「いらっしゃ…」
「このケダモノがぁあああああ!!!!!!!!!」
それは他人のお家にお邪魔するときに使う挨拶じゃありませんよ。
それから会って真っ先に相手を確認せずに殴るのは人違いの可能性があるのでお気をつけください。
「ひどいなみどりん。あたしが何をしたってーの」
「み、みどり!まっつーは怪我人だよ!?」
「怪我人だからって何をしたっていいわけじゃないでしょ!」
ははは、確かに!
っていやいや、まだ何もしてませんから。
晩ご飯作ってもらっただけだから。
「ヒナ!帰るわよ!」
「なんで!?」
「なんでもかんでもこんな家いられるか!
明日にはこいつの子どもがお腹にできちゃうわよ!」
だからできませんっちゅーに。
みどりんはたまにあたしを男と錯乱していないか…?
「ほら早く!」
あたしが突っ込むより先にみどりんは委員長の手を引いて歩きだそうとした。
「みどりーん、こんな時間だし危ないよ?」
「あんたと一緒にいるよりはマシでしょ?」
ははは、確かに!
って違う違う。何もしないってば。
よく見れば委員長はすごく抵抗している。
「みどり、私は大丈夫だから」
「そりゃ確かにヒナは合気道も習ってるし強いから安全かもしれないけど」
わぁ初聞き。
やっぱり委員長にスキンシップは危険だなぁ。
失敗すれば投げ飛ばされるということか…。
「やっぱり私もここに泊まるしかないか…」
「大丈夫、そのつもりで布団も用意した!」
「…はぁぁぁ…」
なんだその盛大な溜め息は…!
「お、鈴城さんいらっしゃい」
「お邪魔します」
兄にはちゃんと挨拶するのかー。
…絶対兄ちゃんよりあたしのほうが安全だとおもうんだけど…。
あ、でも兄ちゃんと一緒にいて危ないのは美少年だけか。
「こんばんわ、鈴城さん」
「こんばんわ。ってなんで野沢君が居るの?」
まさか兄貴の恋人なんで、とは言えない。
「幼馴染だからね」
「あぁ、そうだったわね」
さすがノリ!誤魔化しなれてるね!
「鈴城さん、晩ご飯は?」
「あ、それは食べてきた」
「そっか、まぁあがりなよ」
気づけばノリが家主のように…。
完全にお母さんポジションだよ。
本来ならお義兄さんポジションだろうに…。
まったくノリをこんな風にしたのは誰なんだか。
「鈴城さん、お風呂は?」
「まだですけど…」
「お風呂沸くまでまだ時間かかるから二階で妹と遊んでおいで」
「ありがとうございます」
なんか、至れりつくせりだなー。
みどりんもそれを感じたのか、2階にあがる途中でぼそりと呟いた。
「…桃松秋生さえいなければパラダイスなのに」
それは本人に聞こえないとこで言ってください。
「まっつーの部屋って何があるんだろ」
「どーせエロい何かしかないんでしょ」
失礼な。
「ゲームとかもあるってば」
「18禁ゲームじゃなくて?」
「うん」
そういうと、少しは関心したのかみどりんはへぇと声をあげた。
あるにはあるのだ。
ただ、我が家で使うのはちょっと気が引けるだけで。
薄いシート、回るルーレット。
「ね、あったでしょ」
「ツイスターはR指定にするべきだと思うわ」
いつも我が家にいるメンバーではやりたくないことこのうえないゲームである。
「懐かしいね」
「懐かしいけどやらないほうがいいと思うわ」
賢明だねみどりん!
使わないとなったらさっさと片付け…。
…。
いや、兄の部屋に放り込んでみよう。
きっと喜んで使うに違いない、主にノリと。
「思ったより普通なんだね」
どういう意味ですか委員長。
兄の部屋にツイスターを放り込むと、委員長とみどりんはキョロキョロしていた。
「隠してるだけよねたぶん」
「探したら何か出てくるかな」
やめてください全力で。
どうしてちょっとウキウキしてるの二人とも。
「グラビアポスターの1枚でも貼ってないわけ?」
みどりんはあたしをどういう目で見ているのか一度問い詰めるべきだと思う。
「漫画もないんだ」
「委員長って漫画読むの?」
「結構読むよ」
それはなんだか意外というかなんというか。
ド○えもんとかか?
「桃松、ヒナの読む漫画はあんたには無理だわ」
「なんで?」
「べったべたの少女漫画ばかりだからよ…」
わぁ、それは似合うね☆
たしかにあたしには厳しい。
少コミとかの際どいのならまだしも普通の少女漫画はあたしにとって純真すぎて毒なんだよね…。
「でも漫画を読まないっておかしすぎない?
