--sakura--
ピシリと、音を立てて腕輪が割れた。
「咲等さん、どうかしました?」
嫌な予感がする。
--otone--
「ニャヒル!」
「咲等!……んあ!?」
んあって。
姿を見ただけで嬉しくなって急いで駆け寄る。
ぎゅっと抱きつくと安心する!
「は、離せ!…って、あれ?乙音?」
「あ、やっぱりわかる?」
「身長が少し低い」
う、これでも高い方なんだけどな。
咲等ちゃんには負けるけど…。
「っていうか…」
ビクッ。
あぁぁ、やっぱり怒ってる…!
「お前、どんだけあたしに隠し事すりゃ気が済むんだよ!!!!」
「あぁぅ、ごめんなさい〜…」
殴られると思って頭をぎゅっと庇う。
嫌われたかな。
でも確かに、咲等ちゃんの言うとおり、会って良かった。
一人で拗ねてるより、怖くても一緒の方がいい。
ずっと安心する。
ずっと一緒に居たい。
まだ1年も一緒に居ないのに、ニャヒルは私の立派なパートナー。
心を支えてくれたニャヒルだから、他の人なんて嫌なんだ。
殴られて済むなら、そのほうがいいよ。
「…このバカッ」
殴られると思ってたのに。
「ニャヒル?」
「っくしょー。泣いてないぞっ、泣いてないからなっ」
ニャヒル、どう見ても泣いてる。
私のせい?
どうしてニャヒルが泣くの?
「…お前なんか大嫌いだ」
グサッ。
あぁう、痛い、痛いよニャヒルー。
心にズンッとくるよー!
「なんなんだよ、お前あたしのパートナーじゃないのかよっ」
「私はそのつもりだったんだけど…」
「つもりじゃなくて!」
ぅはいっ。
「全部話せよ!自分の能力話せないぐらい、あたしは信用なかったのかよ!!」
「う、ち、違うよ!ニャヒルのことは信じてるもん!」
「だったら!全部話せよ!」
わわっ。
ニャヒルから抱きついてくるなんて珍しい。
…弱ってるニャヒルも珍しい。
これは私のせい?
「だって、話したら、嫌われると思って…」
「なんで嫌うんだよ!」
「だって、こんな能力、ニャヒル嫌いだと思って…」
あ、私も涙出てきた。
じんわり視界がにじむ。
嫌われたくない。
「この大馬鹿!!!
どんな能力だってなんだって乙音は乙音だろ!!
嫌いになんかなるかバカ!!お前のことなんて大嫌いだ!!!」
ニャヒル、めちゃくちゃだよそれ。
「電話も繋がらないし、どこにもいないし、どれだけ心配したと思ってるんだよ!」
…心配、してくれたんだ。
「大体、傍にいない時点でおかしいんだよ!」
「うん」
「一緒に居ろよ!不安だろ!?」
「うん」
「あたしが、不安になるだろっ!」
うん。
どうしよ、涙止まらないや。
「ニャヒル、私ニャヒルとパートナーで良かった」
「当たり前だ大馬鹿」
へらっと笑うとポカッて殴られた。
それでも嬉しい。
「よし、逃げるぞ」
「うん」
繋いだ手を離さない。
もっともっと、一緒に居たい。
そっか、パートナーってこういうことか。
嬉しくなって私はまたニャヒルの後ろから抱きついた。
--sakura--
「ニャヒルさんと乙音さん、合流したそうです」
「良かった」
あとはこのミッションをどう収拾つけるか、かぁ。
乙音ちゃんは渡せない。
記憶を消すなんて冗談じゃない。
会長が乙音ちゃんを狙わないようにするにはどうしたらいいんだろう。
「…【針千本】」
「え?」
美月は少しブツブツと考え事をすると、こくりと頷いた。
「【針千本】を購買で買ってきましょう」
【針千本】って、私の腕についてたアレだよね?
もう壊れちゃったけど。
真由曰く、約束を破れないようにする道具みたいだけど…。
「記憶を消さなくても、
乙音さんが知ってしまった内容を言えないようにすればいいんですよね?」
あーやは納得したみたいで、「なるほど!」と笑っている。
「そっか、【針千本】でその内容を言わないと約束させれば会長だって記憶をいじったりしないよね!」
なるほど!!
さっすが美月!
やっぱり強いだけじゃなくて賢いんだねぇ。
すごいなぁ。
「待って、スギに連絡できる?」
「スギさんに頼むんですか?」
「うん、咲等にはこのまま人を引き付けておいてもらわないと」
そういえば、今の私は乙音ちゃんの姿してるんだっけ。
「大丈夫、スギってば足だけは速いからパシらせたら学校一よ!」
その言い方たぶんスギ傷つくよ!?
「ま、まぁ、お願いしておきますね」
「うん」
良かった、ミッションの終わりが見えそうだ。
「ふむ、じゃあ私も購買の方へ向かおうかな」
「へ、あーやも行くの?」
「思惑がバレてスギがやられちゃったら大変でしょ?」
あーやはパチンとウインクすると、素早く立ち去った。
私たちもなるべく移動しないと。
「行こう、美月」
「はい」
「ダメよ、あなたたちはそこまで♪」
げ。
げげげ。
「結構離れたところまで来てくれちゃって、探すのに時間がかかっちゃったわ」
せ、生徒会長さん!?
