Lily memo %



18 リセットしたもの(高橋寛子編)


この密会が最後になるのか。
感傷深くはない。
憎みをもって今まで会っていたのだから、それがなくなればおそらく少しの悲しみと、多大な開放感があるんだろう。
……想像でしかないけど。

「あーあ、ジョウが相手とか勝ち目がないよ」

嘘つき。
そんなこと思ってもいないくせに。

「ねえジョウ、賭けない?」
「なにを?」
「なんでも。負けたほうが勝ったほうの言うことを一つ聞く!」

この勝負、どうあっても私は勝つつもりだけど。
もしこれが少し前だったならここまで慎重に考えはしなかっただろう。
勝負に勝って寛子を辱めて終わり、だ。
けれど今の私には確実に勝てるとは思えない。


寛子が何を考えているのか、私にはまったくわからない。


それだけで私が恐れるには十分だ。
後輩の子に親友を犯せと唆す女。
次の勝負も確実に何かしかけてくるだろう。
『いい勝負』というのは戦ったあとにも傷跡を残す。

「いいよ」
「ほんと!?やったぁ!」

それでも、ノってみせる。

「ふふーん、勝ったら何してもらおうかなぁ」

笑顔が純粋には見えないな。
苦笑した表情はそのままに寛子を見る。

「私でできることにしてよ?」
「はーい」

勝つ気しかしていない寛子を横目に頭を働かせる。
























放送部に提出するオーダーシートをぼんやりと見上げる。
我ながらよくできたオーダーだ。

「あすちゃんを外すといよいよ何部かわかんないな」

ニヤニヤと見下ろしてくるバンちゃんに、笑い返す。
このオーダーシートには3つ名前が書いてある。
姫、私、バンちゃんだ。
当然といえば当然のオーダー。

「それじゃ、これ今回の試験問題」
「どーも」

姫はまだ来ていない。

「出なくていいって言われるとそれはそれで……」

オシオキはないけどなんか腑に落ちない、そんな顔。

「じゃあ出たら100%勝つ自信ある?」
「……」

そこで言葉に詰まるなよ。
明日香の頭を軽く叩いて通り過ぎる。

「それじゃ、出してくる」
「あーい」

演劇部を出て下に降りると、ギターの音が聞こえてきた。
……今日は練習をしているのか。
なんとなくトマ子のことを考えたくないなと首を振る。
この間のトイレでしたことが頭をよぎる。

「あーぁ……」

意味のない呟きをしながら放送部へ向かう。
職員室の前にあるその部屋にはもう何度かお世話になっている。

「こんにちは」
「あー、いらっしゃい!城之内さん!」

放送部の部長が笑顔で迎えてくれる。
なぜかこの人は私に好意的だ。
バンちゃんから何か変な情報でも聞いているんだろうか。

「本当にこのオーダーシートでいいの?」
「うん」

受け取ったオーダーシートを見て目をパチパチと瞬かせる部長。
意外と整った顔をしているなぁ。
メガネも赤ブチのオシャレなものをしている。

「ふーん、やっぱり城之内さんって……」
「なに?」
「なんでもなーい。お茶でも飲む?」
「いや別に」

要らないと言おうとしたのに言い出す前にコポコポと急須から音がした。
……演劇部も贅沢しているけど、この部屋も結構贅沢だな。
ポットって……要るの?
そう思って見回してみたけれど、お湯は確かに必要なのかも。
台本のようなものにはたくさんの赤いラインが見えた。
それだけ練習をしているなら喉も酷使しているんだろう。
しょうがなくソファに腰掛けた。

「はい、どうぞ」
「どうも」

部長は正面に座ると、腕を組んでじっと見つめてきた。

「やっぱり、実は顔綺麗だね」
「お茶噴いていい?」
「わざわざ聞く?」

なんだろう、急に。
そこそこ整っているとは思うけれど、わざわざ言われるとは思わなかった。
……何気に二人きりだし。
そしてわざわざ隣に移動してきたよこの人。
しかも今、鍵閉めに行ったよね?

