Lily memo %



13 終わりの無い宴(足尾晩夏編)


「バンちゃん」




ドッと扉があたしの背を叩いた。
慌てて退くと、ジョウがニーッコリとこちらを見て笑っている。

「な、なんだ終わってたの」

早かったね、と笑い返すとぐっと腕を引っ張られた。

「いたっ」
「先生、女の子の体に触ってみたくないですか?」

はぁ!?
何を言い出すんだと声をあげようとしたがジョウに口をふさがれている。
その顔は悪戯っ子のような笑顔だった。

「……んぅ」

しまった、と言いたかったのに声はジョウの手に吸収された。
こいつ、あたしを犯す気だ。
一体何がこいつを駆り立てたんだと考えるもいまだ思いつかない。
えー、あたし知らない間に何か失敗したかなぁ。

「……足尾さん、可愛いわよねぇ」

あ、この先生ってば割と乗り気だ!
はぁはぁと息を荒くしながらこっちに迫ってくる。
ちょ、処女をこいつに奪われるのは嫌だ。
慌ててジョウの手から逃げ出すと、ばふっと誰かの体に当たった。

「姫、そのまま捕まえてて」
「へ?あ、はい」

はい、じゃないっつーの。
いつのまにか中に入ってきていた姫に捕まえられて非情にも扉は閉められた。
さて、どうしようか。
一応非常用の催眠スプレーとナイフが靴に隠されている。
ただジョウが“あたしに恨みを持って”こんな行動を起こしたとは考えづらい。
あの悪戯するような顔といい、ジョウ自身に負の感情はないんだろうとは思う。

「ふんふんふん♪」

そのうえこの鼻歌だ。
バカにしてんのかこのやろー!
じたばたと暴れてはみるが、腕がきっちりと柱に括りつけられてしまって足しか動かない。
ジョウのことだから靴の緊急セットにも気付いてはいると思う。
だからこそ足だけは自由にしてくれたんだろう。

「なにすんのさー!」
「まぁまぁ、大人しく抱かれとこうよバンちゃん」
「大人しくなんかしてられっかい!」

ジョウの後ろで困ったように立ちつくす姫が見える。

「よし、じゃあバンちゃん。三択問題にしてあげる」
「は?」
「処女を奪われるなら誰が良い?」

はぁ?
三択、というのはたぶん……姫、吉沢、ジョウの三人ということなんだろう。
別に処女喪失を手伝ってくれなんて頼んだ覚えはないんだけど。
ジョウを見ると、優しい目で姫を見ていた。

「あぁ、そういうことですか……」

ジョウは姫に優しい。
それはたぶん姫の恋心と自分の復讐心を重ねているから。
つまりこれはあたしに対する警告だ。
姫を完全に突き放すか、受け入れるかしないといつかその恋心が爆発するぞ、と。
今ここで選べというのだ。
そんなに姫の恋心は限界寸前だったんだろうか。
あたしにはそんな風には見えなかったけど。

「さ、どうする?」

ニヤニヤしやがって。
わかったよ、選ぶよ。




「姫、でいい」




いい、と言ったのは少しだけ悔しかったから。
抱かせてやるといったスタンスで受け入れる。

「え、あ、え」
「というわけで姫、いってらっしゃい」
「わ!?」

背中を押された姫があたしの上に倒れ込む。

「わ、私、こんな……」
「いいから抱いときなよ。ジョウが写真持ってスタンバイしてるよ」
「あ……」

ポーズだとは思うけど、携帯の中の姫の淫らな写真をゆらゆらと揺らしている。
これは強制なのだ、と。

「私で、いいんですか?」
「……姫を選ばなかったら他の人に奪われることになるんだけど」

まぁそれでも構わないのかな、と姫を見ると予想以上に嫌そうな顔をしていた。




「それは、嫌、です」




独占欲もあったのか、と意外に思った。
姫があたしを好きなのは、ただ偶然に姫にとって良い行いを自分がしたからだろうと踏んでいたからだ。
だからこそ今までまともに取り合わなかった。
その恋心が若い女の子特有の“珍しい”モノに憧れるような感覚だと思っていたから。
あたしが誰を好きでもいい、ただ隣に居たい、そういう恋だと勘違いしていた。

