Lily memo %



あたしもうダメかもしれない4


文化祭まであと2日。
おおよそのスケジュールも決まった全体的に完成しかけたその教室が。




「…なんっじゃこりゃあ」




ものの見事に半壊していた。




「ひどい…」
「ちっくしょ、誰がこんなことしやがったんだ…!」

一緒に来ていたノリと巽が悲痛な声をあげた。
誠二に至っては言葉も出ないらしくぺたりと床に座り込んだ。
できればあたしも悲鳴をあげたかったけど騒いでる暇はない。
先に来ていたらしい人達に事情を聞こう。
ちょうどいい、委員長が来ている。

「委員長、これ何があったの」
「まっつー」

茫然としていた委員長は、あたしの声に自分を取り戻したみたいでいつもは優しい表情を辛そうに歪めた。

「私とみどりが朝一番にここに来たんだけどその時にはもうこの状態だったの」
「じゃあ犯行は昨日の晩か」

委員長とみどりんがやるとは思えないしね。
姑息な手を使うな。どこのクラスだまったく。
本当なら今日で全部終わって明日には料理の仕込みとかしてエロ本読みながらゆっくりしてる予定だったのに!
テレビやアニメでよくある光景だけどまさか実際にうちのクラスに起こるとは。

「きゃあっ!?何これ!」

やば、クラスメイトが続々とやってくる。
これじゃあパニックになる。

「巽、とりあえずクラスメイトを教室の隅に集めて」
「お、おう」
「ノリは先生呼んできて」
「わかった」

来た人たちにはとりあえず勝手な行動は控えてもらおう。
混乱がひどくなる。

「委員長、しっかり」
「う、うん」

辛そうだけどここは頑張ってもらわねば。
委員長はみんなのリーダーなんだから。

「委員長はあと数分でみんな揃うだろうから状況を説明してあげて」
「うん、でもなんて…?」
「犯人はわからないけど昨日の夜から今日の朝にかけて起きたことだから、誰か目撃したことはないかだけ聞いて」

なんでもいいから何か聞くことでしばらくパニックは防げる…と思う。
ゲーム(ラブゲ)でそう言ってたし。


ラブゲ第6章に似たようなシーンがあって良かったー!(不謹慎)


とりあえず犯人探しは後かな。
この教室をなんとかしないと…。

「なんだこれ!?何があったんだよ!?」
「わからん、とりあえずみんなあっちに集まってくれ」
「おい、能登代、これは…」
「俺にもわかんねぇよ。でもとにかくこれから対策を考えるために集まってくれないか」
「…わかったよ…」

巽、GJ。
みんな落ち込んでるけど起きてしまったことはどうしようもない。
委員長の手腕に期待しよう。
おっ、この辺はまだ綺麗ですな。
看板とかは作りなおしだねぇ…、あの女の子たち頑張ってたのにな。

「委員長、これで全員だ」
「ヒナ、先生連れてきた」

おっと、既にみどりんが先生呼びに行ってたのか。
ノリも一緒に戻ってきたみたい。
さすがというかなんというかみどりんはそこそこ冷静だ。
さて、次は奥の方の装飾も見てみないと。
…なんだろ、やけに窓際の飾り付けだけが綺麗だ。
気のせいだといいんだけど。

「…みんな、見てわかる通りセットが壊されました。
 今日の朝、私とみどりが来た時にはこの状況だったの。
 誰か何か怪しい人を見た、とかないかな…?」

文化祭前で騒がしい校舎なのにうちの教室だけやけに静かだ。
それだけでも神経削りそう。
あぁあ、黒板の装飾とか滅多打ちじゃないの〜。

「委員長、これからどうするの?」
「これじゃあお店なんてできないよ…」

悲痛な声があがる。
みんな今回は頑張ってたからね。
このテーブルクロスなんて見事だよねぇ。半分は大丈夫だわ。

「あきらめちゃダメだよ。幸い、全壊じゃなくて半壊だもの。
 今日と明日と2日もあればなんとか…」
「でも1週間かけて作ってきたんだよ…。無理だよ…」
「それより犯人は誰なんだよ!また作りなおしても壊されちゃたまらねぇよ!」

