「…暇だな」
「そう?」
委員長と二人。
考えてみりゃクラスの女子と二人きり(アキはノーカウント)なんて初めてだしな。
緊張するのも当然だろ。
「なんか、話題とかないか?」
「うーん、能登代君と共通点ってあるかなぁ?」
なさそうだよなぁ。
俺やアキのライフワークなんてもっぱらゲーセンとか家でゲームとかカラオケとか…。
それに比べて委員長みてーのは図書館とかショッピングとか…。
試しにお互いの趣味を並べてみたが見事に噛み合わない。
「…見事にバラバラだな」
「どうしよっか」
困ったように笑う委員長は確かに可愛い。
これはアキが懐くのもわかる気がするな。
誠二とも仲良くなったみたいだし、ノリとは波長が合うようだ。
このクラスで委員長と一番合わないのは俺だろうな、たぶん。
傍に居るだけで、こう、警察の前を通るような緊張感が…。
それにしたって委員長は特に緊張もしてないみたいだった。
ぼんやりとアキ達が寝ている方を見ている。
「委員長は嫌いなヤツとかいないんだろうな」
偏見だよな、これ。
イヤなやつだと思われたか?
「私だって苦手だと思う人はいるよ?」
「へぇ、意外だな」
「でも良いところを探せば、嫌いにはならないかな。
人間だれしも欠点だけじゃないって言うもの」
そういう考え方もあるのか。
俺からすれば嫌いなヤツなんてほんと、嫌いなとこしか目につかねぇし。
「じゃあ特別好きなヤツは?」
「みどりかな。やっぱりいつも守ってくれるし、幼馴染だし」
「あ、いや、そうじゃなくてな…」
そう、そもそも思うんだ。
「委員長って恋愛感情ちゃんとあんのか?」
委員長はしばらくポカンとしてから赤くなった。
「あ、あるよ!?私をなんだと思ってるの!?」
あるのか。
その方が意外だった。
「ってことは好きなヤツがいるわけだ」
「い、いない…。気になる人は、いるけど…」
おぉ、途端に縮こまっちゃって。
ほんとにこういう話苦手なんだな。
「そ、そういう能登代君は?」
「俺?」
「人に聞いておいて自分は答えないっていうのはひどいよ」
俺のことなんて聞いてどうすんだか。
まぁ、いいか。
「いるよ」
「え、いるの?」
「あぁ、既に失恋してるがな」
相手は不動の変態。
どうあがいても俺には振り向いちゃくれない。
それに、無理やり振り向かせるなんてことは一番しちゃいけない。
…大切な恩人でもあるんだから。
「そっか、辛いこと聞いちゃってごめんね」
「いや、実際もうあまり気にしちゃいないんだ」
俺の恋が実らないことは恋に気付いた瞬間にわかっていたから。
それでも俺はあいつの傍に居ることを選んだ。
新しい恋があるのなら、あいつに励まされながら頑張りたい。
「話変えよう。じゃあ、まっつーとの出会いは?」
「出会い?」
「中学校からの付き合いなんでしょ?」
「あぁ…」
アキと出会ったのは中2の冬。
学校には行かず家にも寄りつかずにゲーセンで時間をつぶす毎日。
学校にいきたくなかったのは父親が浮気をしているのを知っていたから。
「シビアな話で悪いな」
「ううん」
日に日に弱っていく母さんを見てられなかった俺は家に帰らなかった。
でもある日、家に帰ると置き手紙があって母さんはもう帰ってこなかった。
「俺は親父を恨んだよ。だから殺そうと思った」
ナイフを持って、ゲーセン近くの路地裏に連れ込んで…。
「そしたら、運悪くアキがそれを見つけてな」
「え」
「怒られた」
「えぇ?」
-殺るならあたしの知らんとこでやってくれよ〜。
寝覚めが悪いよ-
-うるせぇな、てめぇも殺すぞ-
-えぇ、それはそれでだるいしやめてほしいなぁ-
「無責任だよなぁ、俺の事情も知らないで」
「まっつーらしい」
「確かに」
バカらしくなった俺は親父を解放した。
それでもやっぱり俺は家には帰らず学校にも行かなかった。
でもゲーセンで運悪くまたアキに見つかって…。
-遊ぼうよ-
その理由ってのがよっぽど暇だったらしい。
「暇、でなんで能登代君を誘ったの?」
「弱みを握ってるから遊んでくれると思ったらしい」
「うわぁ」
あんまりしつこいんで遊んでやったらそのまま懐かれて…、で、夏雄さんに出会った。
