次の相手はブラスバンド部。
全国大会に出るような強豪だ。
ぶっちゃけ関係無いから超面倒。
「争う相手の弱みを全部握って掌握するのもなぁ」
「そうなったら復讐劇じゃなくてただの学校征服じゃない?」
「どうでもいいなぁ」
でも負けると意味が無いし、せめて相田優の居るバスケ部と寛子の居るテニス部までは勝たないと。
「でもブラスバンド部っていうと面白そうだけど?」
「あぁ、もしかしてあの“聖母様”?」
ブラスバンド部には今年部長になった2年生の“聖母様”と呼ばれる女の子がいる。
純粋培養のお嬢様でおっとりした空気を身にまとっている。
それゆえに少し男らしい女の子や、陶酔した女の子に好かれている。
でもねぇ、聖母様かぁ。
「そういうのを汚して喜ぶタイプじゃないし、めんどい」
「まぁあすちゃんやトマ子とは正反対な感じだもんねぇ」
なんでも家事とかも全般無難にこなすらしい。
オールマイティーってことかぁ。
「トマ子が演劇部として使えたら楽だけど、そうすると軽音楽部に角が立つからなぁ」
「そうだね。今回も前回と同じくあすちゃんをどうにかするしかないね」
いや、バンちゃんが出てくれると一番楽なんですけど……。
一番最後の運勝負にしか出ないと言って聞いてくれない。
まったく、金返せ。
「……あの、あんまり関係ない人は巻き込まないほうがいいんじゃないかな?」
あ、明日香。
「その、いらない恨みまで買っちゃうよ……」
なんだ、明日香ってばその恨みを持った一人のくせに心配してくれてるんだ?
「随分お優しいこって」
「え?あ、だってそういう恨むとかあまり好きじゃないし……」
だろうねぇ。
とても優しいタイプの娘だもの。
まぁ、だからこそつけ入り易かったのだけど。
「トマ子は?」
「……トマちゃんは今日は軽音楽部だよ」
呼んだら来るとは思うけど。
極力来たくないんだろう。
私としてもギャンギャン騒がれるのは面倒だしこれで丁度いい。
「さて、勉強タイムだ」
「え?また!?」
個人的には明日香も来なくていいと言いたいところだけれど、一人じゃこいつは勉強しないから困る。
いや、しているのかもしれないが覚えられないというか要領が悪いというか。
明日香を引き寄せて今度出る予定の問題を見せる。
今日は小道具も用意してきた。
さっそく明日香のスカートを捲りあげる。
「い、いきなり何?」
スカートを自分で持つように指示して自分はパンツをずらしてそこを舐めた。
「ひぁん、あぁ、やっ」
すっかり慣れた明日香の体はすぐに溢れてビショビショになった。
そこに用意しておいた小道具を滑り込ませる。
「んっ、な、何?」
「気にしない。さ、勉強開始」
「へ?」
パンツを元に戻し、机に向かわせる。
昨日の夜でどれだけ覚えただろうか。
テストの結果は残念ながら期待していたもの以上ではなかった。
潜ませていたリモコンのスイッチを入れると、電気を通したかのように明日香の体が跳ねた。
「ぅあぁっ、なにこれぇ!」
「リモコン付き紐無しローター」
「ひぅっ、やっ、とめてぇ」
甘い声出し始めて何言ってるんだか。
でもこれじゃあ勉強にならないので止める。
「はぁっ、はぁっ」
「はい、もう一回」
「そんなぁ……」
明日香はテストが終わるたびに体をビクつかせる破目になった。
数時間経ったころ、控え目にノックの音がした。
一応中から防音シートを張ったから外に声は漏れてないはずだけど……。
念のためバンちゃんには開けさせず自分で開けた。
「う……」
「なんだ、トマ子か」
「な、なんだって何よ。それにっ、変なあだ名で呼ぶな!」
トマ子は私を見て一瞬たじろいだが、ずかずかと中に入ってきた。