女の子は諦めモードだ。
男子は憤りが強い、といったところか。
なんか妙に冷静な自分がヤダなー。
パニックゲーム控えようかな。

「みんな、落ち着いて」
「なんだよ、野沢!悔しくねぇのかよ!」
「そりゃ俺だって悔しいよ!でもここで諦めたら犯人の思うツボだろ!」
「そりゃそうだけどよ…」

おや、この辺も綺麗だなぁ。
これはガムテで補修すればなんとか…。

「委員長、ほんとにできるのかな、2日で」
「頑張れば大丈夫」

うんうん、なるほど、まさに半壊だなぁ。
よし、うんこれならなんとか…。






「今日一日でなおるよー」






「…桃松?」
「うんうん、壊れたにしては綺麗な方だし、これなら総動員で一日…いや、半日でいけるかも」
「いやいや、アキ、ちょっと待てって」
「そうだなぁ、衣装は別の場所にあるから全部無事だし家政科部の子たちにはテーブルクロスの修繕してもらって」
「アキ、聞いてる?」
「まずまだ使えるものを回収でしょー、それから直すものと作り直すものを区別でしょー」
「ま、まっつー?」

うん?
くるりと振り返ると、みんな唖然とこっちを見てる。
あらやだ、みんなの視線独り占め。

「何?」
「何って…」
「お前、そんな楽観的な…」

楽観的?
むしろなんでそんな悲観的なんだろう。



「どう考えたってなおるじゃないの。これくらいなら」



これくらいなら兄ちゃんなら一人で半日だな、いやそれは言いすぎ?
でもこれだけの人数居てできないっていう方が信じられないんだけど。
エロ本読む時間は無くなるけどまぁそれはしょうがないか。



「…ふっ…ふふ……あはははは!」



うぉわ、委員長が崩壊した。
委員長は何がおかしかったのかお腹を抱えて笑っている。

「そ、そっか、できちゃうね。これくらい、だもんね?」
「うん?」

ノリも誠二も呆れたように笑っているし、巽もみどりんもしょーがねーなーって顔をしている。
…なんか変なこと言っただろか。
とりあえず兄ちゃんに無様な店は見せたくないって気持ちがバレたかな。
あの兄は変なところで批評家だからなぁ。

「みんな、技術責任者さんは半日でなおるって」
「マジかよ…」
「そんなに早くなおるの…?」

クラスメイトは信じてくれないらしい。
単純計算でこんなに人数いればできると思うけどな…。

「とりあえず、男子は倒れたものを立て直して、女子はまだ使えるものを回収。
 微妙なラインの物があったら委員長かノリに聞きにきて。
 あと衣装、テーブルクロスについては誠二に聞いて」

これでもう十分。
あと巽はあたしの手伝い、かな。
にわかに活気づいたらしい教室はがやがやとまた騒がしくなった。

さて、文化祭らしくなってきた。

「委員長、これは?」
「それはガムテープでなんとかしたほうが良さそうだね」

委員長は昨日までと違って書類整理系は終わったからクラスの指揮を任せられるしいざとなったらノリもついてる。

「折戸君、衣装は無事だけどテーブルクロスが…」
「とりあえず予備として置いといたテーブルクロスは後回しにして…」

衣装とかテーブルクロスとかは最後の仕上げ的な部分を誠二に任せてたから大体のことはわかるでしょう。

「巽、手伝って」
「え、教室出て大丈夫なのか」
「考えがあるのだよ、ワトソン君」
「ホームズかよ」

次は各クラスに回って…









…間。








「あれ?どうして…?」
「お前のクラスのセットが壊されたって聞いてさ、俺でも何か手伝えるかなって…」
「ありがとう!でもそっちのクラスは?」
「俺のクラスは順調だしな、これここでいいのか?」
「う、うん、ありがとう!」

うん、うまくいっている。
作戦通りすぎて怖いわー。

「まさか、他のクラスに2-5が壊されたって言いふらしに行くとは…」
「巽、ナイス演技力」
「少し恥ずかしかったぞ…」

各教室の前で二人で「まさかうちのクラスのセットが壊されるなんて犯人はダレだろー?」と喋りまくるという暴挙。
ちょっと恥ずかしかった…。
でもそのおかげで彼女持ちやら彼氏持ちがちょっぴりお手伝いに来てくれた。

「アキ、少し怒ってるだろ」
「何のこと?」
「…ひねくれものめ」

怒るに決まってる。
教室のセットを壊すということは技術責任者であるあたしに喧嘩を売ってるってことだ。
それなら尚更、あたしは半端に終わらせるわけにはいかない。

「これで少しは楽になるでしょ。さて、あたしらも手伝いに戻るよ」
「そうだな、アキがいるだけでみんな士気もあがるだろうしな」
「…なんであたし?」
「なんでだろうな」

巽はクックッと笑って教室に入って行った。
わけがわからん。
正直に言ってしまえばあたしが居なくてもなんとかなるのはここ数日あたしが働いてなかったからなのに。
端っこでエロ本読んでたヤツが戻ってきて士気があがるとかどんな変態クラスだよ。

