Lily memo %



うちの妹はもうダメかもしれない1






「正直、あたしレズビアンなんだわ」
「俺は小学校の頃から美少年が好きだ」




兄妹揃って爆弾発言をした日、母は泡を吹いて倒れた。
以来、母は父の単身赴任先へ逃げ込んでいる。

「兄ちゃん」
「なんだ」

それから妹と二人、広い家を占領している。
父による説得によって母は俺たちを許し、一度は帰ってきた。

「アレは正直、無かったと思うんだ」
「妹よ、俺はあの時止めたぞ」

けれど、何一つとして包み隠さないようになった俺たちの部屋へ母が掃除しに入ってしまった。



俺たちの部屋に広がっていたのは、様々なエロビデオと同人誌。



母は俺たちを認めてくれたが、これ以上一緒に暮らしているとショックで倒れそうだ、と父の元へ飛んで行った。
月に一度は会いに行って親孝行しているので、母は穏やかに笑ってくれている。
孫が見れないのは悲しいが子どもたちが幸せな方が良いと言ってくれた。
幸い、裕福な我が家。
それでも罪悪感ゆえに趣味に使う金はアルバイトして稼ぐようにしている。
そうしてガムシャラに働いて遊び呆けた結果。

「…まさか、エロビデオが増えすぎてこうやって妹と共同で片付けをすることになるとは…」
「何を今更」

この妹には少しは自分の変態癖を隠せと言いたくなる。
自分も人のことは言えないが、俺は男だ。
しかし妹は女だ。
レズビアンがどういうものかはわからないが、せめて清楚にはしていて欲しいと思う。

「あ、兄ちゃん。そういえば今日は午後から友達が家に来るから」
「…なんだと?」

聞いてないぞ。
っていうかこの状態で人を呼べると思ってるのかこのド変態。

「大丈夫だよ、学校でも変態って言われてるから」

それはどうなんだ妹よ。

「まぁそれは冗談として二階にあげなかったら大丈夫でしょ?
 一階にはたまに母さんと父さんが帰ってきたときのために綺麗なんだし」
「それはそうだけど。そもそも珍しいな、友人を呼ぶなんて」

俺たちの家は学校に行くには少し不便で、電車に乗るよりはチャリで全力で走ったほうが速い。
けれど歩いて行くにはかなりかかる。
俺の大学と妹の高校は校舎は違えど、エスカレータ式学校でとても近い。
だから妹の友人も俺の友人もあまり家に来ることはない。

「委員長がさ、ケーキ作ったって」
「…なんだと?」

なんだそのフラグ。

「余ったから食ってほしいって」
「待て、なぜわざわざそれが交通に不便な我が家なんだ」

ざわ…ざわ…。
み、認めないぞそんなフラグ…っ!

「あぁ、たぶん最近あたしがちょっとお世話してるからでしょうよ」
「お世話?」
「そう。学校のパソコンでね…」

女の子というのは理系が少なく、パソコンの深いところまで扱える人なんて少ない。
ところがうちの妹は俺のせいか自らパソコンでエロサイトを巡っているせいかパソコンに強い。
クラスの委員長が学校のホームページでエラーが出て困っていたところを助けたという。


「いつの間に…そんな…フラグを…!!!」


好きになった女の子には彼氏が居たり、良いなと思う女の子は全部ノンケでしたというダメスキルがある俺の妹。
そのはずの妹に…良い人が…!?

「いや、フラグっつーかたぶん今回もどーせノンケだし」

そう、恋に破れ恋に愛想を尽かした妹はこんなダメ人間になっていた。
枯れてるにもほどがあるよお前さん。

「お前ね、もう少し夢を持ちなさいよ」
「いいんだ、あたしにはエルたんが居る」

エルたんというのは「ラブ×2ゲッチュウ-ミラクルハート♪-」というエロゲのヒロインだ(略してラブゲ)
最近の妹は現実に愛想を尽かし、二次元に逃げ込んでいた。

「気持ちはわからんでもないが…」
「あぁ〜エルたんかわいいなぁ」

パソコンのデスクトップにはぁはぁと息を荒くする妹。
もうこいつダメかもしんね。


ピンポン


妹にチョップでもくれてやろうかと構えていると、玄関から控え目なチャイムの音がした。

「はいはいよーっと」
「兄ちゃんは別に立たなくていいんじゃ…」
「休日にケーキなんか作っちゃう可愛い委員長見てみたいじゃないか」
「黙れゲイ」
「うっせぇ百合っ子」

