かくして事件は解決したらしい。
犯人である吉田はクラスメイトにはバレないように処理された。
それはもう可哀想なほどに。
「ノリ、俺はもうアキに逆らいたくない」
「私も…」
友人二人はぐったりしていた。
処理、というのもひどい話だったのだ。
「なにさ、身ぐるみ剥いだだけじゃない」
「だけってお前」
吉田はアキの手によって全裸にされ、さらにイン●ンも真っ青のM字開脚で貼り付けにされていたらしい。
アキはそこでトドメに「犯人捕まえた」と言って委員長と鈴城さんを呼び出した。
「委員長と鈴城さんが可哀想だろ…」
「まぁこれも一つの経験だよ」
吉田は再帰不能なほどに打ちのめされて保健室で伸びている。
クラスメイトはその真相を知らず、犯人は結局わからぬままとなった。
「知らせたりはしないんだな」
「そんなつまらないことはしないよ。
それにクラスメイトが犯人だってわかったらみんなの士気下がるし」
…アキはこういうことに関しては割と寛容だ。
本人が一番嫌がることはしてのけるが、その人が再生できない道は選ばない。
「しかしなぁ…」
解決したはずのアキはボロボロだったりもする。
「みどりんは手荒だなぁ」
委員長が気絶したことで我に返った鈴城さんがアキをボコボコにしたのだ。
頬には赤く紅葉が色づき、手には引っかき傷が痛々しく走っている。
「やっぱり俺たちじゃなくてノリも残るべきだったな。
俺たちじゃアレは止めきれない」
「アキちゃん暴走すると自分じゃ絶対止まらないから…」
俺でもアレを止められる自信はないよ…?
いつのまに俺はアキのブレーキになったんだか。
「アキ、ちゃんと後で委員長達に謝っておけよ?」
「ふへーい」
ほんっと自由だよなぁ。
俺の苦労も知らないで…。
そう、俺だって昨日は大変だったんだ。
「そうか、アキは今日は帰ってこないのか」
「はい、誠二の家からの方が近いですから」
文化祭準備をギリギリ頑張るため、誠二の家に泊まるという嘘。
…いくらアキのためとはいえ、夏雄さんに嘘をつくのは凄く心が痛い。
「…珍しいな」
「え?」
うわ、バレる!?
「いや、そういうことならノリも一緒に泊るんじゃないかと…」
「そ、それは…!」
確かに…!
ど、どうしよ…。
逸らしてしまった目線をちらりと戻すと、夏雄さんはニヤリと笑った。
「そっか…、愛されちゃってるなぁ、俺」
…何を想像してんですか。
「そうだよなぁ、最近文化祭準備で家に帰るのも遅かったし、あまり会いに来れなかったもんな」
なんか都合の良い方向へ持っていこうとしてません?
「…シャワー浴びるか」
こらこらこら。
「話が飛躍しすぎです!」
「そうなのか…?」
…そんな捨て犬みたいな目で見ないでください。
でもそういう理由なら疑われないかもしれない。
ちょっと心が痛いけど俺の学校生活のためなんです、ごめんなさい夏雄さん!
「あ、会いたかったのは本心ですけど、そういうのは…明日疲れると困るので…」
夏雄さん、涎でてますって。
「お、おう。俺、頑張って我慢するから」
「そうしてください」
「と、いう苦労があったんだよ」
「ただのノロケじゃないの」
これのどこがノロケなんだ、アキ。
言っとくけど俺が居なかったら全員夏雄さんに連れ戻されてたんだからな。
「そういえばその委員長と鈴城さんは今どうしてんの?」
「水泳部の方を手伝いに行ったわ。
私とアキちゃんもこれからテニス部の応援に行くの」
あぁ、そういえば誠二はテニス部だっけ。
アキも確か「エサに釣られたクマ」って言って手伝うことにしたらしいけど何に釣られたんだ?
