Lily memo %



4 幼馴染の絆とは(戸的明美編)


黙って明日香の背を押す。

「え!?」

『演劇部先鋒は、片山明日香!演劇一筋!小さな体で孤独に頑張ってきた小さな天使!
 成績は下の中!なぜ頭脳戦に彼女なのか!軽音楽部に早くもボーナスステージだー!』

あ、バンちゃんってば。
放送部にも情報を売ってるな?
私に影響の出るような情報は売ってないと思うけど、少し面白くないですよっと。

「ボーナスステージだなんて……ひどい……」

おいおい、それぐらいで落ち込むなよ。
あんたの頭の評価なんて私からしたら下の下だぞ。

「明日香……」
「うぅ……トマちゃん……」

振り向いた明日香の目に携帯をチラつかせる。
顔を青くした明日香は俯いた。
絶望した顔を幼馴染に見られたくないんだろう。

『対する軽音楽部は、PeeKaのキーボード、木田深香!冷静だが先輩想いの熱いヤツ!
 成績は上の中!これは軽音楽部、第一回戦は圧勝だー!!』

いや、やる前から圧勝って言うなよ。
少しはゆとり教育の片鱗を見せて優しく言えばいいのに。

『今日の題材はこれだー!!』

出された議題は国語。
一応学校行事というだけあって、最初の頭脳対決には普通の問題を出してくる。
有名中学校の入試で出されるような難関問題から、小学校の教科書の隅にあった問題まで、様々だ。
範囲は何年生が参加しても不利にならないように中学校までの範囲とされている。
簡単なように見えて難しいのが現実である。



まぁ、真っ向勝負をすればの話だけど。



『おぉっと、片山明日香!悩みつつも着実に問題を解いている!
 成績は悪いが意外と賢いのか!?本番に強いタイプなのかぁー!?』

いや、バカだよそいつは。
バンちゃんが事前に手に入れてきたテストの問題を解いてやって覚え込ませただけなんだから。
実は覚えさせるだけでも結構な苦労だったのだが。
ちなみに悩んでいるのは一生懸命思い出そうとしているからである。

「……はぁ」

息を吐くな息を。
そして若干赤くなりつつもじもじするな。
……やっぱりお仕置きと称してイロイロしたのは間違いだったかなー。
でもああやって怯えさせて必死にさせないと全然覚えられそうもなかったし……。

『さぁ!時間切れです!結果は……なんと!片山明日香の辛勝だぁああー!!』

事前に答えを教えておいてやったのに、辛勝?
私の機嫌の悪さが伝わったのか、明日香はビクリと肩を震わせた。
おっと、いけない。
テレビの前でボロを出すわけにはいかない。

「先輩、すいません……」
「一番賢い深香で勝てなかったら誰も勝てなかったんだわ。気を落とさないで」

怒りに震えながらも、頑張った後輩には優しく、か。
できた先輩だねぇ。

『さて、二回戦!!グラウンドで行われる種目は、これだ!』

これも知ってる。
サッカーのPKだ。
取って、蹴って。この攻防戦。

『さきほどの後輩の敵討ちとなるか!?軽音楽部はみなさん御存じ!才色兼備、文武両道!
 振られた男は数知れず、軽音楽部のアイドル、戸的明美ー!!!』

「きゃー!トマ先輩ー!」
「かっこいいー!でも可愛いー!」
「付き合ってくれー!」

アナウンスだけで黄色い声。
学校の外から野太い声も聞こえる。
アイドルコンサートかよ。

『対する演劇部は、最近入部したキングオブ平均!城之内茸!名前の可愛らしさとは裏腹に、人不足の演劇部の救世主となれるのか!?』

名前に触れるなよ。
これでも茸って気にしてるんだから。

「……大した余裕ね」
「そう?これでもいっぱいいっぱいなんだけど。なんたってキングオブ平均だし」
「そうね」

ビシビシと伝わる悪意。
悪くないな。
明日香とは違う鋭くもまっすぐな憎しみ。
本当に、悪くない。

「私が勝ったら、明日香を解放して」
「やだ」

戸的明美は目を見開いた。

「あんたには関係ないでしょうよ」
「……あるわよっ!私はあの子の幼馴染なのよ!!」

あの子、ね。
明日香を弱い”モノ”扱いしているのは一体どっちやら。
確かに、寛子の親友というだけあって可愛らしいのは見た目だけだな。
遠慮なく食い潰せそう。

「大体、声を聞いただけなんでしょ?」
「……っ、そうよっ、あんなっ、あの子のあんな声っ」
「もしかしたら同意の上だったかもよ?」
「そんなわけないでしょ!あの子はね、優のことが好きなんだから!」




