、こっちに気付いて笑いかけてくれた。
「こんにちは、お兄さん。お久しぶりです、奈央さん」
「わー、久しぶりー!みどりちゃんがエルたんなのね!」
「…なんで私がこいつの趣味のみで作り上げたものを着てるんでしょうね…ははは…」
その苦労、同情します鈴城さん。
「みどりん!決め台詞決め台詞!」
「だからあんたがハッスルするなっての…」
鈴城さんはしぶしぶポーズを取ると、顔を赤くして口をひらいた。
「無防備なんじゃなくて…誘惑してるんです…」
「ズキューン!!」
お前が撃たれるのかよ!
妹はそのまま床に突っ伏すると、息荒く悶え出した。
これは、ひどい。
「ちなみに今のはエルたんが8章で主人公と二人っきりでお風呂に入ったときの台詞だよ!」
あぁ、あの風呂えっちイベントな(一回クリアした)
またコアなセリフ抜き出しやがって…。
「うん、可愛いわ」
「奈央さん、私バカみたいじゃないですか?」
「…限りなく犠牲者だけど可愛いからいいと思う」
あぁほんと限りなく犠牲者だな。
「そのうえ私がやってる…エルたん、だっけ。誰も知らないらしいんですよね」
そりゃエロゲだしな。
お客さんもわかる人ほとんどいないだろう。
いたら変態かオタクかだ。
「みどりー、交代ー」
「はーい」
交代?
「兄ちゃんたち、ノープランで来たから知らないだろうけどあたしらもう交代の時間なんだよ」
なんだと?
「お昼時も終わって午後からは自由時間。
クラスの人数を2つに分けて午後と午前の交代制にしたからね」
…つまり、ノリのコスプレタイムはもう終了…?
「妹よ、あの衣装はどうなるんだ」
「明日の片付け時にクラスで争奪戦」
「ぜひあの鉄のセットを勝利でもぎ取ってください」
「いやだ、あたしはエルたん一筋だ」
ぬぅ…、ノリは嫌がりそうだしなぁ…。
「おーい、巽〜…」
「なんすか?」
緑の着ぐるみを捕まえると、俺はひそひそと耳打ちした。
「なんとかあのノリの衣装を勝ち取ってはくれないか…?」
「嫌ですよ、俺はこのル●ージの衣装を勝ち取るんすから」
実は気にいってんのかよ!
じゃあもうちょっとちゃんと働け!
「…誠二」
「私は嫌でーす♪」
まだ何も言ってないのに…っ!
ふっ、いいさ…今度自分で作るさ…。
そんでノリに夜のご
パコン
「夏雄さん、聞いてますか!?」
おぉう、着替えても可愛いぜノリ。
学生はやっぱ制服だよな、うんうん。
「俺はこれから部の方に行きますね」
「おう、そっちも見に行くよ」
そうか、クラスの出し物以外にもやらなきゃいけないことあるもんな。
交代したばかりの教室は活気づいていて騒がしく、俺たちは少しお茶をして店を出た。
アキと誠二はテニス部の手伝いらしく早々と向かっていった。
「お、巽ってばハーレムじゃないか」
店の外では巽と目片さんと鈴城さんがどこをまわるか楽しそうに話していた。
「夏雄さん」
「そうだ、奈央さんとお兄さんも一緒にまわりません?」
「いいわねぇ」
鈴城さんはすっかり奈央に懐いているみたいだ。
まぁ奈央はアキマニアなところ以外は普通の優しいお姉さんだもんな。
…ほんと、アキマニアじゃなければ良いヤツなのに…残念なヤツだよ。
「なんでそんな残念そうな顔で見てるのかしら」
「別にー」
どうやら次はさっそく水泳部を見に行くらしい。
「お客として一度入ってみたかったんだよね」
「水泳部も頑張ったもんね」
微笑ましい。
二人は前日頑張ったから今日は午後から完全にフリーらしい。
ナンパ防止に巽に付き合ってもらっているとか。
「俺も暇だし」
だろうな。文化祭時の帰宅部ってそんな感じだよな。
「ちなみに巽は去年はどうしてたんだ?」
「アキと二人で食い倒れコースっす」
「あー、アキちゃん屋台食好きだもんねぇ」
ぶらぶら歩きながらそんな話をしてると、鈴城さんと先を歩いていた目片さんがちらとこっちを振り向いた。
「そうなんですか?」
「あぁ、あれは「空気はスパイスだよ」とかほざきながら屋台食を食いつくすタイプだからね」
「じゃあ何か差し入れに持って行ってあげようかな」
チョコバナナ以外ならゴーサインを出そう。
あいつにチョコバナナを渡せばどんな芸をやらかすかわかったもんじゃない。
そうこう言ってるうちに水泳部の店が近づいてきた。
毎年この場所だよなぁ。
「いらっしゃいませ!」
…おぉぅ、パラダイス…。
男子が水に入らずパンツ一丁とはこれいかに。
どれもこれも粒ぞろいで…
よもや浴衣の可愛い女の子たちなんか目に入らない。
「夏雄、涎」
奈央、今の肘はみぞおちにインしたお。
俺はかろうじて理性を取り戻すとノリを探した。
パッと見てみつからない。出前にでも行ってるのか?