-お前、親父が怖くて学校にも行けないし家にも帰れないなんてダサいな-
「最低だろ、あの兄妹」
「うわぁ…」
その言葉に怒り狂った俺は学校に毎日通ったし家にも帰ってやった。
そしたら、親父が俺を怖がって出て行った。
さらに母も帰ってきて、二人は離婚。
「あの兄妹のおかげで万々歳だよ」
「ふふ、すごいね」
「ほんと、すげぇしバカみてぇだし…」
俺の悩んだ日々を返せって思った。
今は母も優しいヤツと再婚して楽しそうにしてる。
俺はたまに親孝行したり、毎日学校に通ってみたり…。
「幸せだよなぁ」
「ふふふ、よかったね」
「…ま、結局俺はアキにとりあえず助けられて、夏雄さんに全部救われて…。
あの二人は俺の恩人なわけだ」
俺としては少し複雑だったりするが…。
けどあの二人がいなかったらあのままズブズブと真っ暗闇に落ちていたんじゃないかと思う。
とりあえず高校は通ってなかったな、たぶん。
「じゃ、今度は委員長がなんでアキに懐いてるかを教えてもらおうか」
「んー、どうしよっかな」
「おい、人に話聞いといてそれはねぇだろ」
「ふふ」
3時間は長い、委員長の話を聞いてもまだまだ時間は余るだろう。
でもあの兄妹の話なら、いくら話しても尽きないしな。
…結局、俺はあの兄妹のことしか頭にねぇんだ。
「おい、起きろ。誠二」
「うん…やぁん、あと5分…」
「きめぇ、起きろ」
「むぅ、巽冷たい」
仕方なく、もそもそと起きると既にみどりんは起きていた。
「ふぁぁ、ヒナお疲れ」
「ありがと、寝直さないでね?」
「はいはい、大丈夫よ。それよりヒナ、ちゃんと寝なさいよ」
「うん…」
ヒナちゃんはもそもそとアキちゃんの方へ行くと、隣にコロリと寝ころんだ。
「ヒナ、もう少し離れなさい」
「寝てるんだから大丈夫だよ」
「まぁ、暖とれるしいっか」
いいんだ?
「何かあったら真っ先に起こせよ」
「うん、おやすみ巽」
巽も少し離れたところに寝転がると、すぐに寝息を立て始めた。
「はやっ」
「巽はの●太だからねぇ」
巽に毛布代わりの余り布を被せると、みどりんの隣に座る。
「さってと、どうしましょっか」
どうしよう、といってもここには何も無い。
「アキちゃんの漫画ならあるけど」
「却下。どうせろくでもない本でしょ」
んー、今回はエロ本ではないけど女の子しか出てこない本だからみどりんは読まない方がいいかも。
それにしてもこの本どうして用意されてたのかしら。
まさか教室で読むつもりだったの?
「そういえば、詳しい予定がまだだったわね」
「予定?」
「文化祭の後!一緒に買い物行くんでしょ」
あ、その約束本気だったんだ。
…口約束じゃないんだ、やっぱり優しい。
「文化祭が終わって一週間後の日曜とかどうかしら」
「放課後でも大丈夫よ?」
「最初だもの、じっくり見なきゃ。…あ、そういえば」
なにかしら?
「女装してるからってオカマっていうわけではないの?
…えっと、心は乙女?」
あぁ、それは大事よね。
「心は男の子だと思うの」
「そうなの?」
「うん、私はアキちゃんが好きだから」
「えぇええもがががが」
あ、危ない。
とっさに私が口を抑えなかったらどうなっていたことか…。
「ご、ごめんごめん」
「ううん、私も前置きかなんか置いてから言えば良かったわね」
「あれのどこがいいのよ…」
「うーん」
どこがって言われると難しいなぁ。
「そっか、じゃあとりあえず心は男なわけね」
「そうかも…」
「じゃああんまし女の子扱いしてもダメなわけね」
「ううん、それはしてほしい」
「…ややこしい」
ごめんね。
だってアキちゃんが好きっていうこと以外は普通に女の子なんだもん。
「でもまぁ、そういうことなら応援はするわ」
「それはもう無理よ」
「は?」
「だって、もうフラれてるもの」
中3の冬に。
本人から、ごめんって。
「い、一度で諦めるんじゃないわよ」
「…ううん、アキちゃんのためにも諦めたいなって思っちゃったんだもん」
頑張って女装して、女の子に近づいたけどやっぱりダメだった。
アキちゃんが好きなのは女の子。
私が幸せにしてあげたかったけど、でもアキちゃんにはもっとちゃんとした女の子が似合ってる。
「なによ、桃松のくせに…」