…相田、優。




「それは良いこと聞いたな」
「……は?」

そうか、そうだったのか。
まさか明日香もアイツに繋がっているとは思わなかったよ。
と、いってもアイツが明日香を気にしているとは思えないな。
たぶん明日香の片思いなんだろう。
それにしてもあんな男かもわからない女に惚れるなんて、さすが明日香。
ヅカよりのミーハーでもあったとは。

「大体っ、あんた寛子の恋人でしょ……!」

一応、ね。

「こんな……寛子を騙すようなこと……」
「先に騙したのはあっちですけど」

冷たい目で見下すと、意外とこの強気な女が小さいことに気付いた。
私の声にハッとして一瞬目を揺るがした。

「……なんのこと」

知ってたな。
私はドス黒い感情が立ち上ってくるのを感じ、ニッと口端を上げた。

『さぁ!PK戦スタートです!先行は1点先取している演劇部!』

アナウンスにハッとして、戸的明美はゴール前で急いで走って行った。
最初はブロックされる。
なるほど、確かに運動神経は良いみたいだ。
すれ違い様に、戸的の手に一つの写真を手渡す。

「何?」

答えずにゴール前に向かう。
口元がニヤけるのが止まらない。
戸的のボールは強く綺麗に飛んできたが、それゆえに受け止めやすかった。
あからさまに動揺した顔でこちらへ歩いてくる。

「なに、これ。どうしてこんな写真が……」

その写真に写っているのは、



SMバーから出てくる戸的明美の写真。



これだけ見れば一体どれだけの人がどんな誤解をするだろうか。
理由は知っているし大体想像もつく。
校則のバイト禁止というのは退学とまではいかないが、バイト先次第ではひどい結果が待っているだろう。
無言でボールを蹴る。
動きはまだ良かったが、残念ながら私の動きのキレの方が良かった。

『ゴール!!さぁ、次に戸的明美のシュートが決まらなければ、この対決は演劇部の勝利に終わります!』

脅えるように縮こまる彼女に、既にアイドルの面影はない。

「シュート、できる?」
「……」

挑発するように声を出すと、目だけで睨んできた。
その顔は青く、最初に噛みついてきたような元気はない。
のろのろと足を振り上げる。


あぁ、終わったな。


ボールはころころと転がり、私の足に当たった。
私はそのボールを軽々と拾い上げる。

『な、なんと!!演劇部の勝利だー!!』

アナウンスは演劇部がこのトーナメントのダークホースとなるかなどと叫んでいる。
軽音楽部は戸的明美に駆けより、どうしたのかと大丈夫かなどと声をかけている。
もちろん彼女にそれに答える余裕はない。
青い顔でごめんなさいをひたすら繰り返していた。

「トマちゃん……」
「明日香、帰るよ」

幼馴染を気にする明日香を無理やり引っ張り、演劇部に帰る。
さぁ、どうする気かな。
もう一度だけ振り返って戸的明美を見ると、私は口角を上げて笑いたくなる気持ちを抑えてまた前を向いた。














部室に戻ると、バンちゃんがポテチを食べながらソファに寝そべっていた。
だからなぜバンちゃんが一番寛いでいるの。

「おっかえり〜。わたくし、お役に立ちましたん?」
「ほぼバンちゃんのお手柄」
「でっしょー♪」

1回戦も2回戦もバンちゃんの情報勝ちだ。
2回戦はあんな情報無くても勝つことはできたけど、それじゃあ戸的明美をボロボロにはできない。
精神的にへこませたいから、あれでいい。

