Lily memo %



2 被害者と加害者(片山明日香編)



演劇部は軽音楽部の上にあった。
下から聞こえてくる爆音に気圧されているかのように閑散とした空気が漂っている。

「失礼します」

扉を引くと、中には小さな女の子が一人でお菓子を食べていた。

「え、あ、何か御用でしょうか」

なるほど、気弱そうだ。
これでは部員は集まらないだろう。
中の黒々とした感情など一つも見えないように、爽やかに笑って見せる。

「吉沢先生から紹介を受けたんだけど、演劇部ってここで良かった?」
「あ、はい。あなたは……えーっと」
「私は城之内茸。一応、入部希望者になるかな」

そう言うと、一瞬きょとんとした後にわかりやすく舞い上がった。

「ほんと!?え、あ、やだ嬉しいっ」

悪いけど、その笑顔に絆されるわけにはいかない。
彼女は自分の計画には全く関係ないが、手ごまになってもらう。

「私っ、片山明日香!よろしくっ。あ、お菓子食べる?」
「ありがとう」

明日香はニコニコとソファを指差すと、隣に座るように指示してきた。
ふぅん、なかなか快適そうな部屋。

「今更部活って珍しいね」
「そう?」
「もしかして、そんなに演劇が好きなの?」

”好き”だという答えを期待しているのだろう。
目がキラキラとこちらを見上げている。
特に好きでもないけど、まぁ確かに普段”演技”していることを考えてみれば好きだと答えても嘘にはならないだろう。

「うん、結構好きなんだ」
「ほんと!?わぁー、わぁー!」

若干、煩い子のようだ。
認めた瞬間、シェイクスピアだかロミジュリだか喜々として語り始めた。
ぶっちゃけそういったものはほとんど見てないんだけど。

「ごめんね、好きだけど知識は乏しいんだ」
「そうなの?あ、じゃあもし良かったら一緒にDVD見る?」

言われて部屋を見回すと、台本やDVDが豊富にある。

「去年から私しかいなかったから一人じゃ練習もできないし、ここのDVDをずっと見たりしてたんだ。
 大体のものは見たから良かったら説明とかもできるよっ」

ふぅん。
そこまで聞いて心でニヤリと笑う。

コイツは使える!

女子高によくいる気の弱いウブなタイプ。
これなら情報を集めるまでもない。

「じゃあ、これが気になるな」

かろうじて知っていたタイトルのDVDを選び、手渡す。

「おっ、お目が高いね!これはね、割と有名な恋愛映画なんだよ」

知っている。
けれどそれは表面に出さず、驚いてみせる。

「そうなの?」
「うん、外国のヤツでね。ちょっと待ってね」

大き目のスクリーンにブルー画面が表示される。
本当に快適な部屋だ。
ますます欲しいな。
お菓子とコーラをつまみながら見ているうちに映画はだんだんと濡れ場が多くなってくる。

「結構過激な映画だね」
「う、うん」

知っていてあえて指摘すると、明日香はもじもじと足を擦り合わせた。
……恋人が居そうなタイプには見えないけど、自慰の経験でもあるのか?
そうじゃないとその反応はなかなか難しい。
しばらくして顔が赤いまま私の耳に口を寄せてきた。

「……城之内さんは、こういう経験ってある?」

興味はあるって顔だな。

「どうだと思う?」

少しだけ妖艶に笑ってそう返すと、さらに顔を赤くさせた。

「え、あ、それって……」

少し何かを言いかけると、スクリーンと私を見比べる。
恐らく私のそういう場面に重ねて想像してみているんだろう。
しばらくすると、顔をこれ以上ないくらい真っ赤にさせて俯いた。

「興味ある?」

少しだけ声を低くして後ろ手に映画の音を少しだけ下げた。
BGMが小さくなり、喘ぐ声だけが耳に残るようになる。
これ以上すると逃げるなと感じ、一気に押し倒す。

「ひゃっ!?」
「片山さんって可愛いね」

微塵も思っていないが、相手が意識するように褒める。
明日香は小さく胸はあるが、顔は普通だ。
悪くはないが、良くもない。

「あ、あのっ、城之内さんっ!?」
「ジョウって呼んで。友達はみんなそう呼ぶから」
「……ジョウ、こういうのはその、好きな人とするものだし、あの、ね?ちょっと離れて……」