「誰かに、奪われるくらいなら……」

姫が静かにあたしの顔に口付けを落としてくる。
その唇は予想以上に熱い。
それ以上に気持ちが熱い。
憧れ、では済まない熱さを含んでいる。

「痛かったら言ってくださいね」

服を脱がされ、体を重ねられる。
視界に入ったジョウに「それみたことか」と笑われた。
逃げ切れる気でいたのに、既に逃げ切れないことに気付いた。
厄介なほどに姫の恋心は深い。
その証拠に、全身隈なく愛そうという気概が見えてゾクリと背筋が震える。

「姫」
「はい?」

この期に及んで自分は何を言いかけたのか。
姫の目には確かに辛さが見える。
きっと今までは抑え込んでいたんだろう。
……っていうか、逃げ道塞いだのってジョウだよね。
睨みつけようと目線を彷徨わせると、ぐいっと顔を固定される。

「他のこと考えちゃダメですよ」

いやいや、無茶おっしゃるよ。
姫に任せればあたしは逃げ切れない。
なるほど、これはジョウなりのあたしへの復讐か。
形だけでも復讐を遂行しようってことかな。
まぁジョウにやられるよりいいけど。

「んっ」

げっ!痕付けやがった!
あーもー!あたしの玉肌が……あー……。

「あの、キスは初めてですか?」
「残念ながら経験済みです」
「そうですか……」

そうですかといいつつ奪いはするのね。
怖々と口の中を探られる。
あ、甘い。
って、うわわわ、唾流し込んできた!

「ちょっ、ちょっ、待った!」
「ん……キスは初めてじゃないんじゃ……」
「こんな深いのしたことあるかぁ!」

そう言うと、姫がニッコリと笑った。
それは妖艶にも見える。
つまりエロい。
また思いっきり舌を挿しこまれる。
口内を思いっきり蹂躙しようとしているらしい。

「ん……ぷぁ……」
「んふっ、ちゅっ」

ってか長い!
舌が疲れたところで体を探られる。
あぁー……そんなうっとりした顔で触らないでくださいよ……。
あたしはそんなできた人間じゃないんだってほんと。

「ひ、姫っ、す、ストップすとっぷ!」
「んぅ……嫌、です……」
「ってぇ、何やってんの!」
「へ?」

へ、って……。
右手であたしを触りながら左手でどこ触ってんだか!
姫の左手は姫自身の下半身へ伸びている。

「だって……私、あの日から触ってもらってないから……」

あの日、とは最初に抱いた日だ。
そりゃあたしにはジョウに強制されなきゃ抱く意味ないもん。

「触ってほしいならジョウにお願いしたら?」
「……私は、バンさんがいいです」

はぁ。
溜息をゆっくり吐いてから足を曲げて腿を姫のソコに擦りつける。

「あんっ」
「姫、手」
「……はい……?」

指示して自分の口元に手を持ってこさせた。
ベタベタになった姫の手をべろりと舐める。

「あ、き、汚いですよ?」
「ん……」

変な味。
そのまま指を舐めると、耐えきれなくなったのかあたしの胸にしゃぶりついてきた。
電気がビリビリするような感覚に身を竦ませる。
あー、なるほど、これは気持ちいいかも。
しばらくすると姫があたしの下半身に触れた。

「う……」
「気持ち良かった、みたいですね。嬉しい……」

だからうっとりするなというに。
もうあたしの声なんて聞いちゃいないんだろうけど。
とろりとした目で熱っぽく見上げてくる。
黙って見ていたジョウが紐をほどいた。
ずっと無理な体勢をしていたからか腕が痛い。
視界の隅で吉沢が動いた。
あー、ジョウ捕まった。

