Lily memo %



俺はもうダメかもしれない1


「…ただいま」
「お邪魔します」
「じゃぁーっす」
「…おかえり、そしていらっしゃい。なんだか妙なメンバーだな」

真面目を絵にかいたような女子とヤンキーを絵にかいたような男子と。



連行された宇宙人のような顔をした妹。



否、現在進行形で連行されている宇宙人。

「なんでお前はそんなに顔が死んでるんだ」
「そりゃ死にもしますよ兄ちゃん」

出かけた時はダルそうではあったが死にそうではなかったはずだ。

「えーっと、巽、説明」
「アキが怪我したので委員長が優しく晩メシを作りにきてくれたスよ」
「怪我?」

確かによく見れば右手に包帯が巻かれている。

「なかなか大層な怪我じゃないか。どうしたんだ?」
「トチった」

トチった?妹にしては珍しい。

「なんか悪いね、目片さん。忙しいんなら俺が作るけど…」
「いえ、私に作らせてください。この通り材料も買ってきたので。
 …迷惑でしたか?」
「いえいえとんでもない!ささっ、どーぞどーぞ」

俺は素早く居間へ案内すると、ひっそりと妹の耳に口を寄せた。

「何したんだお前。誰かにやられたのか?」
「考えすぎだよ」

妹は少し考えた顔をすると、ニヤリと俺を見上げた。

「…そんなに妹が心配かね、シスコン」
「んなわけねぇ」

妹の頭をぐしゃりと混ぜると、俺はキッチンへ向かった。

「野沢君はやっぱりいつも居るんだ…」
「や、やっぱりって何かな委員長。そして若干顔を赤らめないでくれないかな」
「あん?なんだ、委員長はノリと夏雄さんが付き合ってんの知ってるのか」

おぉ、さっそく凄い話をしているな…。

「知ってるというか知っちゃったというか…」
「ちょっと成り行きでね」

そこで俺を睨むな、恋人よ。

「あ?じゃあ委員長はアキが本物の女好きってことも知ってるのか?」

…巽、君は少しは慎むということを知りたまえ。
というか『本物の』ってなんだ。
他に言い方なかったのか…。

「う、うん…」

ごめんね。
なんか答えづらい質問させちゃって…。
ほんと目片さんにはご迷惑ばかりおかけして…。
って、そういえば肝心の妹はどこ行った。

「ノリ、アキは?」
「着替えに行きましたよ」

ほう。
俺はひっそりと巽の隣に並んだ。

「…で、何があったんだ」
「秘密っす」

な、生意気な!
巽が反抗期だ…っ!!
俺は困ってノリに視線をやった。

「…夏雄さん、先輩ならそこはちゃんと一人で聞きだしてください」


呆れられた…!


「とはいえ」

がっくりと肩を落としていると、ツツツとノリが寄ってきた。




「俺も、まぁ大きい怪我だし気になるかなー、と」




こほんと小さく咳払いをするノリ。
…アキのことは心配なんだな。
かわいいやつめ。

「ふん、俺もしらねぇよ」

そうか、巽も詳しくは知らないのか。
というかアキも巽もノリには優しくないか?
最近、お兄さんは少し寂しいぞ。



「…だから、ちょっとトチっただけだってば」



おや、いつの間に降りてきていた妹よ。

「花壇に手を突っ込んだ先にガラスが落ちてたんだよ」

待て、それはいろいろ突っ込みたい。

「嘘だろう」
「根拠はぁああ〜?」

我が妹ながら殴りたい。
これみよがしにニヤニヤしてやがる…!

「まぁまぁ、おかげさまで委員長の作ったご飯が食べれるし深く考えな〜い」

…むぅ、こういうとき奈央がいれば強いんだがな…。
今日は確か友達と飲みだったか。
ほんと肝心な時にいない友人だなぁ。

「あんまり期待しないでね」
「すっごく期待してる」

こらこら、いじめるんじゃありませんよ。
妹はニヤニヤと目片さんの背中に張り付いている。

そわそわしている目片さんを見て、そりゃあ落ち着かんわなと俺は妹の耳を引っ張ってキッチンを連れ出した。

「お世話になってるのに邪魔するんじゃありません!」
「はーい」
「二人はゆっくりしてて。委員長は俺が手伝うから」

我が家の晩飯なのになんだか申し訳ないな。
感謝して食おう。

「それで委員長、何を作るんだ?」
「親子丼とサラダ」
「親子丼?」
「うん、まっつーが親子丼がいいって」

おぉ!親子丼!
…ちょっと待てよ?
妹は親子丼は別に好きということも無かったような…。

「アキ、お前そんなに親子丼好きだったか?」
「今からおでん作ってもらってもおいしくないと思うよ」
「それもそうだ」

あれ、じゃあもやし炒めは?