まぁ、どうせエロい何かか…。
「巽はどうするの?私たちを手伝う?」
「んにゃ、教室で一応番をしてる。
同じようなヤツがいねーとも限んねーし、昼が安全とも限んねーしな」
「無茶しないでね」
誠二は巽を労わるようにポンポンと背中を叩くと、アキを連れてテニス部へ行った。
「…巽と誠二って付き合ったりしないの?」
「お前らと一緒にすんな」
たまに誠二はおちゃらけて巽に抱きついたり甘えたりする。
巽は巽で気持ち悪いだの言いながら誠二には意外と優しくて守ってあげてるようだし。
二人の関係は傍から見てると少しうらやましい。
「で、結局お前は俺と行動を共にすんのか」
「まぁいくらクラスの準備が終わったっていっても
一応委員長と技術責任者がいないんだから代わりが居た方がいいかなって」
「確かにノリなら安心だわな」
巽はそれだけ言うと、ドカッと椅子に腰かけた。
「そういやアキが作ってた最後の仕掛けってなんだ?」
「さぁ、最後にクラスメイト全員に見せるって言ってたぞ」
それはもう楽しそうに、って。
アキにしては珍しく全力で文化祭を楽しんでいる。
…たぶん、原因は今年は俺たちと同じクラスだったってことと、あと二人。
「アキはずいぶん委員長たちと仲良くなったなー」
「それどころか誠二まで仲良しになってるみたいだけどな」
まさか誠二が「せーちゃん」とか呼ばれる日が来るとは…。
「能登代君、野沢君」
おや、噂をすれば…。
「どうしたの、委員長」
「まっつー知らないかな」
あんなモノを見せられてまだアキに懐く委員長は凄いな…。
一生懸命働いてたのか、いつも着ているカーディガンを脱いで腕をまくっていた。
委員長は頑張りやさんだな、偉い。
「アキならテニス部の方に行ったぞ」
「そっか、どうしよっかな」
委員長は少し考え込むと、緩く笑ってテニス部に行くと言った。
「俺もついていくよ」
「あん?教室はどうすんだ」
「巽が居るなら大丈夫だろ」
巽は勉強はしないけどバカじゃない。
ただ致命的なぐらい勉強ができないだけだ。
それに何か困ったら冷静に俺たちに連絡してくれるだろう。
「ごめんね、付き合わせて」
「いや、いいよ。委員長にはいつもお世話になってるしね」
2年になってからお世話になりっぱなしだ。
アキの勉強にアキの話相手にアキの遊び相手に…。
なんか、本気で申し訳なくなってきた。
「それにしてもアキに何の用?」
アキなんか探してて水泳部は大丈夫なんだろうか。
俺は当日頑張ってくれればいいから、と男子諸君から追い出されている。
…もしかして、とんでもない衣装でも用意されているんだろうか。
「まっつーにお願いをね…」
ハの字眉毛で笑うと、ちょっぴり肩を落とした。
委員長が困っていること、と考えて俺は脳裏に元気で爽やかな少年を思い出した。
「また武下関係か?」
「うん」
困ったヤツだなぁ。
夏雄さんで目が肥えているせいか俺にはあいつが美少年には見えないんだよな。
女の子たちはあれのどこがいいんだろう。
確かに顔はいいし文武両道だけど性格がなんともいえないんだよなぁ。
委員長もあれをかっこいいと思うんだろうか。
「委員長、武下が手伝ってくれて嬉しくないの?」
「手伝ってくれるのは嬉しいけど、あんまり手伝われすぎるのも困っちゃうよ」
そういうもんかな。
まぁ、委員長はどっちかっていうと手伝われるよりは手伝いたいタイプっぽいしな。
委員長がアキを気に入ってるのもそういうことだろうか。
母性本能…?
「あ、まっつー」
「ひぎぃ」
なんて悲鳴をあげるんだ。
一応女の子って自分でいつも言ってるだろ。
「い、委員長!?なんでテニス部に!?
…あ、いや、あたしのことは気にせずに!ささっ、どーぞテニス部に入って用事をお済ませください」
アキは手に持っていた物を背中に隠すと、そそくさとテニス部から出て行こうとした。
俺は慌ててアキの肩を掴んで引き止める。
「アキに用事があるのにアキがいなくなったら意味無いだろ!」
「あたしに用事?…いや、ちょっと後にしてもらえると有り難いんだけど…」
む、その態度はいけないぞ。
特に今日は朝から迷惑かけてんだから話ぐらい聞けばいいのに。
「ヒナちゃんの話は私が聞いとくわ。アキちゃん、さ、行って!」
誠二が援護?