あんたそんな真面目なキャラでもないでしょうよ」
まぁ確かにそうですがそんなに決めつけなくても。
ただ漫画はほんとひどいのしかないからさっき兄の部屋に退避させちゃったんだよね。
「ヒナ、暇だし家探ししよっか。たぶん普段使ってるゲームとか漫画とか出てくるわよ」
「こらこら」
やめんかい。
なんのために片付けたと…。
「そうだね、まっつーどこなら探してもいい?」
「どこもダメです…!」
なんで乗り気なの委員長…!
「ここは?」
「引き出しか…開けてみよ」
ガタガタ
「開かないね」
「ちっ」
残念だったな…!
引き出しはすべてロックがかけてあるのさ!
「ベッドの下は?」
そんなべたなとこには隠さないよ。
見つけろって言ってるようなものじゃない。
「…どこも何もなくてつまんないわね」
「んー」
小学校中学校と両親の目を盗みつづけたあたしのスキルは完璧である!
コンコン
控えめなノックの音に続いて、ひょっこりとノリが顔を出した。
「風呂沸いたぞ」
「はーい、どっちから入る?」
お風呂というのは基本的にお客様からと決まっている。
「こういうのは家主さんから入るっていう説もあるよ?」
父ちゃんはいないしこの場合、兄ちゃんかー。
「二人とも、兄ちゃんの後で風呂に入りたいと思う?」
「その質問は厳しすぎるわよ、桃松」
「はいともいいえとも言えないよね」
それは確かに…。
いいえと言えば兄に失礼だし、はいと言えば変態さんの仲間入りだよね。
「桃松が最初に入ったらいいんじゃない?」
「いや家主でもなければ客でもないし」
「でも怪我人でしょ?」
あ、そういえばそうでしたっけ。
たまにしか痛くないしすっかり忘れてた。
よっぽど処置が良かったんだなー。
「じゃあ最初に入らせてもらおっかな」
「どうぞ」
「アキ、その手じゃ体洗えないだろ。俺が洗うよ」
「サンキュー、ノリ」
あ。
「いやいやいやいやダメでしょそれは!!!」
「な、なんでそうなるの!?野沢君、まっつーは女の子だよ!?」
ですよね。
ノリもしまったという顔をしている。
なんでそういううっかりさんな部分はそっくりなんだこのアベックは。
「あ、ほら幼馴染だから…」
それは苦しいと思うよノリ…。
まぁ正直に「俺夏雄さんの体じゃないと欲情しないからハハハ」とか言えませんよね。
「幼馴染でもダメ!そういうのが許されるのは小学生まで!」
「そうよ野沢君!いくらこいつが女に見えなくたってやっていいことと悪いことがあるわよ!!」
みどりん、さり気なくあたしを貶めてない?
「じょ、冗談だよ。なぁ?アキ?」
「うん、そうそう」
「ほんと?」
「うんうん」
「どうした?」
騒がしくなったことを気にしたのか、兄まで来た。
「いやぁ、兄ちゃん。ノリがちょっと悪ふざけをね」
「そうそう、ふざけただけですよ」
「それならいいが…」
「そうだ兄ちゃん、体流してよ」
「あん?一回千円もらうぞ」
「いや、桃松それもダメだって」
え?なんで?
「いくら兄妹でもこれだけ大きくなってから一緒にお風呂に入っちゃダメだよ…」
「兄妹だって万が一でも間違いがあったら困るでしょうが」
兄ちゃんと、間違い?
あたしは思わず兄の顔を見た。
「俺は夏に全裸で扇風機の前にあぐらかいてエロゲするような妹に欲情はしないと思う…」
悪かったねー。
暑かったんだよ。
あたしだってリビングで幼馴染にルパンダイブするような兄と間違いなんてヤダよ。
「とにかくダメなものはダメ!」
委員長珍しく頭痛そうな顔してるなー。
「まっつーの体は私が流しますから二人はリビングで待っててください!」
…お、おぉう?
「いやヒナ。それもダメだってば」
うん、自分で言うのもなんだけどそれ一番危険だと思うよ。
ほんと委員長は危機感が(略)
「なんで?」
「なんでも何もわざわざ食べられにいくようなもんでしょうが」
「?」
ほんとにわかってない顔だよ委員長…。
怖ろしい子!
「じぶんでがんばるよ…」
「まぁ、それが妥当ね…」
「?、私がダメなら、みどりは?」
「断固拒否」
ですよねー。
ひっそりと成長を続ける現在Fカップを拝んでみたい気はしたんだけどね。
また体育の着替えの際にちらちら覗くしかないか。
「…あ、いいわ。やっぱり流してあげる」
…??
「そんな不思議そうな顔しないでよ。
一人で入らせようとするとヒナが無理してあんたと入ろうとするでしょ?」
「別に無理してるわけじゃないけど…」
「良い方法を思いついたのよ」
良い方法…?
