「突然ですが、転校生を紹介します」
彼は嵐のように現れた。
そう、嵐のように…。
「はぁ?スーパー転校生?」
「そう」
秋も深まり、文化祭も近づいてきた。
兄に少し卑猥な表現もある漫画を持って女子高生に会いに行かせるという些細な悪戯を行ってから数日。
そろそろ文化祭準備始めよっかーな時期にやってきた転校生。
-武下正志です-
そのノリ並の爽やかさと兄ちゃん並のしっかりした体に、あたしはついつい…。
-大変だよ、巽、誠二。ついに兄ちゃんとノリの隠し子が…-
-違うだろ-
-年齢的にもおかしいわ-
というボケをかましてしまった。
あたしとしたことが…。
いや、誠二の突っ込みどころもおかしいと思うんだけどね。
「…それは、少しそそるな」
「盛るなよ兄ちゃん」
「それで、そいつはスーパー君なのか?」
「そう」
才色兼備、文武両道。
まさに兄にノリを足したような感じなのだ。
「もう教室に居るだけで噴きそうになる」
「お前、それは失礼だろ」
「あいつ絶対エロいよ」
「お前、それは失礼だろ」
二回も突っ込まれた。
もうお嫁にいけない…!
「何を悲観にくれた顔をしとるんだ」
「兄ちゃんの子どもは産みたくないなぁと思って」
「お前の思考回路はどうなっとるんだ。
ま、別にお前には何の関係もないんだろ?」
「まぁ無いといえば無いような…」
「?、まぁ何かあったら言えよ」
「うん」
確かに、あたしには実害はないのだ。
あたしには。
「目片さん、手伝うよ!」
「ありがとう」
あたしには実害はないんだよ。
「目片さん、僕も一緒にやるよ」
「あ、ありがとう。でも一人で大丈夫だから…」
何度も言うけど、あたしには実害はない。
「遠慮なんかしないでくれよ。僕はただ目片さんを手伝いたいだけだから」
「あはは、ありがと…」
うーわー、きーらーきーらーしーてーるー!
ダメだ、ああいうタイプはどうも寒い。
「アキ、なんでお前がすごい嫌そうな顔してるの」
「もうなんだろ、あたしほんと手伝い嫌悪症になりそう…っ!」
「難儀な病気だな」
授業は一時中断、文化祭準備まっただ中になりました。
スーパーな武下さんはどうやらスーパーな目片さんを気にいったらしい。
それはもう傍目に見てわかるほどキラキラを振りまいている。
文化祭準備で委員長が忙しくなるほど彼もそれを手伝おうとする。
「ああいうサラッとキラキラってノリだけが持ってるものだと思ってた…」
「あのね、俺のことをなんだと思ってるの」
「爽やか放射線」
「…」
「ノリ、どうどう」
まぁ別に委員長が嫌がってないならいいんだけどさ。
正直に言ってしまえば才色兼備同士でお似合いっちゃお似合いだよ。
でもあたしも無関係とはいかない理由があるにはあるのだ。
「…あー、暇」
みどりんが怖いんだよ。
実害っていうか三次被害がここでおきそうだよ。
なんであたしの隣にいるの。
「ちょっと桃松、あれなんとかしてよ」
なんとかって言われてもねぇ。
案の定、スーパー転校生は早くもモテモテだ。
よく下駄箱に手紙が入っているのを見るし、校舎裏に女の子と二人っきりで真剣に話しているのも見る。
そんなものを敵に回したら本格的に女の子が寄ってこなくなる。
「あたしの手には負えませんなぁ」
「諦めんの早いわよ」
「委員長が嫌がってないならいいんじゃーん?」
ぐたりと机に突っ伏してエロ本をひらいたが、もうみどりんは慣れたのか突っ込んですらくれない。
…つまらんのぅ。
「みどりん胸揉ませて」
「却下。ねぇ桃松、あれが嫌がってないように見える?」
言われて委員長を見ると、またなにやら先生に押しつけられた雑用をやいのやいのと二人でやっている。
「…嫌がってはいないよ?」
あからさまに困惑してはいるけど。
下がり眉に張り付いた笑顔。
うーん、小奇麗な顔してんのにもったいない。
「あ、ヤベ」
「?」
あんまり見てるから委員長と目が合ってしまった。
慌てて逸らそうとしたけど時遅し。
「ま、まっつ〜…」
ヘルプをあたしに出さないでください。
「無視しないでってば」
スーパー転校生を置いてあたしの元へ走り寄ってきた。
うぇーい、そんなことしたら…。
「どうしたんだい?目片さん」
ほら、来たよ。
スーパー転校生をこっちへ連れてこないでくれぃ。
キラキラで目がつぶれる。
「あの、私ちょっとまっつーとお話したいことが…」
「友達とコミュニケーションかぁ。僕も混ざっていいかな?」
な ん て 図 々 し い !