念のため鍵をかけておく。
「明日香、大丈夫?」
「トマちゃん……」
「明日香のことを助けに来たって感じ?」
茶化してそう言うと、トマ子はきっとこっちを睨みつけた。
「そういうことができないように写真を撮ったくせに」
逆らうというつもりではないようだ。
精一杯の反抗、ぐらいのものかな。
つまりは明日香が心配で見に来たらしい。
「丁度いいや。トマ子が見てやってよ」
「は?」
「明日香に勉強教えるのは正直辛い」
そう言うと、トマ子は納得したようで「あぁー…」と呟いた。
トマ子にぽいとリモコンを投げ渡す。
「なにこれ?」
「お仕置き用」
本当に何かわからなかったらしく、何のためらいもなくカチリとボタンを押した。
「ひぅぐっ」
明日香も急にくると思わなかったらしく、油断しきった声で呻いた。
その反応を見てトマ子は何か察したらしい。
顔が真っ赤だ。
「ちょっ、これっ、な、なんてもんを使ってるのよ!!」
「リモコン付き紐無しローター」
「い、言わなくてもいいわよ!」
慌ててスイッチを切ると、明日香はほぅと息を吐いた。
トマ子も悪いと思ったのか明日香にごめんねと謝っている。
「失敗したらそれでおしおき」
「……私はそんなことしないから」
トマ子は溜息を吐くと、机に向き直った。
そして今度はブリキのような動きでこちらを振り返った。
「これ、もしかして……」
「次のテスト問題」
バンちゃんを見ると無言でピースしていた。
トマ子は顔を赤くしてブルブルと体を震わせた。
言わずもがな、トマ子のこの赤さは怒りからきたものだ。
「こ、こんなのズルいじゃない!!」
そうかなぁ。
明日香の頭のことを考えると丁度いいと思うけど。
なんせどんな問題が出るかわかっているのに明日香は解けないことが多々あるのだから。
「なによ、うちの部は最初から負け確定だったってこと!?」
「うん」
これだけ用意周到で負けるとかなり辛い。
恥ずかしいを越えて落ちこめる。
つまり私たちは勝たなきゃいけなかったのだ。
トマ子はガックリと肩を落とすと明日香に勉強を教え始めた。
「なんでこんなもんがあるのよ……」
「なんでって言われても、これぐらいは余裕で手に入るもんですから」
カラリと笑うバンちゃん。
まぁ、私も常々疑問には思っているけど。
職員室の鍵を常時持っていたとしてもなかなかできないことだろう。
さて、私たちは私たちで対策をたてないと。
「勝つためだけに弱みを握ってもいいんじゃない?」
「それもいいけど……」
「でも一つ問題があるんだよねぇ」
なんだろ。
「この聖母様。決定的な弱みが見つからないんだよ」
あらら、バンちゃんで見つからないなら本当に無いんじゃない?
あるとしても本当に些細な虫が苦手とかくだらないものばかりらしい。
「聖母様は無視で他の2回で確実にいくしかないかな」
「聖母様が出るのは体力勝負だよ。ジョウがガチで負けることはないと思うけど」
「明日香みたいに無理やり弱みを作ってもいいかも」
「あすちゃんみたいに簡単に揺らぐような人じゃないと思うよ」
「なんかヒドイこと言われてる……」
うーん。さすが聖母様。
手堅い。
ぐっと体を逸らして、ふと体操服を忘れたことに気付く。
「ちょっと教室まで行ってくるわ」
「いってら〜」
バンちゃんに送りだされて部室を出る。
ふと思いついて4階まで階段を上ってみた。
その奥にはブラスバンド部の部室がある。
そこに見たことのある人物がいた。
「……やぁ。君はたしか、寛子の友達の……」
「城之内茸。こんにちは、相田さん」
人の良さそうな顔をして挨拶をする。
こんなところでこんなヤツに会うとは。
相田優。なんでこんなところにいるんだ?