「あはは、みどりんはアキちゃんより私の味方をしてくれるのね」
「…そうね、なんでかしら」
みどりんは直感で動くタイプよね。
優しいから、それが凄く良くわかる。
だからこそアキちゃんも恋愛感情抜きで信頼してるんだわ。
「フラれたのに傍にいるのって辛くない?」
「…アキちゃんは私の恩人だもの。
私はアキちゃんの幸せのためならいつだって隣で笑ってるわ。
それにその方が私も幸せなの」
アキちゃんが私で癒されてくれるならそれだけで嬉しいの。
みどりんにはこの気持ちがわかるかしら。
「わかんない」
まぁ、そうよね、普通。
「恩人だからって縛り付けるのは変よ」
「そう?私は縛られてるつもりはないけど…。
それに私にとっては人生を変えるほどの命の恩人だったんだもの」
「命の?」
出会ったのは中3の夏。
うちは母子家庭で、母さんは俗に言うDVをする人だった。
男なんだからこれぐらい殴られても平気でしょ、と言われ蹴る殴るの暴行。
学校でもなよなよした私はパシらされたりイジメられたり。
しんどかった。
だから私は、自殺をしようとしたの。
橋の上で、体に重をつけて川に飛び込んだ。
なのに、上から誰かが飛び込んできて重を外した。
-どうして死なせてくれなかったんだ…!-
-あたしの気分が悪いんじゃボケー!-
「死のうとした人間にボケとかひどいよね」
「中学校の時からバカだったのねこいつは」
こらこら、足蹴にしちゃダメよ。
「それで命の恩人、と」
「うん、でもその後もずっと私を助けてくれたの」
死ぬ機会を逃した私はまた同じ毎日の繰り返しだと思った。
でもアキちゃんはそんな私に脅しをかけたの。
-あたしが拾った命ならあたしが好きにしていいよね-
「最低ね」
「最低だったわ」
顔が可愛いからとメイクされ、女装させられ泣きそうになった。
でもその代わりアキちゃん以外、誰も近寄らなくなった。
イジメてた人も、パシってた人も。
そしたら家に連れていかれて夏雄さんとも会って。
家の実情を知った夏雄さんが、家で調べて私の親戚のおばさんに電話して全部話してくれた。
今は母は精神病棟で静かに生活している。
私も優しいおばさんに引き取られて穏やかに生活できてる。
「なんだかんだで、女装も悪くないなって思って可愛いものが好きになって…」
「で、ドツボにはまって今この状況なわけね」
「うん」
みどりんは息を吐くと、頭を抱えた。
「結論はやっぱ、桃松が一番頭おかしいわ」
「あはは」
「あれ、でも能登代君とは幼馴染じゃなかったっけ?」
「うん、幼稚園までは仲良しだったんだけど…」
でも小学校から私たちは全然喋らなかったし縁がなかった。
で、アキちゃんを通して会ったのは中3の秋。
その頃にはお互いにアキちゃんに掬われて性格が丸くなった頃だった。
みどりんに巽とアキちゃんの出会いを説明すると、また声をあげかけたから口に蓋をした。
「びっくりよー、幼馴染がまさか同じ人に救われてるなんて思いもしなかったもの」
「でしょうね。それにしても能登代君がマザコンだったとは…」
そういう解釈なの?
「と、いうわけで私はアキちゃんが大好きでしょうがないの」
「なるほど、かしら」
複雑そうな顔。
普通はそうよね。
「ごめんね、長々と話しちゃって」
「いいわよ別に。どーせこいつに聞いたって話しちゃくんないんだろうし」
だから足蹴にしちゃダメだってば。
でも確かに、アキちゃんは話してくれないかも。
アキちゃんはどうしてか私たちを掬ったのは夏雄さんだけだと思ってるし。
「とりあえず結論的に私はせーちゃんを女の子扱いしていいのよね」
「うん、そういうことみたい」
長々と説明して結論軽いわね。
でもそれぐらいがちょうどいい。
結構アキちゃんとみどりんって似た者同士なんじゃないかしら。
突拍子もないし正直者。
「さて、次は何の話をしようかしら」
楽しそうに肩を揺らすみどりんを見て、夜は長いなと思った。
「アキちゃん、起きて」
「ほら、起きなさいよ邪魔だっての」
ゲシゲシと背中を蹴られ、肩を揺さぶられる。
「うーん、Fカップに触れば起き…」
「永遠におやすみ」
「あぁ、やめてっ、顔は踏まないで…!」
変な趣味に目覚めちゃうかもしんないから…!