好きな子と四六時中一緒に居たいのはわかるがそりゃやりすぎってもんじゃないか?
「残念だけど、女子だけで話したいことがあるの」
「みどり…」
ナイスフォロー。
でもここで食い下がるような子ではないだろう。
こういうときはガツンとだね…。
「鈴城さん、僕はどんなときでも男手があったほうが…」
「おや、武下君は生理の話やブラジャーのサイズが聞くにも男手がいるってか」
なんか、ガツンの方法間違った気がする。
「ぼ、僕はそういうことが言いたいんじゃない…っ!
大体なんだ君は…きょ、教室でなんて本を広げているんだ!」
なんて本って聞かれてもエロ本ですけど。
効果あったみたいだしいいか。
「へぇ、エロ本も知らないなんて武下君はどうやって処理してるのかな?」
「しょ、処理?」
「あぁ、溜めに溜めまくって夢精でもしちゃってるのか。
毎朝パンツ洗うのは大変でしょ?」
「なっ…なっ…」
フルフルと震える武下君は顔を真っ赤にしてあたしをにらみつけた。
「これ以上男の子のことについて聞かれたくなかったら女の子の話にも首を突っ込まないことだね」
委員長の手首を掴むと、強引に屋上へ向かう。
みどりんもついてきていることを確かめてあたしは教室の扉を閉めた。
「…はぅ…」
お疲れだね。
「大丈夫?ヒナ」
「うん、嫌とかそういうんじゃないんだけど…正直少し疲れちゃった」
うーん。
「委員長」
「なぁに?まっつー」
「あたしからすれば、委員長も武下君もあまり変わらないんだけど…」
「はぁ?あんた喧嘩売ってんの?」
みどりん、売ってないからまだ頭殴らないでください。
このままじゃ陥没しちゃう。
「だって、委員長おひとよしじゃない。
こないだあたしが出すはずの資材貸出届けも代理で提出してくれたでしょー」
「う、うん」
「ただでさえ忙しいのに他人の仕事までやってそれじゃあまるで…」
ただの自分イジメが大好きなドMじゃないか(口には出さない)
「あんたねぇ、手伝ってもらったならもうちょっと感謝を顔に出しなさいよ」
「委員長が勝手にやったことだもーん」
「桃松秋生〜っ!」
「み、みどり!まっつーの言うとおりだから、私が勝手にやったことだし…」
そりゃ、あたしだって言いすぎだとは思うさ。
ほんとはちゃんとお礼だって言いたいさ。
でも委員長はそういうのを喜ぶタイプだから、お礼を言ったらまたやろうとすると思う。
それじゃあ委員長に申し訳ないし、書類の提出ぐらいは自分でできる。
あんまり甘やかされるとあたしだってどうしたもんかわかんないし。
「ヒナ、あんまり桃松を甘やかしちゃダメよ」
「そうだよ、委員長」
「お前が言うな!」
おぉ、頭が凹む。
みどりんはもう少しあたしを甘やかしてほしい。
「みどり」
「なに?」
委員長は困ったように笑うと、申し訳なさそうに口を開いた。
「個人的にはまっつーを凄く甘やかしたいんだけど」
な ん だ と 。
これにはみどりんもビックリしたのか固まっている。
「委員長、あたしを甘やかしてどうする気?」
「別にどうもしないよ?」
…腹黒じゃないよね?
何考えてるんだろこの子は…。
「あたし太らせて食べても美味しくないよ?」
「食べません!」
…ちょっとアレ的な意味でもおいしくないと思うよ?
Bカップだし、委員長より小さいし。
「ヒナ、これを甘やかすとつけあがるだけよ?」
「そんなことないよ」
なんだその自信。
なんか、体、痒い。
ダメだほんとお手伝い嫌悪症っていうかお手伝い恐怖症になりそう。
話、変えよう。
「やー、それにしても文化祭もうすぐだねー」
「あからさまな会話変更ね」
みどりん、突っ込まないの。
「調子はどうでしょう、学級委員長様」
「大変よろしいと思います、技術責任者様」
「そんな重要な二人がこんな屋上でサボってていいわけ?」
「まぁまぁそう堅いことおっしゃらずに。
いいじゃん少しぐらい休憩したって」
「まぁ、ヒナはもちろんだけど桃松にしたら頑張ってるわね」
「わんわん」
よしよしと頭をなでられたので吠えてみた。
そう、あたしにしちゃ頑張ってるんですよ。
たかが喫茶店されど喫茶店。
料理とかは作る人に任せて完璧な内装を作り上げて見せる…!