「もやし炒めだと私が作った方が美味しいとか考えちゃいそうだし」

どこからきた自信だそれは。

「おでんともやし炒めが好きなの?」
「愛していると言ってもいいね!」

おでんともやし炒めが可哀想だ。
そして育ち盛りにそんなものばっか食わされるノリの気持ちも考えろ(俺の成長期は終わっている)

「アキの作るもやし炒めはたしかに美味しいよ。
 アキ自身はおでんを食べるほうが好きみたいだけど」
「へー…」
「俺もアキの作ったもんなら断然もやし炒めだな」
「能登代君も食べたことあるの?」
「俺もよくお邪魔してるからな」
「目片さんも今度食べにおいで」

そういうと目片さんはうれしそうに笑った。
が、やはり不機嫌な妹。

「そんないうほどのもんじゃないよ」
「…でも一度でいいから食べてみたいかも」
「そんなに言うならまた今度作るけど…あんまり期待しないでね」
「すっごく期待してる」

おぉ!妹が一本とられた!
目片さんもだんだんこいつの扱いを覚えてきたな。
うんうん、良い事だ。
たとえ妹の顔がいまだかつてないほどのぶーたれ顔になっていたとしても、良い事だ。









カチャリカチャリと音がして比較的ゆっくりと時間が流れる。
妹も腹が満たされたせいか機嫌良さそうに我が家の末っ子ウサギさんに抱きついている。
ふと時計を見ると、なかなかの時間になっていた。

「目片さん、こんな遅くまですまないね」

目片さんは食器を洗い場に運ぶ手を止めて微笑んだ(食器は俺が洗う)

「こちらこそ遅くまでお邪魔してごめんなさい。まっつーの機嫌も良くなったしそろそろ帰りますね」
「あぁ、送っていくよ。晩ご飯も美味しかったしね」
「いえいえ、私が勝手にやったことですし」

いえいえいえ。
こちらこそこちらこそ。
このやりとりが3回ぐらい繰りかえされたところで妹がまた不機嫌そうに声をあげた。



「もう委員長泊まってけば?」



妹が出した案にしてはなかなか良い案だ。

「え!?で、でも…」
「そうだな、明日は土曜で休みだし目片さんさえ良ければうちはかまわないさ」
「どうせノリも巽も泊まってくんでしょ」

妹が高校男児二人に目線をやると、片方ははにかみ、片方は首を横に振った。

「なんだ、巽は泊まってかないのか」
「…俺だけ泊まると誠二があとでうるさいんで」

あぁ、なるほどな。
『私をハブってそんな楽しいことしてるなんて…っ!』と涙を溜める男の娘が容易に思い出せる。

「で、本音は?」
「ノリの喘ぎ声なんて俺は聞きたくない」

うぉい!それかよ!
妹よ、なんてことを聞き出しやがる。

「そんなことしないって!」
「いやー、兄ちゃん種馬だしねぇ」
「夜の夏雄さんほど信用できねぇもんはねぇよな」

好き放題言いやがって…!
人前ではさすがに自重するわ!

「委員長、耳栓貸してあげるから安心してね」
「…帰ろうかなぁ」

目片さん全力で引いてるじゃねーか。
うん?いや、それ以前に…。

「お前と一緒の方が安心できないだろ。
 目片さん、男部屋の方がむしろ安心だぞ」
「どういう意味だこら」

兄を足蹴にするな。

「とりあえず委員長、おうちに電話しようか」
「え!?…ほんとに泊まっていいの?」
「うん、あ、ちょっと待ってて二階片付けてくるから」

主にエロ本とかエロゲとかエロビデオとかな!

「意外…」
「何が?」

目片さんは呆然と妹が消えていった2階を見つめると、困ったようにつぶやいた。

「だって、きっと私を泊まらせるのは申し訳ないからって送って行かれると思ったんです」

ドナドナのごとく…?

