夏休みが終わると学校は騒がしくなった。
次の予算争いのせいだ。
文化祭や体育祭も控えているし、学校生活の華ともいっていい2学期が始まる。
「次は……」
自然と口角が上がる。
トーナメントを辿る指がもどかしい。
思わずぐしゃりと紙を握りつぶしてしまった。
「テニス部」
相田より先に寛子だ。
どう遊ぼうか。
私自身を弱みとして使うには少し早い。
ただ今回はもう一つカードがある。
「どう使おうか……」
演劇部の扉をあけると、姫が明日香に勉強を教えていた。
そういえば、今回は無理に明日香を使わなくてもいいんだっけ。
でもここで明日香の代わりに姫を出すとさすがにブーイングがくるか?
バンちゃんを外して姫っていうのもちょっと怖いな。
「あ、ジョウ」
「こんにちは」
二人はパッと顔を上げた後、何もなかったかのように勉強を続けた。
少し気に入らない。
バンちゃんがいたら私を爆笑したことだろう。
どことなくモヤッとした気持ちですぐにドアを閉めて外へ出た。
家に帰る気にもなれずあてもなく学校をぶらぶらする。
「どうしたの、ジョウ」
階段でトマ子に話しかけられた。
どうしたの、とは随分な言い方だ。
「どうもしないけど」
「放課後にあんたがうろうろしてるなんて良い気がしないんだけど」
「別に今日は何も企んじゃいないよ」
はぁ、と一息吐いてから手すりにもたれかかると、トマ子も階段を下りてきた。
私と同じ段に並ぶと「変な顔」と呟いた。
「失礼な」
なんとなく気まずそうにしているトマ子にデコピンを食らわす。
「イライラしてるんだから、放っといてよ」
「イライラしている割には優しいじゃん」
優しい?私が?
馬鹿馬鹿しい。
無言で突っぱねて歩き出すと、後ろから足音がする。
怒らせないように喋りかけないように付いて来ているんだろうけれど、その心遣いにイライラする。
手を掴んで女子トイレに引っ張り込んだ。
「いたっ」
個室に閉じ込めると、無理やり洋式の椅子に蓋の上から座らせる。
トイレで犯される、といえば夏休みのトラウマ再来だ。
ネクタイを猿轡にように噛ませて声を抑える。
私はあいつみたいに、誰かに感づかせたりしない。
「んぐぅー!」
「誰に、助けを求めてるわけ?」
そういうと、いつもの強気な目でこっちを睨みつけた。
トマ子はそうでなくちゃ。
膝を立てて足の間に擦り付ける。
「んっ」
まだ湿るほどではないけれど、熱い。
首筋を舐めると、ぞわぞわと鳥肌が立ったのが伝わってきた。
と、同時に頬にバチンと痛みが走った。
「ふーっ、ふーっ」
涙を溜めた目で、こっちを睨みつけている。
そういえば、手は塞いでなかった。
バタンとドアが開く音がして、女の子が数人きゃあきゃあと話している。
「今なら、叫べば助かるかもよ」
腕を組んで、ドアに寄りかかる。
いきなり威圧的に解放されてポカンとするトマ子を見下す。
「猿轡を外して、助けてください、って言うだけ」
簡単でしょ?と笑いかける。
トマ子はネクタイをずらすと、座ったまま見上げてきた。
「何を企んでるわけ?」
「別に」
隣のドアがバタンと閉じて、スカートをたくしあげる音がする。
一度水を流す音がして紙の音がした後、また水を流す音がした。
ドアが開いて女の子たちがまた騒がしく出て行く。
「あーあ、助かったかもしれないのに」
黙って目を逸らしてトマ子の頬をさらりと撫でる。
今度は抵抗しなかった。
叩いた頬は利き腕の問題で、前に木田に殴られた頬と同じだ。
やっと治ったと思っていた内側から少し血の味がする。
「まるで『叫んでほしかった』みたいな言い方……」
「そう?」
叫ばない、と思っていたのは認めるけど。
こいつが可愛くないのは、人に頼れないからだ。
「クールな部分」しか見てもらえず、実際は何もできない可愛い少女だというのに。
「ほら、抵抗抵抗」
鎖骨を犬のように舐めて見せると、悔しそうに顔を逸らした。
「抵抗したって……どうせ逃がしてくれないんでしょ」
「どうかな」
トマ子の顎を掴んでぺろりと瞼を舐める。
「私に本気で抵抗したことないくせに」
「……」
「いった」
お腹に蹴りを入れられて吐きそうになる。
元気じゃん。
一歩引いて体を折り曲げる。
でもこれで……。
「理由がないと、犯せないくせに」
は?