「どうしたの、こんなところで」
「君こそ……」
「あ、相田先輩」
ブラスバンド部のドアがガラリと開いて活発そうな女の子が顔を出す。
「こんにちは、由佳ちゃん」
「今日も聖母様目当てですか〜?」
「いやいや、君にも会いにきたんだよ」
「やだ相田先輩ったらもー!」
嘘こけ。
でもこれでコイツの目的が聖母様とわかった。
……聖母様も無関係ではなくなったな。
心が少しざわめいてきたのを必死に押し隠す。
次の予算争いが楽しみだ。
「でも残念ながら聖母様、染田先輩は今日はまだ来てないんですよ」
おや。
「もし見かけたら私が探していたって言っておいてください」
そう言うと、由佳ちゃんと呼ばれた後輩は戻って行った。
相田はガシガシと頭の後ろを掻くと、気まずそうに笑った。
「あ、君の用事はいいの?」
「敵地偵察でもしようかなと思っていただけなので」
そう言うと、相田は爽やかに笑った。
「あぁ、部活動始めたんだっけ!頑張ってね!」
言われなくても。
あんたの好きな聖母様を目茶苦茶にしてやるよ。
無理やり作った笑顔で適当なことを言って切り上げると、2年校舎へ向かった。
2年校舎にはまったくと言っていいほど人がいなかった。
部活動に励む人はみんな出ているし、帰宅部なんてとっくに下校している。
そこにポツンと人影が見えた。
ビンゴか?
そっと覗きこむと、自分と同じくらいの身長の女の子が佇んでいた。
特別に“聖母様”って感じはしないけど。
「……ふぅ」
溜息を吐いている。
良い顔して近寄って悩みを聞いてみるか?
いや、でもくだらない内容だったら時間の無駄だ。
このままもう少し観察していよう。
確かに綺麗な顔をしているが、体系は少しふくよかで胸も大きく扇情的だ。
そのバランスは“聖母様”と言ってもまぁ差し支えないな。
「……さん……」
彼女は少しだけ机を撫でると、置いてあった体操服に手を伸ばした。
……誰の体操服だろう。
私のではないことは確かだが、これは良いネタじゃないか?
すかさず携帯をズームにして待ち構える。
そしておもむろに体操服に顔を埋めた。
なるほど、自分が今彼女を“聖母様”のようだと感じなかったのは至極当然だ。
みんなの聖母様も、なんてことはないただの恋する少女だったのだから。
かといえど、あの体操服が相田の物だなんてことはないよね?
だったらすごくイラッとするんだけど……。
撮った写真を確認して保護をかける。
もう少し近くで見たいなと思っていたときに、ポンと肩に手を置かれて心底ビビッた。
「何してんの、ジョウ」
「なんだ、バンちゃんか」
ビックリさせないでよ。
そう少し睨むと、バンちゃんは「あぁ」と呟いた。
「あれが聖母様だよ」
どうやら彼女は既に体操服から手を離していたようだ。
別の場所からぼんやりと窓の外を見ていた。
バンちゃんは彼女の変質的行為に気付かなかったらしい。
「あたしも体操服忘れてさ。もう観察いい?」
「あぁ、うん」
どうやらバンちゃんと聖母様は同じクラスのようだ。
バンちゃんがガラリとドアを開けると、聖母様はビクリと体を震わせた後にこやかに挨拶をした。
「こんにちは、足尾さん」
「やっほー、染田さん」
バンちゃんは挨拶もそこそこにある机に向かっていった。
その机はなんと先ほど聖母様が傍に立っていた机だ。
そしてまさに聖母様のオカズとなっていた体操服を手にとった。
「それじゃ」
「あ……、うん、また明日」
なるほど。
バンちゃんは気付かないはずだ。
このバンちゃんがそれほどクラスメイトと会話するはずもない。
会話も無しに自分への好意に気付くなんてなかなかできないことだ。
戻ってきたバンちゃんにニーッコリと笑いかけた。
「うわ、なに、その顔」
「バンちゃん、さすが!」
今日ばっかりはバンちゃんの幼馴染であったことに感謝せねばなるまい。