「だから泊まっていけって言ったのがすごく意外で…」

たぶんこんな暗い中帰らせる方が申し訳ないって思ったんだろうな。
そういう妹だし。

「今のうちに電話しといたらどう?はい、家電」
「ありがとう野沢君」

…いやほんと、料理作ってるときから思ってたけど良い絵面だなぁこの二人。
キッチンに仲良く立つ二人はまさに新婚夫婦のようで…。

「はっ!いやいやノリの旦那は俺だろう!?」
「一人で何言ってるんですか夏雄さん」

巽なんか呆れて帰っちゃいましたよと言われて確かに巽がいなくなってることに気づいた。
…ふぅ、恐ろしいというか背中が寒くなる想像しちゃったぜ。

「…うん、ありがと。え?」

目片さんは電話中だ。
どうやら両親と仲がいいらしい。
とても穏やかにニコニコと喋っているのはとても微笑ましい。
俺だってこんな妹だったらとても笑顔で喋っているだろうなぁ。

「え!?嘘、今から!?」

お?トラブルか?

「…もう出て行っちゃった?
 俊郎、どうして止めてくれなかったの?」

弟か?

「わかった。とりあえずそういうことだから。うん、じゃあね」

目片さんはふぅと一息つくと、申し訳なさそうにこちらを見た。

「お兄さん、ごめんなさい。
 私がまっつーと一晩過ごすって聞いて『私も行く』って幼馴染が家を飛び出したらしいんです」

鈴城さん、それは正しい判断だ。
おそらく妹に好き勝手される目片さんを想像していてもたってもいられなかったんだろう。

「うちは一人増えようが二人増えようが一切かまわないよ」
「ほんとにごめんなさい…」

そもそも奈央以外の女の子がうちに泊まるなんて赤飯を炊かなきゃいけないぐらい良い事だ。
妹もたまには女の子とキャッキャウフフと遊びたいだろう。

「兄ちゃん、確かに構わないっちゃ構わないけど問題もあったりするのだよ」
「なんだヤブから棒に」

っていうかいつの間に降りてきて話を聞いていた。

「あたしの部屋には3人も入れる余裕がない」

そういえばそうか。

「父さんと母さんの寝室使ったらどうだ?」
「じゃあそっちに布団運ぶよ」

言うが早いか、妹はまた2階へ上がっていった。
あの行動の早さはもしや眠いのか?
割と食ってたもんなぁ。

「まっつー、手伝うよ。怪我してるんだからあんまり重いもの持っちゃダメだよ?」

そういえばそうだったな。
俺がやるか。

「俺が運ぶから君たちは下で鈴城さんを待ってなさい」
「俺も手伝いますよ」
「サンキュ、ノリ」

二階の物置から布団を出して両親の寝室へ運ぶ。
俺が高校生の時買い換えられてからほとんど使われてないから綺麗だ。

「…久しぶりに見るとなんだか寂しいですね」

父が単身赴任ででかけたのは俺が中学生のときだった。
その頃、俺は水泳に夢中で絶対に転校したくなかった。
ノリや仲のいい友人と離れるのが嫌だったんだ。
妹もまだ小学生だしということで父だけが関西へ引っ越していった。
母がもろもろの事情で追いかけていったのはアキの高校受験が終わってからだ。

「二人じゃやっぱり広いですよね、この家」

母は寛容だが、大人しく常識人だった。
俺が騒がしく友人と遊んでいるのを楽しそうに見ていたっけ…。
妹は大人しく、今みたいにやんちゃに遊ぶことはなかった。
…その理由の一旦は俺にあるのだが…まぁそれは今は忘れよう。
ノリは小さなころから一緒にいる。
当然、父と母も知っている。
ノリは品行方正で可愛らしいから父も母も気に入っていたし、ノリも父と母を気に入っていた。
大方二人がいたころのことでも思い出しているのだろう。
俺はノリの頭を撫でた。

「ノリがいれば3人になるからそう広くもないさ」
「じゃあなるべくお邪魔しないといけませんね」
「おっ、強気だな」
「俺が来ないと二人ともカレーとおでんで栄養不足になっちゃいますよ」

いたずらっ子みたいに笑うノリは本当に良い子だ。
小さいころから一緒でインプリンティングのようだけれど俺はノリを手放す気にはなれない。
…ノリが女の子と結婚したいと言い出したら俺はどうするんだろう。
考えたくもないな。

「ノリ、ちょっといいか」

なんとなく、今しかできない気がしてノリを抱き寄せた。

「なっ、なんですか急に!?」
「いや、なんとなく」

こういうとき、妹のように何食わぬ顔で何もせずにいられたらかっこいいんだろうなと考えてしまう。
俺は生まれたとき、忍耐というものを妹に置いてきてしまったんじゃないか?
あいつは人が絡むと我慢する。
それが疎ましいと思うこともあるが、こういうときには羨ましい。
ノリに縋るように甘える俺はかっこ悪いだろうか、女々しいだろうか。
俺はノリの頭を抱えると、聞こえない程度にため息をついた。

back to UCHIDAMEmenu
back to top
designed by inertia