「トマちゃん、大丈夫かな……」
「他人の心配ができるなんて、随分余裕だね」

明日香の肩をぐっと掴んでもう一つあるソファに体を転がした。

「いたっ」
「辛勝ってなんだ辛勝って」
「が、がんばったのに……」

頑張ってあれか。
どれだけ鈍臭いのか。
黙って明日香のスカートに手を伸ばす。
慌ててスカートを抑え、抵抗を見せる明日香。

「なっ、なんで!?勝ったのに!」

口ではそう言いつつもいつもより抵抗が緩い。
その証拠とでも言わんばかりに、パンツのクロッチ部分が濡れていた。

「……ぅ……」

今度は真っ赤になって、黙る。
やっぱり、お仕置きと称してやり過ぎたらしい。

「随分と準備がいいじゃない」
「違っ、これはっ、んっ」

何が違うんだか。
少し指を動かすと、気持ち良さそうに声を漏らした。
指にはぬるりと液体が絡みついてくる。
それからしばらく入口付近で指を遊ばせた。

「あっ、うぅ……」

もっとしっかり触ってほしいのか、腰が動きだす。
やっぱり、とんだ淫乱。
明日香は耐えられなくなったかのように体にしがみついてきた。
背中にまわされた腕を見て、やはり口元が緩んでくる。

「何?」
「え?」

無意識だったようで、自分のとった行動に気付くと興奮していた顔を青ざめさせた。

「これは、ち、違うの」
「何が違うっていうの?」

答えられない。
昨日までならそこで勘弁してやった。
でも今日は違う。
彼女が誰が好きなのかを知ったのだから。
無関係では、済まさない。


こいつも完全に貶としてやる!


ガラリとドアが開く音がする。
鍵はかかっていたから、開く人がいるとすればそれは内側に居た人間だけ。

「バンちゃん?」

扉を開いたバンちゃんはニヤリとしている。

「都合の良いお客様が来たみたいだったから」

扉の向こうにはたった今まで快感に悶えていた明日香の幼馴染が居た。
顔は俯いていて、どんな表情かはわからない。

「と、トマちゃん!?」
「いらっしゃい」

来るとは思っていたけど。
明日香に被さった体をそのままに目線だけ向ける。
悪あがきとして明日香がめくれていたスカートだけを戻そうとしていた。

「……え……て……」

小さく震える声で何か聞こえる。
聞こえないよと告げると、意思を持ったはっきりした目で睨まれた。



「写真のデータを返して!!」



返してって、別にあんたのもんじゃないだろうに。
乗りこんできて最初にそのセリフ。
彼女は幼馴染より自分の保身がまず大切だったようだ。

「脅そうったってそうはいかないんだから……!」

手にはカッターを持っている。
確かに危ない。
それでも私もバンちゃんも平然としている。
そんなことしたって弱みを増やすだけなのに、な。

「軽音楽はお金がかかる」

私の言葉にピクリともせず、まだ睨んでいる。
混乱して「トマちゃん落ち着いて」と真っ青になっている明日香はもちろん放置だ。

「バイトでもSMバーで働けば、まぁコンビニと同じだけ働いても二倍近い賃金だろうね」

バンちゃんが、うんうんと頷いている。
ついでに鍵も閉めたようだ。

「別にSMが好きとかでもなく、真っ当な理由だと思うけど?」
「だったら写真なんて撮らないでよ!!」

それはバンちゃんに言ってよね。
情報を掴んで実際に写真を撮りに行ったのはバンちゃんなんだから。
まぁその情報を利用したのは私だけれど。
ゆっくりと体を起こして、明美に向き合う。

