秋も深まり、すっかり私の好きな季節です。
文化祭準備は完成に近づき、我がクラスながら天晴れ!
「何を一人で頷いてるの、誠二」
サボってエロ本読んでる人から突っ込まれたくないな、アキちゃん。
「誠二、これもお願い」
手渡されたのは小さな布切れ。
私の仕事は基本的にお裁縫。
コスプレ喫茶だから服は重要。
数日かけて作るものだから衣装は割と完成気味。
服の大まかな構成は家政科部の子にお願いして私はそれにゴテゴテと装飾をつけるだけ。
「これは?」
「家政科部の子に余りをもらったの。教室にも少しリボンとかつけたくて」
「リボンにするのね、任せて」
するすると糸を通して、可愛いリボンに作り上げる。
文化祭の準備とはいえ、可愛いものに囲まれるのはうれしい。
それもひたすら可愛いものを作り続けるなんて天国だわ。
「うん、可愛い」
「折戸君は可愛いものが好きなの?」
「うん、委員長だって可愛いもの好きでしょう?」
「そうだね、うん、好きかな」
「…なんだこの癒し空間」
アキちゃん、聞こえてるから。
そんなに言うならアキちゃんも可愛く着飾ってくれればいいのに。
「はい、アキちゃんリボン」
「こらこら、あたしの髪につけるんじゃないよ」
そう言いつつも行動では嫌がってないからじゃれあってるようなものだと思ってぐいぐいつける。
7個目で振り払われた。
でも6個は付いたまま。
「…ふふ、可愛い」
「委員長…」
…前から思ってたんだけど…。
委員長は、奈央ちゃんと同じ匂いがするのよね。
委員長はアキちゃんが可愛くてしょうがないんじゃないかな。
それはもう妹のように。
「委員長、あの辺にこれをつけようと思うけどどうかな」
「可愛いと思うよ。あっちにもつけたらどう?」
「うん」
…ほほえましいな。
やっぱり女の子っていいな。
「アキ、あの辺の装飾なんだが…」
「巽、KY」
「あぁ!?」
せっかく癒されてたのに…。
どうしてこんな細マッチョみなきゃいけないの。
「で、あの辺がどうしたの?」
「真っ黒な暗幕借りてきたけど本当にこれでいいのか?
なんというか…装飾に合わないというか…」
「あとで工夫するためには黒くしてほしいんだ」
「工夫?」
「…お楽しみ」
ニッと笑うアキちゃんは怪しくて綺麗。
さすが夏雄さんの妹というかなんというか、エロい。
巽もそれを感じたのか、ボリボリと頭をかくと「了解」と言って暗幕を張りに行った。
「工夫って何するの?」
「委員長、お楽しみって言ったじゃないよ」
「んー、場合によっては私もストップをかけないといけないから…」
委員長は大変だなぁ。
アキちゃんもその理由には納得したのか、ふむと頷いて委員長の耳に手を当ててひそひそと話しだした。
「うん、大丈夫」
「よーし」
なんだろ、気になるわね。
私の視線に気付いたのか、アキちゃんはちょいちょいと私を呼び寄せた。
「誠二、耳貸しな、耳」
「いいの?聞いちゃって」
巽は追い返したのに。
「…他の人には、秘密」
唇に指をあてて、しー!のポーズ。
それだけでちょっとドキドキする。
アキちゃんの息が耳にあたってくすぐったい。
「…で、…して…」
なるほど。
「すっごいロマンティック!」
「でっしょー」
アキちゃんは私の同意が得られてうれしそう。
確かに、巽には面倒くさいで一蹴されそうだね。
「まだ3人だけの秘密だよ」
こくんと頷くと、よしよしと頭を撫でられた。
「…まっつーは折戸君には優しいんだね」
その様子を見て、委員長はシャーペン片手に不思議そうに首を傾けた。
「違うよ、委員長」
え、違うの!?