「桃松」
「おー、人数増えたねぇ」
「…やっぱりあんたの仕業か…」
「みどりん、ひどいなー。みんなの愛のなせる技だよ」
「うさんくさい」

みどりんは看板の書き直しを手伝っているらしい。
もうほとんど出来上がっている。

「すごいね、もう看板完成じゃん」
「まっつー!頑張ったでしょ、私ら!」
「うん、すごいすごい」

看板を作り直した女の子たちはイキイキとしていた。
作り直しだって聞いたときはかなりがっかりしていたみたいだけど完成するにつれてやる気を取り戻したみたい。




「ついでに飛び出す仕掛けとかもつくってみたの!」




小学生か。

「…それは、すごいね」
「でしょー!」

何も言うまい。
みどりんですら遠い目をしている。

「ちょっと変な方向に行ってる子もいるけどみんなやる気を取り戻して良かったわ。
 最初は半信半疑だったけど本当に半日で終わりそう」
「なんで半信半疑なの。どう考えても終わるじゃないの」
「あんたみたいに楽観的じゃないのよ」

誰が楽観的だか。
これでも緻密な計算を積み重ねてだね…。

「ところでそのダンボールは?」
「あぁ、これは…」


「まっつー!」


委員長があたしの存在に気付いたらしい。

「おかえり、どこ行ってたの?」
「先生んとこ」

ま、それはついでだったんだけどね。

「先生?」
「今回ノータッチだった担任にポケットマネーをせびってきた」
「ポケットマネー?」

これぐらいの贅沢は許されるはず。
ちょっと重かったんだよね、クラス分のジュースは。

「紙パックジュースね。あんたにしては気が利くじゃない」
「定番の頑張る生徒に先生からのご褒美。委員長、みんなに配ってもらえる?」
「うん!」

委員長は嬉しそうに重いダンボールを受取ると、みんなに配り始めた。
受取った子たちもみんな楽しそう。

「委員長も元気だね。最初は辛そうだったけど」
「えぇほんと、その原因が凄く気に入らないけど」
「原因?」
「ふん」

みどりんはご機嫌斜め?
ほんと、みどりんも委員長もよくわかんないなぁ。

「あんたもさっさとなんでもいいから手伝いなさいよ。
 技術責任者なんだからあんたが手伝えばはやいでしょ」
「へーい」

とりあえずノリのところへ行って現状把握しよう。
そんで一番大変なとこさえ手伝えばなんとかなるかな。








…間。








「さて、ここからだなぁ」

実際に半日で元に戻った教室を見てみんな前以上に元気を取り戻した。
学校側も教室の鍵を閉めるということを許可してくれた。
午後からもみんながやる気いっぱい二倍働いてくれたせいか、教室のセットは一部を残して完成しつくしてしまった。

「今日教室で頑張ってくれた分、一部はクラブの方に明日はかかりきり」

まぁ、そこも予定通り。



問題は夜。



教室の鍵を閉めたぐらいで犯人は諦めるだろうか。
あたしなら逆上して何が何でも壊す。

「と、いうわけでノリ、よろしく」
「いくらクラスのためとはいえ、気がひけるなぁ…」
「頼むよ、ノリにしかお願いできないんだから」
「でも夏雄さんに嘘をつくなんて…」
「嘘じゃないよ。『誠二のところに巽と二人で泊まりに行ってる』んだもん。
 誠二の家、なんて一言も言ってないし」
「いけしゃあしゃあと…」

兄ちゃんに邪魔されるわけにはいかないのさ。




これは犯人とあたしの戦いなのである…!!




もうセットを壊されるわけにはいかない。
そのためには教室に泊りこむくらいわけない。
友人を二人巻き添えにするのは忍びないがこればっかりは負けられない!