ますます怪しい。
原因は背中に隠した物だな。
俺はさっとアキの背中にまわると、手をひねり上げた。
「いだだだだ」
「…なんだこれ」
アキの手にあったのは小さな布切れ。
…この、形は…。
ブラジャー…だよな。
俺がそれを取り上げると、アキは全力で奪い返してきた。
「返せ!ノリには関係無いブツだ!」
女の子がブツって言うんじゃありません。
確かに俺には関係無いものだが…。
俺は思わずアキの胸元に目線をやってしまった。
「えーい!ノリのムッツリスケベ!」
「だ、誰がムッツリスケベだ!!」
俺はただこれがアキのかどうか気になっただけだ!
そもそも夏雄さんの体以外は興味無い…って何言わせるんだ!
正直、学校でブラジャーを握りしめるなんて行為に冷や汗が出ているが意地でも返してやるもんか!
「…まっつーのじゃないよね」
黙って見守ってた目片さんが、俺の後ろからひょいとブラジャーを取り上げるとサイズを確認した。
意外と性根逞しいね、委員長…。
「じ、Gカップ…?」
でかっ。
鈴城さんより大きいじゃないか。
誰のだよ。
アキは観念したのか、ふっと笑うと悲しそうに目線をそむけた。
「それはね、3年生の先輩、大杉胸子<オオスギキョウコ>さんの物なんだよ」
あからさまに脇役っぽい名前だなぁ。
「大杉先輩といえば学校一の巨乳の持ち主。
顔も綺麗でそれはもうどこぞの巨乳姉妹もびっくりのプロポーション。
ある意味マドンナとも呼ばれている先輩…」
まぁ美人らしいし名前ぐらいは聞いたことあるけど…。
「テニス部といえば大杉先輩の所属クラブ。
そこでまぁ大杉先輩が前に更衣室に忘れて帰ってしまったというこのブラジャー」
なんでブラジャー忘れるんだよ。
テニスするのにブラジャーなんて着替えるか…?
「大杉先輩の存在感のせいかテニス部は女子が少なく、売り子が少ない状態。
少しでもいいから手伝ってくれる女子が欲しい。
そこであたしを雇う条件に持ちだされたのが…」
「その大杉先輩の使用済みブラジャー、というわけか」
「ノリ、大正解!」
嬉しくない。
まったくもって嬉しくない正解だぞそれは。
「と、いうわけでそれはあたしの報酬なので『お願いなので』返してください」
委員長に深々と頭を下げるアキ。
な、情けない…。
「ちなみにこれ、どうするの?」
「匂いを嗅いで色々妄想する」
俺は整然とそう告げる幼馴染を見て本気で涙が出そうになった。
誠二が俺の肩を慰めるようにポンポンと叩く。
ま、優しい委員長のことだ。きっと顔を赤くしながら返してあげるんだろう…。
「…やだ」
俺はこの瞬間の崩れ落ちるようなアキの顔を忘れないだろう。
「い、いやいやいや!返そうよそこは!
面倒くさがりなあたしが頑張って得た報酬ですからね!?」
必死すぎるよアキ…。
「だ、だって、なんかヤダ…」
委員長にしては珍しい。
割と本気で嫌がってる。
「委員長には関係ないじゃん!
あたしのもんだ!返せー!」
「こらこら、アキ落ち着け」
そもそもあれは人様のもんだろ。
大杉先輩に返すのが筋ってもんだろ。
「じゃ、大杉先輩に返してやる代わりに胸揉ましてくださいって言いにいくから返して」
アキ、人間まで捨てるな。
それはもう非道と言ってもいいぞ。
「…〜っ、か、代わりに私のブラじゃダメ…?」
ちょ。
「いやいやいや、委員長!何をはやまってるんだ!」
「ヒナちゃん、ブラが妊娠するわよ?!」
何気にひどいこと言ってるな誠二!
ブラは妊娠しないって!