アキちゃんは私には優しくしてくれてるんだと思ってたのに…。
「誠二があたしに優しいから、あたしも誠二に優しくするんだよ」
さも当然というようにアキちゃんは胸を張る。
「そっか。まっつーが優しいんじゃなくて折戸君が優しいんだね」
「そういうこと」
どういうこと。
「違うよ、アキちゃんが優しいから私も優しくなるんでしょ?」
「じゃあ聞くけどさ」
アキちゃんは設計図を描いてたシャーペンとは逆の手でビッと私に指を突き付けた。
「誠二、あたしが誠二にやつあたりしたらどうする?」
アキちゃんが私にやつあたり?
そりゃあもちろん…。
「アキちゃんにどうしたの?って聞くかな」
「ほら」
だから、何が「ほら」なの。
満足そうにアキちゃんは鼻を鳴らした。
「あたしが何しようが、誠二は優しいんだよ」
…そう?
「そうだね、折戸君凄く優しい」
恥ずかしいなぁ。
アキちゃんは揺るぎない。
なんというか、危なっかしいとこばかりなのに変に安心する。
これは女の子の魅力なのかしら、それともアキちゃん個人の魅力?
「あ、ノリに伝言忘れてた。ちょっと水泳部の部室行ってくる」
「私が行こうか?」
「んにゃ、誠二はそこでちょっとゆっくりしてて。
ついでに家政科部に行ってできた衣装もらってくるから」
つまり、あたしが帰ってきたら仕事が増えて大変になるよ、と
アキちゃんがいなくなると、教室は騒がしいのに私たちの静かさが浮き彫りになった。
でもすぐさまそれに気づいた鈴城さんがこっちに寄ってきた。
「ったく、ヒナを守っててよって言ったのに何あいつは持ち場離れてるのよ」
「四六時中一緒ってわけにはいかないよ」
「ふぅん。ヒナは今何してるの?」
「えーっと使用する資材の記入と予算使用の報告と…」
「あぁ〜…そう」
よくわからなかったみたい。
数字や文字の羅列から顔を逸らすと、私と目があった。
「折戸君は何してるの?」
「余り布で飾り付けのリボンを作ってるの」
ほら、と見せてあげると鈴城さんは興味津々に覗き込んでくれた。
「へぇ、器用なもんね」
「お裁縫は得意なの」
「テニス部なのに?」
こういうのって部活は関係ないような…。
「じゃあさ、これお願いできない?」
申し訳なさそうに差し出されたのはカーディガンのボタン。
「さっき机に引っ掛けちゃって」
「いいわよ」
さっと縫い付けるだけ。
慣れたものだわ。
「凄いね」
「うん、たいしたもんだわ」
「そう?」
このせいでアキちゃんや巽にはしょっちゅう破れた服とか頼まれちゃったりするんだけど。
褒められるとやっぱり嬉しい。
にこっと笑顔を返すと二人も笑いかえしてくれた。
「折戸君ってやっぱそこらの女子よりはかわいいわね」
「よく言われる♪」
「そこは謙虚になりなさいよ…」
「やっぱりその恰好って趣味なの?」
委員長は一度聞いてみたかったんだ、と身を乗り出した。
「うん、完全な趣味」
「ふぅん、楽しいの?」
「みどり、趣味なんだし楽しいと思うよ?」
「楽しいというよりは可愛いと嬉しいって感じ」
男の子らしくはどうしてもなれないから、どうせなら思いっきり。
それに可愛くなればなるほど、夏雄さんもアキちゃんも私を見てくれるもの。
無理に野蛮な男の子たちと友達やってるよりこっちのほうがずっと楽しい。
「…でも問題があるといえばあるかな」
「やっぱり他の人の目とか?」
鈴城さんは割とずばっとものを言う人だわ…。
それはもう気にしてないからいいの。
昔はちょっと嫌だったけど今は昔より全然可愛くなって逆に一目で見抜ける人はいないぐらい。
そんな私の問題はと言えば…。
「買い物がね…」
「買い物?」
「アキちゃんは服には無頓着だし、後はみんなむさっくるしい男ばっかり。
奈央さんがかろうじて可愛い服とか見てショッピングに付き合ってくれるんだけど忙しいし…」
そう!私がどんなに可愛くなりたいと願ってもこれじゃあただの独りよがり!