「本当は次回にしようかと思っていたんだけどね」
「なにを?」

あ!膝を触るな膝を!
嫌な汗が染み出てきて、立ち上がろうとするけれど抑えられて立てない。
意外と力が強いなこの人。

「いつもスタイルいいなと思ってたんだよね」

思うだけにしてよ。
尻を撫でるな尻を。

「そういう趣味があるの?」
「そっちこそ。高橋さんと付き合ってるの知ってるよ」

……なるほど、強引にでも私を襲いたいらしい。
抵抗するべきか、写真でも撮って脅してやろうか。

「人のものだってわかってるのにするなんていい度胸だね」
「他にも知ってることがあるよ」

部長は綺麗な顔を妖艶に歪めると上から見下してきた。
……バンちゃんめ。
こいつはさぞ金払いがいいのだろう。
私の耳に密やかに綺麗な声が響く。




「高橋さんは相田さんに夢中だよ」




他人の声で、ハッキリ言われると堪えるものがあった。
寛子のことなんて、もう好きじゃないと思っていたのにな。
好きの反対は嫌いじゃなくて無関心。
復讐を企てていた時点で気付いていたのに気付かないフリをしていた。

「ね、律儀に貞操を守る必要なんてないよ」

首元がゾワリと震えた。

「私のほうが、可愛いでしょ」
「そうだね」

そこには同意する。
でも、するのは嫌だな。
行為に意味を持たせたくない。
……なぜここでトマ子を一瞬思い出したんだろう。

「確かに、可愛いかも」
「う、ん?」

ニッコリと笑いかける。
部長が一瞬引いた隙に体を押し倒す。

「え?あれ!?」

さっき触られたよりも明確に厭らしい手つきで部長の膝を触る。
内股に滑る手をきわどい部分まで撫でて戻す。

「て、手馴れてない!?」
「職員室の前で人を貶めようとする人よりマシじゃない」
「それは私のことかな……?」

また笑い返すと、ついに部長のこめかみに冷や汗が流れた。
首筋に顔を埋めると、ビクンと体が震えた。
意外と可愛い反応をするなぁ。

「ま、待って、私は、その、ちょっと」

まさかすることに慣れているけど、『される』のは初めてだなんて言わないでよね。
と、言いそうになるけどやめる。
言ったら嫌な反応をされそうだ。
恋人扱いなんてされたら堪ったもんじゃない。

「悪いね、頭に血が上ったら止まらないタイプなんだ」
「いっがーいっ、って、ちょっ!やぁん!」

服に手を差し入れると、意外と体も綺麗なことに気付いた。
……なんか、色々プロポーション似てる?
あぁ、でも私はこんなに元気じゃないな。
なんとなく彼女はエネルギーに溢れている気がする。
この感じは私にも寛子もない感覚だ。

「ひぅっ、あ、本当に、手馴れてるぅ……!」
「私とキミと、どっちのほうが手馴れてるかなぁ」
「そんなの、わかんな……あぁ、んっ、はぁ」

声が甘く響くようになってきた。
発声練習や放送をするこの部屋ではとてもいい防音材を使っているようで、そこまで頭に響かない。
外に聞こえる心配もなさそうだ。
それにしてもさすが放送部。
とても良い声で鳴く。
明日香やトマ子と違って、名女優にでもなれそう。
……もちろんAVのだけど。

「すごっ、触られるのってぇ、こんな気持ちいいの?んんんっ」

やっぱりされるのは初めてか。
鍵を閉めたことは確認したから、思いっきりやっていいかな。
職員室前でこんなことをしていると知ったら吉沢が羨ましがるかな。
他人のことを思い出しながらつい笑ってしまった。

「な、なに?」
「いや」

短く答えて服を脱がせる。
やっぱり体型が似ている……。
自分を抱いているみたいで嫌になるなぁ。
なるべく見ないように舌を体に這わせた。

「んっ、んっ」

されたことないにしては、可愛い反応。
なるほど、確かに自分で言うとおり可愛い。
調子に乗って脇まで舐めると、面白いぐらい顔を赤くした。

「そんなとこ舐めます!?」
「……汚いとこではあるけど」

明日香のもトマ子のも舐めたことがあるし、吉沢のことを考えればどんな行為もマシだなと思ってしまう。
……ダメだ、最近吉沢の趣向に汚染されている。
一度頭を振って、リセット。