「いいけど、委員長にとってはただの損じゃない?」
いや、「いいけど」って少しは疑問を持ってよアキ。
ただの損とかそういう問題じゃないんだよ。
「うーん、委員長のブラかぁ、…… C…かぁ」
聞こえないようにボソリと失礼なことを呟くんじゃありません。
夏雄さんなら確実に殴ってるぞ。
「ちょっと失礼」
「ひゃっ!?」
うわ、胸元まで覗きだした。
誠二はもはや直視できないらしく、頭抱えてしゃがみこんでいる。
俺も出来ることならこの空間から逃げだしたい。
「…合格点。よし、委員長、失礼しまーす」
「わっ、わっ!?や、えぇ!?」
アキは委員長の服のすそから手を入れると、すばやくブラジャーを抜き取った。
「あ、ちなみに今のは上の紐の部分が取り外し可能だったのでそこを外して更にホックを外したことによってできた神業です」
説明せんでよろしい。
「さてこれをちゃんと誰にも見えないように黒の真空パックに入れてっと…」
用意周到すぎて怖い。
ここまで来るともう変態どころか犯罪者だぞ。
そして自分のポケットにしっかり入れやがった…。
「じゃあ頑張ってテニス部も手伝って委員長の話も聞こうかな。
大杉先輩のブラは委員長が好きにしていいよ」
「…ご本人にお返しします」
「さっすが委員長!偉い!」
上機嫌だな、アキ。
俺はなんだか疲れたよ。
「ノーブラで白の制服はまずいなぁ… …乳首が…」
だから!聞こえてるから!
アキはもそもそと自分のカーディガンを脱ぐと、委員長に手渡した。
委員長もその意図を汲み取ったらしく、顔を赤くして素直に受け取った。
「で、話って?」
「…こほん…最終日のダンスってもう相手いる?」
委員長はアキからかけられたカーディガンをしっかり着ると、顔を赤くしたまま咳払いをした。
最終日のダンスというのは文化祭最終日のキャンプファイヤーの周りで踊るフォークダンスのことだ。
フォークダンスといっても有名なオクラホマミキサーではなく、パートナーが変わらない。
だから毎年この相手選びにみんな慎重になるのだ。
俺はやっぱり踊るなら夏雄さんがいいもんな。
今年もグラウンドじゃなくて体育館裏で音楽だけ聞きながら二人でこっそり踊るのかな。
「いないよ」
いるわけないじゃんっていうのが態度に出てるぞ、アキ。
「じゃあ、良かったら私と踊ってほしいんだけど」
「…委員長、あたしの性別知ってる?」
いや、それは知ってるだろさすがに。
「もし相手が居ないけど踊りたいからあたしを誘うってんならもっと後で話しかけてくれればいいよ。
どうせあたしは他に誰もいないし」
そうだな。そういうことならもうちょっと待ってたら色んな人が誘ってくれると思うよ。
委員長は可愛いし結構モテるからな。
本人が潔癖だからみんなあまり表立っては好きだと言ってないけど。
隠れファンは大量にいるんだ…吉田のように。
「たぶん早めに決めとかないと大変なことになるってみどりに言われて…」
あー、それは確かに賢明だ。
引き延ばすと逆に混雑するかもな、3人ぐらいに同時に踊ろうって言われたりして…。
あぁ、そうか。それ以前に武下が来るかもしれないのか。
悠長に相手選んでる時間はないわけだ。
「それにしたってあたし男子のステップなんて覚えてないよ?」
ステップは1年の体育の最初で習うけど俺も女子のステップなんて知らないな。
「大丈夫、私が男の子役やるから」
「そもそも、誠二とかじゃダメなわけ?」
「私は今年も巽と一緒よ♪」
やっぱり仲良いよね。
「の、ノリは?」
「わかってるだろ」
「う…」
夏雄さんの顔でも思い浮かべたんだろう。
アキはがっくりと肩を落とすと、ポケットを見つめた。
「…委員長の好きにしてください」
今、ブラに免じてって思ったろ。
あの目線は確実にブラを見てただろ。
「ありがとう!」
委員長は嬉しそうに笑うと、アキの手をとって握りしめた。
これには少し良心が痛んだらしく、アキは苦笑いを一つすると優しく手を振りほどいた。