「願うなら、誰かファッションのわかる人と語り合いたい…!」
アキちゃんも褒めてはくれるけど買うとなったらファッションセンターし○むらで良いじゃんとか言っちゃう子だし…!
そのうえ私が可愛い服じゃないとがっかりするなんてひどいわ。
女の子のくせにほんとに女心ってものがわからないんだから…。
「なんだ、だったら私たちと一緒にいけばいいじゃない」
「え?」
「だから、別にウィンドウショッピングぐらい私たちといけばいいじゃない」
やけに、あっさりと。
「いいの?」
「いいのも何も、ねぇ、ヒナ」
「うん、文化祭終わったら3人で冬物買いに行こうよ。青のニットワンピとかないかな」
「そうね、秋物の安いのも買わなきゃ。ピンクでしょやっぱり」
「…二人とも、変よ」
それだけ絞り出すと、二人ともきょとんとした顔で私を見た。
「折戸君に言われたくないわよ」
「…青のニットワンピとかやっぱ変?」
「ヒナ、問題はそこじゃないと思うわ」
「え?」
だって私は所詮、オカマだもの。
普通は一緒に歩きたいなんて思わないわ。
「気持ち悪くないの?」
「どうして?」
どうしてって委員長、私は…。
鈴城さんはあからさまに溜め息をつくと、アキちゃんの机に突っ伏した。
「…なんで、あんたも桃松も、そういうこと言うのよ…」
アキちゃん?
「気持ち悪くなんかないわよ。
あいつには言わなかったけど、あんたたちみたいにズバ抜けて変な方がいっそ気持ち良いわよ」
…そういう考え方もあるの?
委員長の方を見ると、優しい顔で笑ってた。
「折戸君、優しいもの」
…優しくなんかないのに。
なんでもないみたいに笑う二人のほうが、優しいのに。
「それに男の子の折戸君がそれだけ可愛いなら、
折戸君を色々見習えば女の子の私たちはもっと可愛くなれると思わない?」
悪戯っぽく笑う委員長はまるで魔法使いみたいだ。
「やっぱ折戸君っていうのはあれよね」
「あれ?」
「せーちゃんとかどうかしら」
「あ、みどりそれいい!」
なんだかあれよあれよという間に私はせーちゃんになり、二人とウィンドウショッピングの約束までして…。
ヒナちゃんとか、みどりんとか呼んじゃったりして…。
やっぱり、女装しててよかった。
この恰好のおかげで、私の周りは優しい人でいっぱい。
うん、よかった。
「目片さん、何か手伝いましょうか」
…せっかく和んでたのに…。
噂のスーパー君は本当にヒナちゃんがお気に入り。
「今は大丈夫、やってることは簡単なものばかりだから」
「じゃあ簡単なことなんて僕に任せてください」
アキちゃんがいないのを見計らってくるなんて、男らしくないなぁ。
「…なんでこういうときにいないのよあいつは〜…」
みどりん、アキちゃんは割と肝心なときにいない子よ…。
うん、アキちゃんがいないんだからせめて私が守らなきゃ。
「スーパ……こほん、武下君」
「えーっと、君は…」
…。
「なんだい?」
奇抜なクラスメイトの名前ぐらい覚えなさいよ。
折戸誠二よ、折戸誠二。まぁ、それはいいとして。
「武下君自身の仕事は?」
「あぁ、僕はあの辺りで黒板の装飾をしていたんだけど今は人数も多いから大丈夫なんだ」
「それでも持ち場を離れるなら他の人の許可は取った方がいいわよ」
「…学級委員の仕事を手伝うならそれくらいはいいだろ?」
よくないわよ、スーパー君。