貞操は少し固い?
まぁ、押し切れるな。

「私が、片山さんを好きだって言ったら?」
「え!?あ、え!?」

聞いてるだけで好きだとは言ってないというのに、このうろたえようだ。
今までよっぽど恋愛とは縁がなかったんだろう。

「城之内さんが……私を……。で、でも私たちは初対面で……」
「知っていて近付いたんだったら?」
「へぁ!?」

へぁってなんだよ……。
つくづく色気のない娘だ。

「で、でもっ、演劇好きって……」

ちょっとだけ訝る目線に、すっと体を離す。
顔を少しだけ伏せる。

「……ごめんなさい」

あちらからなら泣いてるように見えるだろう。
実際は無表情だが。

「あなたがいるって知って、少しでもお近づきになりたくて……」

嘘を吐いたの、の部分は言わない。
震わせた声が消えたように、自然に。

「あ、その……」
「やっぱり、こんな嘘吐き、嫌いだよね……」

そう言って立ち上がろうとする。




「あ、待ってっ」




やっぱり、底なしのお人よしっぽいな。




立ち止まる。
後ろは振り返らない。

「あのっ、別に嫌いとかってわけじゃなくてっ、私まだあなたのこと何も知らないから……」

じゃあ、知ってもらおうか。
思い詰めた顔をして明日香に飛びつく。

「じゃあ、知ってもらっていい?」
「え?」

私を抱き止めた反動で浮いていた手を掴み、固定する。
唇で器用にボタンを外していく。

「え、や、嘘っ!?」

肌が外気に触れたことで混乱したんだろう。
顔を青くして少し暴れ出す。

「大人しくしていて、ね?」
「や、でもっ」

面倒だなぁ。
大人しくしてろっての。
その意をこめてベロリと肌を舐める。

「ひゃっ」

首筋は程良く肉がついていて、柔らかく暖かかった。
胸もそこそこあるから触り心地もいい。
少なくとも、寛子よりは良い体をしている。

「片山さん、本当に経験ないの?」

厭らしく笑ってみせると、うっと声を詰まらせる。
それから少しして、抵抗をしていたことも忘れて口を開いた。

「……経験は、ないよ……」

経験”は”ない、ね。
なんともわかりやすい。
これだけ嘘がつけないまっすぐなこの娘を今まで誰も見初めなかったのは女子高ゆえにだろう。
女子高で人気が出るのは大抵、格好良いか可愛いか。
普通の女の子を求めるヤツなんて、かなり本気の恋愛がしたいヤツだろう。

「じゃあ相手をするのは私が初めてだ」

嬉しそうに笑ってみせると、泣きそうだった顔を今度は赤くした。
……流されやすいなぁ。
良い手ごまにはなりそうだけど、盗られやすくもありそうだ。
これは強く縛る必要があるか。

「ねぇ片山さん」
「……うっ、な、何?」

腹を撫であげられてぞくりとしたのか、声を震わせた。

「綺麗な胸だね」
「……っ!?」

赤かった顔がさらに染まる。
こいつ、簡単に赤くなったり青くなったりするなぁ。

「ほ、ほんと?」

どうやら今のは嬉しかったらしい。
お世辞にも綺麗なタイプとは言い辛い彼女は、どうやらそれを言われるのがとても嬉しかったようだ。

「本当。私はすごく好き」

胸はね。
でもそれで十分だったのか、若干だけれど明日香から声が漏れ始めた。

「んっ……ふっ……!」

スカートすら脱がされていることにも気付かず、目を瞑って感じている。




ちょろいな。




寛子も私のことをこんな風に思っていたんだろうか。
そう思うと目の前の彼女のことも少しだけ可哀想に思える。

「片山さん、すごく可愛い」

耳の傍でそう囁くと、うっとりと目が開いた。
すでに外されたブラジャーがあった場所を見るとふっくりと芯が立っている。
映画は既に濡れ場を終わり、クライマックス前の泣けるシーンだ。
もっとも、私はそんなシーンで泣いたことなんてないけど。

「あっ……」

もはや反抗する気はないようだ。
手が解放されていることにも気付かず体を捩じらせている。

「気持ちいい?」
「やっ、言わないでっ」

気分を盛り上げてあげようとしているのに言わないでとはひどいもんだ。
そっと下半身に手を伸ばすと、ビクリと体が震えた。
念のためもう一度片手だけを押さえつける。
左手で触れたそこは既に十分と言えるほど潤っている。
ふん、なるほど。確かに、経験”は”ないだけみたい。

「いつも、自分で慰めていたの?」
「……っ……」

違うとも言わない。
本当に正直な娘だ。
寛子も最初はそう見えたのに。
こいつも寛子と同じようにいつか自分を見下すのかと思うと、少し体がゾクリとした。

「へぇ、結構えっちなんだ」
「やめてっ」

虐めてやる。
絶対に自分に逆らわないように。


私にしか体を許せない、そんな人間にしてやる!


パンツを一気にずらし、手を当てると大きく体が震えた。
小さくやめてと言う声も聞こえたが、残念ながら聞こえないフリ。
ここまできてやめるほど優しくはないんだよ。

「ほら、凄い音」
「ひぅっ……うっ……うぅ……」

あ、泣いた。
別にひどいことなんてまだしてないのに。
まあ好きでもない人に抱かれたら、女って泣くもんだよね。
いまやどうでもいいヤツを抱いている自分はもはや女じゃないんだろうか。
……人でもないかも。

それでも、いい。




私は私のしたいことをする!!