伸ばそうとした手を引く。
トマ子は軽蔑した目で私を見上げた。
その目が誰かと被る。
「蹴られてムカついた?」
見栄でギラついた目。
意志が弱いくせに強い口調。
「……ムカつく」
「あーそう」
さっきまで震えていたくせに、その振舞いは私を怯えさせるには十分だった。
つい最近の夏休みの終わりの記憶が脳裏を掠めていく。
-高橋先輩、テニス部の……-
木田深香の小さな口は、高橋寛子、と確かに綴った。
水に入ったみたいに息が詰まる。
吸うことも吐くことも辛くて目を開いているのがやっとだった。
「ほんとムカつく」
付き合う前の寛子は気が強い、どちらかというと苦手な女だと思っていた。
私はというと見た目がキツイだけのぶっちゃけ根暗。
でもお互い気になってしょうがなくて、気付いたら目線で追って。
二人きりの時間がひっそりと楽しくてしょうがなくて。
その時間が、気持ちが、無くなっていたことに
あのまま気付かなければ。
あのまま気付いたところで。
結果はこの様だ。
復讐なんて意味もないものに自分のやる気を見出して。
そして、自分がむなしくなって明日香にもトマ子にも、吉沢にすら触る気を無くして。
無理やりに燃やす自分の復讐心を隠し切れずに周りに当り散らしている。
突っ立っていると、手を引っ張られた。
目の前に立っているのが誰かわからなくなるほど、頭が真っ黒で辛い。
それでも無意識に壁に手を付くと、まるでこれから犯すみたいに閉じ込める形になった。
「ほら、ジョウ」
手を胸に持っていかれて、もうそれしか考えないようにじわりじわりと視界を狭くする。
今目の前にいるのは寛子じゃない。
首筋を噛み付くみたいに貪って舐めて少しでも暖かい部分に触れようとした。
「んっ、あっ」
服を脱がせるのももどかしくて服の中に下から手を突っ込む。
少し肉感の薄い体に熱を求めて強めに掌を押し付けた。
「い、いたっ」
ピリと頭に電気がチラついたみたいに音が耳にきつく残った。
力を少し弱めると張り詰めていた体の緊張の糸が緩んだのが伝わった。
まだじんわりと熱い季節だ。
暖かいものに触れているなら尚更暑い。
「んんっ」
自分の汗がパタリと相手の体に落ちた。
そういえばと顔をあげれば必死で声を抑えようとしているトマ子が視界に入った。
何やってんだろ、私。
復讐は意味がないと知って、それでも動いていた。
寛子が戻るわけでもない、自分の辛い気持ちへの報復だとただ理解していた。
それがこの体たらくだ。
傷ついていないフリをしていたくせに思いっきり弱い人間のやることを今自分がやっている。
こうはなりたくなかったと思っていたようなことを、他人にすがるように熱を求めてしまっている。
「ぅ……」
「はっ、はぁっ、ジョウ……?」
せめて自分の動揺を悟られたくなくて、行為を続ける。
いつもどおり相手を見下すように体を剥がして手だけで触れる。
これは体の触れ合いじゃなくただの行為なのだと。
口を寄せて流れる汗を辿る。
「あっ」
何度も汗を辿ったあとで、スカートに行き着く。
下着をずらして顔を埋めると腰がびくんと跳ねた。
「や……」
「声出すとまずいから」
それだけ低く伝えると、彷徨っていた手を自分の口に当てた。
探るように舌で柔らかく撫でると切なそうに体を痙攣させる。
「んーっ」
音を拾えないのがもどかしい。
いつもならうるさいぐらいに耳元で聞こえる嬌声が閉じ込められて、辛そうに聞こえる。
少しでも飢えを満たしたくてなるべく奥へ奥へと啜る。
「ふっ、んっ、んぁっ」
熱い。
夢中になって貪った。
どんどん熱くなる。
もう熱いのが私なのか、トマ子なのかわからないほどに。
「んんんっ、もうダメっ」
抑えた口から漏らすように一際高い声をあげた。
「はぁっ、はぁっ、汗、気持ち悪っ」
「う……顔べたべた……」
お互いに散々な感想だ。
それもそのはず、この行為に意味はない。
ただいつもと違って妙にあっさりとした何かがあった。
腑に落ちない。
ハンカチで顔を拭うと、ニヤニヤしている顔が見えた。
……もう少しこのままハンカチで顔を隠していよう。
「あんたってやっぱり……なんでもない」
あ、今のムカつく。
目の前にある先ほどまで舐めていた部分にふっと息を吹きかけると、真っ赤になって叩かれた。