ガチャリと扉を開くと、可愛らしいツインテールが覗く。



「こんにちはー」



白系の清楚な服と人懐っこい笑顔。

「いらっしゃい」

あぁ、こんな妹なら良かったのに。
心の声が伝わったのか実の妹に足を踏まれた。

「まぁ汚い部屋だけど、どうぞ上がって」
「うん。おじゃまします」

おぉ…まれに見ない妹の愛想笑い…。
彼女は妹に相槌を打つと、くるりとこちらに向き直った。

「えっと…お兄さん、ですよね?」
「あぁはい、そうですけど…」

こちらがまごまごとしていると、きゅっと手を取られキラキラと笑いかけられた。

「同じクラスの目片比奈子です」
「ぉ、あおぅ…!」

眩しい!目が当てられる…!


パコン


「挨拶をしろ、バカ兄貴…っ!」
「ずびばぜん…桃松夏雄でず…」

あまりの眩しさに目を逸らしかけたら妹から全力で殴られた。

「いやー、ごめんねー。兄ちゃん可愛い子に目がなくてさー」
「えっ、そ、そんな…」

違うぞ妹。
兄ちゃんは可愛い男の子に目がないんだぞ。

「まぁあがってよー。今お茶入れるからさ」
「うん」

きちんと揃えられた靴にも清楚さを感じる。
こんな可愛らしい子、うちの妹が狙わないはずがない!

「お兄さんも、ケーキ一緒に食べませんか?
 手作りなのでお口に合わないかもしれませんが…」



こんないじらしい子、うちの妹が狙わないはずがない!



パコン



「兄ちゃん、心の中で何か叫びながらガッツポーズをするのやめてくんないかな」
「ごめんごめん」
「お兄さんに暴力振るっちゃダメだよ、まっつー」

そうだそうだ!
っていうかまっつーなんて呼ばれ方してんのかよ!

「…うー、兄ちゃん。部屋で食ってきてもよろしくってよ?」
「なんだその中途半端なおしとやかさ」
「えーい、可愛い妹の言うことが聞けないのか!」
「それが可愛い妹の言う台詞か!」

しょうがないので美味しそうなパウンドケーキを一切れもって部屋へあがる。

「お前のエロ本全部一階に運んでやる!」
「やめんかい」

妹の恋路を応援するのも兄の役目である。
俺は二階へあがるフリをしてこっそりと階段に腰をおろして聞き耳を立てた。
ちなみにしっかり二階まで足音を立ててのぼり、そのあとゆっくりと足音を消して階段の下まで降りたのだ。
完璧である。

「じゃあまあいただきます」
「はい、どうぞ」

妹が入れた紅茶にゆっくりと口をつける目片さんと、パウンドケーキにパクつく妹。
穏やかに流れる時間。
う〜ん、いいねぇ。青春じゃないか。

「お〜、おいしい。
 さっすが委員長!」
「ありがと」

頬を染めて賛辞を受ける目片さん。うん、やはり可愛い。

「けどなんか悪いね。せっかくの休日にこんな不便なところに来させちゃって」
「ううん、たまたま近くに行く用事があったから」
「へ〜」

いや、突っ込めよ。
この辺コンビニと公園ぐらいしかないだろ。

…いや、待てよ?

今のに突っ込まなかったあたり、妹の頭は今いっぱいいっぱいなんじゃないか?
これはもしかしてもしかすると甘いラブロマンスの始まりなのかぁああ〜〜〜〜!!!?



「あー、うまー」



いや、違う。
こいつの頭の中は「美味しい」という感情でいっぱいのようだ。
最悪な妹だぜ…。

「二人暮らしでどっちも家事はそんなに得意じゃないって言ってたけど、結構片付いてるんだね」
「そうでもないよ。二階は修羅場」


ある意味な!


「ふーん…手伝おうか?」
「謹んで遠慮するわ」

おう、やめてください。
君のような清楚な女の子に見せられる代物ではない。

「えっと…」

おぉう、目片さんが会話に困ってんじゃねーか。
ちゃんと会話続けてやれよこのやさぐれ狸。

「あー、そういえば今日は鈴城ちゃんは?」
「みどりは今日はお母さんと買い物だって嬉しそうに話してたよ」

お、新しい人間の名前が出たよ。
三角関係か?
…まぁそんなことはないだろうけど。

「なんで鈴城ちゃんはあたしのこと邪険にすんだろねー」
「それはまっつーが結構きわどい発言ばっかしてるからじゃないかな」
「えー。あたしはただ欲望に忠実に脱げー!とか触らせろー!とか言ってるだけなんだけどなー」