「来ないで!来たら刺すわよ!」
「出来るなら、どうぞ?」
「な、なによっ。私は本気よ!」

カッターを持った手は震えている。
暴力的そうな子だが、刃物を人に突き付けるのは初めてなんだろう。
バカだな、弱さが丸見えだ。
刺しやすいようにゆっくり近寄る。



「いやっ!来ないでぇ!」



切りつけようと振り上げた手をそのまま勢いで壁に押し付ける。
ドアに当たってガシャンと音がしたが、問題はない。
落ちた刃物は転がってバンちゃんの足元へ。

「危ないから、これは没収ね」

バンちゃん、気が抜けるから喋んないで。
目線だけで睨むと、ポーズだけでごめんと言って大人しく端っこのソファに寝転がった。

「……なによ、私にどうしろって言うのよぉ……」

うわ、泣きだした。
こいつら揃って面倒くさいな本当に。

「わ、私にっ、何の恨みがあるって言うのよ……!」
「直接的にはないけど」
「じゃあどうしてこんなこと……っ!」

どうしてこんなことって。
そんないうほど悲観する内容だろうか。
ただ弱みを握られただけでまだ何もされていない。
明日香に比べればまだマシな状況だと思うけど。

「寛子と相田優のこと、知ってたみたいだね」

そう言うと、彼女はハッと顔を上げた。
それから気まずそうに目線を逸らした。

「……知ってた、けど。私には関係ないでしょう」

悪いけど、もう決めたことだし。
あんたにも堕ちてもらうよ。
首筋に齧り付いてギリと跡を付けた。

「いっ、な、何する気!?」
「SM嬢にドMの気分を味わってもらおうと思って」

そう言うと、押さえられていたことを思い出したのか、じたばたと暴れ出した。

「いやっ、は、離して!」

暴れる体を押さえつけて強引に服を脱がしていく。

「助けてっ、明日香ぁっ」
「……トマ、ちゃん……」

明日香は助けたいと思ったのか手を伸ばした。
私はあらかじめ用意しておいたスクリーンのリモコンのボタンを押した。
映し出されたのは今までの明日香の痴態だった。
イかされた後でだらしなく涎を垂らしながらぐったりとしている誰が見ても事後とわかるような写真だった。

「やっ……!」
「そうだね、明日香。条件付きでなら助けないこともないよ」

リモコンのボタンを押して、画面を切り替える。
今度映し出されたのは、さっきの明美の写真だ。

「明日香のためなら、どちらかを消してあげよう」

交互に写真を映す。

「もちろん、パソコンのデータからなにから、それに関するもの全部」

ごくりと喉を飲む音がする。
自分の痴態か、幼馴染の失態か。

「どうする?」
「わ、私……」

揃いも揃って真っ青だ。

「と、トマちゃんの……トマちゃんの写真を消して」
「わかった」

お人よし。
想定していたことなので、バンちゃんに目配せをして打ち合わせ通りに写真を消してもらう。
スクリーンがパソコン画面に代わり、例の写真をゴミ箱に入れた。

「……明日香……」
「トマちゃん、ごめんね。ありがとう」

明日香は涙で濡れた顔で、明美に笑いかけた。

「あーあ、弱みもなくなっちゃったし、もうあんたに用はないな」

パッと手を離すと、膝が弱っていたのかガクリと崩れた。
何も無かったかのように明日香の方へ向かう。

「う……」
「ま、待って、明日香に手を出さないで!」

無視して明日香の手を掴んで引き寄せる。
ソファの上で中途半端に腰を浮かせていた明日香の体がよろけて私に寄りかかるようになった。
乱暴に服を剥いで胸を鷲掴みにする。

「待ちなさいって言ってるじゃない!」
「わ、私のことはいいから、トマちゃんはもう……」
「そんなことできるわけないでしょ!?」

そう、そんなことできるわけがない。



自分を助けてくれた自分より弱い女の子を置いて逃げるなんて、こいつの良心が許さない。



良い人間だなんて思ってもいないけれど、善を捨てた人間でもないとは思っている。

「どうしておんなじ女の子にこんなひどいことができるのよ!」

そんなの、寛子に聞いてよ。
私はもう性別も何もかも捨てて、”ひどいことをしよう”としているんだ。
無意識に自分を裏切った寛子よりも覚悟がある。
どんな罵声を浴びても受け入れる。
それに、こいつはまだ少し勘違いしているようだ。

「そんなにひどいことかな?」

スカートと一緒にパンツもずり下ろすと、パンツと体を透明な糸が繋いだ。
明美に見せつけるようにしてソファに倒し、足を開かせた。

「……やぁっ、トマちゃん見ないでっ!」
「あ……」

厭らしくテラテラと光るそこから目を離せない。
確かに女というのは無理やりでも濡れ出すものだけれど、触ってもいないのにこれほど溢れるのは”期待”している以外の何物でもない。
まぁ、条件反射ということもあるけど。
対して抵抗もなく指を受け入れるソコに一度深く突き立てた。

「う、んぁああ!!」
「や、やめなさいってば!」

あまりの光景に唖然としていた明美が慌てて私に縋りつく。
挿れた指はそのままに、明美に低く笑いかける。

「可哀想にね。誰かさんのために、彼女は逃げ出すチャンスを一度失ったんだ」

そう言うと、ビクリと体を震わせた。
真っ青。
強気なくせによく青くなる。
つまりこいつの強さはただの虚勢だ。
突いたらすぐ弱る。
明美はぎゅっと手を握りしめると、私を睨みつけた。

「……わ、私が……私が、明日香の身代わりになるから……」

よくある話だ。
友人のために身代わりになるからという台詞も。
彼女たちは知らないんだろう。




そういうお話の最後は必ず、両方助からないということを。

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