「あ、夏雄さん、いらっしゃい。こっちの席どうぞ」
俺の存在に気付いた(水着の)男の子たちが優しく迎えてくれる。
…OBで良かった。
「ヒナ、みどり。冷やかしに来たの〜?」
「お客さんだもん、ちゃんともてなしてね?」
「怠慢な接客したらただじゃおかないわよー」
おぉ、目片さんも鈴城さんも年相応に女の子たちと他愛無い冗談言うんだな。
妹のせいかいつもは二人とも大人びて見えるし。
…無理させてないよな?
っていうかノリはどこだ!プールとベッド以外でノリの半裸が見られるチャンスなんだ!
必死になってキョロキョロしていると、とんとんと肩を叩かれた。
「夏雄さん」
お、その声はノ…リ……?
…なんで、ノリだけ、女装…?
「お、俺は手伝わなくていいからこれを着ろって…」
もう目の前が真っ白だ…。
「わぁ、野沢君かわいい!」
「ほんと、肌白いし顔も綺麗だから普通に可愛いわね」
「誠二君には劣るけど女の子だって言い張ってもバレないと思うわ」
女の子達はすごく褒めている…。
「今度誠二と二人でプリクラとか撮りに行ってみろよ」
「絶対ヤダよ」
巽でさえ笑って見ている。
が、しかし俺はまともに見れなくて目を逸らした。
俺はノリはそのままでも可愛いのにな。
なんで女装なんだよ。水着を期待してただけにちょっとガッカリな気分だった。
「ほら夏雄も褒めてあげなさいよ」
奈央に肘でつつかれて我に返ったけれど素直に褒める気にはなれなかった。
「男が男の女装褒めてどうすんだよ」
言ってから後悔した。
ノリが一瞬悲しそうな目をしたからだ。
「ですよね。俺だって気持ち悪いですよ」
本心じゃなかったろうその台詞は更に俺を罪悪感でいっぱいにさせる。
…こんなつもりじゃなかったのにな。
意地張って何言っちゃってんだろう、俺…。
「俺は準備手伝わなくていいからって言われたときに嫌な予感はしてたんだよな」
「ふふふ、ごめんね野沢君」
「私たちも知ってはいたけどまさかこんなに似合うとは…」
「ひどい話だよな、まったく」
ノリは少しだけ笑って奥へ引っ込んでいった。
「…ノリ少し変じゃなかった?」
「あー…」
奈央は気付いたか。
どうすっかな。
今すぐ弁解したいところだけど人の目があるし。
結局、ノリに弁解できないまま水泳部を出ることになった。
…情けね。
「テニス部は屋台だからグラウンドだっけ」
「フランクフルトか何か買っていこっか」
そのままアキたちの屋台とかいろいろまわったがあまり覚えていない。
ノリの少しだけ悲しそうな顔とか空元気な声とかが頭を離れてくれない。
俺はつくづく自分のエゴだけで動いてる最低なヤツだ…。
ぐるぐる、頭が働かないんだ…。
いつのまにか空は暗く、俺たちは廊下の一角にいた。
そろそろキャンプファイヤーが始まるころだろうか。
今年もノリと踊ろうと思っていた。
…でも、悪いよな、俺のエゴばかりで付き合わせて。
ノリはいつだって俺に従順だ。
俺が強引に通すことに文句は言うけど、結局は聞いてくれる。
今日だってあの時に「ひどい」の一言でも言ってくれれば良かったのに…。
いや、それじゃノリのせいみたいじゃないか。
悪いのは全部俺だ。
いつだって、俺は周りの気持ちに気付けないんだ…。
こんなままじゃ、いつか俺は愛想を尽かされるかもしれない。
ノリが俺に冷たくなったら、俺はどうなるんだろう。
俺に冷たいノリが考えられないのは、俺が本当に最低なヤツだからか?
俺は、ノリと踊る資格があるんだろうか…。