指を一気に進め、かき回すとより多く溢れて来た。
女の子っていうのは気持ち良くなくても無理に入れられてしまったら防衛本能で溢れるものだから、そんなもの。
ここで「こんなに濡れてるなんて、良かったんだろ」と言うヤツはもう一度性教育をし直したほうがいい。
まぁ、恥ずかしがるだろうから言うんだけど。

「こんなに濡れてるなんて、やっぱり気持ちよかったの?」
「違っ、違うのにぃっ……!」

その割に体がビクついているけど。
今まで自分で弄ってきて、初めて他人に触れられたなら気持ちいいのもしょうがないかも。
しばらくしていると、息が荒くなって声が大きくなる。
映画ももうクライマックスだ。




イってしまえ!!




「ぁ、ぁあああああ!!!」




エンドロールが若干、疲れ切った息が多分に聞こえる。
明日香はぐったりと倒れきっている。
ふん、初めてでイくなんて、かなりの淫乱か。処女膜も無かったし、自分で破ったに違いない。
携帯を取り出すと、イヤラシイ姿を写真に納める。

「え?」
「……ミッションコンプリート」

エンドロールだけが静かに鳴っている。
目の前の女は息をするのも忘れたようだ。
こちらを信じられないという目で見ている。



「とんだ淫乱だ」



ニッと笑って携帯で今撮ったものをチラつかせると、明日香は真っ青になった。

「なんっ、えっ、あ、え?」

頭も悪いようだ。
状況が理解できないのか、あまりのことにネジが飛んだか。

「そういえば好きな人っているの?」
「え?」

まったく脈絡のない質問をふっかけてやる。

「い、いない……」

今、何か考えたな?

「いるんだね」
「いないってば!」

わかりやすい。
本当にわかりやすい。

「いないんだったら、別にこの写真バラまいても問題はないかな」
「やめてっ」

まぁ普通に居ても居なくても止めてほしいだろうけど。
居ればもっと嫌だよね?
ニッと笑って見下す。
ゾクリと体を震わせて明日香は私を睨みつけた。

「何が……何が目的なの……」

この状況では、さきほどの好き云々のやりとりはもう信じていないようだ。

「なんだと思う?」
「……体、ですか?」

まさか。
だったらもっと綺麗ドコロを狙っていくさ。
と、思うが言わない。
少しだけ希望を残してやる。

「体はつい楽しんだだけ。写真撮るのが目的だったから服を脱がすことができればそれで良かったし」
「な……っ」

そう、それで良かったのだ。
最後までヤッたのはそのほうが使いやすくなるからだ。
彼女はこれで自分の体に自信を持つ。
つまり”体”があれば私をコントロールできるのではないかと錯覚する。

「じゃあ、なんで私の写真を撮ったの。
 私に弱みを作ってどうするつもり……?」

ほら、めげない。
まだ絶望していない。
諦めないことで少しは私に執着するだろう。


私は順調にいったことに心の底から笑顔を浮かべた。


まず一歩。
手駒を手に入れたぞ。



ガタン



ドアが鳴る。
鍵、かけておいて良かったな。
他にも訪れるヤツいたのか。

「ジョウ、開けて〜」

間の抜けた声がする。
バンちゃんか。
写真に保護をかけ、念のため自室のパソコンに送っておく。
それから明日香を介抱して鍵を開いた。

「バンちゃん、よくここがわかったね」
「つけ入り易そうな部活を回ってたら嬌声が聞こえてきたしここだと思って」
「なるほど」

映画の音を下げてたからねぇ。
バンちゃんは明日香を見ると、カラリと笑った。

「ありゃ、あられもない姿ですこと」

明日香は我に返ると急いで服を手繰り寄せた。

「あたしにはなかなかできない非道さだなぁ」
「バンちゃん、何の用?」
「お楽しみ中だったみたいだしそのまま帰ろうかと思ったんだけど、もう一人聞いてた子がいたからさ」

映画の音を下げたのは失敗だったか。
明日香を見やると、こっちをいっぱいに睨みつけていた。
……友達、とか?

「明日香、あんた以外にここに頻繁にくるヤツはいる?」
「よ、呼び捨て?」
「二度は言わないから」

携帯を見せると、ぐっと声を詰まらせた。
最初から言うことを聞いとけばいいのに。

「……いないよ」

本当にいなさそうだな。
誰かをかばっているということも無さそう。

「で、ここが拠点になるわけね」
「大体」

ここだけにするつもりは毛頭無い。
自分を見下してきたもの全て自分の掌で転がす。
その中にはヤツらの友人の部活動であっても含まれる。
容赦はしない。

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