Lily memo %



第八話 後編



--sakura--


気のせいか。
放課後にしては人が多い気がする。

「ニャヒル」
「わかってる」

急がないと。
これはもしかしたら、敵は生徒会だけじゃないかもしれない。
一体乙音ちゃんは何を知ったんだろう。

「美月とあーやの援軍には期待できないな」
「そうだね」

ニャヒルの後ろを走るけど、まだ私たちに攻撃をしかけてくる人はいない。
あくまで狙われてるのは乙音ちゃんだけか。
私たちを追っている人もいるみたいだけど、私たちが乙音ちゃんに接触するのを待ってるみたい。

「咲等、デジカメの場所が変わった」
「へ?」

デジカメの場所?
見ると、画面にはさっきはなかった場所が移っている。

「…ニャヒルが撮ったの?」
「まさか」

これも乙音ちゃんの魔法なのかな。
乙音ちゃんは一体どれほどの補助魔法を使えるんだろう。
それにしても…。

「どうする?」

付けられてる人数が多い。
このままじゃあ乙音ちゃんを見つけた瞬間全員袋叩きだ。

「蹴散らすにもあたしらだけじゃなぁ」
「だよねぇ」

廊下といえどここは広い。
地の利はないし、ここで戦うのは得策とは言えない。
加えて私の武器は広いところに向いていない。




「咲等!ニャヒル!」



おわぁ、スギかっこいい登場。
じゃなくて。

「スギ、生徒会は?」
「その他有志の方に頑張っていただいている」
「その他有志の方?」
「美月とあーやが集めたお仲間だ」

なんでも、乙音ちゃんのために思ったより人が集まったんだとか。
乙音ちゃんは中学校の始めから新聞部として色んなところへ出入りしている。
その姿に同情して良い目で見てくれる優しい人も多いんだとか。

「ただ厄介なことにな」
「?」
「先生も一部、乙音を探している」

生徒会を目の敵にしている教師陣は乙音ちゃんを餌に生徒会をどうにかする気だとか。
ほんとに、教師としてどうなんだろう。
最近気付いたことだけど、ここでは頼りになる大人っていうのは結構少ない。

「四面楚歌だねぇ」
「権力の嵐だな」
「さてどうしたものか」

3人でうーんと首を捻る。
でも乙音ちゃんを諦めるわけにはいかない。

「ニャヒル、携帯は通じないんだよね?」
「あぁ、携帯切ってやがる」

そもそも乙音ちゃんを守るってタイムリミットはどこだろう。
敵を全て倒すというクリアは無理。
逃げ切るにしてもいつまで?

「鍵は乙音の能力とやらだな」
「その能力をなくしちゃうとか?」
「無茶言うな」
「じゃあ生徒会は乙音ちゃんの能力をどうする気なの?」
「わからん」

八方ふさがり〜。

「まぁ、乙音を見つけたら追手はスギに任せるか」

ニャヒル、丸投げだね。

「無茶を言う。お前ら何人に付けられてるかわかってるのか」
「え、何人?」
「ざっと30人」

無茶だね!

「さて、分散したところで全員ニャヒルに目をつけるだろうな」
「パートナーだもんね」
「でもニャヒルしか乙音ちゃんの場所わからないよ?」

うーん、考えれば考えるほどドツボにハマっていってる気がする…。




『咲等ちゃん!!』




うわっ、頭痛っ!?

『咲等ちゃん、聞こえる?
 私だよ!乙音!』

乙音ちゃんの声?
あ、頭痛いっ。

『頭痛いかな?ごめんね!
 緊急事態だから少し我慢して聞いてほしいんだ!』

なにこれ…。
テレパシー、かな?
本当に乙音ちゃんの引き出しはどれだけ広いんだろう。

『図々しいお願いだけど、私を助けてほしいの!』

それはもちろんだよって伝えたいけどどうしたらいいんだろう。
このテレパシーは一方通行なのかな。
それにしても頭がキンキンする…。

『実験棟に来てもらえるかな?3階の一番奥に来て!』
「おい咲等!何ぼーっとしてんだ!」
「あ、うぅ…」

頭くらくらするけど、リンクをはずしてもらえたのかな?
さっきより楽になった気がする。

「やっぱり分散しよう!」
「はぁ?」
「ニャヒルを囮にする!!」
「咲等、お前がそんなヤツだったとは…」
「あ、いや、そんな意味じゃなくてだね…」

困ったな、どう言えばいいんだろう。

「乙音ちゃんから連絡があって…」
「携帯が通じたのか?」
「ううん、そうじゃなくて…」

かくかくしかじか。

「乙音のヤツめ。テレパシーなんてすげえもん隠してやがったのか…」

ニャヒル、怖い怖い。

「とにかく、私が乙音ちゃんのとこへ行くよ」
「じゃ、あたしは囮な」
「なら、私も囮の一人になろう。全員が違う方向に言ったほうがよりそれらしいだろ」

うん、じゃあその方向で。
3人で一度手を合わせると、3方向に散った。



















『実験棟に来てもらえるかな?3階の一番奥に来て!』

言うとおり、実験棟です。
乙音ちゃんは本当にここに居るのかな?
まだ大丈夫かな。
一番奥は確か体育準備室3だ。
もっとも使われない準備室。

「乙音ちゃん?」

声をかけてみたけど返事はない。
中にいるだろうか。
ノックしたけど鍵がかかってる。
幸い、私のほうには追手はいないみたいだけど…。

『咲等ちゃん!』
「いたたたたた」

急にやられるとすごい痛いです乙音ちゃん!