それはきわどいぞ妹よ。
変態というよりは逮捕レベルじゃねえか。

「みどりってあんまりスキンシップとかしたことないから」
「へー、それでスキンシップ祭のあたしが苦手、と」

スキンシップ祭ってなんじゃい、混ぜろ。
いや、止めろ。

「…あれ、でも委員長はあたしのことを邪険にしない、と、いうことはつまりスキンシップOK?」

生唾を飲むな。

「えぇ!?あ、え、そ、そういうわけじゃ…」

顔を真っ赤にして慌てて手をぶんぶん振る目片さん。
…ふっ、フラレたな妹よ。

「冗談だよ」
「え?」

…こころなしか目片さんの反応が残念そうに見えるのは気のせいか。
気のせいに違いない。妹だけ幸せにしてたまるものか。

「けどまぁ、それがわかったなら今度から鈴城ちゃんにスキンシップとりまくってやろー♪
 あたし色に染めてやるんだ〜」

やめておけ、性犯罪者。

「え、それはそれで困るんだけど…」
「あー、鈴城ちゃんの怒りが委員長にいっちゃうもんねー」
「うーん、そういうわけでもないんだけど…」

む?
なんか、煮え切らない態度だな。

「あ、そ、そうだ!次の休みは、シュークリームを作る予定なんだけど、その、余ったら持ってきてもいいかな!?」

なんて良い子だ…。
お菓子なんて作らずひたすらおでんやらもやし炒めを作り続ける妹とは大違いだ…。

「そりゃ嬉しいけど、なんか申し訳ないしいいよ」

はっきり断ったよこいつ!

「ううん、私ってお菓子作ってもあまり食べてくれる人いないから誰かに食べてほしいんだ。
 …ダメかな?」

あー、これは落ちたな。
ニヤニヤと妹の反応を見る。



「え?鈴城ちゃんは?幼馴染だし家近くなはずだし。
 それに確か甘いモン好きだったよね」



このKY!!!!



「それは、そうなんだけど…」

目に見えてしょんぼりする目片さん。
あぁ、これは見ていられん。





「俺が!食べたいです!」





パコーン

幻の右が俺の左頬にクリーンヒットしたぁああ!


「兄妹条約第五条!人様に迷惑をかけちゃいけません!」
「黙れKY!!」
「なんだとこのホモ!」
「うるさいわこのレズビアンがぁ!!」
「大体いつから盗み聞きしてた人でなし!」




「あの、二人とも、何の話を…?」




空気がピシリと固まったのを俺は生まれて二度目くらいにこの体で体感した。
目の前で俺の胸倉を掴んでる妹がまるで石のようだぜ…。
たぶん家での喧嘩ということで気が緩んだんだろうな…。
さよなら、妹のピースフルライフ…(俺は関係無いしたぶん大丈夫)


「…ホモ?…レズ…?」


ピクリ

石のように固まっていた妹が反応した。
それからあー、とかうー、とか唸って、うんと気合いを入れなおした。

「ケーキ、おいしかった」

その顔はとてもおいしかったというような顔ではなくて、いつもキョロリとしている目は険しくなっていた。

「送るわ」

トツトツと速足で玄関へ向かう妹。
目片さんは困ったように後を追いかけて行った。







「やっちまったぁ…」

これは妹が帰ってきたら第●回子ども大戦の始まりだな。
といっても一方的に降伏するしかなさそうだ。
けれど俺は間違ってないと思う。
妹の遠慮は明らかにやりすぎだったし(「はいはいありがとー」ぐらいにしておけばよかったのだ)
目片さんの態度を見れば助けるのは当たり前だったと思う。

きっと良い娘さんだから、パソコンか何かで助けてもらった恩を返したかったんだろう。
それぐらい受け取ってやりゃあ良かったのに。

恋に臆病になった妹はたまにああやって知らずに他人を傷つける。
一人、うちの妹のことが大好きな俺の部活仲間がいる。
あいつも妹のために我が家に来て家事とかいろいろしてたが妹が悪いからといって断った。
それ以来そいつは我が家には来ていない。

「どうにかならんかねぇ、あいつのああいう女の子好きなくせに女の子を遠ざけるとこ」

兄としては心配なのだ。
人間的にも社会的にも出来の悪い妹だが、血の繋がった可愛い妹だ。
それも、同性愛という社会から作られた壁を共有する可哀想な妹。
目片さんはダメだったかもしれないが、新しい恋があったら今度こそちゃんと協力してやりたい。

…とりあえず、他人の前で喧嘩するのを止めるぐらいはしてやりたいもんだ。

back to UCHIDAMEmenu
back to top
designed by inertia