「燃えるのはいいけど、怪我しないでくれよ?」
「うん」

まだ渋るノリを半ば強引に教室から追い出した。

「さて、どこに隠れるかな」

最初に見周りの教師や警備員から身を潜める場所を探さないと。
最終下校時刻まであと三十分。
既に他の子は帰った後だ。

「ここはどうだ?」
「巽、そこアウト」
「なんで?」

巽が指さしたのはキッチン部分。
けどそこには簡易コンロがある。
用心深い教師ならその部分は見るだろう、火の元確認的なアレで。

「じゃあこっちは?」
「誠二、セーフ」
「やったぁ♪」

誠二が指さしたのは掃除用具入れ。

「…でもそこ3人は無理だろ」
「やむをえまい、誠二だけそこで一人待機」
「えー!?寂しいわぁ…」

さて、残る二人は…。

「巽、こっち」
「おう」

道具を寄せ集めたバックヤードの汚い部分。
着替えもここでするため、完全防備。

「こんなとこあからさま過ぎて覗きにくるんじゃないか?」
「まだまだ、さらに隠れる」

余り布や使い終わった道具の上に大きなビニールシートをかぶせてある。
簡単には手の届かない奥の方に空洞を作る。

「ここなら表の方をめくったら余り布とかしかないし誤魔化せるよ」
「なるほどな。念のために俺たちの体にも余り布巻きつけとこうぜ」
「うん」

二重構造。
これなら完璧。
これで…。



「まっつー!」
「委員長?」
「うわっ、能登代君までいるじゃない」
「鈴城こそなんで…」



委員長たちがなぜこんな時間まで…。

ガタン



「つ、詰めて!」
「えぇ!?」
「能登代君、もうちょっとそっち!」
「お、おぅ!?」

半ば強引に4人詰めると、誰かが入ってきた音がした。



「…この教室は大丈夫、と」



この声は数学の先生だな。名前まで覚えてないけど。
ドアと鍵を閉める音がして、全員でほぅっと息を吐いた。

「あー…びっくりしたぁ」
「そりゃこっちの台詞だよ」

もそもそと4人出ると、委員長とみどりんが頭を抱えた。

「まさか桃松達まで同じこと考えてるなんて…」
「あ、やっぱり二人も自己警備?」
「うん、心配になっちゃって」

心配になって、って委員長も校則破ったりとかするんだ。
これはちょっと意外だったな。

「二人とも、大丈夫?」
「せーちゃん」
「あれ、ヒナちゃんもみどりんもなんでいるの?」

せーちゃん?
ヒナちゃん?
みどりん?

「せーちゃんも居たんだね」
「うん、私は掃除用具入れに居たんだけど二人が気になっちゃって。
 でもまさかヒナちゃん達が居るなんて…」
「私たちだってもうセットを壊されるのは嫌よ」
「そうよね」

いつの間に3人はそんな仲良しになったんだ…。
巽とポカーンとしていると、委員長が携帯を見て慌てた。

「あ、隠れて。次が来るから!」
「次?」
「いいからいいから」

今度は5人ともさっきのスペースに潜りこむと、またガラリとドアの音がして今度は無言で出て行った。

「一回じゃ終わらないのか?」
「あと4回…」
「うげ」

っていうかなんでそんなに詳しいの、委員長。

「水泳部も何人か泊り込みなの。
 顧問に頼みこんで先生達の見周り表もらったから私たちは教室を守ろうって…」

ね、と委員長がみどりんと顔を合わせると、二人は頷きあった。
そうか、そんなものがあったのか。
二人が居なかったら油断して捕まるとこだった。

「とりあえず10時まではここでじっとしていたほうがいいと思う…」

それまでこのまんまか…。
あ、でもその前に。

「委員長、みどりん、誠二。これ巻きつけて」
「何?」
「余り布。これでシートがめくられてもバレないから」
「あんたにしては良いアイデアね」

巽のアイデアだけどね。


それから10時になって、先生の巡回が終わったらしい。
シートから出ると、教室は真っ暗だった。


「電気は消したままね」
「懐中電灯ならあるぞ」
「絶対外には当てないようにね」
「了解」

懐中電灯を垂直に上に立ててバックヤード全体を淡く照らす。
バックヤードが仕切られている上に内窓も外窓も暗幕で覆われているので光はもれない。

「…なんかドキドキするね」
「不謹慎ですよ、委員長。ワクワク」
「アキ、語尾がワクワクしてる」

あ、バレた。

「さて、これからどうしようか」

あたしたちだけだったら交代で寝ようと思ったんだけど…。

「交代で寝ればいいんじゃない?」
「んー…せっかく人数が居るならもっと有効に使いたい」
「ツーマンセルにする?」

2人ずつか…。
委員長の言う通りそれがいいかもしんない。

「男女二人セットでもし犯人が来たら男子が犯人を追って、女子がみんなを起こす、かな」
「うん、誠二の言う通りにしようか」
「じゃあ時間割を決めよう」

3時間交代で最初は巽と委員長、次は誠二とみどりん、最後があたし一人、と。

「ほんとにまっつー1人で平気?」
「あんたのことだからひっそり起きてるフリして寝たりしないわよね…?」

失礼な。起きるときはちゃんと起きますよ。
ゲームしてたら徹夜なんて余裕だしね☆

「それに暇つぶしだって用意したんだから」
「なに?」
「コミック百●姫を2冊ほど」
「こらこら、アキちゃん趣味全開すぎるわよ」

夜は長いからね。
ほんとは明日読む予定だったけどやむをえまい。
さて、明日に備えてしっかり寝よう。

back to UCHIDAMEmenu
back to top
designed by inertia