「バンさん」

はいはい、よそ見禁止ね。
さて処女膜を破ろうというところで姫がごくりと息をのんだ。
何を緊張してるんだか。

「……責任、とりますから」

そう言って優しい顔で指を進めていく。
その慈愛に満ちた表情を止めてほしい。

「んぐ、結構痛い……」
「少しだけ我慢です」

指が自分の奥まで入ってくる。
ジンジンと痛むけれど待ってはくれないみたいだ。
内側の壁を確かめるように指で撫でられる。

「はぁ……これが……」
「うっ、んんっ」
「暖かい……」

これは、結構、予想以上にっ!
吉沢が夢中になるのもわからないでもないかも。
ただ猿にはなりたくないなと懸命に声を堪える。
あとやられっぱなしも気に入らない。

「あっ、はぁ、手癖が悪いですね」
「……んっ、う……」
「でも、気持ちいい、ですっ、あ、あぁ」

挿れた指で姫の中を掻きまわす。
姫の汗が体に触れて心地いいなんてどうかしてる。
自分も熱にやられたかな。

「はぁ、も、もうっ」
「んっ、んっ」

イキそうらしい。
あたしも頭が真っ白だ。
あ、これ、もうダメかも。

「は、あぁあああ!!」
「んんんっ」

姫の体が自分に重なる。

「あぁん!城之内さん、もっとぉ!」

あぁ、ジョウ大変そう。
ちょっと苦笑しながら胸の中の少女を見る。
その顔は聖母様とはほど遠い。



















「ごめんなさい」
「謝られても」

あの後、起きた姫を連れてひっそりと廊下に出た。
誰も来ないとは思うけど、やはり念のため見張りは必要だ。
ドアの前に腰かけて姫と並ぶ。

「むしろ謝るべきはあたしのほうだし」
「そうですか?」
「姫の気持ちには応えられないからね」

そう言うと、少し顔を赤らめた。

「き、気付いてたんですか」
「気付くなというほうが無理じゃないかな」

姫は年相応の顔で苦笑した。
そうしてると大変可愛らしいのにな。
なんで聖母様なんて呼ばれて凛とした顔してるんだか。

「あたしは小さい頃から好きな人がいるんだよね」
「えっと、聞いてもいいんですか?」
「誰だと思う?」

ニッと笑いかけると、う、と目線を逸らした。
少し考えてから困ったようにちらりとこっちを見る。

「まさか……」
「ジョウ」
「やっぱり!」
「の妹」
「え?」

やっぱりジョウだと思ったらしい。
だったらジョウが他人を抱いてるときに平然と雑誌なんて読んでらんないって。

「可愛い子だったよ。いつもお姉ちゃんバンちゃんってあたしらにちょこちょこ付いてきてさ」

ジョウには双子の家族が居た。
筍とすぎのこ。
男女の可愛い双子だった。

「……だった」
「事故でね、寝たきりになっちゃってさ」

交通事故で。

「あ、じゃあお金ってもしかして……」
「……3年前に」

首を横に振る。
医療費なんかじゃない。
ずっと寝ていたのに、呼吸もしなくなった。
いつかひょっこり起きるって思っていたのに。

「甘口のカレーが大好きでさ、もし当時のあたしがもっと美味しいのが作れたら匂いに釣られて起きたのかなぁって今でも思うよ」

たまにご飯を作ってやると、揃って嬉しそうに笑う。
バンちゃん美味しいって言いながらすぎのこも筍もだらしない顔して笑うんだ。
迎えに来たジョウがずるいって言いながらあたしに擦り寄ってくる。
すぎのこがレストランを開けばいいのにって。
あたしが料理をして、すぎのこが運ぶんだって。
幸せな夢を見ていたんだなぁと今でも追いかけている。
いつか自分の店を持って美味しいカレーを作っていたら、すぎのこが笑って来店してくれるんじゃないかなってまだ思う。
……バカだって自分でもわかっているから、誰にも言わないけど。

「報われると、いいですね」
「あは」

無茶言うなぁ。
自分で納得している部分もある。
すぎのこが生きている間、あたしのことをずっと幸せにしてくれたから。
だから今はもういいんだ。

「じゃあ、ジョウさんは?」
「ジョウはこれから幸せにならないとね」

大体、事情はわかってるけど。
すぎのこが居る間、あたしは幸せだった。
けれどあの家は全員が幸せだったわけじゃない。
幸せに笑っている子どもが居るからって、全員が幸せだったとは限らないのだ。

「まぁ、そんなこんなで、姫には悪いけど……」
「それでも」
「ん?」
「それでも、その料理がいつか私のために作られることを願います」
「物好き」
「なんとでも」

はぁ、やっぱりわからないな。
どうしてこの子はそんなにあたしのことが好きなのか。

「あなたに事情があるように、私にも事情がありますから」
「はぁ」

肩に頭を預けられてくすぐったさに身を捩る。
そんなあたしがおかしかったらしい。
姫はくすりと笑うと、さらに擦り寄ってきた。

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