「汚いと言っている割には感じているみたいだけど?」
「……うぅ」

脇を舐め上げると部長の体が震えた。

「気持ちいいって……こんな感じなんだ……」

知らなかった、と独り言のように呟かれた。

「相手の女の子っていつもどんな感じで喘いでる?」
「へ?さ、さぁ、あまり覚えてない……」
「そう」

何人触ったか知らないけど、あまり気持ちよくなかったんじゃないかな。
脇を舐めることを汚い、と。
気持ちいいを知らない、と。
こういう行為にとって未熟さは感情のスパイスがなければ飲み込めない。
もし相手の女の子が感じていたならそれは愛ゆえに、でしょう。

「恋人いないの?」
「今は、いない、けど」
「ふーん」

……誰かと付き合ってくれていたなら止める理由もあったのに。
この間からずっとそうだ。
トマ子の一件以外、いつもここでストップがかかる。
手が胸から先に下りてくれない。
嫌悪感はないのに、どうしてだろう。

「……じ、焦らされるのって、辛い」

都合のいい人だなぁ。

例えば、ここで私が普通に恋をしたなら。

例えば目の前にいる彼女と普通に恋に落ちてみたなら。
自分の憧れた未来だ。
きっと素晴らしい日々が始まる。
寛子と恋をした頃みたいに。

「キスしてみてもいい?」
「わ、わざわざ聞く……んむっ」

唇を舐めて強引に開かせると深く口付けた。
それでもやっぱり手が進まない。
触れば触るほど、脳裏に強く焼きつく寛子の姿。



それから、明日香。



キスをやめて一度大きく息を吐く。
いつのまにか出ていた冷や汗を拭って胸元に噛り付いた。

「いたっ。もうちょっと優しく……」

優しく?
ニッと口角をあげると脇腹を抓った。

「な、なんでそこ!?」
「脇が汚いだとか、焦らされるのが辛い、とかさぁ」

確かに彼女は私に似ているかもしれない。
けれど彼女と私で違う部分はとても重要なものだ。




「こういうものは、綺麗じゃないよ」




いつも明日香にしているように素肌に噛み付いた。
肉感の薄い体がトマ子を思い出させる。
私が二人にしたことはとんでもないことで、証拠さえあれば捕まってもおかしくない。

「痛い!痛いって!」
「初めては痛いものだよ」
「こういうのじゃないでしょ!?」
「痛いのは体だけ?」

媚びるような甘えた声をだす。
吉沢に負けない甘い誘うような声。
バンちゃんなら爆笑するだろうな。

「う……はっ、あっ」

身体だけじゃ、心だけじゃ、人はすぐに忘れてしまうから。

「なんか、つら……」
「全部覚えてよ。私も耳で覚えてあげるから」
「え?や……っ!?」

顔を首筋にくっつけて耳を近くする。
大きな声に耳が壊れそう。
でも、やっぱり声だけ無駄に綺麗だな。
スカートの下に手を潜りこませると、そこは普通に濡れていた。
吉沢とかの具合がひどすぎてこれが普通なのにあまり感じていないのかと錯覚しそうになる。
少しムキになって最初から敏感すぎる部分に指を当てた。

「ひぁあ!」

入れるはずの部分には触れず、陰核を執拗に責め立てた。
さっきよりも汗が噴出してきて首にくっつけていた私の顔もしっとりと濡れてきた。
気持ち悪いけど、いいや。

「い、いいっ、やだっ、いっ」
「イキそう?」
「ぅああ、もうだめっ」
「ね、お願いがあるんだけど」

他人を犯しながら、私の脳裏には関わってきた人たちが映った。
走馬灯だなんて自分で嘲笑う。




「好きって言って」
「う、んっ、好き!城之内さん、好き……!」




くったりと力の抜けた体を抱き起こす。
ティッシュで綺麗にして服を着せると、頬を赤らめられた。

「気持ちよかった?」
「う、うん……」
「いい子だね」

素直なのは嫌いじゃないよ。
緩く頭を撫でてあげると嬉しそうに口を緩ませた。
メガネを取って唇を重ねるだけのキスをする。
何度かそうして甘やかして自分の膝に彼女を乗せたまま、耳元にささやいた。




「そういえば、次の予算争いなんだけどさ」




用事が終われば、いつのまにか雨が降り出していた。

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