起き上がると、時計は4時だった。
あと3時間。
「ちゃんと起きてなさいよ」
「無理はしないでね」
二人が寝に入ると、一気に静かになった。
そういえば起きた時に委員長の顔がアップだったなぁ。
やっぱ危機感が(略)
「さて、と」
置いていた百●姫を鞄にしまい、もそもそと動き始める。
ゆっくりと伸びをしてひっそりとバックヤードから出る。
この時間なら警備員さんに見つかっても言い訳できるし。
この明るさなら懐中電灯無しでも顔は拝めるだろう。
教室の真ん中で、一つの電球を用意する。
完成していない一部を仕上げねば。
こればっかりは他人には任せたくない。
「静かにしないとね」
用意しておいたザルとハサミと紙切れ、それからボンド。
欲しいのは文化祭に一つの異空間を作り上げるために必要なシックな雰囲気を演出する大切な役目。
でもコスプレはちゃんと見えるように大き目の光を…。
ただのアートじゃ楽しくない。
そこで取り出したのは時計を分解したもの。
これだけあればもう十分。
「あとは組み立てるだけ」
あとは鼻歌でも歌いながらこれを作るついでに犯人を待つだけだ。
…間。
と、思ったのに完成してしまったではないか。
犯人め、あたしを待たせるとはいい度胸だ。
「暇だ」
やっぱ漫画を読むしかないのか…。
ガタン
げ。
犯人か…?
とりあえずバックヤード裏に隠れて様子を見る。
ガチャガチャと鍵を開ける音。
でも、それだけだった。
たぶん警備員さんが開けていったんだ。
5時、全部の教室のドアを開けてまわっているんだろう。
ひやひやさせるなよなー。
そう思って私はバックヤードから出た。
そこで警備員さんの足音がひたひたと消えていく音を聞いてほっと安堵する。
…いや、ちょっと待てよ?
もし私が犯人なら、わざわざ夜に忍び込むんじゃなくてこの警備員さんが通り過ぎて遠く離れたときに…。
もしかしてここからが本番じゃあ…?
ガラリ
「…」
「…」
しばし無言で見つめ合う。
いやまさかここまで読み通りに来るとは…。
「…!…」
逃げやがった!
それもあいつはもしや…。
しかしなんにしたって私一人の時間に来なくってもいいじゃない!
慌てて追いかけるけど追いつかない。
えーい、足はやいよ!
このまま行けば体育館!となれば近道!
廊下の窓を開けて体育館へ一直線。
「捕まえたっ!」
「うわっ」
兄貴直伝、必殺けさ固め!
あー、喧嘩してて良かったぁ(不謹慎)
「やっぱりお前かぁ…吉田ぁあ…」
「ひぃっ」
忘れもしない。
あれは体育祭の終わった次の日の午後。
あたしの右手に怪我を負わせてくれた張本人。
「教室でみんなで作りなおしてる時にみんなはイキイキとしてきてるのに一人だけ浮かない顔だったからもしかしてとは思ったんだよねぇ」
窓際の飾りが綺麗だったのも納得がいく。
あの辺りはたしか吉田に任せていたと思う。
「い、いたたたた!」
「言うよねぇ?理由とか話すよねぇ?」
話さなかったら承知しねぇぞこらぁあ!
と、そこまでは口に出しませんが。
目線に殺意を込めると、おどおどと話しだした。
「あ、あいつが!武下が悪いんだ!」
武下ぁ〜?
なんだ、あたしに喧嘩売ってたんじゃないのか。
「あいつが僕の目片さんと仲良くするから!」
いろいろ突っ込みたいとこ満載ですな。
まず第一にあたしは別に委員長とあいつ仲良くないじゃんと言いたい。
「許せなかったんだ!あいつが活躍してつくったセットなんて!」
違う!あたしのセットだあれは!
そもそもあいつそんなに活躍…。
あ、でも委員長から追い払うためにいろんなとこ手伝わせた気がする。
なかでも看板は頑張ってたししょっちゅう向かわせたなぁ。
もしかして看板と黒板が一番ひどかったのはそのせいか?
「んじゃあさ、ついでなんだけどあたしに剃刀仕込んだのはなんで?」
「お前の兄貴が体育祭で目片さんに近づいてたからだ!」
や っ ぱ あ た し 関 係 な い じ ゃ ん か !
ギギギ
「いたたたたた!!」
おっと、つい力が。
やっぱり帰ったら兄ちゃんも殴んないといけないな。
むしろゴムに剃刀仕込んでやる。
あいつの息子を二度と使えなくしてやる。
「さて、どうしてほしい?」
「な、なんだ?」
「あたしは大変怒っている」
なんだったらここでこのままオトしてもいい。
個人的には指の爪を一本一本剥がしたい気分でもある、ペンチで。
いやもういっそ下半身の突起物を切り落としてやろうか、まったく。
「あ、そうだ」
委員長が好き、か。
「うん」
あたしは自分の制服のリボンを外すと、相手の手を縛った。
「何をするつもりだ!?や、やめろ、うわ…うわぁああ」
「ふふふふふふふ」