やっぱり、さっき私の針千本が割れたのは真由がやられたから…?
「真由は、どうしたんですか」
「のびてるわよ。愛梨と一緒に」
「…」
会長さんは、真由が好きなようで、違うのかな。
この人の心の中は私にはとてもわからない。
もしかしたら、真由にもわからないのかも。
「…『乙音さん』、逃げてください」
「美月」
美月はやる気だ。
いくら美月でも会長さんにはかなわないことはわかってる。
「いや、逃げないよ」
「え?」
「あら、強気ね」
バレるのも時間の問題だし、ここで会長さんを食い止めてみよう。
スギが針千本を乙音ちゃんに届けるまでならイケるかも。
…美月には迷惑かけちゃうけど。
「美月、ごめんね。
大型魔法の対策はお願いしていいかな」
「…そういうときは違いますよ」
「ん?」
「パートナーなんですから。
『頼む』の一言でいいんですよ」
そういうもの、かな?
照れ臭いな、嬉しいような恥ずかしいような。
「じゃあ、頼みます、かな?」
「疑問形じゃダメですってば」
「頼みます!」
「はいっ」
くるりと水晶を回して鎌を出す。
それを見て、生徒会長さんは「あら」と声を漏らした。
「すっかり騙されたわ!
山本乙音さんと奥井咲等さんは服を取り換えていたのね!」
「はい、私は奥井咲等です」
騙してごめんなさい、と笑う。
服交換で少しだけ楽しかったのは内緒。
でも長い髪を切ったのは少しもったいないなぁ。
お母さん泣いちゃうかな。
お母さんもお父さんも私の髪は長いほうがいいって言ってたもんなぁ。
「さて、大型魔法はきっとアレクサンドさんに掻き消されちゃうわねぇ。
先に潰すなら奥井咲等さんなんだけど、覚悟はいい?」
「あんまりよろしくないです」
「正直ね」
よくみれば少しボロッとしている会長さん。
真由との戦いでかなり消耗しているとは思うんだけど。
強い人との戦いでは、守るより攻めろ、だよね?
「でぇやああああ!!」
とにかく攻める!
相手に攻撃する隙を与えちゃいけない。
でも剣を自由にさせない。
「魔法も忘れちゃダメよ?」
「ご心配なく!美月!」
「ブルーウォール!」
私の体が水のベールに包まれて、会長の炎がかき消される。
「補助魔法?」
「元は乙音さんの魔法ですが、改良させてもらいました」
乙音ちゃんのサイレンスブルーは対象を取り囲み、何も手を出せなくする広域魔法。
それを小さくし、仲間を守る水のベールを練り上げたのが美月の魔法。
特訓中に二人で仲良く魔法をくみ上げていたのを微笑ましく見ていたっけ。
…実験体にされた私とニャヒルにとっては少し苦い思い出だけど。
「一年生も成長するのねぇ…」
「いつまでも弱いままだと思ったら大間違いですよ!」
大きく踏み込んで、剣に柄を当てる。
鎌って刈るものだから実は戦うのに向いてないんだよねぇ…。
最近気付いたんだけど、戦うより闇討ちが合…いやいやいやいや。
考えたくないけど、そうなんだよねぇ…。
「刃が邪魔そうねぇ、折っちゃえば?」
「生憎、便利なときは便利なのでっ」
くっ、息一つ上がってない。
さすがというか学園No.1は違うなぁ…。
あぁ、でもきっと真由も同じくらい強いんだろうな。
会長さんなら負けてもしょうがないけど、真由に負けるのは悔しい。
「っせぇい!」
柄を乗り越えて、左手で殴りこむ。
泥臭いけど、許して下さい。
「乱暴ね?」
「負けたくないだけです!」
お返しと言わんばかりに殴られたけど、顔を背けたりはしない。
一歩でも引いたら飲みこまれる。
守りに入ればジリ貧ってよく言うけど、これじゃあ攻めたってジリ貧だ。
倒せないから、仕方ないけど。
長持ちさせるためにはジリ貧で十分だ。
「…あなたの目は、真由そっくりね」
私の目が?
「教えてくれる?
あなたたちは何が欲しいの?
私は真由の幸せだけを求めてるのに、肝心のあの子の幸せがわからないのよ」
会長さんは、少し寂しそうだ。
真由の孤独は周りの人を巻き込んだ。
乙音ちゃんの友情と愛情はたくさんの人を巻き込んだ。
人数に違いはあるけど、影響力は強く大きい。
「真由は寂しかったんだと思いますよ」
「…そんなこと知ってるわ」
「きっと真由は守ってもらうより、傍に居てほしかったんじゃないかなぁ」
誰かが、待っていてくれている。
それはとても温かい。
ずっと一人でいたならなおさら温かい。
「傍に居たわ!ずっと!」
「でも会長さん、真由のこと見てないじゃないですか!」
「見ていたわずっと!」
感情的になった会長さんの剣は見えやすくて、避けやすい。
会長さんは大きく振りかぶると、剣を振りおろした。
「あの子が好きなものも嫌いなものも全部見てきた!
それでも本気で笑うあの子が見れなかったのよ!!!」
ヤバっ、やられる…!!!
頭をかばうと、衝撃に耐えるために目を瞑った。