「どーせあんたのことだから料理できないし、内装完璧にすれば逃げ切れるとか考えてるんでしょ」
「な ぜ わ か っ た し !」
「でも私はまっつーの料理も一度くらいは食べてみたいな」
「おでんかもやし炒めならいいよ」
他のものは味が無くなるらしいから。
「おでんともやし炒めは雰囲気に合わなさすぎるからやめなさい」
「でもみどり、まっつーの作るおでんは凄いらしいよ」
「凄くっても内装に合わないから」
「…残念だなぁ」
個人的には美味しく作れるけど委員長の口に合うのかね、あんなの。
と、いうかおでんを食べる委員長があまり想像つかない。
イメージ的には洋食だよねー。
「さて、そろそろ戻るかなぁ」
「う…ん」
おぉ、珍し。
委員長にしては少し嫌がっている。
そこまで委員長に嫌がられるスーパー君もすごいな。
「桃松」
「うん?」
「あんた準備中はなるべくヒナと一緒にいなさいよ」
いつも一緒にいるだけで怒る人が何を言い出すやら…!
「あいつ…えっと、武本だっけ」
武下君ですよ。
「あいつけっこう桃松のこと嫌いじゃない?」
本人を前にそんなこと言うな…!
あたしが苦手っていうよりシモい話が嫌いなんだろうなぁ。
人間はシモから生まれてるのに(最低)
「だからあんたがそばにいて守ってやんなさいよ」
「そうは言ってもねぇ」
どう守れと。
「私の仕事って基本的に雑用か提出系のまとめだったりするから、一点でじっとしてても平気だよ」
「桃松、あんたは実際に動くのは野沢君と能登代君に任せてるでしょ」
くっ、ばれていたか。
実は技術責任者とは名ばかりに教室の端っこからノリと巽に指示を飛ばしていただけだったりするのだ…!
たまにライトとかちょっと変わった装飾をつけるのに動くだけだし…!
ちなみに誠二はあたしの癒しとして傍で裁縫を頑張ってもらっている。
「あそこまでしっかりと勘違いの出ないような指示を出せるのは凄いよね」
「まぁ…確かに。装飾のアイデアもみんなが納得するようなものばかりだし…」
だてにシミュレーションゲームやってるわけじゃないんだよ。
あと指示がいいのは戦略型陣取りエロゲをやったことがあるからかと。
割と有名なヤツだけどね。
「と、いうわけだしあんたは教室の隅っこでヒナとじっとしてなさい」
「みどりんは美少年好きなのに武下は嫌いなんだね」
「野沢君みたいな爽やかな美少年のほうが好きなのよ。
武本はちょっと…でかいっていうかムッチリしてるの」
ムッチリ…。
表現が斬新すぎる。
「線の細い美少年のほうがいいじゃない」
そりゃ、ムッチリよりは。
ってことは兄ちゃんはみどりんにとって対象外なのか。
あれがムッチリなら兄ちゃんはムッチムチだもんな。
…おっふ、兄貴のムッチムチを想像したらなんか気持ち悪いことに…。
「委員長の好みは?」
「え?私?」
「うん」
みどりんはミーハーで凄いよくわかるけど、委員長の趣味ってどんなのだろう。
ムッチリもムッチムチもOKなんだろうか。
ダメだ頭がムチムチした筋肉に洗脳されてる。
「私は、外見は特に…」
あー、っぽいなー。
中身か、やっぱり中身なのか。
「優しくて、頼りになって、たまに一生懸命で…」
…兄ちゃんか、兄ちゃんなのか、やっぱり。
「…ちょっと、可愛い人、かな」
「なるほど、ヒナはショタコンね」
どうしてそうなった、みどりん。
外見関係ないって言ってるじゃないよ。
「…ショタコンではないと思うよ?」
「そう?とりあえずヒナには好きな人がいるわけね、桃松」
「そうみたいだね、みどりん」
「へ!?な、なんで!?」
確実に特定の誰かを考えてた感じだしね。
それにしても委員長にはあのムッチムチが可愛く見えるんだろうか…わからぬ。
「ちょっと気になってるだけですっ!」
「若いね、みどりん」
「若いわね、桃松」
「…なんかみどりとまっつー、こないだのお泊まりから仲良しすぎやしない…?」
「うちのクラスに優しくて可愛くて…とか居たっけ?」
「誠二?」
「可愛いのベクトル違うわよ」
「二人とも私の話聞いてよー…」
まぁ仲良しうんぬんはともかく。
こないだのお泊まりからみどりんが少し打ち解けてくれたような気がする。
…こういうのは、まぁ、悪くない。
「とにかく、ヒナはあの武本は嫌いなわけね」
「嫌いっていうわけじゃないよ。ちょっと対処に困ってるだけで…」
みどりん、ヤツは武下だ。
「苦手、ぐらい?」
「うん、そうかな。良い人だけどもう少し距離がほしいかも。
…お姉ちゃんみたいに見られちゃってるのかなぁ」
…?
「みどりんや」
「何、桃松」
「委員長は鈍感なの?」
「かなりね」
うわぉ。
イメージ通りすぎる。