さっきからあの辺の男子がこっちを睨んでるんだもの。
大丈夫?という目線を送ってくるヒナちゃんに大丈夫よ、と頷き返す。
「それに少しでも人の役に立ちたいと思うのは悪いことじゃないだろ?」
…悔しいけどそうなのよねー。
あくまでお手伝いだし、どう追い返せばいいのかしら。
「ただいま」
その声とカラリとしたドアの音に、スーパー君はものの見事に身を固くした。
「アキちゃん、おかえりなさい」
少しほっとしてアキちゃんを見ると私の顔を見て、よしよしと頭を撫でてくれた。
それからすぐにターゲットをスーパー君に定めた。
あ、すごい意地悪な顔。
「おや、武下君じゃあないの」
アキちゃんはニヤリと口を曲げると、にじにじとスーパー君ににじりよった。
「またお手伝い?」
「…まあね」
「立派だねぇ。じゃ、より大変な仕事があるんで手伝ってほしいことがあるんだけど」
ガッシリと肩をホールド。
面倒くさがりだけど周りの人を守ってはくれるのよね。
危なっかしくて安心できる人。
そこらの男の子より男らしくってそこらの女の子より不器用で可愛い。
「ぼ、僕は今から目片さんの仕事を…」
「委員長、今の仕事って大変?」
「すっごく簡単です」
「じゃあ、こっちを手伝ってもらおうかな」
「いや、僕は…」
「おや?まさか優しい武下君はか弱い女子があっちで大変な看板作りなんて力仕事をしてるのに手伝ってくれないの?
そっかそっか、美人さんな委員長以外はぼかぁ手伝えませんよ、と。へぇ〜」
わぁ、えげつない…。
口は達者なのよね。
「う、そんなことはない…」
「じゃ、手伝ってきてあげてくんない?ほら、こっちこっち」
「う、うぅぅ〜…」
「あたしも手伝うからさぁ、ねぇ?」
「き、君はいい…。僕一人で大丈夫だ…」
「まぁそう言わずにだね…」
「や、やめろっ、にじり寄らないでくれ…!」
アキちゃんは後ろ手に私たちにピースして教室をまた出て行った。
「あ、忘れ物」
カラリとまたドアを開けると、にこっと笑って私に紙袋を手渡した。
「衣装の詳しいことは中に紙が入っててそれに書いてあるから」
「わかった」
「お願いね、誠二」
そういうとまた教室を出てった。
「あいつは人には手間をかけさせるくせに役にたつわね」
「みどり、助けてくれたんだからそんな言い方はダメだよ」
「はーい」
誇らしい、うれしい。
アキちゃんと居るだけで私の心はあふれるみたいに騒ぎ出す。
ガサガサと紙袋を探ると、言われたとおり紙と衣装が入っていた。
相変わらず汚い文字で几帳面なほどに詳しい文字が並んでいる。
紙袋がまだ少し重い。
「なにかしら」
ゴトゴトと音を立てて出てきたのは3つの紙パック。
「ジュース?」
「あいつ、自分が離れたら私が来ること予想してたわね…」
確かに。
アキちゃんが居たときは居なかったみどりんの分までジュースを買ってきたってことはわかってたんだ。
「こういうとこが癪に触るのよあいつは〜!」
「ふふ、やっぱりまっつーも優しいんだね、せーちゃん」
「…うん!帰ってきたらこのリボン全部アキちゃんに着けちゃおう」
「手伝うわ」
夏雄さんと出会えたのはアキちゃんのおかげ。
二人と仲良くなれたのもアキちゃんのおかげ。
私はやっぱり、アキちゃんの側で女装してて良かったって思う。
二人と一緒にジュースを口に含むと、とても甘くてまたうれしくなった。