『今、もしかして体育準備室3の前にいる?』

聞かれても返事のしようがないよう。

『もし居るなら、その隣の壁を押してみて』

壁?
ぐっと押してみると、ぐるりと世界が反転した。

「え?」
「いらっしゃい、咲等ちゃん!」

え、えぇええ。
ここはどこ?

「ここは私の固有する結界の中だよ」
「け、結界?」

目の前には乙音ちゃん。
何もなかったはずの壁にずるりと吸い込まれ、小さな部屋に居た。
なんでも、これは乙音ちゃんが魔力で練り上げた結界なんだとか。
他人に気付かれない、電波も届かない。完全な密室。

「1時間しか保たないから、この砂時計が無くなったらまた別の場所に移動しなきゃいけないけど」
「ほ、ほえぇ…すごいね、乙音ちゃん」

そういうと、すごく微妙な顔をして笑った。

「けっこう、好きじゃないんだなぁ、これが」
「…そうみたいだね」

その顔はそういう顔だね。
そう言うと乙音ちゃんは「わかる?」とため息をついた。

「これだけじゃないんだ」

さっきのテレパシズム。
他人の視覚、聴覚を借りれる能力。
デジタルカメラなどの電子機器に現在の視界を送りこめる魔法。

「確かに凄いけど、どうして生徒会は乙音ちゃんを狙うんだろう」
「…生徒会は私の能力を狙ってるんじゃないよ」

あれ、違うの?
牛尾先生からはそう聞いたんだけど…。

「…聞いちゃったんだぁ。真由さんと生徒会長の秘密」

乙音ちゃんが言うには。



朝、乙音ちゃんは先輩の命令で生徒会室を盗み聞き。
結果、ものすごい情報を聞いてしまった。
そして怪しい行動をしていたのを副会長さんに見られた。
なんとか逃げたはいいけど、凄い量の追手。



と、いうことらしい。

「ニャヒルに連絡はしなかったの?」
「…」

そう言うと、しょげていた頭が更に項垂れた。




「…ニャヒルに、嫌われたくない」




乙音ちゃんはもにょりと唇を尖らすと、はふーっとため息を吐いた。

「ニャヒルは、私が一生懸命で頑張り屋さんだからパートナーでいてくれるの」

こんな力、ニャヒルにふさわしくない。
乙音ちゃんはそう言って膝を抱えた。

「…ふさわしい、かぁ」

私も隣で膝を抱える。



美月にふさわしくなりたい、私。
ニャヒルにふさわしくなりたい、乙音ちゃん。



同じ迷路に迷い込んでる。
終わりが見えないミッション。
終わりが見えない望み。

「いっそ、捕まっちゃおうかなぁ」

そしたらニャヒルに迷惑かけないよね、と笑う乙音ちゃん。
…きっと、楽になる答えを私は知ってる。
でも自分にも自信がないから、無責任に言葉を出せない。

「乙音ちゃん…」
「ごめんね、弱音なんて吐いて」

砂時計が示す残り時間は長くない。
私ができることは少ない。

でも、やらずに放っておくことはできない。



乙音ちゃんは私の、友達だ。



ニャヒルも私の友達だ。



しんどい訓練に付き合ってくれた、大事な私の友達。

「乙音ちゃん。ニャヒルに会おう!」
「へっ、や、やだよっ」
「でもこのまま逃げてても一緒だよ」
「う……」

ニャヒルは何も話さなかったこと、怒ってた。
ニャヒルはまだ乙音ちゃんを諦めていないんだ。
乙音ちゃんにもニャヒルを諦めてもらいたくない。

「話してみよう」
「で、でもニャヒルはきっともう生徒会にマークされてるよっ」

今行ったら話す前に捕まっちゃう。
確かに。
でも私だって策がないわけじゃない。
乙音ちゃんに考えたことを全部話すと、乙音ちゃんは目に涙を溜めた。

「そ、そんなのダメだよ!それじゃあ咲等ちゃんが…」
「私は平気!」

乙音ちゃんの手をぎゅっと握ると、にこっと笑ってみせた。




「逃げるだけなら!!絶対イケる!」




そう言うと、乙音ちゃんはちょこっとだけ、笑ってくれた。

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