みどりんの良い方法ってあたしにとって良い方法とは限んないんじゃ…。
「ヒナもご一緒する?」
「え?でもさっきはダメって…」
「一緒に入らなければいいのよ♪」
嫌な予感しかしないんですけど。
「…ねぇ、自分で洗うからさぁ、出ていかない?ねぇねぇ、出ていかない?」
「うるさいわねー、洗われてる身分でごちゃごちゃ言うんじゃないわよ」
「ふふ、ちょっと恥ずかしいよねこれ」
「わかってるならさぁ、お願いだからさぁ」
「煮え切らないわねぇ、観念しなさいよ」
「あたしだけ裸で二人は服着てるとかさぁ、なくなーい?」
みどりんの作戦とは、つまりこうだ。
服を着たままあたしを洗う、と…。
「…もうお嫁に行けない…っ!」
「大丈夫よ、あんたなんか貰い手ないわ」
まぁお嫁には行かないんですけどね。
むしろ結婚とか外国行かないとできないんで(あくまで男と結婚する気がない
「あんたが使ってるシャンプーってどれよ」
ぷい。
「右端でいいわね」
「左端でお願いします」
右端って石鹸じゃないの。
あたしの髪をガビガビにする気か。
ちなみに左からあたし、兄、ノリのシャンプーである。
「はい、目ぇ瞑ってなさいよー」
あーい。
ワシワシ
「…固いわね、あんたの髪」
悪かったね。
「そうなの?」
「ヒナもちょっとやってみる?」
「うん」
ワシワシ
「わぁ、いかにも塩素と日焼けでひどいかんじ!」
「よねー!」
好き勝手言いますなぁ。
「トリートメントは?」
上の段の左端です。
きゅっと指さすとはいはいと言いながらも指示には従ってくれる。
「ふーん…これってCMでは良さそうにしてたけどあんまりなのね」
そりゃあたしの髪があんまりってことかい。
「ヒナなんかさらっさらだもんね」
「私はさらさらというよりは細いだけって気がする」
猫毛でゴワゴワなあたしからすればうらやましいよ!
「流すわよ」
適度に流されたあと、前髪を鬱陶しくないように上に掻き上げてくれた。
みどりんは意外と面倒見がいいなぁ。
「じゃ、ヒナ。体洗うわよ」
「うん♪」
うん?
みどりんが少し体をズラすとそこに委員長がイン。
…どういうことですか。
「じゃあはい、手あげてね」
「いやいや、どういうことなの」
「どういうことも何もこういうことよ」
みどりんと委員長が対称的に両サイドで手を挙げた。
その手にはしっかりとボディタオルが…。
「それ片方兄ちゃんのじゃん」
「細かいこと気にしないの」
いやだせめてノリのにして…!
妊娠しちゃう…!
「っていうか二人がかりで洗うことないと思う」
「右手洗いまーす!」
「左手洗いまーす♪」
「ねぇ、二人とも人の話聞こうよ、ねぇ」
まるで人形みたいに洗われているあたしは十分可哀想だ。
あぁ、あたしの右半身が兄に汚されていく…っ!
「…綺麗な肌だね。ちょっとうらやましい」
委員長、セクハラって知ってる?
あれって女の子に適用されるんだよ?
「これでボディーソープは普通なのが悔しいわね」
ボディーソープは兄妹共用です。
爽快感満載のクール系ボディーソープが好きな兄妹なので。
「そういえば私たちはどれを使えばいいのかしら」
確かに。
ボディーソープは一つしかないからいいけどあとは三種類ある。
「あたしのようなゴワついた痛んだヘアになりたいなら左端のセット。
兄のような艶っとしたしっかりヘアにしたいなら真ん中のセット。
サラサラの美少年になりたいなら右端の野沢典之セット」
二人は少しだけ手を止めてシャンプーとトリートメントを見た。
「私、野沢君セット」
みどりんはそう言うと思ったよ!
髪のタイプ的に言うなら委員長もノリセットかな。
「私はまっつーセットにしよう」
やったね兄ちゃん不人気!
じゃなくて、なんですと?
「ヒナの細い髪じゃひどいことになるんじゃない?」
「んー、まっつーの髪って確かにゴワついてるけどそこまで痛んでないと思う」
「まぁそうね…いつも体育のとき髪括っててもハネて出てる髪とかないし枝毛はないのかしら…」
枝毛はね、確かにない。
ちゃんと寝る前に髪乾かしてから櫛で梳いてるからね。
ちなみに髪を乾かす前に櫛を通すと枝毛祭になるんだよ!
「うん、やっぱりまっつーと一緒のにしよっ」
「ヒナ、やけに桃松を気に入ってるけどこいつと一緒に居てもロクなことないわよ?
主に胸を揉まれたり胸を揉まれたり胸を揉まれたり…」
全部同じ内容だよ、みどりん。
本人の前で否定しないでよ、みどりん。
「そうかな、私は楽しいよ?」
「まぁある意味今大変面白いといえば面白いわね」
そっか、二人は楽しくても私は大変恥ずかしいよ。
「はい、前も洗うわよー」
「それは自分でやるのでいいです!」
あたしは全裸で立ち上がると、これ以上何か言われないように二人を浴場の外へ追い出した。